2025年3月9日まで開催された、世界最大級のバーチャルフェス『Sanrio Virtual Festival 2025』(サンリオVfes 2025)。

3月2日、「B4 NEW WAVE PORT」を会場としたアーティストパフォーマンスにおいて、バーチャルYouTuber/クリエイターの『キヌ』さんのライブが行われました。

その内容は本当に強烈であり、なにより観客である我々を「焼いて」きた内容でした。でも、ライブ会場で感じた思いはそれだけの表現で留まるものではありません。
もっと語りたい……誰かとこの思いを共有したい……
そんな思いに駆られ、今回「バーチャルライフマガジン」スタッフの中でもキヌさんに対して熱い思いを持っているライター三名による座談会を開催しました。この記事ではその時の模様をお送りします。
目次
座談会出席者紹介
この記事は3月5日にYouTubeチャンネル【公式】バーチャルライフマガジン放送局内にて配信された座談会の模様を一部編集した上で記事化したものです。できる限り補足を加えていますが、話の内容には記憶違いなどの誤りも含まれている事をご了承ください。

今回のライブ、どう思った?

まずは、今回のキヌさんのライブについての感想というか「ライブを見てどんな思いを抱いたか」というのを皆さんにそれぞれ伺おうかなと思います。

毎年「どういうライブになるのかな」と期待して、絶対期待を超えてくるんですけど、単に「期待を超えてくる」というよりは「こういう表現になってこうなったんだ」みたいな驚きと、(過去のライブを通じて)変わらない「芯」みたいなものが確かにあって、続いているものがあるなという感想を持ちました。
……今年のライブについて、まだ何もまとめきれてないけどそんな感じですね。

ワーッて高まっていくと、(その感情を言葉として)出力するまでに時間がかかるんですよね。

ぼくがキヌさんのライブを見始めたのは2023年でそれ以前のライブの記憶はないわけですが、2023年以降で見てきた中で自然現象みたいなものを扱ったのって今回が初めて(※1)のような気がしていて。


※1「自然現象みたいなものを扱ったのって今回が初めて」:今回のライブにおいて雨や竜巻、炎のような自然現象を連想される表現が多く見られました。このような「具体的」ともいえる表現は過去のライブにはあまり見られなかった事です。

あと、剣のようなもの(※2)をキヌさんが振り回すパートがあったじゃないですか。ああいう具体的な「物体」を振り回すのも今回が初めてかなあと思って。なんというか「直接的な表現になって来たのかな」という感じはしました。


※2「剣のようなもの」:今回のライブ中、上の写真のような「剣」が光線を放ちながらライブ会場内を飛び回っていました。

キヌさんのライブって「自分の世界」というよりも「自分が見てきた『世界』に対する解釈」を表現として出している、っていうふうにぼくは受け取っています。
それを踏まえた上で感想を言うなら「そうだね、超わかるよ」って感じでしたね。「みんな船に乗りこみたいんだよね。そして嵐も来てるよね。そうだよね」という。

キヌさんの出演発表時に、ホームページにメッセージが出た(※3)じゃないですか。あの頃、ライターとしてやっていく中で精神的にぐったりしていたところがあったんです。本当にこれを読んだとき心に響くものを感じて。
※3「ホームページにメッセージが出る」:サンリオVfesのホームページには出演者の紹介と共に本人からのコメントが掲載されます。出演決定と同時に公開されたキヌさんのメッセージ(の一部)は以下の通り。
忙しい毎日や荒れ狂う世界に向き合い続けていると力尽きてしまいそうなときがあります。そんなときでもすぐそばに創作があって、手を動かし始めたらまた心に火が灯って、それが身体を動かす熱になるんだなと最近よく思います。この熱でまとわりつくもの全部焼き尽くして、その炎で未来を照らしていけるように、そして誰かの種火になれるように、精一杯パフォーマンスします!

