フィギュア、プラモデルメーカーとして有名な『コトブキヤ』
近年ではアバター展示即売会の『バーチャルマーケット』や『cluster大加速祭』、VRショッピングモールのGugenka『XR SHOP WORLD』にバーチャルショップを出店するなど、新たにアバター販売事業を展開しています。
コトブキヤが手掛けるアバター販売構想、そして『VRを取り巻く、生活している人のためになるような活動を続けたい』というコトブキヤの思いを株式会社壽屋経営企画室の飯嶋さんに伺いました。
目次
裏方だった『3Dモデル』が主役になる時代
人気アニメのフィギュアのみならず、『フレームアームズ・ガール』や『メガミデバイス』など、カスタム性の高いオリジナルプラモデルをプロデュースしている事で多くのファンに愛されているコトブキヤ。
2020年12月より新たな取り組みとして、3DCGのデータブランド『アバターちゃん』シリーズを展開しています。
3Dデータが素材だった時代から“データそのもの”に価値がある世界に
フィギュアは3Dソフトを使って製作しますが、そこで作られる3Dデータはあくまでもフィギュアという製品を作るための素材でしかありませんでした。
製品にするときにはもう3Dデータは使わない…
しかし、3Dモデル制作はそれ単体で1つのクリエイト作品と言えます。
『これまでは3Dデータそのものには価値が無かった時代が続いていた』とコトブキヤ飯嶋さんは語っています。
ところが、2017年末に『キズナアイ』さんや『ねこます』さんを筆頭にしたVtuberの文化がワッと盛り上がったことで市場は一変。
3Dの姿で自分を表現する新たな価値観が世間に浸透していきました。
更にVR法人HIKKYが手掛ける3D展示即売会『バーチャルマーケット』などによりアバター文化が根付いたことから、今ではアバターは身体や衣服といった生活において必要なものへと認識が変化しています。
こうしたことを背景として、コトブキヤはかねてから構想していたデジタル領域での事業展開、3Dモデルデータ販売を開始したそうです。
クリエイターと一緒に文化を育んでいきたい。コトブキヤの想い。
VRのアバター文化はユーザーが作ってきたもの。
コトブキヤが持つ3Dモデルの技術もあくまでフィギュアデータとしてのものであり『VR SNS用のアバターを作る知見・洞察力はVR空間で遊ぶユーザーが一番知っている』と飯嶋さんは述べています。
こうした想いから、コトブキヤはクリエイターとメーカーがお互いに良い関係を築けるような施策を企画しているそうです。
その走りとして取り組まれている企画が『VRアバタークリエイターとのコラボ企画』。
第1弾として、『あずき』『右近』など、多くのユーザーから愛されるアバターを製作する3Dモデラー、キツネツキ(@_kitsune_tsuki_)さんが、コトブキヤのアバターを監修してリファインするという企画が行われています。
VRユーザーだからこそ気づける細かいニーズ
この企画ではキツネツキさんのアバター『あずき』を基に、『店員ちゃん』のマテリアルとテクスチャの一部を調整したリファインモデルがリリースされました。
アバターの形は同じですが、色の出し方をVR用に調整した特別なモデル。
暗い場所で見るとより特徴が顕著に分かります。目や服の一部など、いくつかのパーツにエミッションが入っており光るようになっています。
『最近の販売アバターで上位のアバターはエミッションで目が光ったりするものが多いんです。VRで遊ぶ時は暗いところで遊ぶことも多いですから、光ると映えるんですね。
特にアバターを改変して遊んでいる人は、服の一部を光らせたり、点滅させたりして映えるようにカスタマイズしている人が多いんです。』
と語るキツネツキさん。
こうしたユーザーの細かいニーズに気づくことが出来るのは、VRSNSに根差した創作をしているキツネツキさんだからこそ。
通常、フィギュアの感覚から言うと“モデルが光る”という事は基本的に考慮しない点ですが、こうした点はVRで活発に活動しているクリエイターでないと分からない部分です。
現在のVR SNSアバターに求められているものとは
現在コトブキヤ販売されているオリジナルアバターは3体。
『店員ちゃん』『監督ちゃん』『占い師ちゃん』
これらにクリエイターの力を借り、マイナーチェンジを重ね、ユーザーが自分流にアバターをカスタムできるようにする事がコトブキヤの現在の目標だと飯嶋さんは述べています。
