SuRroom:バーチャル空間上の休憩場所に追い求めた”リアルさ”へのこだわり

SuRroom のサムネイル

 読者の皆さんは、SuRroomというVRChatのワールドをご存知だろうか?
 このワールドは2022年12月に公開され、2023年7月5日時点で累計来場者数約115万人、Favorite数約38,500を記録しているほど人気を持つチルワールドだ。

チルワールドとは?

 特にVRChatにおいて、バーチャル空間(ワールド)の中でも休息や睡眠を目的とするものの総称。英語表記ではChill Worldであり、VRChat内ではプレイヤー同士や雑談や交流をするために用いられることが多々ある。

 このSuRroomというワールドの特徴として、バーチャル空間の中で体験できるチルワールドの中でも抜群に”リアルさ”へのこだわりが強いことが挙げられる。

 例えばインタラクトできる扉一つを見ても、ドアを開閉するアニメーションに、現実のような効果音が付くことで実際に操作しているリアルさを味わうことができる。さらには浴室にも独特な音の反響があるだけでなく、シャワーの水が床に当たり跳ねる様子が再現されていたり、お風呂にアヒルのおもちゃを沈めると跳ね上がる状況が再現されていたりする。
 再現するのが容易ではない『バーチャルと現実の差異』をとことん埋めるかのような工夫が、ワールド内の随所に敷き詰められているのだ。

 さらには壁や床、アセットの配置1つ1つにさえも拘り抜いた作りになっている。床や壁のどこを見ても継ぎ目が中途半端にならないようにしっかり調整されていたり、壁と物体を見比べて違和感がないようにピッタリ配置されている。デザインの観点から見ても、現実のように1つ1つ妥協のない配置の仕方をしているワールドなのだ。

 そういった些細な点への気配りが積み重なり生まれたSuRroom。この記事では、上記のような『リアルさへのこだわり』に加えて『独特なワールド内機能』という2点に着目しつつ、ワールド内を詳しく紹介させていただく。

目次

SuRroomとは

ワールドの名称:『超える』の意味を持つSuR

 SuRroomは、CITRUS Studioという多国籍クリエイターグループにより制作されたVRChat上のワールドだ。ワールド名の読み方はサールーム、とのことだが、ユーザーからは様々な呼ばれ方をしている。

 SuRroomというワールド名には実は語源がある。ワールド制作当初に関わっていたクリエイターであるShatoo, ureishi, Rastvasの3名の頭文字を取ってSuRという語句を用意したそうだ。

 SuRという並び順にしたことにも意味がある。”surreal”(超現実的な、非現実的な、etc)や”surprise”(驚く)などの単語の一部になっている”sur”には『超える』という意味があり、来たユーザーの予想を上回るようなワールドを作り上げることを目標としてこの名称を掲げたようだ。

ワールドのロゴ:SuRの文字で形作られたロゴ

 ワールドのサムネイルにも用いられている、家のような形をしているSuRroomのロゴ。実はこのロゴは、S, u, Rの文字を崩した形状を組み合わせて家のような形になっている

 さらに、それらを組み合わせて浮かび上がる上向きの矢印の形状には、SuRの『超える』の意味合いが込められている。

クリエイターグループ “CITRUS” のメンバーの一人であるRustvasさん直筆の解説。

ワールドの特徴:リアルさへのこだわりと、独特な機能群

 SuRroomは、前述の通りチルワールドの中にも現実のようなリアルさを多く含んでいることが特徴の一つだ。しかしそれだけでなく、独自に制作・実装された機能の多さもまた特徴の一つだ。

ワールド内共通機能

ワールド内メニュー・ショートカット機能

 VR環境でSuRroomに入った場合、右スティックを下に入力し続けるとワールド内の様々な機能をその場で利用できるワールド内メニューが表示される。

右スティックを下入力しつづけた状態のままトリガー操作することで、メニューの項目を利用できる

 デスクトップ環境でSuRroomに入った場合は上記のメニューは使用できない。しかしその代わり、キーボードの特定のキーを入力することで様々な機能を利用できる。

Tabキー長押しで表示される『タグ+音声チャンネル設定』など、複数のショートカットキーが提供されている

ワールド内のQvPen

 SuRroomの制作に関わっているureishiさん、ShatooさんはQvPenというワールド内にペンで絵や文字を描けるワールド内アセットの制作者、あるいはその協力者でもある。もちろんSuRroomにもQvPenが配置されており、SuRroomに合わせてカスタマイズされた特徴的な機能を使用できる。

