話題のVRゲーム『アルトデウス:BC』をレビュー。長時間プレイでも疲れない良質なSFアドベンチャーだ

ALTDEUS: Beyond Chronos(アルトデウス: ビヨンドクロノス)

2020年12月4日にVRアドベンチャー『アルトデウスBC』がOculus Quest用に発売されました(Steam版が2021年2月18日発売。PSVR版は同年4月15日に発売予定)。

制作サイドがVRChatコミュニティで精力的にファン交流や広報をしていることもあり、タイトルを知っている人も多いでしょう。

また、Oculus Storeではユーザーレビュー最高得点を獲得し、先日3月7日に「ファミ通・電撃ゲームアワード2020」のアドベンチャー部門を受賞する快挙を成し遂げました。

今回、筆者はQuest版でプレイしました。前作『東京クロノス』は未プレイですので、そちらとの比較はできませんのであしからず。

※本記事の情報は公式サイトに載っている程度のものに留めたつもりですが、事前情報なしでプレイしたい方はご注意ください。

※スクショを何枚か上げようと思いましたが、Quest2からのエクスポート方法が分からなかったのでテキストのみでの紹介となります。すみません…

1.酔いにくさと没入感を両立したVRアクションシーン

舞台は2280年の地球。謎の巨大生命体「メテオラ」によって地上は荒廃し、人類は地下都市での生活を余儀なくされていました。

地下都市での生活は窮屈極まりないことが語られています。現実でもコロナ禍で自粛が余儀なくされている私たちとも重なる部分があります。

プレイヤー扮する主人公・クロエたちが住む都市は渋谷を模して作られています。一見、きらびやかで近未来的な渋谷の街。頭上に見えるVケットの看板に思わずニヤリとしてしまいますが、ひとたびARをオフにすれば繁華街は一気に真っ白な虚無に戻ってしまいます。

そんな地下都市に住む人々を守っているのがクロエたち「マキアパイロット」です。クロエたちは400メートル級ロボット「マキア」を駆って、度々地上に現れるメテオラと戦いを繰り広げます。

そしてそのクロエをサポートするのがアーク(人工知能)のノアです。ノアちゃんは戦闘やライブではミステリアスですが、クロエの前ではワガママな子です。
また、マキアのエネルギー源ともなるノアの歌は街の人々にとっても数少ない娯楽となっています。

ロボットアクションは『アーマードコア』のようにビュンビュン飛び回るようなものではなく、『パシフィック・リム』のように重厚感溢れる作風となっています。反射神経を求められる場面は全くありませんので、アクションが苦手な方もご安心を(ただし、わざと無防備でいると被弾しますが)。

ノアのライブパートは固定視点で行われますが、曲の重低音に合わせてコントローラーが振動したり彼女の巨大ホログラムが縦横無尽に駆け巡ったりします。
VRChatで公開されているパーティクルライブのような目まぐるしい視点移動や視界ハックはありませんが、ノアちゃんの歌声と造形美を心ゆくまで堪能できます。

このように、本作のVR演出は激しい演出が控えめになっており、酔いにくいように配慮が行き届いています。余計な要素を削ぎ落とすことで、濃密なストーリーへの没入を後押しするスパイスとして上手く機能しています。
とある場面のロボットアクションでは思わず感極まってしまいました(笑)。

2.VRの映像と音が織りなす未来都市の日常

戦いを終えれば、ラボで戦友たちとの日常が待っています。クロエの戦友たちは非常に個性的。熱血バカなヤマト、冷静で物腰が柔らかいアオバ、マッドサイエンティストのジュリィ、そして荘厳な司令官・テイラー。特徴的な見た目と性格を持つキャラが目白押しですが、それぞれ内に秘めた熱い思いがあり、物語を読み進めるごとに彼らの胸の内を垣間見ることになります

会話に挟まれる選択肢は決断補助AI「リブラ」の提案を選択することになります。会話が若干変わるものからその後の運命を大きく左右するものまで様々です。

本作は音の演出も非常に秀逸です。VRにおける音の重要さは『ミライをつくろう!』でもGOROman氏が語っています(同書の紹介はリンクの拙作記事にて)。
例えば、作中ではたびたび後ろから声をかけられるシーンがあります。「おーい」と後ろから聞こえる演出は3Dサウンドが上手く活きています。そして実際に振り向くと本当にキャラがいた、なんて演出はVRならではのものです。

