
『いのちの未来』は、人間とアンドロイドが共存する社会を描くパビリオン。開催時はロボット工学の第一人者、石黒浩さんがプロデューサーとして参加することで話題を呼びました。
人間とアンドロイドが共存する世界と言えば、ロボット工学三原則を提唱した『われはロボット』や、アニメ化もされた『BEATLESS』といったSF小説でもよく取りあげられる題材です。
超高度に発達した将来では、人とアンドロイドの見分けがつかなくなる可能性もあります。そこまで来て筆者は考えました。
「……その世界って、メタバースの方が早く来ない?」
だって見た目上はすでに見分けがつかないもん。アバターを動かしているのがアンドロイドだったとしても分からないですよね。
世界の最先端、そして未来を見せてくれる万博という場において、人とアンドロイドの共存はどうなるのでしょうか?
そんな問いを胸に、アンドロイドの世界へ飛び込んだのでした。

※本記事はパビリオンの内容や核心部分に関するネタバレが多数含まれています!記事をご覧の際はご注意ください。
目次
アンドロイドのいる世界
『いのちの未来』では50年後の2075年に暮らす祖母と孫のお話が中心に展開されていきます。執筆時点である2025年に20代~30代の方は、この祖母と同じ世代にあたります。50年後は、SFで語られているような技術が一般化し始めている世界。小説の『ハーモニー』で登場した『WatchMe』のような生体管理システムや、アニメの『PSYCHO-PASS』で登場した模様替えシステムに近いものも登場します。



もちろんアンドロイドも普及が始まっており、孫の友達の祖父がアンドロイドに記憶を引き継いだという話も飛び出します。未来の話だ!
アンドロイドと人間って何が違うの?
印象に残ったのは、“アンドロイドネイティブ”な孫が祖母と会話する場面。そこで孫はこう質問します。「アンドロイドと人って何が違うのかなー?」と。
おお、これは難しい問いだ……

祖母は「アンドロイドは機械でしょ。そこが違い」と返しています。つまり物質的な違いで回答を試みたわけです。おそらく、これは多くの方にとってしっくりこない答えでしょう。アンドロイドと人は精神的には同じものになりつつあるが、(現代に生きる我々にとっては)なんとなく違うものだと感じる人が多いのではないでしょうか。
似た命題として「バーチャルとリアル(仮想世界と実世界)」と置き換えても良さそうです。小説『ソードアート・オンライン』では、バーチャルとリアルの違いは情報量だけだという話をしていましたし、アリシゼーション編では、主要キャラクターの中でバーチャル(アンダーワールド)とリアルの区別は無くなっています。残る違いは、互いが生まれ育つ環境が地球か機械か、肉体がどこにあるかといった違いのみ。VRChatを楽しんでいる方の中にも、似た感覚を持つ方はいると思います。
孫にとっては、アンドロイドも人も同じ生命である……という感覚になっているかもしれません。
アンドロイドに記憶を引き継げるとしたら?
アンドロイドに記憶を引き継ぎ、“第二の人生”を生きられるとしたらどうしますか?このパビリオンでは、祖母が選択を迫られます。

寿命を全うしてそのままお墓に入るか、アンドロイドへ記憶を引き継いで孫とともに新たな生活を始めるか……明言はされていませんが、最終的に祖母は後者を選んだように感じました。
筆者にはその選択が意外に思えました。現代の感覚では、前者を選ぶ方が多い気がしたのに加え、ストーリー的にも、前者を選ぶ方がおさまりが良さそうだと思ったからです。
しかし、ここで後者を選択するのが、万博が万博たる意味を考えた結果なのだろうと受け取りました。人類が肉体の制約から解放され、新たな一歩を踏み出した瞬間。色々な問題は出てくるでしょうが、新しい世界が広がっていきます。
そこから10年ぐらい経つと、冒頭で話がでた「アンドロイドと人って何が違うの?」に対するアンサーも出そう……
アンドロイド=アバター。フィジカルでもアバターを活用する未来

そして、アンドロイドの生活が多数展示されているエリアへ向かいます。マツコロイドが「イメチェンしたい」と話しているのも楽しいのですが、手前に座っている親子が「フィジカルアバターは慣れた?」という会話をしている様子が興味をひきました。

フィジカルアバター!この子は遠隔操作のような形で、お出かけしているのでしょうか?
博覧会協会によると、ここはアンドロイドアバターを利用してエベレスト登山をし、麓のカフェでくつろいでいる親子のシーンだそう。登山に参加できなかったもう一人の親がホログラムで写っており、二人と話をしています。そして、男性2人が子供の親という設定。
危険な場所にもアンドロイドアバターで気軽に観光できるようになり、性別関係なく子供を育てるようになっている未来の1シーンです。
「アバターって、リアル to バーチャルじゃなくて、リアル to リアルで使ってもいいんだ!」という驚きがありました。現在我々がアバターを通してVRChatなどを遊んでいるように、アバターを通して、実世界を遊ぶ世界が来るかもしれません。
さらに面白いのが、親の一人は映像で、もう一人の親と子供はアンドロイドでの組み合わせになっていること。付け加えると、このエリアはアンドロイドの数が圧倒的。アンドロイドと人の区別はされていないどころか、状況によってアンドロイドが多数派にも主役にもなりうることが分かりますね。
1000年後、アバターの役割は?
最後に、1000年後の未来へGO!そこに現れるのは3体(人?)のアンドロイド。

RPGのラスボス戦のような雰囲気の中、三位一体となってパフォーマンスを繰り広げます。何かを訴えたり、何かに惹かれたりしているようにも見える3者。


1000年後は人間と機械の境界が無くなり、精神体となった世界。この段階まで科学が発展すると、目的に合わせて自由に体(アバター)を選択することができます。この3者の姿は、コミュニケーションにおいて相手にポジティブな印象を与える姿(普遍的な美の追求)だそう。
その話、なんか聞いたことがあるような……?
いわゆるメタバース界隈では、アバターを好きに選択することができます。特にVRChatやclusterではその傾向が顕著です。これらのサービスではアニメ調のアバターをよく見かけますが、それこそが「相手にポジティブな印象を与える姿」だからだという説もあるとかないとか。考えようによっては、我々は1000年先を生きていると言えるかもしれません。
1000年先を生きている我々が、これからの未来をつかみ取っていくことが出来たら、世界はよりよいものになるのかも!

『いのちの未来』は派手な演出こそないものの、それぞれの展示を見て、感じて、考えて……考えれば考えるほどに味が出る、そんな展示でした。
バーチャル万博やフォートナイトでも『いのちの未来』のコンテンツが楽しめる!
「現地に行きたいけど、とても予約がとれない!」「現地に行ったけどまだまだ『いのちの未来』を楽しみたい!」そんな方にオススメなのがバーチャル万博!
『いのちの未来』バーチャルパビリオンは、バーチャル万博とフォートナイトの両方で展開されています。バーチャル万博エリアでは、祖母と孫の物語で登場した「未来プロダクト」の紹介や窓から見える50年後の街並みを眺めることができます。「未来プロダクト」の設定はリアル展示では語られていないので、これだけでも一見の価値あり!


そして、フォートナイトでは未来の街の市長になって「未来プロダクト」を生み出し、自分だけの50年後の街づくりを体験することができます。


また、フォートナイトエリアのゲームクリア時にもらえるパスワードを使えば、バーチャル万博内にある秘密のエリアへも行けちゃいます。両方ともぜひチェックしてみてくださいね!
参考文献:いのちの未来 2075 人間はロボットになり、ロボットは人間になる (日本経済新聞出版)
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