世界最大のVRイベント「バーチャルマーケット」。メタバース上にある会場で、アバターなどの3Dデータ商品やリアル商品(洋服、PC、飲食物など)を売り買いでき、世界中から100万人以上が来場しギネス世界記録™も取得しています。
出展者がブースを配置するコンセプトワールドは100ワールド数を超え、開催毎に増えています。
『Vketさんぽ』は、過去に開催されたVketコンセプトワールドにもう一度目を向け、ワールド製作者やワールドコンセプトデザイン担当者と一緒にワールドを散策し、Vketコンセプトワールドの新しい顔を見つける企画となっています。
他のVketさんぽはこちら。
さんぽするワールドは?
今回さんぽするワールドは、2020年4月29日~2020年5月10日に開催されたバーチャルマーケット4のワールドエンドユートピアです。
記事に出てくる人の紹介
伊達焼き屋
Vketさんぽ執筆ライター。通い詰めてる次郎系ラーメン屋が100円値上げした。
Vketさんぽスタート!
――本日はよろしくお願いします。はじめにワールドエンドユートピアの世界観を改めて教えてください。
ワールドエンド・ユートピアはポストアポカリプスをテーマにしていて、「人間vsロボットの大戦争から100年が経った」というバックストーリーがあります。
私がSF好きなので、制作の際にイメージを固めるために追加したフレーバー要素をワールドの所々に配置しています。
「このワールドとあのワールドは歴史的に繋がってる」「世界線が同じ」などの設定は多くありますが、Vketコンセプトワールドは出展物を見せる場なので、細かな設定はあまり公開されないんですよね。
私が追加したフレーバーの一例として、ワールドに入ってすぐ奥に行ってみましょうか。
手前に桟橋があって奥に外輪船がありますよね。
ユーザーはあの船に乗ってこのワールドに来たという設定です。
どうして外輪船なのかというと、大戦争後100年の歴史からスクリュー方式の技術が失われたから。あるはずの技術は失われているけど、復興の中で人間とロボットが一緒に暮らしている。みたいなのをイメージしていました。
ワールド全体はお椀型の構造になっていて、昔は中央にそびえ立つ「終焉の塔」を覆うほどの天井がありましたが今は崩落しています。なので水面にガレキが沈んでいます。
・・・というのが世界観的な視点なんですが、天井を無くしたのは光が入ってブースを見やすくする為だったり、お椀型のワールドにしたのも巡りやすさを意識した結果のデザインです。
人間軍とロボット軍
これは人間軍「United Humans(ユナイデットヒューマンズ)」が搭乗していたクモ型戦闘ロボットです。現実世界のメルカバ戦車のように後方から乗り込みます。
現実世界にある国連旗のオリーブ葉を、DNAを意味する二重螺旋に変えたマークが目印です。この他にも戦闘ロボットはワールド各所にあります。
ここの高台にあるのはロボット軍の対空砲です。近辺には3機配備されていて、全て西の方角を向いています。
この辺りに転がってるのは人間軍の兵器と飛行ユニットの残骸です。
「西の方角から飛んできた人間軍を、ロボット軍の対空砲が迎撃した」というストーリーを込めました。
こちらはロボット軍「machine alliance(マシン アライアンス)」。
人間軍は異形のロボットに乗り、対するロボット軍はヒトの形をしたヒューマノイドというチグハグさがあります。
見下ろしているロボットはまだ戦闘の意思があって丸っこいロボットはほぼ機能停止している。2種類のロボットを置いたのは、それぞれに役割とここにいる意味を持たせたかったからです。
階段を上がると自分たちとロボットが相対するという導線なんですが、このロボットは負傷した仲間を守ろうと僕らを迎え撃とうとしているのかもしれない。
ということは、仲間を守る同胞意識のようなものがロボットにはあって実は人間とロボットはあまり変わらないのでは?という考察もできますよね。
――「役割と意味」がここのワンシーンに詰まっているんですね!
もちろんワールドの見栄えを一番意識してロボットやオブジェクトを配置していますが、「なぜここにあるのか?」「なぜこうなっているのか?」まで考察してみるとワールドも色んな見え方ができて面白いと思いますよ。
ここのエリアは特にストーリーを盛り込んでませんが、「ポストアポカリプスのラストシーンと言えば花でしょ!」っていうのが私の中に確立してたのでこうなりました。
何度かワールドを作り直していますが、ここは初期デザイン案からほぼ変わってません。
――花が咲いているエリアだけ変わってないってエモすぎる。
時代を思わせるデザインのPCがなぜか動いていますが、全てのストーリーや世界観に整合性があるわけではないです。私が置きたかったから置きました。
スターウォーズの監督ジョージ・ルーカスが「俺の宇宙では音が鳴るんだよ」って言ってたヤツですね。
画面に表示されているプログラムのような文字列はこの世界が崩壊した理由がざっくり書かれています。
簡単に話すと「人間が増えすぎたので“クリーンアップ”しましょう」「生きている人間をカウントし、結果はゼロでした」「動いている機械もカウントしたらゼロでした」「“クリーンアップ”完了」って感じで、最後の3155760000という数字は100年を秒に直した数字です。
「“クリーンアップ”が完了して100年経過したのがワールドエンドユートピアです。」という世界観の説明をワールドに明記したくて入れました。
すべては「ユーザー体験の為に」
――ここまで細かく設定をつくり込んでいたなんて思ってませんでした。
ワールドの制作フローに『背景や舞台設定を考えろ』というルールがあった訳ではないです。クリエイターの裁量で自由に作らせてくれました。
あくまで私がSF好きで設定を考えるのが好きだったので、ワールドエンドユートピアに関してはこうなりました。
――ブースを見てもらうVketワールドのメイン機能と、世界観に浸るコンセプトを両立させるのはとても難しそうだと感じました。
ストーリーが出展ブースの邪魔にならないようにエリアを分けています。ロボットが見下ろしてくるエリアや花畑には展示ブースが配置されてませんよね。
ブースをみてもらってからストーリーを間に差し込む、といった作りをかなり意識しています。
何より優先されるのはユーザーさんです。
出展ユーザーさんならブースをキチンと見てもらえること。来場ユーザーさんならブースが見やすいこと。それに反するならば世界観はガンガン切り捨てます。
Vket2023Winterで公開された『ワールドエンドユートピアreboot』は、ワールドの広さを0.8倍にして作り直してるんですが、それはワールドを小さくしてでも見えやすさや巡りやすさを優先したからです。
ユーザー体験の為に世界観がある。
これだけは絶対に守るように制作しています。
せっかくロボットや花畑のシーンを作ったんでストーリーを回収したいな~と思い『ワールドエンドユートピアreboot』では前日譚を舞台にして、2024summerで公開される『ワールドエンドユートピアRegrowth』でさらに補完ストーリーを描いています。
なので、ぜひVket2024summerに来てください!
――本日はありがとうございました!
コクリコさん
3Dクリエイター。「ワールドエンドユートピア」制作担当。家系ラーメンが好き。