そしてこのコメントを読んだ時点で「炎」が今回のライブのキーワードになるんだろうなと感じてたので「本当にそうきたか!」というのが第一の感想で。
それと(ライブ直前に公開された)リハーサル動画(※4)で2021年のライブでやっていた「voices」を見せていて、「同じ曲をまたやるのか⁈」と思っていたら実際にはその「エディット」版(※5)が披露されたという。

引用元:https://x.com/SANRIO_Vfes/status/1895843972871754159
※4「リハーサル動画」:サンリオVfesの公式X(twitter)で公開されていたライブ出演者の紹介動画のこと。0b4k3氏作曲の「voices(feat.kinu)」は2021年の(第一回)サンリオVfesの最初に披露された曲で、リハーサル動画での演出もその時のライブ(リンク先はアーカイブ動画)に近いものでした(結局リハーサル動画内で一瞬現れていた映像こそが『ライブ本編の演出』を示していたのですが)
※5「『エディット』版」:ライブ後に公開されたセットリストで今回のライブで演奏された「voices」は“torchlight edit”という別バージョンの楽曲であることが明かされています。

それに始まって、例えば細かい演出であったり、音であったり、言葉であったり、とにかく全部がキヌさんの過去のライブの「エディット」というか「リミックス」になってるな、というのは僕の中で感じてて。

それって「内省」だったと思うんですよね。単に「過去のライブを振り返って、それをちょっと混ぜてみました」という感じではなく、キヌさんの中で「残すところは残し、変えるところは変える」というアップデートを凄くやってきたんだろうなというのを感じてライブ中ずっとうなだれてました。……というのがもう一つの感想ですね。
ライブ内の「船」を通じて見たもの、感じたもの

一通り感想をいただいたので、ここからはいろいろと話していければと考えているのですけど……
「船」というキーワードが出てきましたけど、それについてどう思われますか?

最初に「船と蚕(※6)って深い繋がりがあるな」と思って。日本でも絹とか蚕を使った製糸産業があって、明治とか大正、昭和時代にかけて海外に向けて船で多く輸出されていて、今でも横浜方面に行ったら絹の道(※7)ってあったりするんですけど、そういうのを思いだして。
中ではなく外に向けて出て行く、という『出航の場所』だなっていうのを思いました。
※6「蚕(かいこ)」:カイコガとも。家畜化された蛾の一種で、蚕が作る繭から生糸を取ることが出来ます。そしてキヌさんは自らを「バーチャル野生のカイコガ」と呼んでいます(リンク先はキヌさんのYouTubeチャンネル)
※7「絹の道」:蚕の養殖が盛んだった八王子市と生糸の輸出拠点だった横浜市をつなぐ街道は「絹の道」と呼ばれています。 参考:其の七 世界とつながった絹の道|八王子市公式ホームページ

今回のライブ、今まで「行けない」と思ってたステージの側に何か橋がかかってるぞ、っていうところから始まってるんですよね。ライブが始まるとすぐに「
まもなく出航です、乗り遅れないようにご注意ください」みたいなアナウンスがあって……あの時僕らは急かされていたんですよね。


自分はさっき(『世界』に対する解釈がキヌさんのライブの表現として出ていると)言った通り「これと近い事象があるんじゃないか」と思いながらライブを見てたんだけど、「これ今のVR・メタバース業界じゃね?」って思って。

VRの業界って今まで市場になるかどうかわかんない、アンダーグラウンドなところがあって。それこそサンリオVfes2023の時(※8)は無料のステージで大々的な告知もなく開催されて口コミで評判が広まったところから始まって、2024年の「まわる、ひらく。」の時(※9)も会場は地下だったしまだ世の中にはそれほど知れ渡っていたわけではない。でも地盤は固まってきていて、そんな中で展開されたライブが「まわる、ひらく。」だったわけですよ。
いろんなものが回り回って外に開けていく、というのが「まわる、ひらく。」であって。「その次の舞台は屋外になるんだろうな」という気持ちはあったんです。
※8「サンリオVfes2023の時」:サンリオVfes2023において、無料スペースである「B4 CHILL PARK」にキヌさんを初めとしたクリエイター達が集結し、会場の床や壁を大きく壊すような大規模なVRライブを披露していました(その中の一つを常設ワールド化した『Beyond a bit – 想像のちょっと先へ』は現在VRChatのホームワールドでも紹介されています)。しかしサンリオVfes2025のような事前のライブ内容紹介は行われておらず、当日現地に行ったVRChatユーザーが「今日のB4でのライブ、凄いことになってる」と口コミで評判を広めたのが当日の状況だったそうです。
※9「2024年の「まわる、ひらく。」の時」:サンリオVfes2024でのキヌさんのライブには「まわる、ひらく。」というタイトルが付けられていました。また会場の「B4 FUSION STAGE」は屋根や壁のある暗めの空間であり、「港」をモチーフとした今回のライブ会場とは異なる雰囲気の会場でした。 参考:【VRChat】kinu 6th live “まわる、ひらく。”(ライブアーカイブ動画)


