メタバースを遊ぶ上で欠かせない、プレイヤーの分身とも言えるアバター。
メタバースの盛り上がりと共に、アバターの需要は年々上がっており、現在はメタバース用アバターの制作販売で生計を立てているクリエイターも数多く存在します。
現在のアバター販売は、そのほとんどがBOOTHなどのデジタル通販にて個人販売されています。それゆえに、個人で購入・販売する際に気を付けるべきこと、あらかじめ知っておきたい事もたくさんあるはず。
今回はアバター販売をする上での要(かなめ)となる『規約』について、3Dモデルを中心とした汎用的なデータ配布用の利用規約のテンプレート『VN3ライセンス』を軸にその作成チームの代表者、弁護士、クリエイター陣を交えたお話しを伺いました。
ブーゲンビリアさん(@bougainvillea30)
2020年4月より『Boo Boo Bougainvillea』という名前でVRChat向けの3Dモデルアバター企画販売を行っている。
BOOTH http://avatar.booth.pm
公式アカウント @vr_avatar_3d
出井甫さん(@hajime_idei)
骨董通り法律事務所弁護士、VN3ライセンスのリーガルチェックを担当。専門は知財・エンタメ・人工知能・憲法。
3Dアバターと規約の関係。そもそも規約って作ったほうがいいの?
ーー現在個人での3Dモデル制作が盛んに行われていますが、販売するにあたって規約は作ったほうが良いのでしょうか。
規約はかならずしも“作らなくてはならない”というものではありません。
ですが、おおむね作っておいた方が便利なんです。
そもそもなぜ規約を作るのかというと、後で言った言わないのトラブルを防ぐための物なんです。文章にしておくと後でお互い見返せるよねという理由があります。
ーー同人的な販売だとマンガや小説などがパッと頭に浮かびますが、それらは販売する時、あまり規約を書く事はしないですよね。
なぜ3Dモデル販売だと規約が細かく書かれることが多いのでしょうか。
本やビデオテープなら、使い方ってスゴく限られてるじゃないですか。
でも3Dモデルって何にでも使えちゃうんですよね。
ゲームの素材に組み込んだり、映像作品にしたり、モデルを改変して遊んだり、モデルをもとにして新しい素材を作ったり。
でも販売するみなさん的にはなんでも自由に使っていいかって言ったら、たぶんそうじゃないと思うんですんね。
なので『こういう使い方は良いけど、これはダメだよ』っていうのを予め決めておいた方がいいんです。
私もアバターの販売プロデュースをしてる中で、予想外の使われ方をされたケースがよくありましたから、あらかじめ何に使ってほしいかを明記しておくとお互い安心して取引が出来ますよね。
ーー予想外の使われ方というと、例えばどのような事がありましたか?
例えば販売アバターがアダルトゲームのキャラクターとして使われたという事がありましたね。
私は個人で使う場合には特に使い方に制限はしてないですが、これが商用利用として使われるとややこしいことに発展してしまうケースもあるかと思います。
ーー確かに、アバターのイメージを気にされる方は、どういう使い方を想定して作ったのかを明記しておくとトラブルが防げそうですね。
ファン活動としての創作がオフィシャルイメージと化してしまう傾向は近年よく見られる事なので、著作物がひとり歩きしないように予防線を張っておくのは大切かもしれません。
規約のもつ役割について
ーーところで規約と言うのは本来どのような役割を持っているのでしょうか。
少しむずかしく言うと、規約には2つの役割があります。
1つは購入者と販売者の間で認識をすり合わせるという役割。
もう1つが万が一紛争が起きた時、裁判所で決着をつける時のための資料としての役割。
ただ、多くは前者の認識のすり合わせという意味で使われることが多いです。
そもそも規約の前に著作権法と言うのがありますから、作品を作者に無断でコピーしたり、販売したりする事自体ダメなんですけどね。
ですが人それぞれ、程度の差はあれ認識のズレと言うのがありますから。
ここまではいいだろう、とか、これはあくまでも宣伝なんだ、とか。
その線引きを明確にしていた方がお互い安心して使えますよね。
ーーお互いの認識をあわせるための文章が“規約”なのですね。
同人文化というのはある意味作者の認可の元であったり、黙認の上でグレーゾーンで成り立ってる文化です
ですが、先ほど言った通り、3D作品はマンガや小説など、従来の同人活動とは違い、使用範囲の幅が広い事に加え、まだ社会的な規範が定まっていない新しい同人スタイルなんです。
だから、個人間で認識の共有が統一されていない場合も多くて。
そういった意味でも規約があると親切ですね。
ーー確かに。
共通認識を書面で確認できれば、購入した3D作品のみならず、他作品に対しても汎用的なルールを知ることが出来て、初めてアバターを購入する初心者は特に助かりそうです。
みなさん、作者に怒られるような使い方はしたくないと思うんですよ。
でも規約が全く書かれていないと、購入した人はどんな使い方をしたらいいのか、逐一作者さんに聞かなきゃならないと思うんですね。
そうするとものすごい量の問い合わせが作者さんに来てしまいます。
それってぶっちゃけ困っちゃうじゃないですか。
