ありふれた地方の町を舞台に、誰もが一度は感じるリアルな葛藤を描くコメディ群像劇『カレイドメモリー』レポート

2024年4月20~21日にVRChat上で公演されたmaropi工房のVR演劇『カレイドメモリー』観劇レポートをお届けする前に、まず申し上げます。

こいつはメチャクチャ挑戦的な演劇だぜ……

maropi工房として第2作目にあたる『カレイドメモリー』は、郊外というには都会から遠く、田舎というには遠すぎない、そんなどこにでもある絶妙な地方の町を舞台とした、人間模様のコメディタッチなVR演劇です。

団長のmaropiさんは一般社団法人メタシアターの理事として就任されたばかり。実は2022年に公演されたぬこぽつ氏によるVR演劇『VRマクベス』にも出演しており、それが初の演劇体験だったのだとか。

maropiさん

2023年末開催の『メタシアター演劇祭』でmaropi工房として初のオリジナル演劇へ挑戦。自身でもはじめての脚本だったとのことですが、30分のコメディとして2日間フルインスタンスの大成功をおさめました。

その際の観劇レポートを担当した縁もあり、この度もご招待に預かりました。当初は観劇に対するレポートを記すつもりだったのですが、VR演劇としても挑戦的な要素が多かったこともあり、団長のmaropiさんへお話を伺う機会も設けさせていただきました。

答えの見えない渋さ──リアルを飲み込んで笑い飛ばそう

劇場は『メタシアター演劇祭』でも使われていたエントランスから入場となりました。観客だけでも50人以上を入れることとなるインスタンスなので、観劇用の軽量アバターペデスタルもしっかりと用意されています。

待合中には役者による案内が繰り返し語られ、開場直前にもmaropiさんによる説明が丁寧に重ねられるなど、このあたりの準備はさすがの一言です。

VRChatの仕様を逆利用した工夫のある前説

前作『チョイス!』でも活躍したのがこの前説。

VRChatでは様々なアバターが使用されることから、プレイヤーの設定によってはアバターの表現が全て正しく表示されない場合があります。しかも、他人からはその状況を把握できないので、演劇中の表現が視聴者の画面で正しく表示されるのかと言えば、その保証がないのです。

そこで、VRChatのShow Avatarという機能を使用します。これは視聴者にあたるプレイヤーが、直接役者となるプレイヤーを指定し、明示的に「この人のアバター表現を全て表示するぞ」と設定できるものです。

しかしながら、普段VRChatを利用する中では頻繁に使うものでもありませんし、その機能を十分に把握している人ばかりでもありません。説明しようとするだけでもけっこう大変なことだったりします。

前説では写真のように、まず役者達がお菓子の姿で舞台に並び、町を代表する名産物として紹介しつつ、それぞれをポイントしてShow Avatarするよう促す時間が設けられていました。その意味を完全に理解していなくとも、この指示にさえ従えば、少なくとも演劇中の役者の表現は正しく視聴できるようになるわけです。

しかも、お菓子という姿になって説明を挟むことで、この時点で既に劇中の世界観の説明にもつながっており、VRChatの仕様を逆説的に利用した上手な工夫となっていると感じます。

前半:日本の少子化に見る“誰も悪くない”リアル

“kaleido”はギリシャ語の「美しい」が由来だとか そんな舞台は“枯井戸”駅

木造の駅にたった2両の電車が停まる静かな風景──

白い舞台の前説が終わると同時に、その全体が「パリン!」と鳴って崩れていきました。気がつけば、郊外と呼ぶには田舎だと言わざるを得ない、そんな駅前が広がります。

『メタシアター演劇祭』で使用されたエントランスと舞台から、物語は“舞台”の上で展開されるものと思い込んでいました。見渡せば駅前だけではなく、座席以外はきちんと街中が表現されたワールドとなっていたのです。

物語は、鳩に餌を与える二人の女性が他愛のない世間話をしている場面からはじまります。

岡野(左)と根本(中央)は東京へ出ていこうとする友人を止めようとしている

そこに現れる2人の青年。牧歌的な女性たちに反して、彼らはどこか険悪な雰囲気。

どうやら、長くつきあいのある友人の小見沢が枯井戸町を離れてしまうと聞き、それを止める最後のチャンスだとして、駅前で張り込みをしているようです。

地元の名産を支えている会社“今井製菓”を突然退職してまで東京へ行くと決意したその友人に、彼らは──特に根本(赤い髪:上記写真中央)は理解を示せない様子。一緒に着いてきた岡野(黄色い髪:上記写真左側)は、そんな熱くなる根本をなだめています。