最近、これまで『VRChat』のことを知らなそうだったVTuberさんとか配信者さんとかが『VRChat』のことを触れたり取り上げたりする機会も増えて。これはもう「(VRの世界が)日の目を見た」と言ってもいいんじゃないかって思うんですよ。
最近BOOTHが58億円とかいうニュース(※10)もあったじゃないですか。VRの世界に人が集まって、市場としてみなされるようになって、企業もどんどん参入してきて。 「この流れに乗って成功したい」みたいな人たちがどんどん入ってきているような雰囲気を感じるんですよ。
※10「BOOTHが58億円とかいうニュース」:BOOTHが発表した『3Dモデルカテゴリ取引白書 2025』において、同カテゴリの一年間の取引額が58億円に上ることが報告されました。 参考:2024年の取引高が58億円超!!さらに注文件数が前年の約2倍!?BOOTHが『3Dモデルカテゴリ取引白書 2025』を発表 | バーチャルライフマガジン

だから船に大挙して、人が押し寄せて、乗り遅れないようにって。どこからともなく鳴り響くアナウンスに急かされて、僕たちは船に乗っていくんですよ。……「船」についてはそんな感じの解釈をしてますね。

今回キヌさんのライブは最後の方にあった(※11)じゃないですか。それまでの他のクリエイターさん達のライブでも船をモチーフにした演出は何度も見られていて、だからステージに橋げたがポンと掛けられているのを見て「船に乗っていいんだ」ってすぐに理解できたと思うんです。


左から夕月(ゆうづつ)ティア、ぽこピー×狸豆建設 の各アーティストのライブ時の写真
※11「ライブは最後の方にあった」:サンリオVfes2025のライブパフォーマンスは期間中の毎週末に行われ、WEEK1~3にかけて各出演者が1回ずつライブを行い、WEEK4に再度全出演者がライブを行う(一挙パフォーマンス)という形式で行われました。キヌさんの初回公演はWEEK3の日曜日に行われ、全出演者の中で最後から2番目の登場でした。

でも後になって考えると、あれって「君たちも舞台に立ってよ」って言われてるようなものだよな、って。
「あなた方は観客じゃないんだよ、私たちと一緒に舞台に乗ってよ」って言われてるような。わざわざ水兵服の格好した特別なモチポリ(※12)まで用意して「船に乗ろう」って言ってきた、というのは感じましたね。


※12「特別なモチポリ」:サンリオVfesのライブパフォーマンス観覧時には「モチポリ」というお餅をモチーフにしたアバターを着ることが必要です(会場内などで無料で入手可能です)キヌさんの今回のライブでは、水兵服などを着た「特別なモチポリ」(右側の写真)が提供され、着用できるようになっていました。
「焼ける」モチポリアバターってなんだったの?


ライブ中、「特別なモチポリ」には変化が生じていました。頭に網目状の焦げ目がついたり、服がボロボロになったり、体全体が黒く焦げたり。

写真右側に居るのはその中でも一番よく焼けたモチポリ……に扮したnusaさんです(ライブ直後にMakeAvaterでそっくりのモチポリアバターを作成してきたそう)

今回の「特別なモチポリ」について、「今回はこんな趣向で来たんだ!面白いなあ」と思ったのもあるんですが、同時に「なんでこんな表現をしたんだろう?」とも思ったんですよね。

ユーザーも含めて、ステージをギミックの一部としてより見える形にしたのかななと感じましたね。
モチポリの焦げ方にバリエーション(※13)があって、それが各人が受け取った感情の豊かさというか強さ具合を表現したのかなと。本当に測定してやってるわけでは無いとは思うんですけど。

