「1体の怪物が生まれるまで」──Pochi by KT新作アバター『アハトナハト』制作ドキュメンタリー【寄稿】

──その怪物は、たったの三週間で産声を上げた。

Pochi by KTの3Dモデラーである高木恭介のX(https://x.com/kyousuke_takagi)

そこでは1体の怪物が、毎晩少しずつ、しかし凄まじいスピードで生まれていった。
三面図が引かれ、トポロジが組まれ、髪が生え、王冠が乗り、テクスチャが置かれ、触手がうねりはじめる。今日はどこまで進んだんだろうと気になって、気づけば毎晩見に行ってしまう。

これはその、1体の怪物が生まれるまでの記録。
Pochi by KTの新作オリジナルアバター、その名を『アハトナハト』。

じっくりと書いているため、アバターの情報だけ知りたい人は目次から発売日に飛ぼう。
もし「アハトナハト」を気に入ったら、また戻ってきて当記事をじっくり読んでほしい。

BOOTHページはこちら👇
https://pochibykt.booth.pm/items/8649248

「水族館の王様です」から、すべては始まった

最初の一枚が投稿されたのは、2026年7月6日の夜。

専門学校で培った技術を使ってアバターを作ります
水族館の王様です
頑張って進捗あげます
よろしくお願いします

これだけの言葉と、イメージイラスト。
「完成品」ではなく、「これから作ります」という宣言が、大きく拡がった。

そして翌日から、高木恭介の「毎晩の進捗」が始まる。

三面図を、あえて描き込まない

制作の初期、高木恭介はこう語った。

三面図はトレースしない。整合性は大事にするけれど、印象のほうがもっと大事だから、困ったときはメインビジュアルを見る

トポロジ(3Dモデルの面の流れ)も、すべて自分の手でコントロールしたいからサブディビジョンは使わない、と。先に平面でトポロジを作ってから、厚みを足す。
服飾科を出て、素材と縫製を知っている人の手つきが、ここにある。布を知っている人間が、ポリゴンを縫っていく。

#アハトナハト というタグ

そして最初の投稿から一週間足らずの7月12日。
Pochi by KTの代表クリエイター天城翠からついに名前が明かされる。

Pochi by KT新作オリジナルアバター発売決定🌊
大海の王アハト・ナハト🐙
2026年秋発売予定

「朕は大海の王。孤高は王権の必然。憐れむには値せぬ」

#アハトナハト

アハトナハト…
ドイツ語で、Acht(8)と Nacht(夜)。触手は8本。そして、瓶の中で外の世界を知らない孤独な夜。名前そのものが、この子の姿と世界を表している。
そして Acht と Nacht は、音がよく似ている。左右対称のような、鏡に映したような響き。

髪が生え、王冠が乗り、色が着く

7月13日、「kami」という一言とともに、髪の進捗が上がってきた(あえてローマ字なのはダブルミーニングを狙ったジョークだろうか)

高木恭介は、髪の裏面を一枚一枚貼っていく作業を「職人手作りのあたたかみのある髪の裏面貼り作業」と少し冗談めかして呼ぶ。

裏面なんて正面からはほとんど見えない。
それでも完成したときの存在感がまるで変わるから、手間をかけて貼る。

そしてその翌日には、手の形をした王冠がアハトナハトの頭に乗った。

7月14日、テクスチャとマテリアルが置かれた瞬間、高木自身がこぼす。

「可愛いのでは?????」

作り手が、その子のいちばん最初のファンになる瞬間。
可愛いと思う。思わず声に出して同意してしまった。

うごめく触手(タコ足)

制作の進捗を出し始め、わずか約10日ほどの7月17日

「腕の動きに連動して足が動くようにしたよ」

タコ足が単なる飾りじゃない。腕を動かすと、タコ足が連動して動く。
ここからアハトナハトは「タコの姿をしたアバター」から「タコである存在」に固まっていく。

翌7月18日、「吸盤まで収縮してうねうねさせるようにした」。

吸盤が、収縮する。うねる。
高木恭介はこの質感について、若い筋肉の張りを意識した、ぴちぴち感を出すために法線をいじった、と語っている。茹で上がったあとのタコの包まり具合が好きだから、そんな感じに──と。

さらに進捗ツイートでは「美味しそうなゲソにできてると良いな」という文が。

「ゲソ」はイカでは……

のちに高木恭介本人が明かしたところによると、この触手の連動には、ただのアクセサリーではなく自分の体としてタコ足との一体感を出したい、直感的に何かアクションをしたときに足が連動してほしい、という試行錯誤があったとのこと。