また、BGMもエモーショナルなものが揃っており、製作者も力を入れたと語っています。
本作のBGMは単なる名シーンとしてではなく、当事者の思い出として強く残ります。
トゥルーエンドクリア後にSpotifyで公開されているサウンドトラックを聞いてみましたが、本当の思い出のように物語の記憶を懐かしんでしまいました。

日常パートには本作の世界に入り込むための演出や気遣いが陰ながら多く盛り込まれていす。この日常パートの下地があってこそ前述のロボッアクションやライブパートが光るのだと思います。

余談ですが、本作はクロエの手を常に動かすことができますが、指のトラッキングにも対応しています。せっかくなのでハンドジェスチャーでロールプレイをしてみるのも一興だと思います。
例えば戸惑ったときは手のひらを見つめたり、怒りに震えるときは拳を握りしめたり……。実際に棒立ちでプレイするよりも当事者感が増し、より作中世界に没入することができました。

3.時を超えて消えた親友と世界の謎を追え

物語の途中で、親友・コーコとの思い出が回想されるシーンが挟まります。コーコはクロエにとって唯一無二の親友で、感情に乏しいデザインドヒューマンであるクロエの人間性を豊かに育みました。

コーコは盲目でか弱い少女ですが、その完成は非常に豊かです。彼女は植物やおとぎ話を通してさまざまな問いをクロエに与えます。
言葉の意味、人間の意識や感情――そういった哲学をクロエの目線でプレイヤーも学ぶことになり、非常に考えさせられます。

幸せなひとときを過ごす二人ですが、その後コーコはメテオラに捕食されてしまいます。クロエはメテオラへの復讐を誓い、現在に至ります。しかし、作中でとある出来事が起きてからクロエはコーコの謎を追って奔走することとなります。

メテオラとは。なぜコーコは食べられたのか。そして自分が生きる意味とは――。

周回プレイをするごとにストーリーが分岐し、これらの謎は明かされて行きます。
時に重要な選択肢を迫られることがありますが、コーコの言葉に耳を傾ければ真相に近づけるはずです。

まあしかし、ネタバレになるのでこの辺はあまり言えないのですが、クロエとコーコの関係はとても尊いです。それだけは言いたかった。

4.まとめ 『アルトデウス』はVRに長期滞在することを重視した上質なゲームだった

Oculus Quest2の発売でVRが浸透し始めましたが、まだまだ体を張ったミニゲーム的な作品が多いのが現状です。昨年3月に発売された『Half Life:Alyx』もフルプライス作品として通常のFPSのようなボリュームを誇りますが、かなり神経と体力を使うゲームで長時間プレイは難しかった記憶があります。

本作『アルトデウスBC』は疲れる場面が少なく、穏やかな気持ちで長時間プレイできました。プレイにのめり込むあまり、うっかりQuest2の電池が切れそうになることが何度かありました。
そういう点では普段VRChatをやっているときと似た気持ちでプレイできたのかもしれません。

ADVは文章が長く、これまで食指が伸びないジャンルでしたが、本作はさまざまな趣向が凝らされており、最後まで飽きずにプレイすることができました。

ADVはある意味アクションよりも世界観を表現しやすいジャンルなのかもしれません。おそらく本作はVRゲームの表現手法として、今後のスタンダードの一つになるでしょう。

VRが初めての方からベテランVRChatterまで幅広く太鼓判を押せる作品です。SF小説が好きな方はもちろん、ADVをあまりやらなかった方にもオススメできます。

5.おまけ ノベライズ版も好評発売中!

本作に出てくるキャラクター・ジュリィを主人公に置いた本作のノベライズ版も現在発売されています(リンク)。こちらはまだ読んでいないので、機会があればどこかでまた紹介しようと思います。

ちなみに、MyDearestのCEO・岸上氏は自身のnoteで「小説はそもそもVRをも超えるほどの没入体験である」と語っていました。非常にわかりみが深い。