読者のみなさんは、VRを通じて海外(主にアメリカやヨーロッパ)の人たちに日本文化を紹介している日本の『VRChat』グループが存在していることをご存知でしょうか?
そのグループの名は『VR Japan Tours』。今年春(2024年5月~6月ごろ)に『VRChat』のメニュー画面に掲示されていたバナーでその名前を見かけた方も居るかもしれません。
このバナーは『VRChat』の運営元が“Community Spotlight”(『注目のコミュニティ』)として取り上げたものであり、『VRChat』のX(旧twitter)の公式アカウントでも『VR Japan Tours』は何度も紹介されていました。
また、『VR Japan Tours』は2023年にイギリスの国際映画祭『レインダンス映画祭』のXR部門『RAINDANCE IMMERSIVE』の『Best Immersive Experience』賞にノミネートされています。
『VR Japan Tours』の副代表であるりばたん(RiberTng)さんがこのノミネートに合わせて現地ロンドンに赴き、映画祭の会場でプレゼンテーションを行った(!)体験談を『バーチャルライフマガジン』に寄稿してくださっています。この記事で『VR Japan Tours』を知った読者の方もいるかもしれませんね。
このようにさまざまな活動を行っている『VR Japan Tours』ですが、海外ユーザー向けの活動が中心であることもあり、日本でその内容を詳しく知っている人は少ないかもしれません。
そこで今回、『VR Japan Tours』のリーダーであるLambSun(らむさん)にインタビューを行い、グループの発足経緯や活動内容、メンバーの詳細などについてお話を伺ってきました。よろしければ最後までご覧ください!
(インタビュワー:翡翠ミヅキ、カメラマン・取材補助:trasque、寝る間をオシム )
目次
『VRChat』が英会話学校の代わりだった⁈LambSunの英会話遍歴
――LambSunが『VRChat』公式のポスト(ツイート)で話されていたのを見ましたが、かなり流暢な英語を話されていましたね。元々から英会話のスキルは持っておられたのですか?
大学受験のために英語を勉強はしてましたが、それ以上の語学留学とかをした事は無いですね。基本的に英会話は『VRChat』で学んだという感じです。
――イベントを始める以前に、海外の方と交流するきっかけがあってそこで英語を覚えたということですか?
その通りです。『Japan Shrine』って『VRChat』を始めた(日本の)人はみんな迷い込んだと思うんですけど、他の人が『JP hub』とかそういう所に行く中で自分は『Japan Shrine』に居ついちゃった人間なんですよね。
※『Japan Shrine』:直訳すると「日本の神社」。昔の『VRChat Home』には日本語話者向けのワールド紹介が無く、このワールドへのポータルが唯一の「日本っぽい雰囲気の場所」への導線でした。
※『JP hub』:日本語話者向け集会場ワールド。現在は『日本語話者向け集会場「FUJIYAMA」JP』が同様の目的をもつワールドとして人気。
最初は「自分の趣味の事を英語でどう説明すればいいんだろう」という所からネットで調べてそれを実際に『Japan Shrine』で外国の人に話して、みたいな事を繰り返してうちに話せるようになった感じですね。
『VR Japan Tours』のメンバーは?
――『VR Japan Tours』とはどのような団体なのかについてお聞きしたいのですが、これはLambSunをはじめとする日本人が海外の人向けにやっているイベント、という事になるのでしょうか?
そうですね。スタッフは殆ど日本人でして、アメリカの人も一人居るのですが彼も日本で長い間英語教師をやっておられるので“日本在住のメンバーで作っているイベント”と言えます。
――メンバーにはどのような方がおられるのですか?
私以外ですと、HayaTikazeさんという『VRChat』で海外の人向けに日本語を教える講師活動をずっとやっていた方でしたりとか、Sheena_baobabさんという歌手活動を日本でやってる方ですとか。あと、食料品を輸出する会社に勤めているサラリーマンでしたり、そういったメンバーで構成されています。
“全員英語で話すことが出来る”というのが共通点になりますね。
――すごく多彩ですね。LambSun個人の人脈であったり呼びかけがあってこのようなメンバーが集まったのでしょうか?
私と、元々私の友人だったHayaTikazeさんの二人で『VR Japan Tours』を立ち上げて、そこからどんどん大きくなっていった感じですね。
“英語を喋れる日本人”ってあんまり居ないんですよね。友達の友達……という感じで辿っても条件に合う人はなかなか見つからなかったので、X(twitter)で公募をかけたりして。そうやって集まったのが今のメンバーですね。
活動内容について
――『VR Japan Tours』として、どれぐらいの期間活動されているのですか?