 VR環境はワールド内メニューから、デスクトップ環境ではQキーを押すことですぐにペンを手元に呼び出すことができる。

 VR環境の場合、ペンを持ちながら反対側の手でメニューを開くと、ペンで書いた内容を消去したりペンをリスポーン地点に戻したりできるぞ。また、ペンを逆さに持つと消しゴムが表示されペンで書いた内容を消すことができる。

ペンを逆さすることで一部削除、開いたメニューで全部削除とペンのリスポーンを行う様子

 デスクトップ版の場合はショートカットキーで上記の機能を利用できる。ペンを持った状態でDelキーを押すとペンで書いた内容が消去され、同様にペンを持った状態でHomeキーを押すと持っているペンを元の場所にリスポーン地点に戻せる。
 さらに、デスクトップ版に限り特殊な機能を利用できる。ペンを持った状態でTabキーを押すことでレイモードに移行し、内容が平面で表示されるように書けるその状態でEキーを押すと、壁や床などコライダーがある場所に対して文字を書けるようになるのだ。

デスクトップ環境におけるレイモードの様子
デスクトップ環境で壁や床に向かって落書きできる

ワールド内のミラー

 ほがしが入っている鏡をトリガーすると、ミラーが使用できるようになる場所がある(ワールドの入口付近や地下1階の洗面台など)。
 このとき、手で触った位置付近から広がるようにミラーへと変化していくように実装されているのが、ワールド制作者のこだわりポイントの1つだそうだ。

ミラーの右下を触れば右下から、左上を触れば左上から。触った位置から広がるようにミラーへと変化する

インタラクトできるオブジェクト全般

 ワールド内には、デスクトップ環境でクリックしたりVR環境でトリガーを押したりすることでアクションを起こせるオブジェクトが多数存在する。
 ボタン類はもちろんのこと、ドアを触ればドアが開く、電子レンジのドアに触れればドアが開く、蛇口を触れば栓が開いて水が流れる……というように、触ると変化が起きるオブジェクトが多いのだ。

 また、それらの1つ1つには動作アニメーションや厳選された効果音が個別に設定されており、SuRroomのバーチャル上でのリアルさを高める一助になっている。

ドアの開閉だけでも、自然なアニメーションとリアルな効果音が設定されている

プレイヤーリスト

 リスポーン地点付近や地下1階の入口にあるプレイヤーリストでは、ワールド内にいるプレイヤーの一覧やその場所、プレイ環境を表示できる。
 さらに、リストの名前をトリガーやクリックで触ると、そのプレイヤーの姿を遠隔で確認できる。これは単にアバターの見た目を表示するだけでなく、そのプレイヤーが今どんな姿勢や表情をしているのかという動きまでもが反映されているのだ。

 この機能は、VR環境であればワールド内メニューからも利用できるぞ。

プライベートルーム(個室)内にいるプレイヤーは、この機能では姿が表示されないように設定されている。

右下の●を操作すると、アバター表示の向きやサイズを調整できる

タグ機能

 リスポーン地点付近に配置されたアセットやVR環境でのワールド内メニュー、あるいはデスクトップ環境でのTabキー長押しからタグ機能を利用できる。
 タグを選択すると自分の頭上にアイコンが表示されるので、他のプレイヤーに対して自分が今どんな状態なのか等の意思表示を行うことができるぞ。

『ホーム』で『ねこ』で『友達募集中』で『作業中』の筆者。タグは複数選択・表示できるぞ。

ワールド内の飲み物全般

 1階の各種ポスターアセット付近に置かれているコーヒーセットや、地下1階の洗面台にあるコップと蛇口の水のように、容器に液体を注いだり、容器を傾けると液体が減るようなギミックが用意されているものがあるぞ!

