なぜ1人のディレクターに200人のファンが集うのか。『育良さんかわいいサミット2』で明らかになった“神がかった”かわいさとは。

「かわいい」という感情は、どこまでロジカルに説明できるのだろうか。

VRChatにおける広報活動の成功例として、今や無視できない存在となっている育良啓一郎。
サンリオVfesで使用されたand ST.のCMから自然発生した「#育良さんかわいい」をきっかけに、グループやイベントが開催されるほどの人気っぷりである。

一体どうしてそのようなムーブメントが発生したのか?
そんな「育良さんかわいい」をマーケティングの観点から深掘りするイベント『育良さんかわいいサミット2』が5月1日に開催された。

ゲストにはBEAMSの木下香奈氏、Pochi by KTの天城翠氏という、業界の最前線を走る面々が登壇。イベント中は常にフルインスタンス(80人)に加え、グループ参加人数も250人を超えるなど現在進行形で広がりつづける「育良さんかわいい」ムーブメント。
そこで語られた「育良マジック」の裏側と、VRChat広報の可能性を紐解いていく。

アーティストによるオープニングセッション

イベントの幕開けを飾ったのは、贅沢な音楽体験だった。
Vシンガー・胡虎あくび氏(写真左)の透明感あふれる歌声と、ピアニスト・ともしょう氏(写真右)による繊細な旋律。この二人の共演によって、会場の空気は一瞬にして「サミット」という名の祝祭へと塗り替えられた。

披露されたのは、対照的なメッセージを持つ2つの楽曲だ。

まず奏でられたのは、超かぐや姫!の『星降る海』
広大な宇宙や神秘性を想起させるこの曲は、VRChatという無限の可能性を持つプラットフォームそのものを象徴するような、厳かな没入感を会場に与えていた。

しかし、その静謐な空気は続く2曲目で一変する。
選ばれたのは、HoneyWorksの『ファンサ』。

曲が始まる前、胡虎あくび氏が突然育良啓一郎をセンターに立つようステージに呼び出した。


「育良さんにやってほしいことがあります。私たちは全力で歌をお届けするので、その間“かわいい”を振りまいてください。」

困惑した育良啓一郎をよそ目に演奏が始まった。

曲中の「もっと!」の掛け声を「育良!」に変えた育良さんかわいいサミット2限定のコールで会場の盛り上がりは最高潮に。

困惑しながらかわいいを全身で振りまく育良啓一郎。
ファンサに応える育良啓一郎。

アーティストたちの高いパフォーマンスによって、「かわいい」を理屈で語る前の「直感的な多幸感」が会場全体に共有された。完璧なグランドデザインのもと、イベントの本編である「分析」のフェーズへとバトンが渡されたのである。

徹底解剖:育良啓一郎は、なぜかわいいのか。


トップバッターとして登壇したのは、Pochi by KTの天城翠氏。自らを「育良さん担当エバンジェリスト」と称し、提示されたプレゼンテーションのタイトルは、「育良啓一郎はなぜかわいいのか」。

この極めて主観的、かつ抽象的な問いに対し、天城氏はファンとしての熱量を保ちつつマーケター視点の冷徹な客観性を持ってその構造を解き明かしていった。

通常、企業によるブランドコミュニケーションにおいて、ユーザーからの反応は「施策」によって誘導されるものだ。しかし、育良啓一郎を巡る熱狂の起点は、企業側ではなくCMの視聴者側、そしてユーザーを起点としたものだった。
天城氏はその「特異性」を、独自のデータと多角的な分析で解き明かしていく。

全てイチから突貫工事で制作されたCMだが、バズ設計すら意図せず、ただ素直にVRChatの映像を映し出すという演出方針が、結果として最強の演出へと繋がった。
天城氏はこの現象を「仕掛けたのに、仕掛けた感がなかった。」と結論づける。作為性のなさが、ユーザーの心理的障壁を無効化したかたちだ。

