2023年4月26日に本格リリースされたプロダクション『メタバースクリエイターズ』。『VRChat』や『ZEPETO』など主要なUGC型のメタバースプラットフォームを活用し、第一線で活躍するトップクリエイターたちを束ねるプロダクションサービスです。
初期参加メンバーには、VR蕎麦屋タナベさん、Luraさん、akiminさん、JOE_JANOMEさん、イカめしさん、ひゅうがなつさん、chemical_15(研究員ケミカル)さん、にやみさん、ムー(夢野炎理)さん、Kenomoさんなど、10名が参加を表明(6月時点では14名)。業界的に大きな影響力を持つ本気のメンバー構成に、大きな注目が集まっています。
果たして、豪華クリエイターの皆さんを束ねて運営される『メタバースクリエイターズ』の正体とは? 思い描く未来とは? 気になることが盛りだくさん。そこで、今回は『メタバースクリエイターズ』代表のwaka00(若宮和男)さんへインタビュー。お話を通して、waka00さんが大事にするクリエイターファーストの心や、メタバースに向ける本気度を知ることとなりました!
(インタビュアー:翡翠ミヅキ)
waka00さんの正体と『メタバースクリエイターズ』の全体像
ーーどういった経緯で『メタバースクリエイターズ』が誕生したのか。まずは、waka00さんの経歴をお聞かせください。
――建築・アートの業界から、どのようにしてメタバースでプロダクションの発足へと至ったのしょうか?
キッカケとなったのは、遅ればせながら2年程前に、Meta Quest 2を購入したのをきっかけに『VRChat』をプライベートで始めたことです。初めてこの世界を体験した時にはとても感激し、自分でワールドやアバターもBlenderとUnityで作ってみたりして、それはもう、ずぶずぶとハマっていきました(笑)。
そして、この世界を知れば知るほど、ものすごいクリエイターがいらっしゃるのがわかってきました。皆さんもご存じの通り、この世界のアバターやワールドのクオリティというのは、本当に凄まじい。それでいて、お蕎麦屋さんのように想像力の豊かな方もいたりして色々なものがごった煮になっている感じが、インターネット黎明期を見ているようで面白いと思ったんです。
僕は“世の中にまだあんまり知られてない才能”みたいなものを見つけると、それを世の中に届けるような活動をしたくなる性分でして……(笑)。この世界で活躍するクリエイターの皆さんと話したりすればするほど、これだけの熱意をもって作られているものが、世界に十分に届いていない現状はもったいないと思ったんです。
また現在、個人のクリエイター活動というのは報酬の相場も定まっておらず、企業の案件では、契約面などの整備が不十分な部分もあります。2022年初頭くらいから、ビジネスサイドからもメタバースに注目が集まりましたが、「このまま環境整備がされずにいくと危ないしもったいない! 自分がなんとかしなきゃ!」と強く思うことが増え、クリエイターの皆さんの活躍をサポートして、世の中に届けるプロダクションとして『メタバースクリエイターズ』の発足に至りました。
ーーメタバースで活躍するクリエイターを支援する会社ということですね。最初に10名のクリエイターさんが参加を発表されましたが、どのような契約形態なのでしょうか?
メタバースで活動するクリエイターの皆さんは、フリーランスみたいな方もいれば、別のお仕事を持ってる方など、活動環境や方針、事情が、人それぞれ。株式会社である『メタバースクリエイターズ』ですが、雇用契約にすると活躍の幅が狭まってしまう方も多いです。そこで、皆さんには、クリエイター契約というものをさせていただいています。
例えると、僕らが編集部、クリエイターさんが漫画家さんみたいな関係です。才能を発掘し一緒にコンテンツをつくり、世界に届けていく。僕は、書類上は会社の代表なんですけど、実際は部活動のマネージャーみたいな感じで雑用をたくさんやる係を頑張っています(笑)。
ーー参加クリエイターの“本気”な人選に驚かれた人も多いです。皆さんは、どういった経緯でご参加されたのでしょうか?
