『Typeman』は、世界でも高い評価を受けているVR演劇である。
第79回ヴェネチア国際映画祭のクロスリアリティ(XR)部門である「Venice Immersive」にノミネートされ、イタリアの独立系映画評論家が独自に選出するPremio bisato d’oro 2022(プレミオ・ビサト・ ドーロ/金鰻賞)で最優秀短編賞を受賞している。
さらに今回、イギリスの国際映画祭「Raindance Immersive 2022」にノミネートされた。これを機に多くの方が体験できるよう、VRChatで公演が行われた。
『Typeman』は、ノンバーバルな演劇(非言語を中心とする演劇)である。
セリフはなく、演技と、音楽、舞台装置による演出によってすべてが行われる。
VRChatでは舞台になじみがないユーザーも多い。筆者もその一人で、正直に言うと参加の前は少し不安だった。
現実世界の舞台でも不慣れなのに、VRの演劇はどうか?しかもセリフがない?全くの未知数であった。
結論から言うと、完全な杞憂だった。
必要となるVRChatの設定はスタッフが丁寧に案内してくれるし、使用されるギミックも最初に練習をする。ドレスコードもない。ただ行って楽しむ。いつものVRChatそのものだった。
参加者は事前に「手のアバター」に着替えて、一緒に舞台を楽しむことになる。
不思議なことに、何物にも成れるはずのバーチャルな世界であってさえ、まとっていた何かを脱ぎ捨て、一つの「個」として降り立つような気がした。
この着替えるという行為によって、参加者は「舞台を観劇する人」ではなく、「一人の演者」として生まれ変わる事になる。
『Typeman』の幕が上がる。
仮想空間の特性をフルに生かした舞台装置、ライティングの表現もさることながら、演者と参加者をつなぐアイテムギミック、演者のたくみな表現力によって、参加者は一気に場に引きずり込まれる。
新しい演劇の形態とはいえ、これまでのお作法を何もかも壊すような破天荒なものではない。舞台・演出・演者の型に沿ったうえでVRに最適化されている形だ。
最も特徴的なのは、「私」も舞台に立っている事。

ところで、VRの最大の特徴は、装着者を強制的に一人称にするところだと思う。
テレビであればどこか他人事のように物事を見ることも多いだろう。しかし、VRでは物事をより自分事としてとらえる事になる。
『Typeman』のストーリーはまさにそこをついている。
このストーリーは複雑なものではない。むしろ非常に単純で、もし仮にテレビや映画館でみた場合、ともすれば陳腐なものに思えるかもしれない。
一人称として参加することで、まさにTypemanと「私」の関係としてストーリーを捉えることが出来る。その関係に複雑なものがないからこそ、最大限に感情を揺さぶることができる。
Typeman、そして演劇を通してコミュニケーションをとってきた「私」がいて初めて成り立つクライマックス。
様々な感情がかき混ぜられながら進んでいく様は、体験した人にしか味わえない物だったと思う。
残念ながら今回は公演が終わってしまったが、機会があれば是非、参加してみてほしい。
きっと少しだけ、日常が鮮やかになると思うから。
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