『VRChat』のイベント会場内で入力が完結するアンケートギミックのメリットとは?ギミックを設置した『私立VRC学園』と開発団体の『VCAP』に聞きました。

さる9月に行われた『VRChat』内イベント『私立VRC学園』の会場ワールドに、会場ワールド内で入力が完結するアンケートギミックが設置されていました。

これは『VRC Connections API Project』(VCAP)がAPI(※)の技術を用いて『私立VRC学園』に提供したものです。

※API:『Application Programming Interface』の略で、サービスに入力と出力の窓口をつくり、データのやり取りが出来るようにする機能。

今回紹介するギミックにおいては『各プレイヤーのワールド内でのアンケート入力データを(集計のために)外部のデータベースと接続する』働きを行っています。

このギミックの特徴は?イベント会場のワールド内にアンケートを設置するメリットとは?そういった疑問についてVCAP』と『私立VRC学園』の双方の関係者にお話を伺ってきました。よろしければ最後までご覧ください!

『VRC Connections API Project』(VCAP)とは

『VRChat上のワールド/インスタンス』が『他のワールド/インスタンス』および『インターネット上のあらゆるサービス』と接続できる環境をサービスとして提供することを目指すプロジェクト(任意団体)。

VCAPは2023年夏以降の『バーチャルマーケット(Vket)』においても、アンケートギミックの他「ChatGPTとの連携」「投票システム」「インスタンスや時間をまたいでメッセージが残るシステム」といった様々なギミックの提供を行っています。

公式X(Twitter)アカウント:https://x.com/VCApi_Proj

『私立VRC学園』とは

新たにVRChatを訪れた初心者をはじめとする生徒が、1クラス15人程度の教室と2週間の学生生活の中で学び・交流し・深め合う、学園空間型コミュニティ体験イベント。

2020年以降継続的に開催されており、2024年9月~10月に第16期の講義が行われました。

公式X(Twitter)アカウント:https://x.com/VRC_HighSchool

公式ホームページ:https://sites.google.com/view/vrchighschool/

アンケートギミックはどのように動く?

今回、筆者らは『私立VRC学園』の講義会場となったワールドに招かれ、実際にギミックを体験することが出来ました。その時の様子をご覧ください。

このように選択肢を選ぶ形で回答を行っていきます。

アンケ―トギミックはワールド内同期が行われない『ローカル』で動作しており、会場に居るユーザーが同時に別々の回答を入力することが可能です。

質問は全7問。7問目は『講義固有の質問』としてギミック内では具体的な質問文や選択肢は設けず、講義ごとに異なる内容のアンケートが行える仕組みになっていました。

ちなみに上部に見えるロゴにある『VCAPI』はサービス名称である『VRC Connections API』の略称です。提供団体の略称(VCAP)と微妙に違うのはそのため。

最後に『送信』ボタンを押してアンケート送信完了。

このように、VRのイベント会場から移動することなく全てのアンケートに答えることが出来るギミックとなっていました。

『ワールド内で入力が完結するアンケートギミック』を採用するメリットとは?

このような『ワールド内で入力が完結するアンケートギミック』をイベント会場に設置したことでどのような効果があったのか。ギミックを提供した『VCAP』と実際に運用を行った『私立VRC学園』の関係者にお話を伺ってきました。

ギミックの体験と同じく、『私立VRC学園』のイベント会場でお話を伺いました

アンケート回答のしやすさによって、より様々なユーザーの意見が見えるように!

しゅば(Shubar)さん(VCAP営業・広報担当) 

『VRChat』の中でアンケートを取ることは難しく、基本的には外部のサイトに移動してもらって回答していただくことになります。そうなった場合、結構熱めのフィードバックが送られては来るんですけど、『こんな感じだったかな』みたいな、ちょっとした意見はなかなか集められないところがあるんです。

Harukaさん(VCAP代表)

「ここにいる人の中で、(イベントに関する)紙とかWebブラウザでのアンケートに答えた事のある人って居ますか?そんなに居ないですよね?」って話なんですよね。

実際、(今回と同様のワールド内で完結するアンケートギミックを採用した)イベントでは回答数がWebアンケートの大体50倍ぐらい。そこまでデータが集まると『どれが人気だったか』とか『どういうところが良かったか』といった傾向も見えてくると思います。

導入のしやすさや実際の運用、使い勝手は?

ebigunsoさん(私立VRC学園 学園長)

導入に関して言うと、アンケートギミックは基本的にもうプレハブ(※)の状態でいただいていて、ワールドに設置したあとにギミックを追加でちょっと組むぐらいだったのでそんなに大変ではなかったです。

