『VRCボクシング大会』はご存知でしょうか?
VRChatにあるワールド「VRC BOXING GYM」を拠点として展開する、その高い競技性からeスポーツに限りなく近いものと捉えられている、ゲームワールドコミュニティとそこが主催する大会のことです。
去った5月28日、プレイ歴の浅いプレイヤーを中心に頂点を競う「VRCボクシング大会 新人杯」が開催されました。
そこで見事優勝を飾ったのは「DAGN(ダゲン)」選手!
今回はそんなDAGN選手に大会の様子をインタビューしてきました!
目次
『冷静さ』を得るまでの苦境だった1・2回戦
初戦:イヌカンフー選手
実を言うと、本大会で一番危うい試合だったと思います。
優勝選手が初戦からピンチだったのこの大会!?
実を言うと、本大会で一番危うい試合だったと思います。
イヌカンフーさんのラッシュが激しくて、ずっと向こうのペースで押されっぱなしでした。
勝利の決め手となったのは・・・?
先輩方の教えで『冷静さを欠いてはならない』というのがありまして。それをようやく思い出せた試合中盤頃に、イヌカンフーさんの動きが見えるようになってきましたね。
2ラウンド目に溜まっていたメガパンチを当てる事ができたので、それで一気に体力が削られたことから脅威のラッシュが止んだんです。そこからはペースを取り返して勝利しました。
※『VRC BOXING GYM』の「ノーマルモード」では時間経過などの条件でゲージが蓄積することにより放てる必殺技「ヘビーパンチ」さらにその上位版の「メガパンチ」があります。
2回戦:nekokitsune選手
2回戦のお相手、nekokitsune選手との試合はいかがでしたか?
彼とは普段練習会をよく一緒に過ごしていて、お互いの事をよくわかっていたんです。
だから「こういう動きをするんだろうな」と思って臨んだら、全然動きが違ってて。まるで別人でした。
普段から交流があって知っているからこそ、対策は万全だったというわけですね・・・。
1ラウンド目ではあまりの違いに焦っていて、またしても冷静さを欠いていたのですが、このラウンドの終わりでお互いがダブルノックダウンして。
…その瞬間に目が覚めましたね。
ダブルダウン以降は「今この場の」彼の動きに応戦して勝利することができました。
1・2回戦で目が覚めて、本気の自分で立ち向かえた強者たち
3回戦:karuna選手
3回戦のお相手、karuna選手との試合はいかがでしたか?
以前から「波が乗っている時はものすごく強い」とお聞きしておりまして、この回も気の抜けない試合でした。
前回の取材のときに「ダッキングすると首が痛いのが困り事」と言われていたのですが、すごくダッキングしてましたね!!
※ダッキング:しゃがみ込んで懐に回るボクシングの立ち回りを指す。
かなり動きの早い戦い方をされていて翻弄されかけましたね…。
それもあってか相当体力を削りながら戦っていたようで、試合の中盤からはすごく息を切らしていたようでした。
ただ、間違いなく強敵なのでそこは同情せず、全力を尽くして戦いました。
準決勝戦:yu-go選手
準決勝のお相手、yu-go選手との試合はいかがでしたか?
yu-goさんとは前回の大会、『トリオ杯』のときに同じチームに所属していてお互いが実力だけでなく「なぜこいつは強いのか」の理由をしっかり知っている状態の試合だったんです。
なので私としては「yu-goさんの強みを出させない」がコンセプトとなる戦法を展開しようとしていたのですが、それは向こうも同じで、お互いがお互いの知る技を封じ合う、過去のまま変わってなかったら決して勝てない試合でしたね…!
かつての仲間が、強さを深く知る仲間が今度は敵として立ち向かってくる。
…激アツですね!!!!!ぼく大好きこういうの!!!
決勝戦。明らかに格上、負けると誰もが思っていた Rufas・Rindo選手との激闘。
決勝戦のお相手は Rufas・Rindo選手でしたね。
ボクシングですがお互いに煽り合ってて、どこかプロレス味もあった熱い試合でした…!
格上とされていた相手との試合はどうでしたか…?
実際にその通りで。
周りからすると試合の勝率はDAGN3割、Rufas7割の展開となるだろう、と言われていました。
決勝戦前の展開から明らかに向こうが強いのは分かっていたので。
試合運びもそうでしたよね、トーナメント序盤でけっこうサクサク進められていた印象でした。
しかも、彼自身途中で宿敵のすとろを倒して勝ち上がっているので、決勝戦時点で自分の強さに自信を持ち、実績も上げた「完全体」で「俺に負けはない」という気持ちだったと思います。すごく勢いがあった。
なのでその勢いを落とさないためにも「自分が上である」と煽ることで自身を昂らせ、パフォーマンスを維持していたのだと思います。
決勝戦の序盤あたりでも、DAGN選手は結構苦戦されてましたよね。
この『VRCボクシング』で最も重要なポイントの一つだと思っているのが、「ゼロから最初のダウンまでにどちらがリードしていたか」だと思うんですよ。
なので先にダウンするとかなり痛い。
次のラウンドでリングに上がっている時にはきっと相手はメガパンチが打てるほどゲージが溜まっているんです。
「そいつを食らってしまったら逆転する術はあるものか?」とどうしても気落ちしてしまう。
一方で先行ダウン取った側は余裕があるんです。狙って当てる、だけを考えているので。
その差は大きいですね・・・。
とはいえこちらも持てるだけのもので戦うしかないので、ヘビーパンチで応戦しました。
それらを当てはしたものの、向こうからメガパンチを受けてしまったことによる先行ダウンでした。
次のラウンドでこちらがメガパンチを当てて手早くダウンさせられたおかげで不利を盛り返せました。
アレがなかったらたぶん負けてたと思います。
最後に試合のボルテージを上げた「秘策」
ーーおいDAGNギア上げるぞ、オレの動きについて来れるか?(Rufas・Rindo選手)
ーーおうよ!!(DAGN選手)
試合終盤のこの煽りがすごく印象に残ってます!
