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本記事『Vketさんぽ』は、ワールド製作に深く関わった方と一緒にワールドを散策し、まだ世に知られていないVketワールドの魅力を深堀りする記事となっています。
※本記事にはストーリーに関するネタバレやメタ表現、ホラー要素を含む画像が多数登場します。閲覧の際はご注意ください。
異常物体研究所を深堀り!


前回大反響だったホラー要素をたっぷり詰め込んだコンセプトワールドが今回も登場ということで、非常に楽しみにしていました。

実は5年くらい前からホラー系はやりたい気持ちはあって、ずっと企画してたんですがなかなか実現せず……(笑)
『籠岬村』の企画が通った時も、次回できるか分かんないからやりたいこと全部やろう!って気持ちでやってました。
そしてありがたいことに『籠岬村』を本当に多くの方が楽しんでくださったので、今年もホラー系をやろうと『異常物体研究所』の企画が動き出しました。

前回の思い切りがあったからこそ今回の制作に繋がったんですね。
本当に怖かったもんな。


今回、ユーザーさんは研究員としてこの研究所を巡ってもらうんですが「施設の重役」というロールで巡る案もありました。研究員のほうがイメージしやすくロールプレイに没入できるかなと思い、今のストーリーになってます。
ロールプレイと称しましたが、ユーザーさん自身の解釈で研究所を巡ってもらって、ユーザーさんご自身に合った形でストーリーにのめり込んでもらえると嬉しいです。


受付で入館証を受け取るやり取りがあるんですが、アバターの顔写真をコッソリ撮って、自身のアバターの顔写真付き入館証が表示されるギミックを仕込む想定でした。残念ながら実装には間に合わなかったんですけど。
配信を観てたら「入館証もらえないの?」と仰っている方が結構いて、やっぱり欲しいよねって思ってました。


髪色が全然違いますが、巫羅乃(ふらの)ちゃんが出てきて「おや?」と怪しんだユーザーさんも多いでしょう。

ここで閃いた方は鋭い。

ちなみに巫羅乃ちゃんの名前の由来ってなんですか?

市子(いちこ)はVketちゃん1号、新悟(にいご)はVketちゃん2号なんですが、
巫羅乃は「Vけっとちゃん plus+」というVket1号から派生して作られた別のモデルを使っていて、そのplusから着想を得てます。


どんどん地下に潜っていくワールド構造で、下に行くほど凶悪だったり、扱いが難しい異常物体が収容されています。
設定上はちゃんと各階あるんですが、道中を端折ってB4F、B9F、B13Fと不吉な数字でわざと区切ってます。

下に行くほど扉が分厚く部屋も頑丈で仰々しくなるので、自然となんかヤバそうという気持ちになります。

Vketワールドは最初からデザインを一個ずつ決めながら制作してる訳じゃなくて、色んな人の構想やイメージをリアルタイムで取り込んで一気にまとめながら作っています。
ワールドモデラーのじぷしさんが「危険な異常物体を収容してるんだから、造りも堅牢になるよね」と連想しながら制作してくれています。
扉ひとつにもちゃんと意匠が込められているんですよ。


篭のロゴマークをみた瞬間、色々察してしまいました。

新しくVketに来てくださった方はもちろん、過去のVketを知ってくださっている方にも楽しんでほしいので、こういった仕掛けはたくさん盛り込んでいます。


コモールHを提供している「ヒックス製薬」なんですが、
実はVket2023 Summerのワールド『境界線のハイロシティ』に登場する企業と同じ名前です。



ヒーロー側とヴィラン側それぞれを支援していたあの企業!
気づかなかった!!


ポスターにも重要な要素が盛り込まれています。
ポスターの元号が平成になってますよね。
ここの研究所は、2000年~2005年くらいの平成初期の時間軸をイメージしていて、籠岬村は1980年辺り。
つまり、あの出来事から20年近く経過しているというのが読み取れます。

20年……

なのに、巫羅乃ちゃんの見た目は当時から全く変わってないっていう。

隠し部屋のファイルにも巫羅乃の見た目について言及がありました。
考察noteでもポスターの元号に気付いている人がたくさんいたので、皆さん本当によく調べてますよね。

異常物体研究所には絶対に巫羅乃ちゃんを出演させたいと思っていました。
籠岬村の反響を受け「これはイケる!」と確信してからアイデアがブワーっと湧いて、ホラー企画が現段階で5つくらいあるんです。

籠岬村レベルの企画が既に5つもあるんですか(笑)

いつお披露目になるか分かりませんが、
新悟の話はここで出したいな〜とか色々考えてますよ!
さらに下層へ


一気に雰囲気が変わります。
下に行く毎に物々しくSFチックにしてくれとオーダーしました。

左右の巨人のような人型はなんですか?
中心にいる異常物体とどういった関係なんですか?