僕自身はクリエイターやアーティストではありませんが、そういった皆さんと一緒に企画展やプロジェクトを立ち上げるとか、声をかけて「一緒にみんなでこういう世界目指しませんか?」というのを、割とやってきた経験があります。今回も「クリエイターファースト」を掲げたプロジェクトですが、今まで現代アートの皆さんとも基本的にそういう発想で僕はビジネスサイドをサポートする、みたいな感じでやってきました。半分よそ者というか素人だからこそ、新たな視点で切り開ける可能性も多くあります。
そういった視点や経験から仕組みを考え、「クリエイターファースト」でクリエイターの活躍の機会を増やしたいというのを提案書にまとめて、クリエイターの皆さんひとりひとりに「いっしょにやりませんか」というオファーをさせていただき、ご参加いただいています。
ーー「クリエイターファースト」。組織ではなく、個人の活動をより大きくしていく組織ということですね。
そうですね!ただし、個人といっても必ずしも「個別」というわけではなく、チームでのプロジェクトも大事だと思っています。企業とか自治体の案件など、規模が大きくなってくると、どうしてもひとりでは制作に限界もありますよね。そういった時に、チームで動くことで新しい物を作っていく事も、『メタバースクリエイターズ』の役割です。
あと、大事な役割と考えているのが、一緒にコンテンツを作るだけじゃなく、それを海外にも向けてプロモートすること。
例えば、この寿司が、その一例です。
――いやぁ……! 正直、挨拶の時から気になっていましたよ! 周りで飛んでいる寿司!
これは、『PET SUSHI MAGURO』と言いまして、現在Gumroadなど海外のサイトやboothで『メタバースクリエイターズ』が販売するアイテムです。海外の方にウケるアイテムとして『メタバースクリエイターズ』が企画し、モデリングはイカめしさん、アニメーションとかギミックをchemical_15(研究員ケミカル)さんに担当していただきました。
このように、チームやギルドのような形になることでクリエーションの幅が広がるのも『メタバースクリエイターズ』の強味と考えています。
ーー企業案件だけでなく『メタバースクリエイターズ』発のコンテンツも作っているんですね。
もちろんです。現時点でのワークフローは2つあり、1つはパートナーがいるタイプのコンテンツ。企業から相談をいただいたり、こちらからご提案して、企画会議からクリエイターのアサイン、プロモーションなどを展開するパターン。
そして、もう一つが『メタバースクリエイターズ』として僕らとクリエイターさんとでアイデアを出し合って作る自発的なコンテンツをリリースするパターンです。
ーーなるほど。ちなみに、パートナーさんとのプロジェクトはどのように形になっていくのでしょうか?
クリエイターさん側はご指名があったり、スキルセット的にこの人しかいないという場合もあるんですけど、その案件に興味がある方をお呼びしています。まずは一緒にパートナーも含めて話してみて、企画からメタバースクリエイターズ側やクリエイターさんがアイディアを出し、先方がやりたいとなれば、その人は制作まで基本的にアサインされるみたいな形です。
また、僕らは日本からグローバルへっていうのをずっと掲げているので、たとえばインバウンド観光客が多いエリアの自治体さんに「コラボしてメタバースに作ったら面白くないですか?」と提案させていただくこともありますね。
『メタバースクリエイターズ』とは何を目指す組織か?
ーー『メタバースクリエイターズ』を発表した際には、2022年11月に試験的に先行リリースしていたという一文もありました。具体的にどういったことをされていたのでしょうか?
最初にやっていたのがアンダーソン・毛利・友常法律事務所。メタバース支店を開設したいというので相談を受け、全面的なサポートをしました。
メタバース関連の法案は4月にも改定されたりしてるんですけど、まだ新しい領域なのできちんと法整備されていません。そうすると、今後は法律事務所としてメタバースの相談を聞く機会が増えると予想できます。ただ、そうした相談にのるにもまずメタバースを体験してみていないと語れませんよね。
弁護士のみなさんもメタバースや実際に『VRChat』を使うのも初めてとのことだったので、メタバースのカルチャーに関しての説明から「ゲーミングPCは何を買うといいですよ」とかまで、全面サポートをしました。『VRChat』内にオフィスの再現を作り、メタバース内でクリエイターズサロンっていうのを実施して、VR蕎麦屋タナベさんとかLuraさんとかが、「アバターの著作権ってどうなんですか?」とか、「確定申告どうするんですか?」みたいなのを弁護士さんに直接相談した様子をコンテンツ化してしたりもしています。
ーーPCの相談まで! クリエイターのサポートじゃなくてご依頼者の方のサポートもするんですね。プロダクションならではの動きだと思います。
もちろんパートナーとして、全力でサポートさせていただきます。
ただし、対等な関係であることが重要だと考えているので、受託というイメージとはちょっとちがいます。僕たちはクリエイターとのハブとして、クリエイターさんがやりづらい契約や金額交渉などの際に間に入る、エージェント的な役割もしています。クライアントがお金出すから、仕様もすべて決まっていて何もかも言われた通りに作って、著作権は全部召し上げみたいな文化は変えていきたいと思っていて、基本的にお引き受けしません。
ーーなるほど。特に大きなものを作る場合、指揮者みたいなポジションが必要になりますが、そういったところはwaka00さんが行っているのでしょうか?
