来たる2022年11月25日(金)と26日(土)、定期的に話題になっているあのVR演劇「マクベス」がついに本公演を迎えます。
この記事では、先行公演を鑑賞させて頂いた筆者がその感想を紹介しつつも、これを読んでいる皆さんがVR演劇「マクベス」をより楽しむための3つの押さえるべきポイントをご紹介します。
目次
VRChatで行われる演劇『マクベス』を誰もが見るべきである3つの理由
前述の通り四大悲劇に挙げられるだけあり、「マクベス」の物語は幸せに満ち溢れたストーリーではありません。ですが、その点に臆さずに、是非ともこの演劇をVRで見てもらいたい理由が3つあります。
『アバターの見た目と内面の乖離』から得られるカルチャーショックを追体験できる
アバターの見た目と内面の乖離。それはVRに関わる人であれば誰もが経験したことがあるのではないでしょうか。
例えば初めてVRChatに来た時。美少女アバターから男性の声がしたり、そのアバターがkawaiiムーブをするのを見たことでカルチャーショックを受けた人は少なくないはずです。
しかし一度それに慣れてしまえば、日頃からさも当然のものとしていつの間にか受け入れてしまっているのではないでしょうか。
そういった、私達が忘れて久しい『アバターの見た目と内面の乖離』という体験は、この『VRChatにおけるマクベス』でも得られるのです。
脚色/演出担当のぬこぽつさんは、VR演劇「マクベス」公式ホームページ内でイントロダクションと題し次のように語っています。
「VRChat」をはじめとするVRSNSでは、ユーザーが好きな姿になれ、外見の選択肢が存在します。
アバターの外見について熱心に語る一方で、そのアバターの中に存在するのは、まぎれもなく生身の私たちです。
そんな私たちが、己の欲望のために禁忌を犯すような醜いマクベスを演じたら、どうなるのか。
仮想現実で演劇をすることで、役者はその身に3つの人格を宿すと僕は考えています。
HMDをかぶっている物質現実の人格、 アバターに身を包む仮想現実の人格。 そして古典戯曲に登場する役の人格。
かわいいがひとつの価値として定着している世界で、マクベスのような醜悪な役の人格が、先の2つの人格を凌駕できるのか。
凌駕したとき、“かわいい”アバターは、観客からはどのように見えるのか。
そんなことを追い求めていきたいです。
つまり、アバターといえば”かわいい”イメージがある程度先行しているVRChatにおいて、
あえてそうしたアバターにマクベスを初めとする『行いや心がけなどが卑劣な』人格を持たせ、それを演じているのが今回のVR演劇「マクベス」の役者たちです。
アバターの見た目とは裏腹な、そうした役を演じきった時、私達観客にはどのような感情が得られるのか?どんな想いを抱くのか?……この演劇『マクベス』が、それを実証するのです。
実際に先行公演でもその一端を垣間見ることができました。例えばマクベスなど、主要な登場人物には男性が多くそれを演じる声色も男性でした。しかし、そのうちの一部が身に纏っているアバターは男性型アバターではなく、女性型アバターなのです。
使用しているアバターこそ可愛くとも、立ち振る舞いや声色から明らかに狂気を感じさせるほどの迫真の演技とのギャップに、私は思わず「これがVRの演劇か」と認識を新たにしました。貴方が実際にその姿を目にした時、一体どんな感情を得るのでしょうか。
これは『VRChatにおけるマクベス』だからこそできることであり、本公演において最大の推せるポイントと言えるでしょう。
演者が「マクベス」の魅力的な、狂気的な登場人物の数々を演じ切る
「マクベス」には、主役であるマクベスを含め複数の登場人物が存在します。そのいずれもが魅力的であり、また大半は狂気的な姿をも見せてくれます。
ここでは、登場人物とその演者のうち、特に筆者の印象に残ったものを紹介します。
悪逆非道の道へ落ちるも、悪を御し切れない王──マクベス
本作品の主役であるマクベス。魔女の予言を受けて王殺しの禁忌に手を染めます。ですが元々から小心者で臆病な部分があるためか、王になってからは自らの犯した行いに振り回されるような姿が見受けられるようになります。
そんなマクベスを演じるのはともよろうさん。演技のみならず声色からでさえも『この人物は悪に染まり切れないな』と気づかせてくれるほどに、悪逆の道を行くがその実は臆病であるというキャラクターを見事に演じていました。
マクベスにとっての親友であり、〇〇でもある──バンクォー
バンクォーは、マクベスにとっての友人のようなキャラクターです。初めは気さくにマクベスに話しかけるなどの姿が見られますが、魔女が「バンクォーの子孫がやがてスコットランド王を継承する」と予言したことがきっかけで、マクベスとさらに縁の深い関係(嘘は言っていない)になります。
バンクォーを演じるのはWATARUさん。前半で見せる明るい演技とは対照的に、ある事がきっかけで真逆のような暗い演技をするようになります。
