
大阪・関西万博でも人気のNTTパビリオン。本パビリオンでは通信の歴史、次世代の通信技術『IOWN』を使ったライブパフォーマンス、そしてAIを用いたコミュニケーションのあり方まで体験することができます。
通常であれば予約が必要なNTTパビリオンですが、取材ということで特別に解説付きで体験させていただきました。通常は公開していないエリアの展示も見学させていただいたので、ぜひお読みください!
この度バーチャルライフマガジンでは、2025年日本国際博覧会協会(以下、博覧会協会)や各パビリオンのご厚意で、XRやメタバースに関連するパビリオンを複数取材させていただきました。 当記事で使用している写真は、博覧会協会・パビリオンスタッフの皆様に許可をいただいたうえで撮影・掲載しています。
※本記事はパビリオンの内容についてネタバレが多数含まれています!記事をご覧の際はご注意ください。
目次
NTTが目指す『IOWN』とは
IOWN(アイオン)とは、通信やコンピューティングに関わるあらゆる機器を光で伝えることで、電力効率を100倍に、転送データ容量を125倍に向上させ、ネットワークの遅延も1/200に縮小させようという試みです。
今の通信では、どこかの段階で光を電気に変換する必要があります。光回線を使っている場合でもPCで受け取り、CPUで処理をする時に電気信号に変換していますよね。そこも含めて全て光のまま処理することで、効率よい通信を実現しようとしています。
NTTでは段階的に技術開発を進めており、万博では離れた2地点間を大容量・低遅延なAll-Photonics Network(APN)で結ぶ実証実験をしています。
https://group.ntt/jp/group/iown/function/
https://www.rd.ntt/iown_tech/post_77.html
NTTコノキューと大阪大学が挑む未来の手術のかたち

IOWNの展示を紹介するその前に、NTTパビリオンの一般公開していないエリアで特別に取材の機会を頂きましたので、その模様をお伝えします。通常は一般来場者が入ることはない場所なだけに、最も“取材らしい”時間だったのではないでしょうか!?
伺ったのは株式会社NTTコノキューと大阪大学が共同で研究を行っている、未来の外科手術についてでした。
NTTコノキューといえばXRデバイスである『MiRZA(ミルザ)』を開発している企業です。メガネ型の装着デバイスで、現実空間に合わせたディスプレイ描画を行う機能を持っており、AR要素の強い製品と言えます。
この日は“骨切り”と呼ばれる外科手術を『MiRZA』によるAR技術でサポートする開発中の技術についてお話を伺いました。

現実空間との座標調整はスマホを介している
“職人的”な技術となっている骨切り手術。大阪大学では、患者の骨の形状を詳しくスキャンしたデータから手術サポート用の治具を制作し、これに沿って刃を当てることで高精度の手術を実現する、という方法も採用しています。
熟達した医者の経験と腕だけに頼った手法よりも、桁が変わるほどの精度を出せるとのことですが、患者ひとりひとりの骨の形状は様々です。それに合わせたスキャニングや治具の製作は、これだけで非常に高額なコストとなってしまい、患者にとっては物理的にも金額的にも大きな負担となっていました。
そこで、患者の状況を3Dデータとして活用できれば、AR表示によって手術中のリアルタイムサポートが可能となり、高額な治具を不要としながら高精度な手術を実現できるはず…… これが現在NTTコノキューと大阪大学で進められている研究です。

医療での活用にはまだ様々な課題がある
もちろん、医療現場で求められる精度ともなればかなりのもの。現段階ではまだまだ実用には至らず、様々な課題があるとのことですが、こうした技術が実用化されれば非常に頼もしい存在になるはず!!
というのも、取材を行ったライターは過去に開腹手術だけでも20年間で4度経験しており、実際に手術が進化していった様子を体験した経緯があります。
病状にもよりますが、メスで大きくお腹を開く手術よりも、現在主流となっている腹腔鏡手術ならば術後の苦しさが段違いにラクだったのを実感しています。腹腔鏡はお腹に小さな穴をあけて内視鏡などを挿し込んで行う手術なので、患者の負担が少ない手法なのです。
こうした研究が存在するからこそ、未来の医療がより良いものとなっていきます。VR/AR技術は、普段のバーチャルライフマガジンではエンタメ要素に注目しがちですが、社会的な意義の大きい可能性があることを再確認できました。
「伝える」手段の進化を振り返る。NTTパビリオンへ潜入
ここからはNTTパビリオンの一般公開エリアのレポートをお届けします。

NTTパビリオンはZONE1、2、3の3エリアで構成されています。ZONE1では“伝える”手段がどう進化してきたかを俯瞰するような展示でした。
長い間手紙でやり取りをしてきた人類は、電報や固定電話などを発明してコミュニケーションを発展させてきました。そこから留守番電話や携帯電話などを経て、現在主流となっているスマートフォンが登場。

使用方法も電話だけでなく、ビデオ通話、チャットなど様々な手段によって、爆発的に広がっていきます。それでもなお、繋がりきれないもどかしさや不安があることを伝える、そんな展示でした。
そして求められる次世代の通信技術としてIOWNが登場するというわけです。
IOWN×Perfume、現地の“振動”も伝える次世代ライブ!