マイナーチェンジ版を細かく打ち出していくプランも、3Dモデル販売を行ってきたうえで気付き得た部分なのだそう。
『アバターを改造できる人はこちらが手ほどきをしなくとも自分でどんどんオリジナルな改変をしていく傾向があります。
ですが、アバターの改変はハードルが高いのが実態です。
これからやるべきことは色違いを何色も出すとか、同じアバターなんだけど少しパーツが違うバリエーションを出すことで、好きなのを選べる、そこから楽しさを感じられるようにするという取り組みだと考えています。』
アバターデータもプラットフォームごとにすぐアップロードできるよう、細かな配慮がなされています。
例えばVR SNS『cluster』ではfbxデータを一度VRMデータに変換してアップロードする必要があります。ですが、『アバターちゃん』シリーズのアバターはVRMモデルパッケージが販売されているため、購入した後すぐに導入することが可能です。
また、アバターをVR SNSにアップロードするのが初めてだという人でも安心。導入や改変を手助けする動画が用意されており、こうした細かなサポートが充実しているのは企業販売の長所です。
購入するユーザーとして安心なことはもちろん、クリエイターとしても製作・監修したモデルのユーザーサポート業を企業に任せられる、クリエイター・企業・ユーザーの三者にメリットのある形態がコトブキヤプロデュースの『アバターちゃん』シリーズの強みと言えるでしょう。
今後は『店員ちゃん』だけでなく、既にリリースされているコトブキヤオリジナルアバターもキツネツキさんの監修のもと、マテリアルをリファインしたモデルを発表していく方針だそうです。
年内には他にもコトブキヤオリジナルの新作アバターをリリースしていく計画が予定されています。
今後のリリースについても出来るだけ多くVRで活動するクリエイターとコラボレーションしていきたいと飯嶋さんは語ります。
アバターちゃん クリエイターコラボシリーズ vol.1
店員ちゃん✕キツネツキコラボ
企画・開発:コトブキヤ
アバターデザイン:さいとうなおき
マテリアル監修:キツネツキ
マテリアル調整:MUGENUP 木下洋輔
テクスチャー製作:岡本恵
https://www.kotobukiya.co.jp/product/product-0000004286/
ユーザーとともに歩む『コトブキヤ』のアバター事業
今回コトブキヤにお話を伺った中で、終始一貫して感じられたのは『ユーザーの気持ちをとことん汲んで共存していこう』というユーザーファーストな精神でした。
VR SNSの文化は年々盛り上がりを見せていますが、世間的にはまだまだ走り出したばかりの若いカルチャーと言えます。
そうした中、ユーザーが育て上げてきた文化を壊さないよう、一緒に界隈を盛り上げていくというビジョンを持った会社はユーザー視点から見ても非常に嬉しい存在です。
『店員ちゃん』をリリースする前にはβテストとして20人以上のユーザーにアバターのバグの洗い出しを協力してもらった他、2020年8月に行ったアバターに関するアンケートではユーザーから総数25万字以上もの意見を貰い、すべてに目を通したそうです。
ユーザーの意見は積極的に取り入れていきたいと語る飯嶋さん。
実は飯嶋さん自身も個人でアバターを製作したり、いち個人としてVR SNSを楽しんでいるそう。プライベートでもVR SNSが大好きなのだとか。
『これやってよ!って要望があれば全部読みます。コトブキヤのTwitterに意見を投げてくれてもいいですし、今回公開される記事にリプライで要望をくれたら必ず読ませてもらいます。』
各プラットフォームでアバター展示即売会の開催が盛り上がりを見せている中、コトブキヤはユーザーとともにアバター文化の発展を牽引していく大きな存在となっていきそうです。
【コトブキヤ アバターちゃんシリーズ】
https://www.kotobukiya.co.jp/product-title/avatarchan/
■BOOTH https://avatarchan.booth.pm/
■バーチャルマーケットβ https://www.v-market.work/ec/items/4272/detail/
【インタビュー】コトブキヤ経営企画室 飯嶋さん
飯嶋さんのプロフィール
大学で3DCADや3Dプリンタについて研究。フィギュア原型師としてコトブキヤに入社。その後3Dデータを活用した新規事業開発に着手し、現在アバター関連事業に取り組んでいる。