しかしその演じ分けは全く違うキャラクターというわけではなく、確かに『同じキャラクターが別々の姿を見せている』ものでした。こちらも見逃せない演者の方の一人です。
WATARUさんはリアルでも劇団コメディアスという団体で活躍している方であり、「VRマクベス見た方がそれをきっかけに、他の劇にも興味を持ってくれるようになったら嬉しい」とお話されていました。
マクベスに裏切られる悲劇の王、その振る舞いと声色は王の器そのもの──ダンカン
最後に紹介するダンカンは、マクベスを重用している国王であり、根も葉もないことを言ってしまえばマクベスが暗殺することになる王その人です。
そんなダンカンを演じるふじよしさんの立ち振る舞いや演技は、正しく創作で見るような王そのもの。死亡フラグを微塵も感じさせないような威厳のある声色で、凶刃に倒れるその時まで常に王であり続けます。
ちなみにどれだけ王の威厳を感じさせているかというと、今回のVRマクベスの関係者が口を揃えて『ふじよしさんが演じるダンカンが王室のベッドで暗殺される姿が想像つかない』と言うほどだそうです。果たしてVRマクベス本編でダンカンは暗殺される姿を見せてくれるのか!?……は、実際に本編を見てからのお楽しみ、ということにしておきましょう。
演者経験者・未経験に関わらず、本気の演技を見せてくれる
本当は隅から隅まで全員紹介させて頂きたいほどなのですが、あまり記事が長くなりすぎてもいけないので泣く泣くここまでとさせて頂きます。
ですが、ここで紹介していない方も含め、どの登場人物や演者の方も「すごい」という一言だけで済ませることができないほどに迫真のある姿や声色を見せてくれます。
さらに驚くべきは、それらを演じるユーザーは普段から演技をしている方もいれば、今回の出演で初めてそうした演技をする方まで様々だという点です。それだけ聞くと演技の質に差があるのでは?と感じる方もいらっしゃるかと思いますが、先行公演に参加した私の視点ではその全員が十分に登場人物を演じ切っており、素人目ではそこに経験の差というものを感じることはできませんでした。
演劇関係者だけでなく、VRChatに関わる多様な人々が生み出す一大演劇
演者の皆さんが魅力的であることは先に紹介した通りです。応募で選ばれたとはいえVRでアクターをする人やダンスをする人、アイドルグループに所属している人、お笑いをしている人、DJをする人など様々な方がいらっしゃいます。
そして、この演劇に関わっているのは演者の方だけではありません。演者の皆さんが使用しているアバターの作者はもちろん、そのアバターのための衣装や道具を作っている方もいます。また、劇場のようなワールドや、演出のために切り替わる舞台上の風景を生み出している方もいます。
それに加えて、この演劇を演出する方、写真を撮る方、演技を指導する方、文章を書く方……多種多様な人々が自然に集まるこのVRChatにおいて、さまざまな分野で活躍する人々が垣根を越えて1つの演劇を作り上げているのです。
それだけでも十分に凄いことですし、この演劇はVRChatの歴史に残るような一大演劇になり得るのではないでしょうか。
すべてが相まって、この『VRマクベス』という演劇の空気や世界観を生み出しているのです。
VR界隈の新たな一歩を提示してくれる魅力的な作品
VRで行われる悲劇だからこそ見られるアバターの見た目と内面との乖離。魅力的で狂気的な登場人物の数々を演じ切る演者の皆さん。そして界隈をまたいで協力し一つの演劇を生み出す関係者の皆さん。
悲劇の物語でありながらも、一見難しそうに見えても、VRで織り成される一大演劇であるという点が皆さんの興味を惹くのではないでしょうか。この記事を読んで少しそう思って頂けたのであれば幸いです。
VR演劇「マクベス」はVRChatで11月25日(金)22時、11月26日(土) 18時と22時に上演となります。事前にぬこぽつさんにフレンド申請したうえでJoinすることで参加できます。また、11月25日(金)22時の回のみYoutubeでの配信も行われるとのことです。
詳しくはVR演劇「マクベス」公式ホームページや、ぬこぽつさんのTwitterアカウントをご確認ください。
VRChatの歴史に名を残し得るVR演劇「マクベス」。皆さんも一度ご覧になってみてはいかがでしょうか。
舞台写真:朝比奈あさひ/Koshiki/Sielu_co
『マクベス』とは、ウィリアム・シェイクスピアによって書かれた戯曲であり、『ハムレット』『オセロー』『リア王』と並びシェイクスピアの四大悲劇の1つにも挙げられる有名な作品です。
ウィリアム・シェイクスピアはイギリス・ルネサンスの演劇を代表する人物であるとともに、卓越した人間観察眼からなる内面の心理描写により、もっともすぐれた英文学の作家とも言われています。
(wikipedia『マクベス (シェイクスピア)』より引用)
スコットランドの武将マクベスは、荒野の魔女たちから”王になる”と予言を受けた。王殺しの禁忌を犯し、高潔な誇りを悪逆に染めたマクベスは、呪いの道を突き進むのだった
(VR演劇『マクベス』公式ホームページより引用)