プレハブ(Prefab):ゲームエンジン『Unity』における、ゲームオブジェクトの設計図・テンプレートのようなもの。

ギミックのプレハブをワールド内に設置することで、ワールド製作者が自分でギミックを最初から作る手間を省くことが出来ます。

VCAPの皆さんが大変なところを全部やっていただいたという感じでして、本当にありがたいと思っています。

楪 シオンさん(私立VRC学園運営スタッフ)

今回は急遽ギミックの設置が決まったこともあり、データとして送られてきたアンケート結果をこちらで集計して講師の皆さんにフィードバックとして配布するという運用になりました。

回答数については、以前Googleフォームでアンケートを行った時より増えています。やはり講義直後の熱量があるうちに回答が出来るという意味で、さきほど話が出たイベントの時と同じようなことが起こったのだと思います。

「講師へのフィードバック」自体がまだ確立したものではなく、前回行ったWeb上でのアンケート同様に今回のギミックを使ったアンケートも試験的に行っています。なので「今回何かが劇的に変わった」という事はないのですが、前回と比べて生徒の皆さんの回答率が高いデータを講師の方に提供することは出来ました。

アリーズさん(私立VRC学園 第16期生徒)

使ってみて「すごく簡単だな」と感じました。会場で(最大)6択ぐらいの選択肢を選ぶだけだったので。

Googleフォームを自分たちが使う事を想像すると、ちょっと回答を後回しにしてしまったり忘れてしまったりしたと思うんですよね。そういう意味で『講義の最後5分ぐらいを使って教室内で回答する』という今回のアンケート形式はすごくやりやすかったです。

れもんきつね(LemonKitune)さん(私立VRC学園 第16期生徒)

普段何かアンケートを受けるときってイベントが終わった後に自宅に戻った後で回答することになると思うんですけど、会場で感じた熱量みたいなものをアンケートに反映するって割と難しいというか、回答する時には忘れてしまうことが多いんですね。

今回のようにすぐ回答ができるっていう、授業を受けて「すごいな」みたいに感動している中でアンケートを記入することが出来たというのが、Webで回答するアンケートとの違いなのかなって思いました。

ミスタージンジャーさん(私立VRC学園 第16期生徒)

僕はQuest単機で学園生活をずっと過ごしてて今もそう(Quest単機)なんですけど、仮に授業終わった後すぐにアンケートを答える事になった時に、もしGoogleフォームのようなWeb上で回答する必要のあるものだったら一度Questを外してパソコンかスマホで答えなきゃいけない事になるんです。その時にフレンドや先生が大事な話をしていたとしてもそれを聞き逃してしまう。Quest内でもWebブラウザは使えるんですけど正直使い勝手が良くはないので、そういう自分にとってはこういうシステムが導入されているのはかなり良かったように思います。

ミスタージンジャーさんのように『Quest単機で私立VRC学園に参加していた生徒』は全体の1割を切る程度ではあるが参加しているとのことです。

また、VCAP代表のHarukaさんの説明によると、「アンケート回答におけるデータ通信量は少なく、またギミックが設置ワールドに掛ける負担も少ないため(PC接続に比べマシンパワーが劣る)Quest単機のユーザーでも問題なくギミックを操作できる」とのことでした。

Harukaさん

運用の話で補足なんですけども、私どもの中には『データサイエンティスト』のような、データを扱ったりアンケート内容の設計などもできるようなメンバーも在籍しています。

今回は期間も限られていたので運用面はVRC学園さんにお任せする形になりましたが、 今後はアンケートの設問内容や数、アンケートの設計といった諸々についてアドバイスするようなことも積極的にやっていきたいですね。もちろん私どもも有志団体なので、リソースが限られているの中での「出来る限りで」という形にはなりますけども。

インタビューを終えて

今回『私立VRC学園』が採用した『ワールド内で入力が完結するアンケートギミック』は、イベント終了時に会場に居ながらアンケートに回答できることでより幅広い参加者のイベント参加時の声を集めることを可能とするシステムでした。

アンケートギミックの有用性もさることながら、ギミックを開発・運営しているVCAPのスタッフの話からは、VCAPが単に技術を開発するだけではなく「開発した技術をどのように運用していくか」「『VRChat』をさらに発展させるためにはどのような技術が必要か」という視点を持った専門家集団として活動していると感じ、印象的でした。

今後もVCAPは個人や任意団体向けに技術開発・提供を行っていくとのこと(法人向けの案件については法人格の別団体が対応しています)。今後の活動も要注目です。

投稿者プロフィール

きっどえー_ kidA_jp
きっどえー_ kidA_jp
VRの世界に生きる「少年A」……なつもりの人。