僕はどちらかというと、プロデューサー的な役回りで、資金や環境を整えるまでが仕事。ものづくりの全体指揮は、ディレクター的なポジションもできるクリエイターにお任せするケースが多いです。
ーーディレクターも含めて、参加クリエイターの皆さんでひとつのプロジェクトチームを作るわけですね。『メタバースクリエイターズ』の参加メンバーは個人で有名になった方も多いですが、そういった人材を集めて組織にすることによるメリットはどのようなものでしょうか?
個人で活躍されているクリエイターさんは沢山いらっしゃいますが、まだまだ活躍の可能性は広がると思っています。個人でももちろん面白いのも作れるんですけど、企業とのコラボの機会はまだ多くはないですし、契約の関係に苦労したり、あるいは言葉の壁があるから海外のお仕事は難しい。そういったところをサポートすることで、もっと活躍の場を広げることができます。
そういう意味で、メタバースクリエイターズの立ち位置は、環境の整備と「クリエイターにいいお題を投げる」こと。
企業の案件でも言われた通りに作るわけではなくて、お題としてコラボが増えると「クリエイター×何か」みたいに掛け合わせで、新しいアイデアが生まれます。この自治体だったらどんなことができるかみたいな。何かやるときにはじめてチームが組まれて、他の人とやったらこういうこともできるんだって思うのは、クリエイターさんにとっても発見になります。
『メタバースクリエイターズ』は海外や自治体、企業と繋ぐ係。クリエーションの種になって、別の機会や新しいクリエーションが開くっていうのがメリットとしてあるかなと思います。
ーーなるほど。個人でやっていると、この道は見えてるけど「こっちにも道があるぞ」みたいにつないでいく役割があるってことですね。海外の案件とかは確かに個人で取るのは難しい。
Boothでアバター販売しているクリエイターさんの場合、企業や英語圏とか韓国とかから問い合わせがあるらしいんですけど、言葉も契約慣習もよくわかんないんでただ怖いから断ってますという、もったいない状態が多いです。そういった部分を、我々は国際法務が出来る人に入ってもらっていますので、しっかりサポートできる。
ほかには、アバターって契約違反をして使われてても、個人がそれと戦うって大変です。そこにちゃんとした株式会社の事務所があると色々なアプローチがとれます。
メタバース業界の課題とこれから来る未来
ーーここからは少し踏み込んで。今、メタバースで事業をやる方には「メタバース盛り上げていくぞ!」というのと、「メタバースが盛り上がっていくから、俺もやるぞ!」という大きく分けて2種類があると思います。waka00さん個人はどちらのスタンスですか?
「盛り上げていくぞ!」ですね。僕自身がというよりは、クリエイターの皆さんが盛り上がっていけるように「後押しするぞ!」というのが、より正しい表現かもしれません。
たとえばアニメとか漫画って完全にコンテンツ産業として日本が世界をリードしています。メタバースもいわゆるオタクカルチャー的な要素があるので、日本が世界をリードできる産業になるに違いないと僕は信じてるんですよ。世界に出ていって、さらに言うと日本のクリエイターがメタバースをもっと盛り上げて、世界を牽引しているっていう世界線を実現したいです。
ーーでは、今のメタバースが抱える大きな課題として、業界の中でお金が回ってないという現状があります。有名なクリエイターさんでも、それだけで食べてる状況は少ない。waka00さんはこれまでも色々なプロジェクト立ち上げて、企業と一緒に活動をされていますが、そういった視点で、みんながメタバースだけで暮らしていける状況になるにはどうすればよいと思いますか?