なので、現状規約を作るメリットとしては、問い合わせの手間を減らすというのが一番大きなメリットかもしれません。
『規約』と言うとなんだか仰々しく感じてしまいますが、書面があるからこそ円満にやり取りができるという面もあると思います。
かんたん規約ジェネレーター『VN3ライセンス』
ーーとはいえ自分でゼロから規約を作るというのはすごく大変ですよね。
そういった点で、3Dモデルを中心としたデータ配布用の利用規約のテンプレート『VN3ライセンス(Virtual Native 3D-Model License)』は多くのクリエイターの助けになっているかと思います。
クリエイターさんはクリエイティブ活動がしたいのであって、規約文を作ることを負担に感じてしまう人が殆どだと思うんですよ。
なのでVN3ライセンスでは自分で文章を考えなくても、質問を選択していけば自動的に規約が制作できるという仕組みにしています。
ユーザーの作業をいかに少なくするか、といった点でVN3ライセンスは優秀ですね。
ポチポチと質問事項への回答を押せば規約が出来上がります。
ーーブーゲンビリアさんもVN3ライセンスを使用して実際にアバター販売を行っていますよね。
はい。私も利用させてもらっています。
VN3ライセンスを使いはじめてから、規約に書いてある事に関しての問い合わせはだいぶ減りました。
文章もなるべくユーザーに沿ったやわらかい文章に表現をしています。
甲(こう)とか乙(おつ)とか書くと、法律に詳しくない人だと混乱しちゃうじゃないですか。
なので、規約の書き方を私たちが一般的に使う日本語になるように翻訳しているんです。
ーーピクトグラムも入れていて、絵としても分かりやすいですよね。
本当はイラストは規約を作る上で必要ないんですが、絵があるだけで文章が読みやすくなりますから(笑)
世界に広がる3Dモデル販売
ーーバーチャルの世界は国境がないので、自分の作った作品を国内だけではなく、様々な国の人に使ってもらうケースが多く発生するかと思います。
VN3ライセンスは英語や韓国語、中国語(繁体・簡体)に対応されていますよね。
はい。VN3ライセンスはもともと日本語・英語に対応していたのですが、今年6月からは韓国語・中国語に対応し始めました。
クリエイターさんは特に感じていらっしゃると思うのですが、日本のアバターって、国外だと韓国や中国ユーザーの方の購入が多いんです。
実際私が販売をプロデュースしているアバターも韓国や台湾の人の購入が多いですね。特に台湾からの購入が多いです。
対比で言うと日本人ユーザーの購入が6割、英語圏、そして台湾、韓国などの隣国の購入が4割くらいです。
ーー4割も!国外の販売の割合は無視できない程大きいですね。
特に日本人向けに作られたアバターってアニメ調のデザインが多いので、文化の近しい韓国や中国のユーザーにも受け入れられやすいのかもしれません。
私はこれを『東アジア カワイイ文化』って勝手に呼んでいます(笑)
東アジアで使われる言語って主に韓国語と中国語なのでVN3ライセンスでも対応しました。
ーーVN3ライセンスのジェネレーターで制作すると、自動で英語や中国・韓国語の規約も一緒に出来上がるのは便利ですね。
国が違うと常識も少し違ってくる部分は必ずあるので、規約があるとトラブルの防止に繋がるのではないかと思います。
そうですね。
あと、外国語の規約を作るメリットとして、ユーザーフレンドリーさをアピールできる点があります。
私たちが何か海外の製品を買う時に、日本語が書いてあったら嬉しいじゃないですか。
ーー確かに、自分たちの国の言葉で説明が書いてあると『私たちも受け入れられているんだ』って気持ちになりますね。そういった意味で、多国語の規約があると自身の作品が購入されるキッカケになったり、国外のファンがつく要素にもなりそうです。
そうですね。規約を作る面倒くささはテクノロジーにゆだねて、クリエイターさんが楽しくクリエイト活動に専念できたり、多く人に作品を認知してもらえるようになる、VN3ライセンスがそういったものの一助になればいいなと思います。
アバター文化というのはまだまだ発展途上のものです。
まだ定義が無いものがたくさんありますから、それによって規約の在り方も変化していくんじゃないかなと。
例えば今はまだアバターってキャラクターの1つという認識が大きいですが、今後アバターと身体ってより切り離せないものになっていくと思うんですよ。
そうした場合、他人が著作権を握るアバターで活動するのは規約でどこまで許諾されるものなのか、または制限されるものなのか…。
アバターを使ってアルバイトをした場合は個人利用なのか法人利用なのか、とか。それからバーチャルの世界は国境がないですから、規約とは直接関係ないかもしれませんが海外で働いた場合、最低賃金はどの国になるのかとか。
VN3ライセンスの在り方も、メタバースの進歩とともに常に最新の価値観を取り入れられたらと思っています。
■VN3ライセンス https://www.vn3.org/index
あしやまひろこさん(@hiroko_TB)
3DCGアニメ会社での法務経験を活かして、3Dモデルを中心とした汎用的なデータ配布用の利用規約のテンプレート『VN3ライセンス』を個人で作成した。現在はチーム体制となりその代表。