コーヒーを注ぐパーティクルは、ワールド制作者の1人であるRastvasさんの自作のものだそうだ。

1階エリア

 ここでは、ワールド内の1階エリアに用意されている各種ギミックや作り込みについて紹介する。

ワールド入口

 ワールドの入口では、ユーザーがVR環境かデスクトップ環境かを自動で判別し、それぞれに対して適切にワールド内メニューやショートカットキーについての説明が表示されるようになっているぞ。
 また、同様にユーザーが属する地域も自動で判別しており、ワールド内に表示されるUIやToolTip(インタラクト可能なオブジェクトに手を向けたり触ったりする時に表示される簡易的な説明文)に表示する文章を自動翻訳する仕組みも存在する。2023年7月現在で、日英仏中(簡/繁)韓に加えてロシア、タイ、オランダ、スペイン、ポルトガル、ハンガリー、ドイツの計13か国もの言語に対応している。

ワールド内メニューや設定パネルの言語設定で任意の言語に手動で変更することもできる

ポータル・アバターペデスタル

 SuRroom内には、おすすめのワールドへのポータルやアバターペデスタルを召喚できるギミックが存在する。
 一般的なワールド制作ではポータルやアバターペデスタルを並べるだけだとワールドの場所を取りすぎたりワールド内の雰囲気にそぐわなくなったりすることもある。しかしSuRroomでは、このギミックで必要な時に必要なものだけを表示することにより、ワールドの雰囲気を維持することができているのだ。

 このギミック、実はワールドやアバターのIDさえ分かれば、一覧に表示されていない任意のワールドへのポータルやアバターペデスタルを自由に呼び出すこともできる。
 別途ワールドやアバターのIDをメモしておけば、制限時間のないポータル代わりに使ってワールドを紹介したり、自分がお気に入り登録していないアバターを他のユーザーと共有したり、といった使い方ができるだろう。

例えば ”avtr_1aac80b1-e9f1-43ec-83b6-a4042c8adb07” を入力すると、
たまに見かけるあのアバターのペデスタルが登場する。

 

外部メディアアセット

 ワールド内にはバーチャルライフマガジンなどの外部メディアアセットが設置されており、情報収集に役立てることができる。

ゆーてる

掲載ありがとうございます!!

ワールド内設定

 入口付近にある設定パネルでは、ワールド内の細かな設定変更ができる。ここではワールドの見た目の色味の変更や、誰かがJoinしてきた時に効果音を鳴らしてくれる機能などを設定できる。

設定の一部はVR環境のワールド内メニュー、デスクトップのショートカットキーでもアクセスできる

設定の一部は、ワールドに入り直してからも設定内容が保持される。ワールドに入るごとに毎回設定をし直す手間がなく、利便性が高い機能になっているぞ。

音声チャンネル設定

 上記のワールド内設定などで、ワールド内の音声チャンネルを設定できる。これは大人数でSuRroomを使用する時に役立つ機能だ。
 普段はユーザー全員が”デフォルト”に属しているが、ワールド内設定などで数字を変更すると同じ数字を選んでいる人の声だけが聞こえるようになるぞ!
 この音声チャンネルは、後述するワールド内キーボードのコマンドで0(デフォルト)~3以外の好きな数字にも設定できるぞ。

チャンネルを変更すると、頭上に所属しているチャンネルの数字が表示される。
(ワールド内キーボードで大きな数値に変更した場合は”?”と表示され、判別できなくなる)

ワールド内キーボード・コマンド機能

 ワールド内に用意されているキーボードではワールド内で文字チャットを行うことができる。

 VRChatにも標準でテキストチャット機能が存在するものの、きちんと差別化されている。ログを参照できるうえ、ワールド内キーボードの左上に変換ボタンがあるため、カタカナ入力なども可能だ。もちろん、デスクトップであれば操作に使用するキーボードでの文字入力にも対応している。

 ログを表示しているUIの右側にある◁を触りパレットを開くと、関数電卓や顔文字、文字の色替えといった機能、さらには特殊なワールド内機能を使うためのコマンドを入力するための補助入力機能が利用できるぞ。