彼らの近所に住む池田(右から2番目)と田中(右)も、小見沢を止めるため協力を申し出る

そんな彼らの話を聞いた2人の女性、池田と田中は近所に住む顔なじみでもありました。根本の話に賛同した彼女らも、小見沢を止めるため協力を申し出ることに。

手ぶらでは悪いから、と近くへ飲み物を買いに出かけてしまう一同。ひとり残されてしまう根本ですが、そんなタイミングで渦中の小見沢がやってくるのでした。

町にこだわる根本、それが嫌だとする小見沢、両方への理解を示す岡野
同じ世代の若者たちでも異なるそれぞれの主張に、座席の視聴者はもどかしさを感じざるを得ない

なぜ町を出ていこうとするのかと問い詰める根本に「何も変わらないこんな町はもう嫌なんだ」と吐き捨てる小見沢。彼らの言い合いに対して少し離れた目線で突っ込みを入れる岡野。

同じ世代とはいえ、その主張はそれぞれ。そんな現代に見るグラデーションを、根本・岡野・小見沢という3人の口論を通じて浮き彫りにしていきます。ここまでの演技はなかなかにシリアスな調子で迫力があり、コメディタッチかと先入観を持っていたことも転じて、固唾をのんで見守ることとなります。

池田の断定口調なお節介が、小見沢を──そして視聴者をも──イライラさせる

そこに合流する池田と田中。彼女たちは小見沢を見るやいなや「東京へ出ていくなんてダメ」「見知っている人達と暮らすのが結局幸せ」といった言葉で説得しはじめます。

その断定口調、お節介さ。小見沢が反論を発しようとするその前に、視聴者の心はありありと小見沢への理解を示さざるを得ません。特に池田のおばあちゃんを演じるHONIさんの演技力は凄まじく、若者を(善意だとしても)邪魔してしまう老人という振る舞いに、多くの視聴者が実際に苦い顔をしたのではないでしょうか。

高齢者向けの政策を語る遊説カーに熱中するふたり リアルすぎて笑って良いのかすら悩ましい

そこに突如として遊説カーが!!

先ほどまで真剣にやりあっていた若者を差し置いての推し活をはじめる老人と、あろうことか高齢者向けの政策を連呼しまくる街頭演説。ドン引きの若者3名。コミカルな展開なのに笑うに笑えない。笑っていても心が苦しい。

勤める“今井製菓の部署”まで把握している池田の存在に「そういう所なんだよ!!」と怒りを露わにする小見沢。わかる、あまりにもわかりすぎるウェットな状況。そりゃ出ていきたくもなるよね。

でも、東京での仕事の計画も決まっていない、とりあえずバイトでいいと言ってのけてしまう小見沢に背中を押せる気分になれないもどかしさ。なんだこれ、リアルすぎる。

追い打ちとばかりに「オレは出ていくとしても良いと思うけどね」と岡野。

「小見沢とオレは同じ企業でそのうち席を奪い合う存在」「だとしても沈んでいくだけのこの町にいるオレ達は終わってる」「だからこそオレはこの町に残る」……

兄2人が東京へ出ていき、残ることとなった三男の岡野。最も冷静に町を見つめていたのは、どっちつかずのように見えた彼だったのかもしれません。ウェットな社会を象徴するおばあちゃんの池田に対し、こちらはあまりにも達観してしまったドライな若者たる岡野。理解の追いつかない根本を尻目に、さっさと岡野は立ち去り、小見沢はついに電車へ乗り込もうとします。

“今井製菓”の得意先である鈴木が登場 小見沢は打って変わって明るいが そこには営業的なものが残る

そこへ登場するのが“今井製菓”へ原料を卸している得意先の鈴木。小見沢へ挨拶をかけると、それまでの重い空気を打ち消そうとするかのように、小見沢も明るく挨拶を返します。

得意先としてうまく付き合いを続けていたことを感じさせつつも、そこにはどこか営業的な色の残る明るさという演技。対する鈴木も、突然の退職に驚いたとしつつ、深くは追いかけない社会性のリアルが一瞬のうちに展開されます。

たまには戻ってこいよという根本の声に、何も言わぬまま立ち去る小見沢

同じ若者世代の中で決裂する3人。その友情が決定的に壊れてしまうような事件があったわけでもなければ、誰かが何かを大きく間違ってしまったわけでもありません。少なくとも、冒頭からの流れの中では、彼らはそれぞれ自分の主張を持ち、最後まで自分の選択で行動してさえいるのです。

現在の日本において30~40歳までの方であれば、「景気が悪い」という言葉が常に続き、どんどん物価が下がっていき、学校がクラス単位で縮小していくのを体感しているのではないでしょうか。