※13「モチポリの焦げ方にバリエーション」:上に挙げた写真(ライブ終了後のもの)のように、「特別なモチポリ」の焦げ具合には個体差がありました。どのような技術を用いてこのような違いを付けることが出来たのかは不明です……。

観客も含めて(今回のキヌさんという)アーティストのライブなんじゃないかなって。感想としての焦げ方であり、感想があってあのライブは完成する、みたいに思いましたね。

そういえばX(twitter)で「たくさんの人と一緒に見ると面白いですよ」って言ってたよね(※14)。
焼き加減の差がどれぐらいあって、何か(焦げ方の違いが)分布してるっぽいのとかが比較できるんだよね。たくさんの人と一緒に見ると。1人で見たらできなかった。
※14「Xで(……)言ってたよね」:3月2日のライブ直前にキヌさんライブ制作チームの一員である「ねむり木」さんが「最高に楽しむために、(中略)・公式インスタンスでの大人数鑑賞がおすすめ!」とXに投稿しており、キヌさんもこの投稿をリポスト(リツイート)していました。

ちょっと確認が不十分な所はあるけど、あの場に居た全員が焼かれてたと思うんだよね。あれって「全員に熱は与えてる」って事だったんだと思うんだよ。受け手の相性とか感受性の関係があるからそれぞれ焼き加減は違うけど。
ライブの演出とか歌詞だけじゃなくて、そういう「自分の周りで起きてる現象」として観客のみんなにそのことを理解、というか感じてもらおうとしたんじゃないかなって思った。
このあと、座談会は「三曲目の『トーチライト feat.kinu』って(キヌさんの代表作である)『バーチャルYouTuberのいのち』を再構成したものだよね?」とか「近未来的な港を出た船が人工物が何もない島にたどり着いたのは、どんな意味あいがあったのだろう?」とか「過去のキヌさんのライブでも繭のモチーフは何度か出てきていたけど、今年のライブでは観客(モチポリ)も繭に見立てていたのではないか」……といった話題で盛り上がりました。
座談会開催の経緯と感想まとめ

キヌさんのライブについて、一度見ただけだと言葉とかを十分追い切れていないところがあって。そんな状態でこうしてしゃべってて申し訳ない、って思いもあるんですよね。
実は今回の座談会自体はライブの前から「やりたい」と思っていたことで、だからある程度はライブの内容を覚えるつもりで臨んだんですが……なんか気が付いたら終わってた(苦笑)「わーそう来たかそう来たか、わー……」ってなってるうちに終わってしまった感じだったんですよね。

今回の座談会も「僕たちはとても詳しいから教えてあげます」みたいな話じゃないからね。
もともと僕が自分の思いを消化するために内々の(「バーチャルライフマガジン」の運営スタッフのみが入ることの出来る)Discordのサーバーに長文の感想をバーと書いてて、それを見たきっどえーさんが「座談会しましょうよ」って言って来たからやった、という感じだもんね。

ライブの前から「3人で座談会したいですね」という話はしてはいたんですけど、ライブの翌日にゆーてるさんが長文の感想書いてるのを見つけて「(座談会を)やるべきです」ってなって。
「そういう熱い思いを記事として紹介したいから座談会しようって言ってるんです。やりましょう!」って言ったら「おう、やろう」って返ってきて。気が付いたら今日やることになったという。

実際のやり取り(Discordのスクリーンショット)がこちら。ゆーてるさんがライブ直後から深夜にかけて書いた長文の感想を翌日の昼にきっどえー(筆者)が見つけた、という流れになります。(3人の日程の都合もあり)このやりとりの2日後の夜に座談会開催&配信が行われるという急展開でした……。