おこもりさまです。
モデルも籠岬村に登場したものと同じです。

顔も隠れてるし腕の本数も籠岬村で観た時より少ないから分からなかった。


コンセプトアートにこの異常物体と能力が既に描かれていて「それいいね」と思ってストーリーに組み込みました。
発現した能力からも分かりますが、高僧がイメージ元になっているそうです。

人の形からは大きく外れた容姿なのに座禅を組んだ姿に見える
絶妙なデザインが秀逸。本当に好き。

Vketのワールドって半年くらいでゴリゴリっと作るんですよ。
ワールド制作着手前の企画初期段階でコンセプトアートを発注する事も多々あって、コンセプトアートから着想を得てワールドの内容にフィードバックする事も結構多いです。


ここ登れるのってなにか意味あるんですか?

じぷしさんの遊び心ですね(笑)

「みんなここ登りたいだろうな~」って思って入れてくれたんだ。

ここに限らず、コンセプトワールドは私も把握していないたくさんの遊び心に溢れていて、Vketが開催してから初めて存在を知ったギミック等もあります。
出展者さんのブースも非常に手が込んでいるので私もワクワクしながら制作していました。
カワイイ見た目のアバターだけど下層にあるブースってことは、実はめっちゃ危険なのか?とか、色々考えちゃいます。

「みんな『丸太は持ったか?行くぞ!』って言いたいでしょ?」とのことです。
B13Fへ


B13Fなんですが、旧日本軍が使用していた場所を一部利用しているという設定があります。旧日本軍が呪術などを研究していたというのは有名なお話ですが、その研究を引き継いでいるかもしれないですね。
この研究所はΩ龍穴支部と呼ばれていて、建物の真下には「龍脈」と呼ばれる不思議なエネルギーが流れています。


そしてこの大穴が「龍穴」で、龍脈のエネルギーが地下から噴き出しています。
当初は分かりやすく光みたいなので表現する予定だったんですが、色んな兼ね合いで実装には至りませんでした。

ここまでして異常物体を管理する理由はなんですか?

人間の力だけで異常物体を制御できているわけじゃなくて、龍脈から溢れる未知のエネルギーが異常物体を大人しくさせています。
異常物体は人知を超えた存在。
一か所でまとめて管理するリスクも当然あるんですが、リスクを冒してでもここに集めておくことが重要なんです。
ホラーパートもしっかり深堀り!


いよいよホラーパートですね!
籠岬村よりは怖くないんじゃないかな。

あそこと比べちゃダメでしょ!


この矢印って導線以外に意味はあるんですか?

導線の役割を担っていますが、この矢印が見える=仮称Aからの精神干渉を受けているという設定です。
仮称Aが我々を誘導しているということですね。


これは仮称Aとは別の異常物体の影響です。
「色んな異常物体が一斉に解き放たれてしまった」の方が楽しくないですか?

見る分には楽しいです。研究員としては最悪ですが。


『No.261 「あるいは沼地のもの」』の収容エリアです。
奥のファイルを取りに行こうと近づくじゃないですか。


すると、カプセル内からドンドンと叩く音が聞こえます。

とてもcoolな演出だと思いました。
内側から叩いているのは巻き込まれた研究員?

そこはユーザーさんの解釈に委ねています。
もしかしたら研究員以外の別の何か、かもしれませんね。


ここで「仮称Aは光に弱い」ということが判明します。

僕は研究員を守りたくて必死にライトを探したのに、ライトを消さないとダメだと分かった時は絶望しました!
これも仮称Aに誘導されているからなんですか?

ストーリー的に仮称Aに誘導されているとやんわり解釈できるようにしていますが、自分の心が痛んだり、自分の意思と相反していると感じるのも1つの解釈だと考えています。
実際にこの場所に来て自分はどう感じるのか?
それも含めて「ユーザー体験」だと思うので。


ライトを消した後に「ありがとう」の文字が浮かびますが、これは仮称Aが言ってるんですか?

