
バーチャルシンガーおはよう真夜中、会場制作/演出を担当する天使まといによるショークリエイティブデュオまとまよ企画の最新公演「VRミュージカルwish ~Generalprobe~」がバーチャルSNS cluster にて8月8日(金)初演を迎えた。8月から毎月4公演に渡り上映される。
7月まで3公演開催されていた「VRミュージカルwish再演」から期間を開けずに新作への期待を高めながら、clusterをはじめVRプラットフォームユーザーへ「VR演劇へ通う楽しさ」をさらに広く届けた初演。
前作からお馴染みのキャストや舞台スタッフに加え、ましろ小劇場バーチャル演劇研究会所属の黒井有利が新たに挑戦へ参加する。

本記事では前作の3公演から磨かれた舞台チームで挑んだ「VRミュージカルwish ~Generalprobe~」初演の見どころ、前作との対比や、公演の模様を切り取った舞台写真を交えたレポートをお届けする。
だれかにとっての「バーチャルの日常」にリンクするような。遊び過ごすからこそ感じ入るものがあるこの物語を観劇する。出会うひとつのキッカケになれたらと思い紡がせていただく。
眠れない少女はウサギたちに誘われる
「VRミュージカルwish ~Generalprobe~」は上映プラットフォームであるメタバースプラットフォームclusterを舞台に、多種多様な人々が集う眠らないバーチャル空間にどこか馴染めないながらも居場所を探す不眠少女(演:黒井有利)が出会う人々との対話に苦戦している中、見渡すと周りは会話や交流を楽しんでいることに立ち尽くすシーンから物語の時計は進んでいく。
そんな不眠少女の前に現れた4羽の奇妙なウサギ、まようさを前作から引き続きまとまよの舞台に参加するPOKKY、なめこ、EnderYear、yamagoo(脚本/演出も担当)が演じる。
それぞれ身につけるもの(りんご、グラサン、おはな、ハット)や言動や特性が違っているのもユニークであり、前作ではダンサーとして舞台に立っていたまようさが喋り物語を動かしているのも本作のポイントのひとつだろう。
公演を追うことで「推しまようさ」が見つかるかもしれない。
騒がしいまようさたちに困惑しながらも「この子も連れていきたい!」と誘われるがままに、まようさたちの目的地へ繋がるポータルへ「いっしょに連れて行って」と飛び込む不眠少女が行き着く先は。

物語の冒頭である不眠少女とまようさたちの出会いは導入としていい掴みであると同時に、前作を観劇済みであれば前述した「まようさが喋る」に加え、新登場のキャラクター。そして「おはよう真夜中が姿を見せていない」ことに「これはどんな物語になるんだ」とより引き込まれたことだろう。
バーチャル世界で遊ぶ人なら誰しも足を踏み入れ始めた頃はきっとこの世界でどうしたらいいのか、どう遊べばいいのかと手探りだったなと思い返しながら彼らのやりとりを眺めていたのではないだろうか。思えば自分自身も始めたての頃、劇中同様ロビーをさまよい、時にそのままログアウトすることもあれば、たまたま出会った人たちにワールドへ連れられ遊んだ過去に思いを馳せていた。
客席を覆う場面転換を経て現れたのは煌びやかなライブステージで堂々と手を掲げるおはよう真夜中。前作同様に本作でもこの世界でのおはよう真夜中として舞台に立ち、演じ歌う。

印象的なイントロから開幕するロックナンバー「黎明」が公演の一曲目を担当するとはと驚いた様子が当日のコメントや客席のリアクションからも伝わっていた。序盤に観劇の掴みとなる歌唱でガツンと引き込む力強さを感じさせる楽曲を置けるのも前作で積み上げてきた研鑽あってのことだろう。

「黎明」は前作でも披露された楽曲だが舞台演出も大幅にアップデートされていた。ライティングはもちろん、大型のモニターをバックに客席まで大きく稼働するステージと後方席でもパフォーマンスを近く体感できる工夫が随所にされていた。
歌唱に見入ってる最中に客席後方からまようさたちが現れる。そんな4羽へ向けておはよう真夜中は「遅いよ!」と言葉をかけながら賑やかなやりとりを繰り広げる。どうやら公演でのライブパートは劇中でのライブリハーサルであり、まようさたちはリハーサルへ向かう道中だったようだ。
まようさたちに連れられるままバーチャル劇場でのライブパフォーマンスを目にした不眠少女とおはよう真夜中が出会う。邪魔をしないよう去ろうとするも彼女から何か感じるものがあったのか「せっかくだから観ていきなよ」とライブリハーサルの見学を勧める。
不眠少女とおはよう真夜中の出会いがさらに物語の時計は進めていく。
仮想世界で少女は憧れと出会う
舞台は再びライブパートへ。
先ほどまでの騒がしさとガラリと印象を変え、曲が始まればゆらゆらと、それでいて個性的に踊るまようさたちと共にステージに立ち「midnight beat」を披露した。歌詞とリンクした海底を思わせるステージと演出。幻想的な青の光に包まれながら心地のいい浮遊感の歌唱を届けた。