その状況が変わるには、2つのポイントがあると僕は考えています。
ひとつはお金の循環を外と繋げること。これは現代アートの業界でも同じ話があって、業界にお金が回ってないのは、中の世界だけで考えるからです。でもITやビジネスの世界の人との結び目を作ると、こっちにはお金がある人たちがいるわけで、これをうまくどう還流させるかを考える必要があります。
もっと言うと、お金がないなって思うのは日本のマーケットだけを見てるからっていうのがあります。例えば、日本の中って労働賃金がなかなか上がらなくて、食べ物を50円あげるだけでも「ごめんなさい!」ってするような世界です。でも、海外からしたら3倍5倍値段つけても全然欲しいっていう方がいる。まだまだ、広がりがあるんです。
ぼくは外の世界と繋げる事をやってきたので、接点を作ることをできると思っています。大企業のイノベーション担当みたいな方とか、海外はこれからチャレンジですけど、そういった外を含めた還流で、お金の流れは作れます。
もうひとつは、メタバースが開いた新しい情報空間で、新たな消費を作り出すこと。例え話ですが、その昔、NTTドコモからiモードっていう携帯電話のIP接続サービスが出てきて、課金や着メロ、デコメなどの新しいビジネスとカルチャーが生まれたわけなんですが……。
ーーiモードとは、また懐かしい単語が飛び出しましたね(笑)。着メロやデコメも、一周回って過去の物となりましたが、絵文字やスタンプといった形に変わって、今でも僕らの身近にあります。
iモードが出るまで着メロにお金を払う、というカルチャーはなかったんですよ(笑)。着メロというビジネスは、iモードが登場したことで、新たにできたわけです。
メタバースも一緒で、今後は、メタバースだからこその消費や独自のカルチャー、ビジネスが生まれてくるでしょう。今のメタバースにお金回ってないかというと、そういった“メタバースの中だからこそ需要のあるビジネス”にまで、話が至っていないからです。現在ある企業のメタバース活用は、リアルの商品を宣伝するためのプロモーション用途がほとんど。それ自体を否定はしないんですけど、軸足がまだリアルにあるので、新たな需要という部分までほとんどが目を向けられていません。
メタバース流の“着メロ”が産まれた時、時代は大きく変わります。
『VRChat』もそのうち決済が実装され、中だけでの売り買いが生まれたら、新たなビジネスが生まれていく。そうなったらまた一桁変わるフェーズに行くと思います。
実際にZEPETOやRobloxとか、決済が入っているアイテムを売り買いできるメタバースでは、「カナダ人のクリエイターがファッションアイテムを売ったら1,000万ぐらい稼げた」みたいな実例も出ています。『VRChat』の中にはまだ経済圏がないので、Boothなど、外に頼らざるを得ない状態です。それだと気軽に買って、服を着替えるような気軽さはまだない。
新しい経済圏では、僕らがまだ想像もしていないような、メタバースならではの新しい商品が生まれるでしょう。例えば、今楽曲を買うように、アイドルがメタバースで歌って躍る世界をまるごと1本買うみたいな。そこまでの可能性を見ないとリアルの商品のプロモーションやってみても「そんなに効果なかったね」で終わってしまいます。
ーーなるほど……。ぼくらはリアルに生きているので、リアルの物を売らなきゃという思い込みがあった気がします。
さらに言うと、軸足が変わると逆流が起こっていくと考えています。その実験のひとつがフェリシモさんとの案件だったんですけど、傘っていうリアルなものがあって、それをメタバースアイテム化してみました。
同時にストームグラスを配布してたんですけど、先にバーチャルアイテムを買って「このストームグラスいいな」となった際に、「もうちょっとお金出すとリアルのもついてくるんですけど」みたいな形にすると、バーチャル空間で来てる服や小物をリアルに持っていけるかもしれないですよね。軸足がバーチャルファーストに変わってリアルに逆流すると、面白いですよね。
ーーそういった流れを先導する役割も『メタバースクリエイターズ』が持っているということでしょうか?
今僕らが思いついていないビジネスも生まれてくると思うので、あくまで一緒に考える形です。どっちに行けばいいかが完全に分かってるわけじゃないんですけど、種をいっぱい撒いていけば、新しい出会いから生まれていくでしょう。
現時点でも、独自のコンテンツも、パートナーと作ってるものも動き出しています。独自コンテンツの場合、軸としてはやっぱりもう僕らはジャパンtoグローバルをメインでやっていくので、ファッションだとしても普通のアバターっていうよりは、海外のみなさんが喜ぶようなテーマでやっていきたいですね。
ーー将来は羽田空港でブースを構えていてほしい……。
そうなれたら嬉しいですね(笑)。
まとめ
新しいカルチャーと経済圏の創造を目指す『株式会社メタバースクリエイターズ』。決して有名なクリエイターをまとめただけのものではなく、ここから業界を世界に向けて発展させていくという意気込みを感じました。インタビューにもあったように、様々な展開が控えているので、今後の動きに注目です!!
【関連リンク】
『メタバースクリエイターズ』公式ホームページ
みなさん初めまして! 若宮和男もとい、waka00と申します。
元々、私は建築業界からスタートしたのですが、アートの研究やIT企業でモバイルインターネットのサービスの新規立ち上げをした後、起業しました。一社目はメタバース業界とは関係なく、女性メインで新しい事業を作るベンチャーをやっています。現時点で私の本名で検索すると、そういった経歴が多く見られるのはそんなわけです。