そんな社会の状況へ「答えはない」と分かったように言ってみても、だからといって何かが解決するようにも思えない。救いの無さのような渋い心境の残る前半でした。

後半:場末のスナックなキャバクラに“寛容の強さ”を見る

町では珍しい新客の鈴木(右) 来店に喜ぶママのりん(中央)とホステスのりょう(左)

場面は転じて“今井産業”の取引先営業である鈴木に視点が移ります。

実はこの鈴木役を演じるSuzuQui(すずき)さんは、前作『チョイス!』でも鈴木という名前で主演を務めていました。いわゆる社会人男性的な役では自然な演技を見せており、今作でもかなりのアドリブが入っていたようです。

“今井製菓”への忘れ物で枯井戸町へ戻り、遅くなってしまった鈴木は偶然見かけたキャバクラへ立ち寄ることとなりました。珍しい新客に喜ぶママのりんと、若手ホステスのりょうが鈴木を迎え入れます。

りょうの前で絶妙にダサくカッコつける鈴木ですが、発言はセクハラめいたものばかり。はいはい……と、いなしながらゆるく始まる乾杯は、どうみてもスナックそのもの。

ママであるりんの夢は自分の店を持つことでした。キャバクラだと言い張るママではありますが、枯井戸町のおじさんたちが常連として通っており、案外繁盛している様子です。

しかも、この日は新人がはじめて出勤してくる日でもありました。はじめて来店した客である自分が、新人のはじめての客になれると聞いて、俄然やる気を出し始める鈴木。そこに登場したのは……

「新人の、池田ノリコです」

ママ「池田さんったら、ほら、源氏名で自己紹介しないと!」

池田「あら! 源氏名ね! アイミです。愛情の愛に、海と書いて、アイミです」

鈴木「いやゴリゴリだなオィ……

「いやお茶飲むんかい」「シュレーディンガーのババア」「仏壇の前みてえだ」……ここから続く、鈴木怒濤のツッコミに観客席からも笑いが漏れ出します。なんだかんだ呆れつつも、しっかりアイミちゃんに話題を振っていく鈴木。大人の営業力って凄い

ひとしきり盛り上がった所で急展開が発生。包丁を持った強盗が押し入る事態に。

しかしながらこちらも老人。咄嗟にフィリピン人のフリをする鈴木や、キャッシュレスという耳慣れぬ文化に、まったく脅しの言葉を出せぬまま、いまいち締まりの無い恐喝が続くこととなります。

そうは言っても包丁を持った強盗には変わらず、互いにどうすべきか分からないまま混乱するばかり。

「あら! 島谷さんじゃないの!?」

またしてもこのおばあさん。ウェットな社会に根付いたその人物は、町では誰もが知る存在でした。強盗という事実に気付いているのかいないのか、挨拶でもするかのようにアイミちゃんは島谷おじいさんへ話しかけていきます。

「息子さん、ハルヒコ君はお元気?」

なんで……池田さんがいるんじゃぁ……

包丁をゆっくりと下げながら吐き出すこのセリフは私の中で観劇中最も印象に残るものでした。池田のおばあさんと島谷のおじいさんの2人は、実際のところかなりの演技力を発揮していたのです。ここに来てようやく池田のおばあさんが作中を通して登場しており、主人公の位置に立っていることに気付かされました。

「定年してから、年金も少なく、やることもなく、毎日ダラダラテレビを見るしかない。繁盛しているこの店を見ていたら、わしにも分けてもらいたくなってのう……」

「暇なのは分かるけど、それだったら何かはじめればいいのよ。いくつになっても、何かを始めるのは遅くないわよ。ほら、私なんて今日からキャバ嬢デビューしてるんだから!

何も変わらないこの町が嫌だと飛び出していった小見沢と、何をすることもできなくなり強盗に走った島谷は、世代の違いこそあれ同じような境遇だったと言えるのかもしれません。そこに、池田という同じ人物がそれぞれ“励まし”の言葉を送っていました。

言葉の上では、小見沢に対して「東京へ出ていくなんてダメ」と伝えていたことで、それが小見沢にとっての窮屈さをより感じさせる結果となってしまいました。しかしながら、前半と後半をつなげて見てみると、池田が伝えようとしていたのは今この場所・自分から変わってみようとすることだったのであろうとわかります。

また、小見沢が東京へ飛び出そうとすることも、ひとつの“変わろうとする行為”と言えるのかもしれません。結果的に若者そっちのけで遊説カーへ推し活をしはじめるのも、小見沢の決断への理解の一端だったのだろうかと思います。

