en129、あしやまひろこ(連絡先:あしやまひろこ)は、「VRChatイベントカレンダー」に掲載され、その集合写真がX(Twitter)に掲載された、日本語話者向けイベント100件の集合写真に映り込んだ2,017人のアバターを分析する方法で、VRChatにおけるアバターの使用率の傾向や、属性毎の関係性などについて調査しました。本調査は2023年12月9日~10日に開催された「バーチャル学会2023」2日目のポスターセッションにて発表が行われました。
目次
調査の概要
本調査ではウェブサイト「VRChatイベントカレンダー」(https://vrceve.com/)に掲載されている主に日本語話者向けのイベントのうち、X(旧Twitter)に集合写真(図1)が掲載されているイベントをランダムに抽出して、その集合写真に写り込んでいるアバターをカウントしました。
サンプルは、2023年9月2日から9月8日の間の開催として掲載された426件のイベント(複数回開催される同名のイベントも含まれる)のうち、イベント名をX(旧Twitter)で検索し、集合写真がアップロードされていた236件のイベントから、同じ製品や同じ作者のアバターが集まる目的のイベント、日本語話者が占める割合が少ないことが予測される国際交流イベント、複数回開催されている同名のイベントのうち任意の1日以外を除外し、そこからランダムに100イベントを抽出し、その集合写真に写り込んでいたアバター2,017件としました(ただし重複除外の過程でミスがあり、98の異なる名称のイベントと2の同名のイベントとなったものの、全体に占める割合は軽微であるため問題はないと考えられます)。
アバターの分類はen129が主観で行い、性別は「男性」「女性」「性別不明」と分類し、種族を「人間」「亜人間」「ケモ」「その他」と分類しました。
「人間」は人の形をしており、有機的な付属物(ケモ耳など)が付属していないものとし、「亜人間」は人の形をしており、有機的な付属物が人体に付属しているものとし、またそれぞれはケモでないものとしました(肌の色や無機的・機械的な付属物は無視しています)。「ケモ」はイラスト「ケモ度の階段をのぼろう!!」(図2)において、2段階から4段階に相当するものとしました。
また、亜人間、ケモに関して、それらの付属物を「ケモ耳」「ツノ」「エルフ耳」「尻尾」「羽」「その他」「なし」に分類しました。付属物が複数ある場合は、en129の主観により印象の強いものを採用することとしました。なお、性別および種族の分類に関して、アバターどうしが被っていたり、不具合等で適切にアバターが表示されていないものなど、分類を判断できないものは「判断不能」としてカウントしました。
本調査の全体は「バーチャル学会2023発表概要集」に掲載される予定ですが、掲載予定の原稿(論文)についてはあしやまひろこのreserchmapにもプレプリントとして全文掲載しています。
あしやまひろこ(五十嵐大悟)reserchmap プレプリント掲載先 https://researchmap.jp/igarashidaigo/misc/44160773
調査における発見と考察
調査結果から以下の観点が発見されました。
1.「ケモノ」アバターは他の種類のアバターと異なり、イベント規模に関係なく常に一定の人数しか参加していない
アバターの種族と規模に関して、相関係数(表10)および散布図(図3、図4)を分析すると、「ケモノ」以外のアバターについてはイベント規模が増えると参加アバター数が増える傾向がありましたが、「ケモノ」にはその傾向がなく、はずれ値を除くと、おおむね常に一定数(1~3人(匹)程度)しかイベントには参加していないことが分かりました。
このようなデータとなる理由についてあしやまひろこは、ケモノ系イベントである「KemoCafe」参加者を中心に、ケモノユーザー複数人にヒアリングをしました。ケモノユーザーからは次のような意見が見られました。
- ケモノアバターしか持っていない人も多い。
- ケモノの世界に来たくてVRChatをやり始め、ケモノアバターを自分自身の姿であると認識している人も多い。
- ケモノに興味があるのであって、人間(や亜人間)のアバターに興味があるわけではない。なので、人間主催のイベントについてもあまり興味がない可能性がある。
- ケモノユーザーは「VRChat」イベントカレンダーをあまり利用していない。イベントの告知も他のケモノ系イベントで告知したりTwitterで告知するだけのことが少なくない。
- ケモノユーザーは表に出たがるようなタイプは多くはないので、大規模なイベントには行かないのではないか。
- 一般のイベントにいる「ケモノ」はケモナーではなく、普通の人がファッションで「ケモノ」を利用している可能性もある。