その認識も間違いではないですが、仮称Aは、日の当たる場所に出られない人達に『日陰者の救世主』として信奉されていた神様のような存在という設定があります。
ライトを消し日陰者に当たっていた光を失くしたので、中に取り込まれていた日陰者たちの思念からの感謝という見方もできるかと。

なるほど!
あえて明確化していない余白が随所にあって、様々な解釈ができるようになっているんですね。

「ありがとう」の後に笑い声が聞こえてくるんですが、これは光が消えたことによる安堵や安寧からくる笑い声です。
なので、一部の研究員は笑ってます。


……え?

彼らも最期は幸せだったんじゃないかな~?(笑)

(絶句)



初めてこのエリアに来た時、心が震えました。

『No.382 「促進成仏」』のクライマックスですね。
ここも色んな人のアイデアを聞きながら同時進行で制作しました。


ムカイ君がこんな姿に……

ストーリーの初期段階から犠牲になる同僚は絶対必要だと思ってました。

正直、ムカイ君に会った瞬間から薄々そんなキャラな気はしていました。


橋を渡るとうめき声がするのが最悪すぎて最高。

「橋を渡る際にうめき声を入れるか否か」で何度も議論しましたね。
アツい議論の末、やはり入れようと。

うめき声の議論。参加したかった。


左右のおこもりさまってどこに行ったんですか?

それはまだ言えません!
いよいよ仮称Aとご対面


ここで仮称Aがユーザーの中に入り込み、文字通りひとつになります。

傍から見ればユーザーは重大な収容災害から必死に逃げているんだけど、実際やってることは仮称Aを開放してしまう激ヤバ行為なんだよな……


外はもう夕暮れです。

あ、光に弱い仮称Aでも外に出られる時間帯だ。

そういうことです。

記憶処理を施される。


休憩スペースに帰ってきました。

廊下で倒れていたサハラは対異物機動部隊に保護され、無事現場に復帰しています。
ですが、インシデントとムカイ君の記憶はキレイに処理されてますね。

ユーザーがムカイ君のことを尋ねているってことは記憶処理が全く作用していないし、仮称Aはまだユーザーの中にいる……。


ここのセリフは僕が考えました!

マジでもう本当にさ~~~~~~~~~


ちょっと可愛くみえるように顔写真をレタッチしてます。

これも巫羅乃の好待遇に含まれてたら面白いな。
隠し部屋へ


すいません。ストーリーに全く関係ないんですが言わせてください。
狭い部屋に情報詰め込み過ぎです。

報告書を大量に置きたかったのと巫羅乃のネタバレも入れたくて、とりあえずいっぱい書いたらこうなっちゃいました。
報告書の配置場所はワールドがある程度完成した後、実際に巡り僕が指示するんですが、部屋の広さを知らなくて、「じゃあ詰め込むか……」って(笑)

もっと大きな画像サイズでラフ画が見たいです(泣)
隠し部屋といえば


隠し部屋といえばブース裏にあったエリア。
丸太や新しい設定資料などでしたが、企画段階で「ここに入れよう」と決まってたんですか?

実はじぷしさんが僕たちに内緒で作ってました(笑)

内緒で?!

僕が書いた設定をじぷしさんがめちゃくちゃ読み込んで、こうやってひっそりと差し込んでくるんです(笑)

Vketの制作ってこういう化学反応が面白いんですよ。
全部が会議で予め決まってるんじゃなくて、湧き出るアイデアやクリエイティブをお互いにぶつけあうのがスゴく楽しいです。
さいごに

最後に林さんから一言お願いします。


毎回非常に楽しく制作させていただいて、その楽しさが端々でお伝えできればと思って色々仕込んでいます。
ストーリーの考察や設定を読み解くという側面でも楽しめるVketであろうと思っているので、これからも楽しみにしていてください!

たくさんお話いただきありがとうございました!!
過去のVketさんぽはコチラ
投稿者プロフィール

林啓太(@keita_hayashi)
イラストレーター・ゲームデザイナー・ライター。 VR法人HIKKY所属。バーチャルマーケット世界観、ストーリー制作、体験設計。