 コマンドは以下の4種類が利用できる。

  • /h:コマンドの一覧を表示する。
  • /v [0~65535の数値]:音声チャンネルを入力した数値に変更する。ワールド内設定とは異なり、0(デフォルト)~3以外のチャンネルにも入れる。この場合は頭上には番号が表示されないため、内緒話をしたい時などに使うこともできる。
  • /r [任意の文字列]:任意の文字列で合言葉を設定し、同じ合言葉を設定した人しか入れないプライベートルーム(個室)に移動できる。プライベートルームについては後ほどまとめて紹介する。
  • /l :ワールド内にいるプレイヤーの一覧を表示する。VR環境ではワールド内メニューから直接プレイヤー一覧を見れるがデスクトップ環境ではそれができないため、デスクトップ環境で今すぐワールド内のプレイヤー一覧を見たい時に使うことになるだろう。

キッチン周辺の細かな作り込み

 キッチン内の棚や冷蔵庫をトリガーすると扉を開けることができる。その中には、フォトグラメトリされた食品などがたくさん入っている。

特に冷蔵庫の開閉時は、クッション付きのマグネットが当たるリアルな効果音が鳴る。ぜひ一度聴いてみてほしい。

 その他、蛇口をさわると蛇口をひねるアニメーションや開閉音や水音が出る、ハンドソープもさわるとアニメーションや効果音と共に泡が出る、電子レンジも開閉アニメーションと効果音がある……といった細かな作り込みがなされているので、一度触ってみるとよいだろう。

独自の拡張機能付きの動画プレイヤーとその周辺

 フレンドと一緒にゆったりとした時間を過ごすチルワードに無くてはならないといっても過言ではない動画プレイヤーは、もちろんSuRroomにも存在する。さらにはその周辺の環境もしっかりと整備されているぞ。

 動画プレイヤー付近にあるタブレットは、持った状態でUseするとFullミラー→軽量ミラー→動画プレイヤー→SuRroomロゴ→…の順に変化する。
 つまり、持ち運び動画プレイヤー兼ミラーとして使用できるのだ。ローカル扱いのため、他人に動画プレイヤーを持っていかれる心配はないぞ。なお、持ち運び動画プレイヤーは動画プレイヤーの左側にも存在する。

 動画プレイヤーの側面にあるボタンは鏡が2つあるなど少しややこしいため、以下の説明画像を見てほしい。

普通に動画を見る用途なら、一番左のミラーを使うとよい。

 左から2番目のボタンでは、動画プレイヤーの画面を大きくできるぞ!大画面にすると画面が天井から床まで到達するほど大きくなり、ホームシアターを使っているかのような気分で動画を楽しめる。

天井から床まで、余すことなく動画を表示できる

 ミラーを表示するボタンが2つあるのが少しややこしいが、1つずつ詳しく紹介しよう。並んでいるうち左側のボタンで出せるミラーは、動画を表示するついでに自分のアバターを見ていたい人向けのミラーだ。
 透過表示にすると、動画の上から自分のアバターを表示できる。高品質にするとソファ側が完全に映るミラーとなり動画が見えなくなるため注意してほしい。

動画で表示した風景に自分のアバターを紛れ込ませるような使い方もできる。

 並んでいるうち右側のボタンで出せるミラーは、動画を背にしつつ自分のアバターを見たい人向けに用意されたミラーだ。主な用途として、ダンスなど運動をするための動画を流しながら自分のアバターを表示することだろう。
 実際、このミラーを高品質に設定した場合に映る動画は反転しない(=鏡越しでも文字が反転しないように設定されている。

先ほどと同じ動画をミラー越しに表示している様子。
手前のねこ(?)が鏡に映っているため奥の景色はミラー越しだが、動画の内容は反転していない。

 これらのミラーはローカル判定であり、うまく使い分けると

ダンスをしたい人は右側のミラーを高品質にして、ダンス動画のお手本を見ながら踊る
それを見る人は左側のミラーを透過にして、ダンス動画と自分のアバターを表示しながら踊っている人を見る

……というニーズを同時に満たすことができる。ワールド内で出し物をしたり、それを見たりする時などにオススメの使い方だ。

 動画プレイヤー付近には厳選されたBGMのプレイリストがあり、のんびり過ごすのに最適な音楽を簡単に流すこともできる。
 プレイリストの選択肢が中途半端に見え隠れしないようにプレイリストの初期位置や大きさが調整されていることもワールド製作者のこだわりポイントの1つだそうだ。