去年(2023年)の3月ぐらいに発足しましたので、一年ぐらい経った事になりますね。
※インタビューは2024年5月に行われました。
---3週間に1回のペースでイベントを開いているとお聞きしていますので、今までに15~16回ぐらいイベントを開催してきたという事ですか?
最初は5週間に1回のペースで開催していましたけど、ツアーではない小規模なイベントも含めればそれぐらいは開催したかな、という感じですね。
過去のイベント内容について
――過去のイベントの内容について、yoikamiさん達が演舞を披露したりしている動画が公開されていますが、具体的にどのような感じで『VR Japan Tours』のツアーイベントは行われているのでしょうか?
イベント前半は“体験型の日本文化教室”
大体1時間半ぐらいのイベントなんですけど、まず参加者の皆さんで集まって文化教室みたいなものを開くんですね。
これまでの例ですと、毛筆ギミックのあるワールドで「漢字の書き方を勉強してみましょう」と言って漢字の書き方をリアルタイムで海外の方に教えたりとか、日本の学校を再現したワールドに行って日本の学校の雰囲気を紹介して、みんなで“朝の会”をやってみたりとか。
そういった体験イベントをやると結構良い反応が返ってきますね。
――“日本の学校”って海外の人たちからすればファンタジーですものね。
彼らにとっては“アニメの中にしか存在していない世界”ですからね。
アメリカ人のスタッフから「これは日本の学校にしかないと思う」という話を聞いて、イベントの内容を変更したり実際に体験してもらったりしました。“朝の会”の他に「起立、礼、着席」をみんなでやったり。
海外の方も学生服やセーラー服だったり、ブレザーを着てイベントに参加されていて。そこで「日本の学校ってこんなところだよ」といって説明する感じでしたね。楽しかったです。
『VR Japan Tours』ではこの他、銭湯やコンビニエンスストア、居酒屋を再現したワールドなどを会場にして体験型の日本文化紹介イベントを開催してきました。
イベント後半は舞踏パフォーマンスをみんなで鑑賞
結構盛りだくさんな内容なんですけど「世界のどこからでも日本を楽しめるようにしよう」というコンセプトでやっています。
サブイベント『World Voyage』
“日本文化”と“日本のVRアーティスト”を海外に紹介したい!イベントの開催理念
「世界のどこからでも日本を楽しめる」のほかにもう一つ「世界の人に日本のVRアートを発信していく」というのが『VR Japan Tours』の活動理念としてあるんです。
カソウ舞踏団さん達は本当に素晴らしいダンサーなので、「そういった方たちをもっと世界の方に知ってもらいたい」という思いでダンスの場を提供していますし、もっと言えば『World Voyage』などで日本の素敵なクリエイターが作ったワールドを紹介することによって、より多くの方々に日本のアートを楽しんでもらいそしてファンになってほしい。そんな願いを込めてイベントをやっております。
---ただ体験してもらうだけではなくて、本当に日本の文化に直に触れてもらって『日本にはこんなものがたくさんあるんだよ』と知っていただく、という感じなのですね。
そうですね。そして最終的には日本のアーティストのファンになってもらおうと思っております。
――日本と海外のユーザーの間には結構“壁”みたいなものがあると思うんですよね。VRの世界は距離感が近いですが、近いからこそ関わりづらい所があるというか。そういう意味で、海外の方に日本の文化やアートへの興味を持ってもらえているというのはとても嬉しく感じます。
そこは『VR Japan Tours』を発足した当初から気になっていたことでして、「日本の風景再現とかフォトグラメトリ(実際の写真を元に構成した3D)のワールドはたくさんあるのに、それが日本の事が好きな海外の方にあまり届いてないんじゃないのか」と思っていたんですよね。
フォトグラメトリのワールド内に英語の説明文があったりですとか、海外の人でも楽しめる工夫はされているはずなのですけどそれが上手く伝わっていってないんじゃないか、ということは海外の方と遊ぶ中で凄く感じていましたね。
(『VR Japan Tours』を通じて)より多くの、日本の文化に興味を持っている海外の人に向けて発信をしていきたいと思っています。そうする事で“壁”を越えて行けたらなあと。
海外の『VRChat』ユーザーはどうやってイベント情報を得ている?
――バーチャルライフマガジンとして日本のイベント主催者の方などにお話を聞く機会は多いのですが、『VR Japan Tours』さんのように日本の方が海外のユーザーを対象にしたイベントを開いているケースは珍しいです。
以前から気になっていたのですが、海外のユーザーの方は『VRChat』内のイベントに参加する際、その情報をどうやって得ているのでしょうか?日本だと『イベントカレンダー』のような外部サイトを用いて日本語話者向けのイベントにたどり着くことが出来ますが。
そこは(イベント主催側として)結構難しい問題でして、まずイベントのDiscordサーバーに入ってもらう必要があるんですよ。
海外にも一応イベントカレンダーみたいなものが作られてはいるんですけどそちらはメインで使われていなくて、Xだったり口コミで「こういう面白いイベントコミュニティがあるよ」というのを知ってコミュニティのDiscordサーバーに入って、そこで告知される開催情報を元にイベントに参加するという流れなんですね。
「まずイベントコミュニティを知ってもらう」事が海外では主流だと聞きます。
――それだとイベントを始めるとき物凄く大変なのでは?