役者の立ち位置が集中しているからこそ見応えのあるパートであると同時に様々な視点や角度で発見のあるステージとなっている。このパートに限った話ではないが、ぜひこれからの複数回ある公演で自分にとってベストなルックを見つけていただきたい。

「どうだった?」と尋ねられ興奮気味に「すごかった。こんなの初めて観た!」と応える不眠少女。先ほどまで遠慮がちだった彼女に何か灯されたようだ。これまでひとりで過ごしていた場所で目を輝かせる舞台。「フレンドになろう!」と声をかけてくれた存在と出会い心通わせることで彼女にとって世界が広がっていくシーンへ観劇している側としても嬉しさを感じたのではないだろうか。
ライブパートは「dancing stars」へ。この楽曲はVRミュージカルシリーズでは初披露。
旅をするように切り替えるステージ演出とクライマックスで見せた煌びやかな星空が印象的であったと同時に伸びやかな歌声がより会場を広げていくような感覚があった。こちらはぜひ会場で体感してほしい。

このパートでは見守るようにリハーサルを眺めていた不眠少女もおはよう真夜中、まようさたちと共にステージへ。彼女なりに跳ね、踊る姿に微笑ましさを感じると同時に今見えている世界がこれまでより大きく輝いて見えているのだろうと想像力の膨らむシーンであった。

音楽を届ける存在との出会いを経て、芽生えた「私もこんな風に歌ってみたい」とステージへの憧れを口にする。そんな想いを受け取ったおはよう真夜中は彼女をステージへ連れ出し、いっぱいの客席へ向けて舞台で表現をする「自分たちで物語を創る」喜びを伝える。
そんな眩しさに「夢のようだ。羨ましい」と憧れを募らせる一方で「私はどこに行ってもよそ者」と少女は告げる。
イントロと共に舞台はやさしげな黄色のライティングに包まれる。月をモチーフにしたゴンドラと星型のお立ち台がかわいらしいセットの中「MOON LIGHT」の披露へ。
隣に座る少女へ語りかけるように歌う姿が印象的だと感じていると、それに応えるように少女も歌い出す。劇中でも特に印象的なおはよう真夜中と不眠少女のデュオパートだ。

どこか震えているような歌声からはこの瞬間、少女がどれだけの勇気を出したかを想像させる。多くの人にとって心震えるシーンだったのではないだろうか。
同時に、前作で自身が望む舞台へ立つ自分になるためもがきながらも生きることを選んだおはよう真夜中だからこそできる柔らかさのある強さを歌声で表現しているように感じた。歌唱のアプローチの豊かさも際立つシーンのひとつだと思える。
これまで「MOON LIGHT」は前作を含めライブで耳にしてきたが、このデュオパートシーンを経て歌詞の印象や曲に対する思い出がアップデートされた。

余談だがちょうど公演日の夜は満月前日であり「月が夜を照らしているから また歌える」というフレーズがより際立つなと感じながらこの夜を過ごしていた。
お互いに抱える「孤独」「他人と違うこと」に共鳴するように歌で対話し、二人は物語の時計の針を進めていく。
鍵孔の向こうへ少女たちは歩み出す
チクタクと時計の針と共に舞台に現れた不眠少女。舞台には彼女の影と時計が大きく映し出されている。物語終盤で披露されたのは新曲「鍵孔の向こう」
こちらも引き続きデュオで披露されている。本記事では新曲パートは詳細に紹介はできないが印象的な舞台演出も含め、ここでの二人の歌唱はぜひとも劇場で目にし、体感してほしい。
きっと回を重ねるごとに感じ方や角度の変わるシーンとなるはずだ。不眠少女視点、おはよう真夜中視点でそれぞれ想いを馳せてみるのも何か得るもの、新たに見えるものがあるかもしれない。

自分の気持ちや揺れ動くものに鍵をかけるとしたら守るため、触れさせないため。出さない方がいいと思うような経験をしたから。きっとそれぞれの人生の中で得た後ろめたさや恐れがあってのことなのではと想像する。
「鍵孔の向こう」はそんな感情をそっと手放せるような。それでいて無理に解くことはなくていいと言ってくれるような。寄り添うだけではないふしぎな距離感と強さのある曲だと感じた。きっとこの先この舞台をはじめ、耳にした誰かにとって夜を照らす自分だけの星を探す支えになるような楽曲になるはずだ。