かわいいを「運用する」

さらに分析は、育良啓一郎の振る舞いそのものへと深化する。
天城氏は、育良啓一郎は「かわいい」を演じているのではなく、「運用している」のだと定義した。その「運用」を支えるのは、以下の4つの特異なスタンスである。

  • 自覚あり、でも半歩引く: 自己認識と表現距離を適切に管理し、過剰に頼らず、否定もしない絶妙な中間ポジションを維持する。
  • 逃げない、でも受け身: ユーザーからの「かわいい」という声(ハッシュタグ等)を拒否せず受容するが、自ら能動的に煽ることはしない。
  • 商店街の距離感: 一般的な企業広報が「弊社」として振る舞うのに対し、育良氏は一人称を「僕」とし、フラットで体温を感じさせる即応的なコミュニケーションを行う。
  • かわいいを作る側でもある: 消費者でありながら供給側でもあるという、通常のKOL(キーオピニオンリーダー)分類では観測不能な二面性。

スライドで示されたかわいさ4軸レーダーによると、育良啓一郎の魅力は自覚、受け身、距離感、供給の各要素が極めて高い次元でバランスしているという。
天城氏の分析では、育良啓一郎というアイコンは、企業の「中の人」という枠を超え、バーチャル空間における「理想的なコミュニケーション体」へと進化しているのだという。

大きく頷く観客たち

バズる「余白」のデザイン

天城氏は、育良啓一郎が示した新しい広報のかたちを「パラダイムシフト」と表現した。これまでの広報が「企業アカウント」という情報発信の主体であったのに対し、育良啓一郎は「企業の『人』」として、関係性の構築そのものの主体へと変容を遂げたのである。

このアプローチの特異性は、集客のメカニズムにも現れている。プロダクトの訴求ではなく「かわいさ」を磁力として、最終的に業界の垣根を超えたユーザーたちが集結するという極めて稀有な観測事例も示された。

マーケターとして最も傾聴すべきは、「バズらせようとせず、バズる余白を作る」という原則だろう。
設計しすぎた施策は、かえって受け手の発話意欲を削いでしまう。あえて「余白」を残すことで、他者がそこに意味を書き込む空間が生まれ、結果として爆発的な熱狂が生まれる。

事実、独自開発の「かわいさスコアリングシステム v2.1」による定量データでは、NPS(ネット・プロモーター・スコア/商品やサービスに対する信頼や愛着の度合い)が無限大に達するという、従来のマーケティング指標では測定不能な成果を叩き出している。

マーケティング成果の最高到達点

プレゼンテーションの締めくくりとして、天城氏は育良氏が到達した地点をマーケティング成果の最高到達点、そして「神がかっている」と総括した。

会場から「分かる!」「育良さんは神がかってる!」と賛同の嵐

ユーザーが自発的にカルチャーを生み出し、コミュニケ―ションを行うという動きは、企業がいくらコントロールしようとして生まれるものでは決してない。
天城氏が最後に贈った「育良さん、これからも逃げなくて大丈夫です」というメッセージは、広報戦略の新たな可能性を見つけた育良啓一郎への感謝と同時に、一人の魅力的な「個」をコミュニティが全肯定し支えていくという、バーチャルにおける幸福な関係性を象徴していたと思う。

広報とは「仕掛ける」ものではなく、「愛される余白」を育むことである

最後に、イベントの総括として登壇者から以下のようなコメントがあった。

BEAMS PR/VR KKinosh

KKinosh:いま、どこの企業もLTV(ライフタイムバリュー/顧客生涯価値)をあげるため、自社ブランドに関連するコミュニティ醸成に非常に力を入れています。それはとっても難しいことですが何より価値があるものです。そこに資本を投じるのが企業のやり方なんですが、育良さんは自前で行える。これは本当にスゴイことです。