落ち着いた雰囲気を中心に、たくさんのジャンルの動画がプレイリストに入っている

 動画プレイヤー(IwaSync)は2つ存在し、切り替えられるぞ!
 メインの動画プレイヤーで他の人が大音量で動画を楽しんでいるのを他所に、自分だけはサブの動画プレイヤーで睡眠用BGMを流す、という使い方ができるのだ。

 使い方は、動画プレイヤーの操作パネルの少し上に表示されているベッドのようなアイコンをクリックまたはトリガーするだけ。その後、好きな動画のURLを指定したり、プレイリストから動画を選択すれば、自分だけその動画を再生できる。

フレンドが動画を楽しんでいる横でうとうと寝息を立てる……なんてことも可能なのだ。

 動画を再生していない状態の場合、操作パネルは『前の動画』というボタンが存在する。これを使うと、直前に再生していた動画をURL入力なしですぐに再生しなおすことが可能だ。

間違って停止ボタンを押してしまった時も、すぐに『前の動画』ボタンを押せば再生し直せる

 なお、デスクトップ版であればキーボード右側のCtrlキーを押すことで動画プレイヤーを遠隔操作するためのショートカット機能の一覧が確認できるぞ。

動画プレイヤーに近づかなくても、右Ctrlキーと各種キーの組み合わせで各種機能を利用できる

 ちなみにIwaSyncの動画プレイヤー・ライブ配信視聴だけでなく、TopazChatで配信された映像を流すこともできる
 さらに、配信用のストリームキーは自動生成されるうえに、ユーザーごとに常に同じ値になるため常に同じキーを使い回すことができるぞ!

ストリームキーを生成するロジックは『陣内智則の動画を見るためだけのワールド』と同じであり、
そちらと同じストリームキーを共通で使用できるそうだ

ソファ周辺

 ソファ付近にはチーズフォンデュとチョコレートフォンデュを切り替えたり非表示にするボタンがある。チーズフォンデュ用の具材をチョコレートフォンデュに入れたり、その逆を試すこともできるぞ。

意外といける組み合わせが見つかるかも!?

 ソファ用のSit判定ももちろん切り替え可能。キッチン付近に切り替えボタンがあるぞ。

ボードゲームや花火が出せるベランダ

 ベランダにはボードゲームを出せるUIが用意されている。このボードゲーム群は、ワールド制作関係者のRastvasさんが新規に作成した、あるいは既存のものを改変し軽量化したアセットなのだとか。

遊べるボードゲームの1つ、将棋。

 ベランダから見える景色は厳選したSkyboxと自作の星・雲シェーダーが使われている。雲はよく見るときちんと流れるように動き、星も瞬いている

夜空を見上げると、現実のように少しずつ変化があることがわかる

 その他にも、ベランダには線香花火やロケット花火を出すことができるボタンがある。

少しわかりづらいが、ボードゲームUIの少し奥側にボタンがある。押すとすぐ下に花火が出てくる
ロケット花火はクリックやトリガーで点火し、火花が出たぐらいで手放すと遠くに飛んでいき花火になるぞ!
なお、地面に向けて手放すと床を這うように飛んでいくという裏技(?)があるぞ。

 ちなみにベランダにはミラー、Sit判定オンオフの他にロリコライダーを用意するボタンもある。身長の低いアバターでも摩天楼を見下ろせるように配慮されている。

リビングの奥側に隠されたものすごいアセット達…!

 リビング奥側の隅には、ペンやサッカーボールの他にもいくつかのオブジェクトが佇んでいるが、これらは実は超スゴいアセット群であることを皆さんはご存知だろうか?この機会に一通り紹介させて頂こう。

 まずは本ツール。これは掴むと起動し、いくつかの候補の中から本を選んで読むことができる。中にはパブリックドメインで公開されているUnityのパフォーマンスチューニングバイブルと、ワールド制作者により執筆されたSuRroomの使い方説明書が入っている。

パブリックドメインで公開されているUnityパフォーマンスチューニングバイブル

 本の近くの壁際にあるボタンを押すと、大画面で本を読むこともできる。
 また、1フレームで1ページを内容を表す状態になっている動画へのURLを用意できれば、URL指定することでその動画を本として表示できるぞ!