情報共有というか「感想の共有」って感じですよね。3人でそれをやってるだけという。

でも話していて、「本当に三者三様の解釈があるんだな」と思いましたね。「船」の話一つとってもそうだったし。
本当にいろんな解釈が出来るものなんだよ(※15)というのは見ている人にもわかってもらいたいなと思いますね。
※15「本当にいろんな解釈が出来るものなんだよ」:キヌさんは自作解説を基本的に行っていません。ゆーてるさんに聞いたところによるとキヌさんは「作品を見て各々が気持ちを出力していく光景こそが作品としての完成」と話していたそうで、自由な解釈を妨げないために「作者の意図」をあえて言わないようにしていることがうかがえます。ですので、この記事に出てくる3人の話も「あくまで解釈の一つであり、参考に過ぎない」ことは改めて強調したいと思います。
「焼かれた」僕らはどうする?~ライター3名の未来への展望と目標~

一応まとまったところで、もう一つ僕が考えてきた議題について話をしていこうと思います。
……焼かれた僕らは、これからどうしましょうか?

(半年前の)「Nakayoku Creators」のCMでも「私の言葉であなたと歩んでいきたい」みたいなニュアンスの事を言ってたりはしてたんですが、今回は特に直接的に行動を促されてる気がしていて。
【Nakayoku Creators】×【キヌ(Kinu)】 コンセプトムービー(CM)のナレーション中に「わたしが紡いだ言葉の先に/あなたと描いた世界が見たい」という言葉があります(※14秒付近から、漢字などの表記は聞き取りを行った筆者によるもの)(以降の歌詞引用についても同様)

そうなんですよ、やんなきゃいけないんですよ。そういう使命感に駆られてるだけな感じはあるんですけど。

そうなんだよね。「より直接的に言われてる」というのは僕も感じてた。

最初の方でも「直接的な表現になった」という話はしていましたけど、そこまでされた自分たちはこの後どうすればいいんだ、というのは一回話し合いたいと思ってたんです。

そりゃあ、もう「眩い夜の中で冬を越さなきゃなんない」んでしょう。

「そういう物語」(※16)って事ですか。

……ちょっと待って、自分で言っておいてなんだけど、これ知らない人が聞いたら訳わかんないよ?(笑)
※16「そういう物語」:キヌさんの作品である『バーチャルYouTuberのいのち』において「だからこんな寒い日も生きながらえてゆける/これはそういう物語でしょう?」という一節があり、これを念頭に置いた返事でした。ただ、後日確認したところゆーてるさんの言った言葉は「バーチャルYouTuberのいのち」の歌詞の中にはなく、恐らく同曲に添えられた「それでもこの世界に生まれたからにはこれから何度も冬を越していかなきゃならない。」という言葉(動画の概要欄参照)と今回のライブ内の「こんなに眩い夜だから/一緒に燃え上がろう」という歌詞が組み合わさって出てきた言葉だろう、とのことでした。これだけ中身が違っても雰囲気で話が通じたのには我ながら驚きます……。
もっと外へ、世界へ~nusaの場合~

去年の「まわる、ひらく。」も含めての話になるんですけど、自分は『VRChat』内で活動している音楽アーティストの記事をよく書いてて、そのアーティスト達の輪の中にいる中で「次どうしたらいいの」っていう話が最近出てるんですよ。

去年の段階ではリアルでライブをどんどんやる流れになっていて、そのころに確かキヌさんが「私もめちゃくちゃそっちに行きたいけど行けなくて寂しい」みたいな話をしてたと思うんですよ。

去年公開された単独インタビューですね。

「寂しい、置いていかないで」からの「きっとまた会えるかな」(※17)だと思うんですけど。
リアルライブをやってきて、「この次の段階をどうしよう」という話を最近たまにするんですよね。そこで「新しい場所に行こう」って言ってるのが(キヌさんの)今回のライブだと思っていて、それが私の解釈の中では「世界」だと思ってるんですね。先週もEMN Recordsの“Blue Rondo”(※18)があって、あれも海外のアーティストさんが来てたり国際映画祭に出展した舞台を使ったりしていて。
そういう海外というか世界に向けて、というのも(キヌさんの)メッセージの中にあるんじゃないかな。
※17「きっとまた会えるかな」:サンリオVfes2024で行われたキヌさんのライブ「まわる、ひらく。」内の曲「羽を纂ぐ、空を超べ。」の歌詞に以下の一節があります。「この手を鳴らせば明日が始まる。/次はどんなあなたに会えるかな。//そのときは、一緒に飛べるかな。」 出典:「羽を纂ぐ、空を超べ。」の詩。|Haniwa/アメリカ民謡研究会|pixivFANBOX
※18「EMN Recordsの“Blue Rondo”」:座談会収録前の3/1にバーチャルミュージシャンのためのコミュニティ「EMN Records」の新ワールド「Blue Rondo」のお披露目ライブが行われました。「Blue Rondo」は去年6月に行われた国際映画祭のXR部門「RAINDANCE IMMERSIVE2024」で「Best Live Show」を受賞したライブセッションの舞台でもあり、お披露目ライブも(日本時間)土曜午後に開催し海外のアーティストをゲストに迎えるなど海外のユーザーを意識した内容となっていました。