バーチャル劇場で出会った二人がこの楽曲を通じ、横並びでそれぞれ「たからもの」を見つけ歩み出す。成長の物語であり、自分を生きていく姿を観測していると同時に、この物語を目にしたそれぞれに何か灯されるものを見つめ、育む一歩となる時間になるのかもしれない。
「おはよう真夜中はなぜ少女をステージへ迎えたのか」それはきっと観劇したそれぞれで見えてくるもの、感じるものは違っているはずで、この視点や違いの数でこの先も舞台が表現が育まれていくのだろうと思える二人の対話を経て「VRミュージカルwish ~Generalprobe~」初演の幕を閉じた。
新作公演初演を終えて
エンディング後はキャスト、舞台スタッフ勢ぞろいで姿を見せ劇場へ集まったオーディエンスへ改めて感謝と次回公演の意気込みを伝えた。

会場制作/演出を担当する天使まといからは「場面転換の繋がりを綺麗に見せる。ミュージカルらしい華やかさを意識して制作した。座る場所によって見える景色や仕掛けが違っているので次回は別の席や位置で楽しんでみてほしい」と伝えられた。
不眠少女を演じる黒井有利からは「これまで役者をしている中で不眠少女のような役は初めて」と語っていた。11月の千秋楽までに役と共にどんな表現の研鑽をしていくのか注目していきたい。
舞台で自身を演じるおはよう真夜中からは「前作は私のモノローグで進む私の物語だったけれど、今回は不眠少女の成長も描きつつ、おはよう真夜中の成長も描く。私だけじゃなくまようさちゃんも含めてみんなといっしょに舞台を作り上げる。新しい宝物ができた。そんな宝物を多くのみなさんに届けることができて嬉しい。この先の公演もより多くの人に届くように広める協力をしていただけたら」と呼びかけた。
前作の記事からの繰り返しになるが、メタバースclusterで体感することの出来るエンターテイメントとして最前線と言える「VRミュージカルwish ~Generalprobe~」
これまで幾度と重ねられてきたVR演劇文化をより盛り上げ「clusterに面白い公演あるぞ」とひとつ大きな看板になると感じられる時間でした。
観客も上映時間中、観劇しているだけでなく、コメントやエモートのリアクション。演出付きのギフト(投げ銭)で参加できるのもclusterでのVR演劇の強みであり文化だと感じるシーンも多数あり、回を重ねる中で観客席からの再現性と予測のできない演出も磨かれていくと思うと複数回公演の面白さはまだまだこれから新しい領域があると感じることができる。
公演だけでなく会場には仕掛けや特典、足を運ばないと手に入らないアイテムが散りばめられている。エントランスから客席までの道のりも物販エリアが続いているので、開演まで秘密を探し9月、10月、11月の公演それぞれの楽しみを更新していきたい。

下記にバーチャルSNS clusterで開催される次回公演のリンクを記載している。ぜひ当日は会場へ足を運びメタバースのエンターテイメントを体感していただきたい。
フレンド、フォロワーを誘い共に物語に触れ、終演後に語らう。そんな時間や体験がバーチャルにも広がる力のある公演だと初演を迎えたレポートに綴り終え感じている。
公演/公式サイトリンク
VRミュージカルwish ~Generalprobe~本公演
9月7日(日)開場21:30 開演22:00
https://cluster.mu/e/b1462947-c6ee-4707-ad2c-9466675d3b82
10月5日(日)開場21:30 開演22:00
https://cluster.mu/e/947b92a6-2111-4f75-ae15-5431133d8490
11月7日(金)開場21:30 開演22:00
https://cluster.mu/e/bde11fe8-d708-44e7-a6b6-e163d62e8740
VRミュージカルwish ~Generalprobe~公式サイト
https://sites.google.com/view/vrwishgeneralprobe
投稿者プロフィール

いんふぉ計画-INF design-
バーチャルSNS clusterにて毎日を1.5倍くらい楽しくするエンタメ星予報「いんふぉ星ラボ」イベント・カルチャーが生まれるclusterの歩き方を研究発信をテーマにしたラジオ「cluwalk Labo 〜クラウォークラボ〜 」の二つを軸に活動中。
YouTubeにてイベント、番組アーカイブ公開中(https://www.youtube.com/@INF_design)
歌唱、DJなど音楽イベントを中心に遊びに行っています。
まとまよ
バーチャルだから表現できるショーを追求メタバースのエンターテイメントが盛り上がる未来を創る
ショークリエイティブデュオ
企画/出演 おはよう真夜中
舞台製作 天使まとい
X https://x.com/ohamayo_vr