大きめの画面で本を楽しむこともできる

 その近くには書道ができるアセットも用意されており、用意されている筆で書くことができる。また、こちらも作品を大画面で表示できるぞ。

ワールド制作者のRastvasさんに『バーチャルライフマガジン』を書いて頂いた。
ちなみにRastvasさんは台湾の方だが、ご覧の通りかなりお上手である。

 本ツールの下側の黒い長方形は、実はYamaPlayerという動画プレイヤーだ。こちらは画面をトリガーすると動画再生用のUIが表示される。

動画再生UIの右上にある歯車をクリックやトリガーすると、オプション画面が表示される

 この動画プレイヤーは通常の動画再生機能に加え、YouTubeから直接動画を検索する機能再生速度変更機能区間リピート再生機能など珍しい機能を備えているのだ。ぜひ一度、お手に取ってみてほしい。

 また、ソファ裏の棚にはリモコンが置いてある。これはリモコンを持っている手と反対側の手のビームを当てた状態でトリガーすることで、ワールド内チャットUIの上部にあるエアコンを操作できる。
 電源を入れるとちゃんとエアコンが動き出すアニメーションが再生されるこだわり具合だ。

ちなみにエアコンの温度は-273℃(絶対零度)まで下げられる。
下げきってもワールド全体が凍り付くようなことはないので安心してほしい。

QvPenの内容をBlenderに変換できる!?独自ツール現る

 QvPenの近くに佇んでいる、コップのような形状をしたオブジェクト。これが実は、QvPenで描いた内容を3Dモデルとして出力しBlenderで扱えるようにできるツールだということを皆さんはご存知だろうか?

ペンの内容をBlenderにエクスポートする、またはその逆を行うことができるトンでもないツール。

 エクスポート手順は以下の通り。

  1. ワールド内にQvPenで絵を描く
  2. 専用アセットの中に、描いたQvPenを入れる
  3. 専用アセット付属のBlenderツールの『Blenderに出力』を押す
  4. 専用アセット付属のBlenderツール左下の出力エリアを押すとテキスト画面が表示されるので、文字列を全てコピーする
  5. Blenderの program code inputで、先の手順でコピーした内容を使用する
  6. QvPenで描いた内容がBlenderに反映される

 詳細な手順や、BlenderからSuRroomへのインポート手順については前述の本ツール内にあるSuRroomの説明書に記載されているので、興味をお持ちの方はそちらを参考にしてみてほしい。

地下1階エリア

 地下1階についても、ゆったりくつろぐための機能や工夫が随所に設けられている。こちらも順を追って見ていこう。

何気ないアセットにもこだわりポイント有

 地下1階降りてすぐの掛け軸の絵は、実はAIによって作成された絵なのだそうだ。

生成のために選んでいるキーワードに本気を感じる(神奈川沖波裏+富士山+紅葉)。

 ベッド付近のテーブルに用意されているのは、ワールド制作者曰く朝ごはんセットだそうだ。湯気が出ており、アツアツさを感じさせてくれる。

なお、ここのエアコンも温度を-273℃まで下げられる。

ベッド周辺の機能

ベッドそばの耳と♡が描かれたボタンを押すと、ASMR用アセットが多数出現する。ドライヤーや耳かきなど、これらのアセットで再生される効果音も妥協せず厳選したとのことだ。

画像は取材当時のものであり、現在はアイコンのマークが変わっている
さまざまなグッズが用意されている

 ベッド近くにある動画プレイヤーには睡眠用プレイリストが用意されている。1階の動画プレイヤーとはまた違ったラインナップで、より睡眠用途に特化した内容になっている。

VR睡眠のお供にどうぞ

 ベッドにはプロジェクターが備え付けられており、プロジェクター本体をクリックやトリガーすることで動画プレイヤーの動画を独特な雰囲気で流せるようになる。

 ベッド付近のボタンを操作すると、ベッドではなく奥の窓にプロジェクターの映像を再生するようになる。さらにはアバターの姿でプロジェクターの映像に影ができたり、プロジェクターの映像がアバターの上に重ねて表示されたりもする。かなりの力の入れ具合だ。

 まるで現実のプロジェクターそのもの。リアル感へのこだわり具合がとんでもない!