(VRの)中の世界だけでパッケージできるのかっていうとやっぱりまだ難しい所があるから、外の世界と何か交流とか交易をしていろんな人を取り込んで、こっちからもいろんなものを出して、「貿易」みたいな形で経済を作っていこうみたいなのもあるのかな。
(キヌさんのライブにおける)繭であるとか蚕といった話の解釈の中にはそういうものも含まれるかもしれないって感じます。
自分の核を持って「眩い夜」を越す~ゆーてるの場合~

(さっき言った)「眩い夜」についてなんだけど、どこどこに出ていくとかそういう「絵面」は華々しいんだよね。でも僕たちがここ(VR)の世界だけで生きていく、つまり「冬を越す」にはまだまだ先が見えない。
だから「(眩い)夜」なんだろうね。華々しくきらびやかで、みんな生き生きと、キラキラしているように見えるけど、僕らはいまだに夜の中にいる、という。

(キヌさんのライブで)ビームで(観客を)焼いてきてるシーン、あれはなんていうか「創作をする人間とそれを受けた人たちの精神世界」を表してるみたいな気がしていて。
「表現をしていく」っていうのは先人たちの時代からずっとやってきたことで、そこは変わらないんだよ。 ただ、この世界を取り巻く景色はちょっと変わってきた。 天候も変わってきて嵐になって、いろんなものがかき乱されて大変なことになるかも知れない。
でも僕たちが何もないころから何かを始めて、今のバーチャルの世界が出来上がっていったこの流れは絶やさないで欲しい。多分そのために、「冬を越す」ためには、もうちょっと僕らは新しい自分のあり方を模索しないといけない、って気がするんだよね。


僕らが焼かれる一足先に、キヌさんの身の上が変わったんだよね。一番わかりやすい形だと(Nakayoku Creatorsという形で)外の世界にいる人たちの所で一緒に動くようになって、自分の肩書きが変わった。
『VRChat』の世界って、スーパーパフォーマーが一人で何とかしていく時代から連携の取れたチームでやってくように変わって、今では「1チームでやっていくのも厳しい」という見られ方がされているんだよね。
これからは団体とか企業とか、そういうところとタッグを組んでいかないと、みたいな感じになってて。実際、サンリオVfes2025のテーマも「コラボレーション」だよね。

色んな企業とかイベント同士がコラボしたりして、市場の規模もどんどん大きくなって色んな層にリーチするようになって。そんな「回って開いた」世界の中で起こるいろんな出来事に耐えていくためには、自分の核となる気持ちが必要というか。
「何かを生み出したい」「創作をしたい」「表現をしたい」という気持ちは大事なもので、そういう(気持ちを持った)人の動きが次の人を作っていったり、いろんなことを巻き込むのに繋がっていくから、ずっと抱いていようね、みたいな話のかなって。

なんか長くなっちゃってごめんね。
「焼かれた僕らはどうすればいいか」に対する僕の解釈というか回答は「自分の再構築をし直して、冬を越します」になるのかな。
自己反省しつつ「やっていく」しかない~きっどえーの場合~