パビリオンの目玉となるのは、ZONE2で行われるPerfumeのライブパフォーマンス。これは、1970年に開催された大阪万博で、NTTの前身となる日本電信電話公社がパビリオンを出していた場所にステージを設置し、IOWNの技術を使ってNTTパビリオンへと転送したものです。
現地では3D映像+床下振動の組み合わせで体験することが出来ました。
その様子はYouTubeで見ることができますが……これ、全てリアルタイムで処理をしていたそう。
具体的には、Perfumeを360度あらゆる角度から撮影し、3D点群データへ変換して夢洲へと転送。夢洲では、受け取ったデータをリアルタイムで視点やカメラを動かし、エフェクトも交えながら3D映像へと出力しています。

同時に、Perfumeの3人が装着している加速度センサーから、足元の振動データを計測して転送。夢洲側では床下に埋め込まれた振動子で再現をしています。そんなNTTの伝送技術も凄いのですが……

素直に最新高精細な映像で圧倒されてしまう
映像の途中で前回の大阪万博のコスチュームへと切り替わるシーン。
こちらは4月2日に行われたパフォーマンスの最中に、別撮りをした映像をリアルタイムで差し込んだ演出なのだそう。普通はダンスの位置が異なるなどで違和感を感じるものですが、Perfumeのダンスが精確すぎて全く違和感のないレベルになり、編集時に驚かされてしまったのだとか。さすがPerfume……
自分の分身が歌って踊る!?生成AIを使ったパフォーマンス

ZONE3では最初に、来場者自身の写真を撮影します。運転免許で行われる写真撮影のように撮られるライター陣。(写りたくない場合は断ることもできます。)
数十人分の写真がその場で反映され、パフォーマンスに使われていきます。ある人は踊り、ある人は若返り、そしてある人は歌う。
非常に短時間で、写真一枚からここまで色々なことに広がっていくのは驚きです。声も写真から推測しているとのこと……!

案内をしていただいた方によると、将来的にはデジタルツインとして自分のツインを作って様々なことを経験・判断させられるように有効活用していくこともありえる、とのことでした。
精度はどうあれ技術的には今でも可能であるものの、倫理的な観点や法の整備を待っている状況なのだそうです。
たしかに、この展示では同時に参加されていた方のひとりが大きく映し出され、若くなったり老いていったりするAI処理が表現されていました。その場限りの数十人程度とは言え、個人的な感覚ながら“倫理的な抵抗感”が瞬間的に頭をよぎったのも事実です。想像以上に攻めた内容だとも感じます。
また、パフォーマンスにも使用されている生成AIは、利用するエネルギー量が非常に多いことが世界的な問題になっています。ここも光信号で置き換えることで、電気的な発熱ロスなどを解消し、エネルギー利用量の削減を目指しています。

NTTパビリオンでは、大型ディスプレイによる映像の展示やPurfumeのライブ、瞬間的にAIアバターを生成する表現で、体験としては迫力のあるエンタメとしての味わいが残るものでした。
IOWNとはどんな技術か。Purfumeのライブはどれほどの次元の情報が伝送されたのか。そうしたことは解説されなければむしろ気づきにくい部分ではあります。
パビリオンの展示の裏側には、確かにこれまでの伝送網を支え続けてきたインフラとしての存在があり、常に進化を目指す挑戦的で濃密な技術が積み上げられていたのです。
通信や電力の問題は、これからもVRを楽しみ、その拡大を願う私達にとって無関係とは言えません。大阪万博のNTTパビリオンは、そうした課題への方針を示しているのです。
人気のNTTパビリオンも、バーチャル万博なら予約不要で楽しめる

予約を取るのが難しいとされている人気のNTTパビリオンですが、『バーチャル万博~空飛ぶ夢洲~』なら予約なしでどこからでも体験することができます。

バーチャル万博内のNTTパビリオンも、リアルと同様に3つのエリアで構成されています。Room1は「リアル×バーチャル」を感じるはじまりの体験、Room2は「時間×空間」をつなぐ空間伝送体験、Room3は「現在×未来」の自分をつなぐAnother Me体験が可能。こちらもぜひ体験してみてください。
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