煽りに負けず食ってかかって、試合展開も好転させたのがすごくカッコよかったですね…!
実は、新人杯の前日にコーチしてもらった黒砂糖さんに「勝つためのフットワーク」を教わってて、「もし一か八かの状況が来たらこの技を使ってみてもいいと思う」と言われていたんです。
この前日に教わったフットワーク、いわば「秘策」みたいなものですね。これを使ったおかげでギアを上げたRufasに追いつけたと思います。
試合終盤でヘビーパンチを4連続でヒットさせていたり、試合終了後のあいさつの際にDAGN選手の残りゲージが6/100というギリギリの接戦であったことからもすごく盛り上がりましたね。
「相手を倒すしかない」としか頭になかった時にRufasをダウンさせた後、私の手元にヘビーパンチの残弾が残っていたんです。
「これはもうやるしかないな」ともう無我夢中でした。
傍から見ても本試合はジャイアントキリングで、「格上のRufas-Rindo相手だが、これは新人のDAGNが勝つ希望があるんじゃないか!?」と思ってくれたことも盛り上がりに繋がったと思います。
DAGN選手のリアルの話
大会でのヒーローインタビューでお話されていたと思いますが、確かハンディキャップを何かしら持っているとか…。
ご説明します。「先天性による右上肢機能全廃」
生まれたときから肘から先の右腕の機能が90%使えない状態です。
右手の五指が「グー」の状態から手が開かないんです。
かろうじて動くのが人差し指、親指の第二関節のみ。
小指から肘にかけて、触覚はあっても痛覚がない状態なので幼少期はよく怪我とかしてましたね。
バンザイをしても肩は上がっても右腕だけ上がらないんですよ。
どうやって戦っているのか
大変そうだな、とは思いました。
ですが大事なところはここからで。ぼくは試合後のカミングアウトを聞くまでは「DAGN選手がその障害を持っている事をまったく把握できなかった」んですよ。
右のパンチも繰り出せてましたが、どうやって戦っていたのですか?
右腕は肩までは動かせます。また、肘の神経に関しては、「押す動き」ができないのであって「引っ張る動き」は機能しています。
なので、放物線を描くように右腕を投げて、引く力でフックを打っています。
ただ、ブレーキが効かないので右腕でフックを打つときは右腕を殴ってブレーキとしています。
ほんの少し体を前傾させて前に踏み出すことでフックの射程に相手を捉えます。
すごい。動かない右腕が3点トラッキングの位置補完によって機能している。
仮想世界の仕様が右腕の攻撃を生み出している、まさに『仮想空間に祝福されたファイター』とも言えますね。
試合を見た人に感じてほしいこと
今回、DAGN選手は「勝った後」にカミングアウトされたじゃないですか。
実は新人杯で3位のすとろはリアルの友人でもあり、彼は事情を知っていたというのと、とりさんとコーチの黒砂糖さんには伝えていました。
だから最後にとりさんから「言いたいことがあるんじゃないのか!!」って声かけられたんですね。
やっぱり普段接している時に「自分こういうことがあって・・・」と開示するより「ハンディキャップがあっても大丈夫」ってメッセージを発信するには優勝した後にこれを伝えるのが効果があると思ったんです。
あと自分を隠したくなかったのでとりさんには「ヒーローインタビューでこのカミングアウトはしたいです」とお話していていました。
「勝った」からこそ言える、「ハンディキャップがあっても大丈夫」というメッセージ。本当に深く刺さります。
先天性なので生まれたときからこうです。なのでみなさんが右腕を使えて当たり前のように、私は右腕が使えないことが当たり前の状態です。
なので色々と工夫して色々とうまくやっていけてたりします。
片腕で料理もやってるんですよ。右腕はフライパンに添えたりとか。
自炊されてるんですね!?
…ぼくよりかなり生活力高いじゃん…。
今後の野望
今後の展望、野望があればぜひお聞かせください!
やはり、次の大きな大会、『Vket2023 Summer杯』の優勝ですよね。
新人杯の優勝選手に与えられるのは予選免除のシード権。
つまり、本戦で戦うのは誰もが自分よりもかなりの格上。
生半可な覚悟じゃ勝てないので、なおさら気合入れないといけないですね。
『仮想空間に祝福されたファイター』DAGN選手。
新人杯で勝鬨を上げた彼が見据える次の舞台は「Vket2023 Summer杯」
彼の今後の活躍に、乞うご期待です!
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