ライブを見て「きっどえーはどうするんだ」と考えた時に思ったのが、これはゆーてるさんの話と近いものがあると思うんですが「やってくしかねえな」と。


キヌさんの今回のライブって、過去のライブの要素を全部組み替えてリニューアルしていろんな要素も加えて、とにかく自分の過去にやってたことを再構築してきたわけじゃないですか。結局(表現の)行きつく先はそこなのかな、って。
自分に無いものを次から次に出すことは出来ない。でも、開き直るのではなくちゃんとアップデートしなきゃ駄目だよなと。ライブを見てるときにも「自己反省」という言葉が浮かんでて、自分自身を見つめ直して「自分はこれでいいのか」「もっと良くならないのか」みたいな自己反省を継続してやってくしかないのかな、というのは思いましたね。
今迎えたばかりの「2回目の春」で自分は何をすべきか~nusaの場合その2~

私はゆーてるさんとは違う解釈のところがあって、私の中では「冬」を越えたあとなんですよね。去年夏にVRChatのブームがあって、色んなアーティストさんとかユーザーさんがやってきて、とにかく凄く人が増えた感じがするんですよね。だから冬の時代はもう過ぎたんじゃないかと思ってて。
でも「(冬を過ぎて)春になって何をするの」という話なんですよね。もう2回目だよ、1回目だったら「新しい環境に慣れないと」で済んだかもしれないけど、という。

キヌさんが2021年のサンリオVfesの時にキズナアイちゃんの話題を出していた(※19)じゃないですか。そのすぐ後にキズナアイちゃんは活動休止して、今年復帰した(※20)。だから私は2021年の末ぐらいから冬の時代が始まっていて、今年明けたように感じているんですよね。
※19「キヌさんが2021年のサンリオVfesの時にキズナアイちゃんの話題を出していた」:2021年12月開催のサンリオVfesで行われたキヌさんのライブ「コネクト」の中に「2017年/アイちゃんや/のじゃロリさんや//たくさんの輝きに触れ/私はリアルとつながれた」という一節があります 参考:【VR Live】kinu 3rd live “コネクト” – Audio Edit –
※20「そのすぐ後にキズナアイちゃんは活動休止して、今年復帰した」:キズナアイさんはサンリオVfesの約3か月後である2022年2月26日にスリープ(活動休止)に入り、3年後の2025年2月26日に音楽アーティストとして活動を再開しました。 参考:おかえり。KizunaAIが目覚めた日。 | バーチャルライフマガジン

それで「2回目の春」になにをしよう、という話になるんですけど。キズナアイちゃんが音楽アーティストとして(海外も視野に入れた)活動をしていくという話もしてましたし、私もちゃんと英語を覚えようかなって最近思っているんですよね。

VRイベントの世界で、日本のアーティストが海外のイベントに呼ばれることは結構多くなってきたけど、海外のアーティストを日本のイベントに呼ぶことってあんまりないような気がするんですよね。『VRChat』の中だと特に。
そういう事をやっている所は『VR Japan Tours』(※21)とかがあるとは思うんですけど、私の中では、自分が何か語学力を身につけるなりAIを活用するなりして海外のアーティストと“コネクト”して、日本のライブイベントに海外のVRChatアーティストを呼ぶような事をしたい、というのは考えてますね。
※21「VR Japan Tours」:海外向けに日本文化や日本のVRアーティスト・パフォーマーを紹介する活動を行っている、日本在住メンバーによる『VRChat』内グループ。 参考:海外の『VRChat』ユーザーに日本の文化とVRアーティストを体験して好きになってもらいたい。日本在住のメンバーによるグループ『VR Japan Tours』のリーダーに話を聞いてきました。 | バーチャルライフマガジン
これからも三者三様で「やっていく」

正直僕はよくわかんないんですよね、季節が冬なのか春なのか。
キヌさんが2023年に「はじまりのおわり」(※22)って言って、その次の年の「まわる、ひらく。」ではそれに続く時代の話をしてる、とは感じてたんです。でもその年の夏にVRの世界に人がワーっと増える出来事があって、もう「はじまりの次の時代」ですらなくなった、と僕は思ってます。
※22「はじまりのおわり」:2023年のサンリオVfesにおけるキヌさんのライブには「はじまりのおわり」というタイトルが付けられていました。 参考:【VR Live】kinu 5th live “はじまりのおわり”