ベッドの傍にはワールド内の明るさを調整できる機能もある。ちなみに明るさを暗くしても動画プレイヤーやプロジェクターの映像は明るいままになるため、ホームシアター気分で動画を流すこともできる。

プロジェクターで映像が映し出されている際に出る、ほんのりとした光の感じも再現されている


 なお、睡眠用のアニメーションをアバターへの導入なしで再生できる機能があるため、ベッドで寝る時に利用すると良いだろう。VR環境であればワールド内メニューから、デスクトップ環境であればXキー長押し+マウスホイールの上下操作で利用できる。
 この機能を使えば、3点トラッキングやデスクトップでもアバターへのアニメーション導入なしで簡単に寝られるぞ!

浴室や洗面台

 ここにもオンオフできるミラーや蛇口のギミックがある。コップに水を注ぐことも可能。その他、音の出る歯ブラシや、中身が出るスプレー消臭剤なども用意されている。

 トイレは蓋を開閉できるうえに、開けた時だけsit判定が出現する。さらには座った状態でしばらくしてから立ち上がると自動で水を流してくれるといった動作まで再現されているぞ!

バリアフリー対応な自動洗浄トイレ

 浴室の独特なドアの開閉もアニメーション・効果音付きで再現されている。特に開く時のすんなり扉が移動するような感じの効果音は再現度が高いので、是非聴いてみてほしい。

 浴室内のボタンを押すと、浴室の扉や窓のガラスを曇らせることができる。水滴が付くとともに水蒸気でガラスが曇るあの雰囲気が見事に再現されており、これもまた『リアルさ』を深める一助になっている。

ガラス越しに見える景色は事前に用意されたものではないため、アバター等も一緒にぼかされて見える

 浴室にあるシャワーをオンオフすれば、もちろん水が流れたり音が出る。しかしそれだけでなく、床に水が落ちた時の跳ね返りや波紋といった雰囲気までしっかり再現しているのだ……!

ワールド制作者のこだわりポイントの1つ

 浴室のパネルを操作すると浴槽にお湯が沸くぞ!環境音や水面の光の反射までしっかり再現するこだわりぶり。
 さらに、浴槽近くにあるアヒルは水面に浮かべることもできる。アヒルが水面に浮いたり、深く沈めると浮き上がるところまでしっかり再現されているぞ!
 跳ねて落ちてきた時に逆さになったアヒルがうまく元の体勢に戻るような仕組みも用意されているこだわりぶりだが、コライダーの調整などに苦労があったようだ。

アヒルについてのコライダー調整はワールド制作の中でもかなり大変だった、とRastvasさんは語る

 浴室の隅には動画プレイヤーもあり、浴槽に入りながら動画を眺めることもできる。また、浴室の中では音声の反響も現実の浴室のように変化するぞ!

 浴槽にミラーを表示することもできる。ちょうど浴槽のふちにミラーが来るような配置をしたことで、浴槽を拡張したように見せている部分にこだわりがあるようだ。

プライベートエリア(個室)

 SuRroomには、安心してプライベートな交流を楽しめる個室も用意されている。

 前述のワールド内キーボードでコマンドを入力すると個室に移動できるぞ!入力した内容が似通っていても全く同じでなければ1つ1つの部屋はものすごく離れているので、姿を見られたり声を聞かれる心配はないそうだ。

ワールド内のキーボードで “/r” と半角スペース、その後に任意の文字列を入力しEnterを押すことで移動できる。

 個室に入るとプレイヤーリストでの表示が変わり、どの文字列で個室に入ったか分からないように表示される。アバターのプレビュー表示もされなくなり何をしているか分からなくなるため、プライバシー面にも配慮されている状態で個室を利用できる。

プレイヤーリストでの居場所の表示が “PrivateRoom” となる

 個室にあるベッドは地下1階と似た機能が備わっている。内緒話など、思い思いの時間を過ごすとよいだろう。

そのほかのこだわりポイント

 ここからは少し技術的な話も入ってくるが、ワールド制作者の皆さんから伺ったさらに細かなこだわりポイントをいくつかご紹介しよう。

① ワールド内負荷軽減へのこだわり

 SuRroomではワールド負荷軽減のため、視界に映っていない物体などの表示する必要がない物体を非表示にするような作り込みが、ワールド全体に細かく妥協無く行われている。

 例えば棚や冷蔵庫の中にあるアセットは、扉を開けるまでは表示されないようになっている。それに加えて、物体だけでなくワールド内のUI全般にもオクルージョンカリングが設定されており、視界に入っていないUIの表示を抑えることで徹底した負荷軽減を行っているぞ!