飾りの足と、生きている足は、動きが違う。高木恭介はそこに何日もかけた。

ガワ(外側の造形)が仮完成したと言ったのも、7月18日。
「ガワだけ仮完成(ここからが長い)」というカッコ書きに、ものづくりの本音がにじんでいる。

そして同日、高木恭介本人の言葉でも投稿された。

「この子の名前は #アハトナハト です」

アバターに命が宿った瞬間だ。

ヒトではない歯を作り込む

7月20日。
「口の中歯まで作り込んでます。奥に行くにつれてグラデーションをつけて違和感ない奥行きを作ってます。あと嘴です、タコなので。(普通の歯にもできるよ)」

この投稿は制作期間中最大級の反響を呼んだ。

口の奥の、歯。ほとんどの人が普段は見ない場所。
しかもタコなので、嘴(くちばし)まである。それを、奥行きのグラデーションまでつけて作り込む。

「そこまでやるの?」という驚きと、「そこまでやるから生き生きとして見えるのか」という納得が、同時にやってくる。

そして、この日にもう1投稿。

「専門学校で学んだ技術を使ってアバターを作ってます。販売できることを目指して頑張ってます。応援してください。」

こちらも大きな反響を呼んでいた。

技術を見せた投稿と、「応援してください」とまっすぐ書いた投稿。
人は、完成品より、頑張っている姿に手を伸ばす。

アハトナハトの3週間は、それをずっと証明し続けていたように思う。

ちなみに靴は、メインビジュアルではほとんど見ないが、ガラスのミルククラウン(牛乳が跳ねた瞬間の王冠形)になっている。細部の見えないところに、宇宙がある。

このアバターは何者なのか

ここからは、少しだけ「何が作られていたのか」の話。
Pochi by KTが少しずつ明かしてきた、アハトナハトの世界について。

公式の紹介文は、こう始まる。

「小さな瓶の中に、王様がひとり。
本人は、水族館の中から水槽を眺めているつもりでいる。
けれど実際は、瓶の底から世界を見上げている。」

本人は、水族館の中にいるつもりでいる。
ガラス越しに、泳ぐ魚を眺めている。優雅に、王様として。

でも、実際に彼がいるのは、小さな瓶の中。
見上げているのは水槽ではなく、瓶の外の世界。

そして──眺めているその「魚」は、本当に魚なのか。

彼は自分が閉じ込められていることに、気づいていない。
気づいていないから、出ようとしない。誰かがこの瓶に彼を入れたはずなのに、なぜ入れられたのかは誰も知らない。実験のためなのか、標本としてなのか、それとも何かの…封印なのか。

本人は知らないまま、王様でい続ける。

Pochi by KTがずっと大事にしてきた「静かで、少し怖い」世界の質感。
BOOTHの商品ページは、この世界をこう言い切っている。

「寂しいはずもない。己が選んでここにいるのだから。」

彼は瓶の存在に気づいていない。
それなのに「己が選んでここにいる」と言い切る無知ゆえの孤独。

彼は孤独を憐れむな、と言う。
ひとりであることは、王であることの必然なのだと。
強がりに聞こえて、でもたぶん本気で、そう信じている。

さて、ここでもう一度彼の名前を口に出してみよう。

アハトナハト──鏡に映したような、左右対称の響きの名前。
それは、彼を瓶の中に閉じ込めておくための、鏡の結界のようなもの。

だが、この孤独な物語には続きがある。
それを紡ぐのは、Pochi by KTでも、筆者でもない。

瓶のふたを、開けますか?

公式紹介文は、こう結ばれている。

「さて、あなたはこの瓶のふたを、開けますか?
……ああ、でもひとつだけ。
タコはね、瓶のふたを、いずれ自分で開けられるんですよ。」

Pochi by KTのアバターは、買って終わりではない。
ユーザーが思い思いの衣装を着せ、改変し、VRChatの世界に連れ出していく。

アハトナハトの場合、それは特別な意味を持つ。
彼が自分で勝手にふたを開けて外に出たら、それは「怪物」のままなのだ。
だが、あなたの手で人間の世界に招き入れられたならば、彼は別の存在になれる。

改変・アップロードという行為が、単なるカスタマイズではなく、怪物を迎え入れる儀式になる。ここまで来ると、もう「アバターを買う」という言葉では済まない気さえする…

ちなみにアハトナハトは元・上位存在なので、性別はない。
タコの吸盤の形は、シェイプキーでユーザー自身が変えられる仕様になっている。
この「あなたが決めていい」の徹底ぶりも、迎え入れる儀式の一部として機能しているのではないだろうか。

サンプルワールドは常設で公開されているので、気になった人はいつでも瓶の中を覗きに行こう。海中が苦手な人は少し注意が必要だ。

サンプルワールドはこちら
https://vrchat.com/home/world/wrld_7dd51f7e-63a6-4f76-8013-1bc3b80636dc/info