VRの世界はまだまだ良くなっていくのかもしれないし、何か大変なことが今後起きるのかもしれない。どうなるのか分からない、そんな思いでいますね。

補足したいんだけど、ぼくが「冬」って言ってるのは『生活』の部分なんだよね。
この(VRメディアとしての)活動をずっとやっていけるのか、この活動で食べていけるのか。そういう意味では夜であり冬なんだと思ってる。

……でも面白いよね。同じ「冬」という言葉に対して、こんなに解釈が違うものなんだ。

そうなんですよね。同じキヌさんのライブを見て、「世界に広がっていく」話が出てくると同時に「冬」とか「眩い夜」に着目した話も出てくるわけですから。「これだけ違うんだ」というのは自分も感じましたね。
物の見方とかが人それぞれ違うのは当然で、それは良いことだと思うんです。問題はそれでもなお「やっていくしかない」事なんで……。

そういえば(バチャマガ運営の)Discordで見かけましたけど、ライブ直後にキヌさんとお会いしたときに「やってき~~」って言って写真を撮ったそうですね?


その時、先に僕の方からキヌさんに「これからやっていきますね」みたいな話をしてたのよ。最初にも言ったけど、僕は「キヌさんが見た世界の観点がライブの表現として出ている」と思っていて、それを見に行った後に「今年のテーマはこれか」という風に感じてそう言ったんだよね。
2023年のサンリオVfesの時からそうなんだけど、「(次は)お前の番だからな、腹くくれよ」って言われてるようにしか思えなくて。

僕も2023年の時から見てますけど、確かに毎回そう言われてる気がする。

「これから、お前はどうする」なんだよなあ……
座談会を終えて

以上、バチャマガライター3名による「キヌさん座談会」の模様をお届けしました。
ライブの内容について、そしてVRの世界に対する解釈と展望について、3名がそれぞれ違う考えを持っている一方で全員が熱い思いで語っている、と座談会の内容をまとめていて感じました。
そして、ここまで人を熱く語らせる(本座談会は1時間半に渡って行われ、本記事では更にその一部を割愛して紹介しましたが、正直まだまだ語り足りない気がしています)ものがサンリオVfesに、そしてVRの世界に有ることが読者の皆さんに伝われば良いと思っています。
それがキヌさんのライブに身体を、そして頭を「灼かれた」ライターの切なる思いです。
おまけ
座談会の最後に、配信に寄せられたコメントを読んでいたときの会話より。

座談会の告知ツイート(ポスト)に「混ぜてくださいよ」って引用コメント寄せてくれた方も居まして。なんかすみません……

X見てたら、この配信を見てるインスタンスが建ってるみたくて。「座談会の座談会」みたいな。

(笑)
その時の投稿がこちら。キヌさんやキヌさんのライブ制作に携わった方などが集まり、最終的に10人以上来ていたらしいです……


ほんますみません!!(※23)
※23「ほんますみません!!」:きっどえー(筆者)は興奮すると「なんちゃって関西弁」が出ます。……それはさておき「自分が大きく影響を受けたクリエイターの事をライター2人と共に語り合い、それを生中継する」という趣味丸出しの行為にここまでの反応を貰えたことは嬉しいと同時に恐れ多いことだとも感じています(なお、この時点できっどえーは「座談会の座談会」を開いているのがキヌさん自身であることを把握していませんでした。それでもこのリアクションです……)本当に、本座談会の配信を見てくださった方、そしてこの記事を最後まで読んでくださった貴方に心から感謝いたします。この記事が貴方のどこかに火を灯すことになればそれ以上の喜びはありません。
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nusa
VR空間における音楽活動を中心に活動しているライター・イベントスタッフ・クリエイター。
2019年に行われたキヌさんの1stライブの配信をリアルタイムで見ているなど、活動初期からキヌさんを追ってきた経歴の持ち主。
ゆーてる
「バーチャルライフマガジン」二代目編集長。
編集長「代理」時代のサンリオVfes2023で観たキヌさんのライブに強い感銘を受け、それ以来のファン。
きっどえー
「バーチャルライフマガジン」ライター。本座談会では進行役も務める。
サンリオVfes2023でたまたま観たキヌさんのライブに衝撃を受け、そのことについて書いたブログ記事がきっかけでライターになった(詳しいいきさつは昨年掲載のコラムを参照)