上記の意見から考察すると、ケモノユーザーであるケモナーは、自分のなりたい姿がより明確で、かつ同じケモノとの交流を望んでいると考えられます。また、あまり公に露出することを望まないユーザーも少なくないようです。そのため、ケモノ以外のイベントに行く理由があまりないものと考えられます。人数が一定となる理由は、規模が大きくなると絶対数が増加する側面と、規模が大きくなるとそれだけ表に露出したりする傾向や、ケモノから見ればあまり興味の対象とならない人間族のアバターが増えることでの参加意欲の低減が起き、それが釣り合って常に一定数となっている可能性があります。また、あしやまひろこが別途調査したところ、美少女アバターユーザーは強い意志を持って美少女アバターを使っている傾向は強くないものの、ケモノユーザーはある程度強い意志をもって利用している傾向がある可能性が示唆されました。これについて、ケモノユーザーに対して、美少女アバターユーザーがあまり強い意志を持っていないらしいことを伝えると、意外であるとの反応が数多く見受けられました。
2.Questユーザーの方が「男性」や「ケモノ」が多い可能性がある
PCVR限定のイベントとQuest対応のイベントにおけるアバター構成(表7、表8)を参照すると、Quest対応の方が「男性」および「ケモノ」である比率が高い結果がでました。これはQuestユーザーの方が「男性」「ケモノ」であることが高い可能性を示唆します。
Quest対応の方がケモノが多い理由は、パブリックアバターやフォールバックアバターには、ケモノアバターが少なくないことが要因である可能性があります。
3.イベントにおける男性・女性のアバター数の間に相関関係がない
イベントに参加している性別別のアバター数に関する相関係数(表9)を参照すると、「男性」と「女性」の間には相関が見られませんでした。これは、男性のアバター数が増えても女性のアバター数が増えないこと、女性のアバターが増えても男性のアバターが増えないことを意味します。
なお、男女比で見ると(表11)、男性の比率が増えれば女性の比率が下がりますが、これは常識的に考えれば当たり前の結果ではあります。
4.(参考)サンプルに占める性別・種族の全体に占める割合
調査サンプルにおける性別・種族の組み合わせは[表3]の通りです。
これはあくまでも、「VRChatイベントカレンダー」に登録され、かつTwitter(X)に集合写真が掲載されているイベントを調査した結果となります。
このデータはVRChatやソーシャルVR全体がこの値とイコールではないことには注意が必要です。
ここから「ケモノ」においては男性の比率が高く、[男性]においては人間の比率が高いことが分かりました。
調査全体に対する考察
本調査はウェブに掲載された「集合写真」を一定の法則に従って分析することで実施されました。従来のソーシャルSNSに関する調査の多くは、SNSやウェブサイトでアンケートを募集する方法が主であり、アンケート実施者の人間関係に依存してデータが偏る可能性があり、また設問によっては回答者が離脱したりしてどれだけ正確なアンケートであるのかを考察することが難しい側面がありました。それに対して、今回の調査手法では人間関係等に起因する偏りや、アンケート回答者の回答する/しないといった側面に左右することなく、より客観的な方法でアバター利用の傾向を分析することが可能であると考えられます。そのため、従来のSNS等を利用したアンケート調査と、本調査のような公開データの分析を併用したり、相互比較することによって、より科学的なソーシャルVRに関する調査が実現するものであると考えられます。
本件に関するお問い合わせ先
担当: あしやまひろこ
メール: hirokoas@gmail.com X(Twitter): @hiroko_TB
■本プレスリリースに掲載した画像やサンプルデータは下記のプレプリントより引用しています。リンク先から概要(論文)のpdfがダウンロード可能です。https://researchmap.jp/igarashidaigo/misc/44160773
■本研究に関するツイート(ポスト)は400RT(リポスト)以上されています。
https://twitter.com/hiroko_TB/status/1730279806439399800
■本プレスリリースのGoogleDoc版は下記から参照可能です。https://docs.google.com/document/d/1UozuBz-VXWg4O8ozEmkj0S_q86xg6d7cbwH4TUFSWvM/edit?usp=sharing
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アバターの分類及びローデータ作成担当
en129
本職は組み込み電子機器エンジニア。
調査計画の策定・立案、データ分析・考察、執筆担当
あしやまひろこ
テクノコスプレ研究会主宰
埼玉大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程
※調査全体の統括や分析はあしやまひろこが担当したが、ローデータ作成に多くの時間を要しており、作業時間の多さに応じてen129を筆頭著者とした。また、著者ではないものの、スクラ氏はVRChatイベントカレンダーに掲載されたイベントに関するX(Twitter)への投稿を確認し、画像を収集し、本研究に貢献した。