大変でした……(苦笑)
それでも幸運に恵まれまして、2023年4月にテスト開催として『第0回』のツアーを行った時に参加者の方がイベントの面白かった場面を動画にしてRedditという海外のSNSに投稿してくれたんですよね。
Redditには匿名掲示板の『〇〇板』のようなシステムが有って、そこの『VRChat板』に投稿された結果、結構バズりまして。一気に200人とか300人ぐらいの人が『VR Japan Tours』のDiscordサーバーに入っていただきました。
ですので、イベントの広報活動について最初悩んでいた時ほどは苦労しなくて済みました。
---海外ではイベントカレンダーのような仕組みが整っていない分、そういったSNSを用いた情報収集を活発に行っている感じなんでしょうか?
そうかもしれないですね。海外の方って“イベントに参加する”という遊び方というよりはパブリックのワールドに行ってみんなと話して仲良くなるという遊び方の人もけっこう多いですし。本当に多様ですね。
『VR Japan Tours』の今後の活動予定について
――今後の『VR Japan Tours』の活動について、目標や夢などがあればお聞きしたいです。
「世界のどこからでも日本を楽しめるようにする」というのを一つ目のコンセプトとしてやっていますから、これからも日本を紹介するツアーを継続的にやっていきたいと思っています。イベントの頻度を増やしたりだとか、体験できる日本文化の種類を増やしていきたいとも思っていますので、いろんなワールドクリエイターの方と協力して、もっと多様な日本文化を楽しんでいただく機会を設けていきたいです。
もう一つ「日本のVRアーティストを海外に発信していきたい」という目標に向けた活動を充実していきたいなと思っています。去年のレインダンス映画祭でも実際にスタッフの1人がイギリスに行って会場にブースを出させていただいて日本のVRアーティストを紹介する、といったことも行ったのでこういった活動を今後も行っていきたいです。
現在も今年(6月開催)のレインダンス映画祭に作品登録をしていた日本のVRアーティストの方々の支援を『VR Japan Tours』のスタッフが行うなどの活動をしていますので、これを充実させてもっともっと日本のVRアーティストが海外ファンを獲得するお手伝いをさせていただきたいと思っています。
2024年6月に開催された『RAINDANCE IMMERSIVE 2024』の“Best Dance Experience”部門にノミネートされた『カソウ舞踏団』の『Shiro: four seasons』(邦題:白無垢世界 剣舞四季)を例にすると、作品のクレジット欄において“Interpreter(通訳)” “Public Relations(広報)”にりばたん(RiberTng)さん、“clerical work(事務)”にHayaTikazeさんなど、『VR Japan Tours』のスタッフが裏方として参加しています。
これは夢に近いですけど、海外の方も、例えばイギリスだったらイギリスの文化を日本の方に知ってもらうイベントを作ってもらったり、アフリカの方とか世界中の方がこういった(自国文化を外国人向けに紹介する)活動をVRで行うようになれば世界中の文化がVRを通じてリアルに楽しめる、そんな世界になっていけばいいな、という風に思っています。
インタビューを終えて
「VRが、インターネットが有れば自宅に居ながら世界中の人と繋がることができる」とは言われますが、インターネットを介した国際交流はそこまで盛んではないように筆者には思えます。日本語以外の言語を日常で使う機会のない人が多い日本において、国際交流における“壁”が欧米各国に比べて高い事がそう感じる理由の一つかもしれません。
そんな中、日本在住のスタッフが英語で日本文化の紹介を行う『VR Japan Tours』の取り組みはその“壁”を下げる効果があると思いますし、日本のVRアーティストが『VR Japan Tours』を介して海外に紹介されることにより、VRにおける創作活動がさらに活性化される可能性があるように思えます。
日本と海外のユーザーの間の“壁”を乗り越え、相互理解とVR世界の更なる発展に向かって活動を続ける『VR Japan Tours』を、これからも応援していこうと思います。
Discord: https://t.co/bTqfFcJXWm
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LambSun(らむさん)
X:x.com/LAMBsunsun
『VR Japan Tours』リーダー。グループ全体の運営方針の決定やイベントの監督などを行っている。
『VRChat』内で遊んでいる中でイベント活動に興味を持ち、『理系集会』(現在無期限の活動休止中)に参加するようになったのがイベント運営を始めるきっかけ。