『カレイドメモリー』は、少子高齢化による地方の閉塞感をコンテキストとして、どこにでも起こり得る葛藤を登場人物達へアイコニックに重ねた舞台でした。そのテーマは現代日本に住む私達であれば理解できすぎてしまうからこそ、どこか苦さを感じる脚本でもあります。

そして、後半の舞台であるキャバクラ……いや、スナックこそ“色んな苦みや弱さを飲み込みこんで自覚しながら笑い合う場”の象徴です。その酸いも甘いも含んだ寛容な空気・感覚は、何も田舎特有のものではありません。

今回観劇した筆者自身は東京に生まれ東京で育った人生です。北区赤羽で勤めていた頃、先輩に連れられたスナックには社長なんかよりも大先輩のママさんしかいませんでした。林家ペー&パー子やマツコ・デラックスなんかも来店したことがあるのよ、などと自慢されその雰囲気に圧倒されながらも、会社のお偉方に連れられてきたというのに、全てがなんとかなるような気がしてくる不思議なお店でした。

枯井戸町を飛び出した小見沢も、いつか東京のどこかで「そんな距離感に助けられることもあるんだな」と思える日が来るのかもしれません。

本編はYouTubeでも配信中!

観劇から最速で“聖地巡礼”!? 町そのものが舞台だった!? maropiさんインタビュー

劇場そのものが取り払われ、街中やスナック……いや、キャバクラを空間として広く活用させる演劇の形は、わかりやすいデジタル技術の強みでした。

しかしながら『カレイドメモリー』はそこで終わりではありませんでした。役者の挨拶が終わるとともに、団長のmaropiさんは観客をステージ(つまり駅前の空間)へと促します。観客ひとりひとりが持ち運べる“町の地図”を手渡しながらこう言ったのです。

maropiさん

この後はぜひ枯井戸町を観光していただければと思います!
重要な場所にはそれぞれ役者がいますので、話しかけてみてください!

“観劇しにいく”ことの体験全体を作りたかった

観客に配布されたローカル判定で持ち運べる地図 ピンの位置には役者が配置されている

──第二回公演お疲れ様でした。冒頭から“劇場が取り払わられる”演出にも驚かされましたが、まさか終了後に舞台となる町を観光できるとは。こうした演出ははじめから計画していたのでしょうか?

maropiさん

第一作目の『チョイス!』という演劇では、終了後に別の会話用インスタンスを立てて、役者とともにお客さんをお招きし、アフタートークを実施しました。

『チョイス!』の舞台で登場した花火を見ながら会話できる状況を用意しまして、本編の関わりもありましたし、これが好評だったので今回も何かやりたいと考えていたんです。

──改めてインスタンスを移動しようと思うと、ちょっとした心理的ハードルがありますよね。劇場が取り払われるのはデジタル技術的ですが、そのままシームレスに町中を自分の視点で散策できるのは“VRだからこそ”の体験だと感じました。

maropiさん

普段「映画を観に行く」と言っても、自宅で配信を見るだけなのか、映画館まで出かけるのかまでは、それだけでは区別しませんよね。自宅で観るのももちろん面白いのですが、“観に行くという行動”そのものも楽しい体験だったりすると思うんです。

わざわざVRChatの中で“観劇しに行こう”と思って来てくださるのならば、ただ劇を演じるだけではなく「劇を観に行こう」という出来事そのものを含めた体験全体を作りたかったんです。

歴史やストーリーが重なることで大切な場所となっていく

劇中で言及される“今井製菓”がワールドの中にきちんと存在していた

──町中を巡ってみて更に驚いたのは、登場人物達の表札がついた家や、彼らが話題にしていた場所が実際に配置されていたことです。他の観客の方々も言葉を漏らしていましたが、これはまさに“聖地巡礼”と感覚的には近しいですよね。

maropiさん

“聖地巡礼”できる状況を整えられたのは、実は最後の方の突貫工事だったりします。町そのものを用意しようというのは想定していましたが、メンバーの体調不良なども重なってしまい、稽古にかかる時間が増えてしまったのですが、なんとか形にしていただけました。

──失礼を承知で言ってしまえば、軽めに作った普通の町ワールドを巡っているだけとも言えます。ですが、配置されている役者さんとの会話を含め、本当に“今井製菓”があるぞ、と楽しめる感情が湧いたことが、自分でも驚きでした。

maropiさん

おっしゃるように、町そのものは手軽に入手できるアセットを並べただけに過ぎません。それでも、観劇した後という体験があるだけで、ワールドに向ける目が変わったのだと感じられたのであれば、狙いは達成できたのかなと。

私の持論ではあるのですが、例えばQuest対応で簡素な形にしたワールドだったとしても、そこに歴史やストーリーが重なっていくことで、多くの人にとって大切な場所になっていくと考えています。

「役者へ話しかけるの怖い」は、あるあるです!!