私、育良さんのXアカウントについてる『たのんだぞみんな』って言葉が本当に好きで。
ウチの代表が『努力は夢中に勝てない』とよく言うんですけど、育良さんの頭の中は「お客さんに仲間意識持ってほしいな」「ウチの商品を良いなと思ってもらいたいな」みたいな企業っぽいコミュニケーションプランニングやマーケ施策のことよりも、お客さんは僕の仲間であるという大前提があって、育良さん自身が楽しいと思ったものを素直に伝える感性があるから、ユーザーさんと目線が合うし、心地いいし、自然にコミュニケーションを生み出せるんだと思います。

私にとって育良さんはロジックをマジックでアウトプットする人。「育良さんかわいい」というムーブメントはそんな育良マジックによるものです。だからかわいいだなんておそれ多いのですが、皆さんと一緒に言わせてください。育良さんかわいい!

主催 浅田カズラ

浅田カズラ:スライドにもあった『かわいいを運用する』って、育良さんに限らず多くの方に適応できるお話なんじゃないかと思いました。わざとらしさが無い様子や「育良さんかわいい」を拒否せず受容する姿勢は広報担当者として非常に大事だなと。そこを天城さんというプロが、キチンと言語化してくれて本当に良いイベントになったと思います。会場に来てくれた皆さんもありがとうございました。

『育良さんかわいいサミット2』を通じて浮き彫りになったのは、これからの広報が向き合うべき「コントロールと信頼」の新しいバランスである。

企業の「中の人」がアバターというフィルターを通して「個」として運用する姿は、組織と個人の関係性が溶け合い、新しいコミュニティが形成されていく過程を見事に示していた。
これは単なる一過性のミームではなく、バーチャル空間が先行して実現している「体温を感じるコミュニケーション」のひとつの到達点にほかならない。

天城氏が説いた「バズらせようとせず、余白を作る」という戦略は、まさしく新時代のマーケティングと言えるだろう。あえて完璧な設計を手放し、ユーザーが自由に意味を書き込める空間を残す。その無策という名の高度な戦略こそが、NPS(推奨度)無限大という測定不能な熱狂と「育良さんかわいい」というミームを生み出した正体だとイベントを通じて感じた。

そして、「余白」から生まれた熱量がたしかに実在することを、アフターパートが証明してくれた。別個用意されたワールドで、全13名のイラストレーターが寄せた育良氏のファンアートつきのクレジットムービーが流されたのだ。

浅田カズラ氏とともに、企画立案からオープニングアクトのアサイン、ポスター制作依頼まで駆け回ったという共同主催・usiya氏が旗振りして実現したもので、これには育良氏も「素直にうれしい」とコメント。育良氏への信頼があったからこそ生まれたサプライズと言えるだろう。

以上、前回の盛り上がりを大きく上回った育良さんかわいいサミット2でした。
次回開催は未定ですが、今回の盛り上がりを加味しLive配信も視野にいれつつ前向きに検討するとのことです。

関連リンク

第1回育良さんかわいいサミットの様子は以下の記事リンクから読めます。


◆VRCコミュニティ:育良さんかわいいクラブ
参加リンクはこちら

◆トークショーゲスト
天城翠:@vr_sui
木下香奈:@k_kinosh

◆オープニングアクト
胡虎あくび:@kotora_aqbi
ともしょう:@tomoshou_vrc

◆企画
浅田カズラ:@asada_kadura_vb
usiya:@louis0554
ムシコロリ:@coloriLab

◆イラスト
ましを ユーク てぃーサーモン マッキー カップチーノ♪ 
れもんぴ るナぴ Linaria ぱおれ まじかよ かげ 
ぴょとん ベッカリー

◆ポスター
えびはら:@3969kcal

◆動画
ましを:@shiox0

◆PA
kasbee:@vrc_kasbee

◆会場
誰でもお気軽配信ワールド AdHoc -アドホック-/RIOT MUSIC

◆主役
育良啓一郎:@ikr_4185

投稿者プロフィール

dateyakiya
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バーチャル世界でなにもしないをしています。