入口付近の棚は開けずにカメラで覗くと何も入っていない
もちろん棚を開ければ中身が表示されるようになる

 さらにはプライベートルーム(個室)も、『必要な個室の数だけアセットを複製する』のではなく『ユーザー自身が個室に入った瞬間にその場所にだけ個室アセットを移動させる』という手法を取っている。逆に言えば、ユーザー自身がいない個室のアセットは表示させていないのだ。
 これによって、どんなに個室を使うユーザーが多くてもワールドの表示負荷が上がらないように工夫されているぞ!

1000㎥の空間に、プライベートルームが出現する可能性のある基準点が2366個あるらしい

 ここまでの記事の内容で膨大な作り込みがあることはお分かりいただけただろう。加えてワールド内で使用されているアセットは130を超える。にもかかわらず、ワールド容量は2023/7/9時点でたったの37.46MB!純粋なワールド容量の観点でも妥協のない容量削減が行われているのだ。

使用したアセットのうちモデルのポリゴン数やテクスチャーを後から最適化したものが多いうえに、ライトベイク容量等も最小限に減らしているとのこと。

当初ポリゴン数が多かったアセットも、最適化を行ったうえで配置されている

② ワールドの導線作り・ユーザーの視線誘導

 リアル感のあるチルワールド、というコンセプトの元にデザインされたワールド、というのはここまで紹介した内容で感じて頂けただろう。しかしそれだけでなく、ユーザーが移動する導線や視線も意識してワールドの内装をデザインしていたそうだ。

 UIの表示・操作中に他のアバターが見えると重くなってしまうため、それを避けるために近づかないと操作できないUIにしている……などの工夫も凝らしている。
 その他、ボタン類はクリックするとパーティクルが飛び出し、ボタンによって変化があった方向へ線が出ていくようにもなっている。何が起きたのか分かりやすい仕組みになっているぞ!

③ 誕生日お祝いにも使えるアセット群

 ワールド入口のタグマーカーの下にある棚にクラッカーとパーティハット、ベランダにお祝い用の花火、冷蔵庫に箱入りの誕生日ケーキがある。誕生日お祝いのための三種の神器が揃っているぞ!

冷蔵庫に入っている箱をクリックやトリガーで触ると、ケーキが出てくる

④ ワールドに入り直してもワールド内の状態が再現される

 最後にSuRroomを離れた時のワールド内の位置やスイッチ等(ローカルのものに限る)の状態は、次にSuRroomに入りなおした時に再現されるぞ!よく使う機能がスイッチオンのままになっているのは地味にありがたいポイント。

⑤ ワールド内で写真を撮影すると日付が入る

 SuRroom内で写真を撮ると、右下に日付が入るぞ!思い出にちょっとした彩を添える機能だ。

CITRUS(ワールド制作者のグループ)の皆さんと編集長で記念撮影。

まとめ

 SuRroomというワールドの魅力について、バーチャルの中のリアルさへのこだわり特徴的な機能という2つの面から余すことなく紹介させて頂いたが、いかがだっただろうか。

 ワールド制作者の皆さんがワールド制作にかける熱意とこだわりの大きさ、そしてそれをバーチャルの空間へ具現化する技術力によって形作ることでこそ生み出されるワールド……これらには、一線を画すほどの抗い難い魅力を感じずにはいられない。

 今日もまた、誰かのやりたいこと、実現したいことから熱意やこだわりが生まれ、魅力的なワールドを始めとする様々な作品の種が生まれているのだろう。
 利用する側としては、そういったクリエイターの方々の想いを少しでも受け取るとともに、それを応援したり伝え広めていくことで、ワールド制作を始めとするバーチャル上のクリエイティブ活動を活発にする一助となりたいものだ。
 またそれによって、創る側と観る側、双方が幸せでいられるバーチャルの未来が実現することを期待したい。

 最後に、SuRroomを公開してくださったクリエイターグループ “CITRUS” の皆さんにはこの場をお借りして改めてお礼申し上げるとともに、今後もさらに魅力的なワールドを作ってくださることに是非とも期待したい。

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