──あまりリアルでも観劇の経験はないのですが、何度か知り合いの劇を観に行ったことがあります。結局、役者さんに声をかけられずにそのまま帰ってしまったのですが、今回は町中の散策があることで余裕が生まれていました。

maropiさん

まさにコミュニケーションを取りやすくするために行いました。

劇場の出口に並んでお客さんを待つという光景自体はよくあるものですよね。ですが、正直なところ客としても役者としても緊張するよねっていうのはありますので(笑

しかも、その上で役者としては誰も来てくれないのはそれはそれでしんどいんです。そうなると、役者同士で話し込んじゃったり、顔見知りとばかりの会話になったり、といったことになってしまいがちです。

そこで、皆さんに地図を渡して「見て回るだけでも良い」という選択肢を用意して、話せなくてもどかしい……という空気を減らす試みとしました。

初めは前半パートだけだった──ウェットさは悪いことばかりではない

──脚本について伺います。第一作目『チョイス!』が喜劇だったこともあり、そうした方針かと想像していたのですが、『カレイドメモリー』はかなりリアルで社会派な要素もありましたね。

maropiさん

実は、初めは前半の駅前パートだけだったんです。後半のキャバクラパートは途中から追加しました。

カレイドスコープは万華鏡という意味ですが、そこから「色々な人生があるよね」という意味合いで『カレイドメモリー』というタイトルにしています。ですが、さすがに前半の内容だけでは重い出来事が残ってしまうだけだと判断しました。

──同世代たる若者3名がこれほど考え方・視点に違いを持っている、という表現でしたが「どの考え方もわかるが、しかし!」と悩ましいものでした。だいぶリアルでしたので、途中の小ネタでも笑って良いのか悩むほどでしたね。

maropiさん

ネタではあるんですが、75歳の募集は僕が埼玉で本当に見た経験があったりしますから、そこらへんもリアルなはずです(笑

実際の所、役者の中からも「若い人には理解を得られない内容なのでは」という声がありました。2日間の公演でお客さんから頂いたご意見の中には「結局東京へ飛び出した小見沢はどうなったのか?」といった質問もありました。

すっきりしない部分が残るだろうことは想定の上でした。様々な人生の選択を描けたという点で目的を達成できたと感じています。

──田舎だからこそのウェットさに目が行きがちですが、個人的には都心であっても変わらない部分はあると感じています。私が都内で10年以上勤めていた会社も非常にウェットでしたが、振り返ればそれに助けられた面も多かったなと。

maropiさん

僕はウェットなのは悪いことばかりではないと考えています。

頂いた劇評(本稿)で触れられていたことですが、田舎の凝り固まった意見の代表のような池田のおばあちゃんが、いきなりキャバクラに挑んでいて、結果的にそれが人を助けることにつながります。

ウェットかドライかは線引きができないものですよね。

──今回は関わっている方々が前作の2倍、劇の長さも2倍でした。maropiさんは出演せず、完全に指揮という形だったのでしょうか。

maropiさん

役者が多かったのは募集したらたくさんきてしまったので(笑

やはり人も規模も大きくなったぶん、僕が強引に回そうとしても無理があります。ですので、前半・後半でそれぞれ演出をメインに担当する方を決めたり、役割を明確にしていきました。

前半の駅前パートはしじみーぬさん、後半のキャバクラパートはaawayさんに演出を担って頂きました。おかげさまで、最後までしっかりと形にできたと思っています。

『カレイドメモリー』の舞台・枯井戸町ワールドツアー企画中

maropiさん

せっかく作ったワールドですので、公演の時にしか見られないのももったいないと考えまして、枯井戸町ワールドツアーを企画しています。

2024年5月下旬を目指して準備していますので、ぜひmaropi工房のXアカウントをチェックしていただければ!

2日目公演後の記念撮影

『カレイドメモリー』役者紹介(敬称略)

田中 絹江(たなか きぬえ)役: 黒崎こぎん
池田 のり子(いけだ のりこ)役: HONI
根本 優也(ねもと ゆうや)役: 地蔵めたび
岡野 真一(おかの しんいち)役: ゆったん
小見沢 陽介(こみざわ ようすけ)役: aaway
前説、ウグイス嬢役: きゅぞりる
スズキ役: SuzuQui
ママ役: 凛さん
キャバ嬢役: りょうらん
島谷役: でんじぃ

舞台スタッフ(敬称略)

しじみーぬ
なほろ
せたあさみ