早期特典、汎用たこ足、そして…

発売に向けて、面白い動きがいくつかあった。

王笏(おうしゃく)
サンプルが手にしている杖は、早期にお迎えした人への特典。

広がるたこ足と後光をイメージし、東洋のエッセンスを加えたスタイリッシュなデザインとのこと。
期間終了後はサンプルからも外す予定なので、この杖を持ったアハトナハトには初期にしか出会えないかもしれない。

そしてなんと、たこ足だけでも使える。
うねうね動くたこ足は単体のPrefabとして用意されていて、他のアバターにも付けられる仕様。
もちろんちゃんと動く。あなたの今のアバターにも、8本の触手を生やすことができてしまうわけだ。
ちなみに、吸盤は暗いところで明滅するそうだ。暗い水槽の中で、ぽう、ぽう、と光る吸盤。神秘的なような、恐ろしいような――

7月22日の時点で、高木恭介は「ポリゴン数以外はPoorランク以下でQuest対応もしてます」と綴っている。
触手がうねり吸盤が動き歯まで作り込まれた基本形態(タコの王様形態)は、見た目の情報量を惜しみなく積んだ設計だ。十分な軽量化はなされていると感じる。

その数日後の7月26日、こう投稿された。

「パフォーマンスランクGoodのアハトナハトを作ってしまった…」

それが「第二の衣装」──瓶からあなたと共に外に出たIFの未来の衣装──の軽量Prefabのことのようだ。

ふたを開けたあなたと

「怪物の本懐の傀儡たる王様から、ガラスの靴の必要のなくなったお姫様へのIFストーリー」

ユーザーの隣で、共にVRChatで過ごせるデザインを意識した、と……ただおとなしく座っているだけの彼ではない、という思わせぶりな一言を添えて。

作り込みを尽くした基本形態と、あなたと一緒に外の世界を歩くための身軽な一着。
ひとりの怪物の中に、両方の設計思想がちゃんと同居している。

このバージョンは正式には「瓶からあなたと共に外に出たIFの未来の衣装」という名前で、Full Packだけに収録される特別な一着。
瓶の中の孤高の王様が、あなたと一緒に外の世界に出た後の姿。お迎えした後、この子があなたをどこまで連れていってくれるのか。

発売日&販売情報

発売日は2026年8月8日(土)8時8分

8月8日はタコの日。
8本足のこの子が生まれる日として、これ以上ふさわしい日はないだろう。

販売は、2つのパックが用意されている。

Standard Pack(¥3,000)は、アハトナハト本体+タコの王様形態衣装。
まずはこの姿から、彼と出会うことができる。

Full Pack(¥5,000)はStandard Packの内容に加え、先ほどの「瓶からあなたと共に外に出たIFの未来の衣装」、パフォーマンスランクGoodのPrefab付き。
ちなみにこのIF衣装は、単品では販売されないことに注意。彼の”もうひとつの未来”に触れられるのは、Full Packだけというわけだ。

BOOTHページ
https://pochibykt.booth.pm/items/8649248

サンプルワールド
https://vrchat.com/home/world/wrld_7dd51f7e-63a6-4f76-8013-1bc3b80636dc/info

3週間で形を得た「怪物」

3週間、毎日彼らの投稿を見てきた。
初期は「秋」発売と書かれていた気がするが、「ふたをあけてみれば」たったの3週間でこの怪物は世に放たれようとしている。しかも、一切の手抜きなしで。

あれよあれよと一枚のキービジュアルが三面図になり、トポロジになり、髪が生え、王冠が乗り、テクスチャが置かれ、触手がうねり、吸盤が光り、歯が並び、名前がつき…「怪物」として立ち上がっていく。その全てを、リアルタイムで目撃する事ができた。

この怪物はPochi by KTが積み上げてきた「静かで少し怖い、詩的な世界」の、最新にして、最も奇妙で愛おしい住人となるだろう。

タコはやがて自ら瓶のふたを開ける。孤独な怪物のままで。
先にふたを開けるかどうかは、あなた次第。

2026年8月8日、タコの日。

#アハトナハト、まもなく解禁。

Pochi by KT『アハトナハト』/Standard Pack ¥3,000・Full Pack ¥5,000/2026年8月8日(土)発売
Pochi by KTのBOOTHショップはこちら
https://pochibykt.booth.pm/

最新情報はこちらから
公式X:https://x.com/PochibyKT
代表クリエイター天城翠:https://x.com/vr_sui
3Dモデラー高木恭介:https://x.com/kyousuke_takagi

寄稿者紹介

Pochi by KT

バーチャルに住むキャラクターたちと、その服。 — 美しく、どこへでも。 天城翠と高木恭介が運営するバーチャルアバター・衣装ブランド。

投稿者プロフィール

バーチャルライフマガジン編集部
バーチャルライフマガジン編集部