
VRChatのワールドに入った瞬間、棚に並ぶバーチャルCDを手に取り、ジャケットを眺めながらそのまま再生──。
そんな“みんなで聴ける音楽体験”を可能にする共通規格「VRCD」が誕生しました。
VRCD開発者・ひぐちこーきさんと、VR音楽ヘビーリスナーのnusaさんが
「なぜ今CDなのか?」「布教しやすい設計とは?」を語り合います。
サブスク全盛の時代に、VRChat内で“触れる・語れる・シェアできる”音楽体験はどこまで広がるのか──。
その誕生秘話を【前編】で深掘りしていきましょう!
開発動機:“手に取れるCD” をVRに
――では始めにひぐちさんから、簡単に『VRCD』のご紹介をお願いできますか。

ひぐち:『VRCD』は、バーチャル空間でCDを手に取って再生するあのワクワクをそのまま再現したVRC想定の音楽ギミックです。VRChat内に専用プレイヤーを置くだけで、好きなVRCDを挿し込み、ジャケットを眺めつつ曲を流せます。
スキップやシャッフル、歌詞表示などを備えていて、しっかりと音楽が楽しめるような作りにしました。いわば“バーチャルCDを手に取って聴く”ような感覚を体験できます。
ワールド内に複数のVRCDを並べて、好きな音楽を切り替えて聴いたり、友達と一緒に
「この曲いいね」と話したりできます。
――ありがとうございます。
nusaさんも実際にVRCDを体験されましたが、印象はいかがでしたか?
nusa:歌詞カードが表示されたり、オーディオリンクも組み込まれていて「VRChatらしい」仕掛けが効いていると感じました。
その中でもリアルの仕組みが自然に溶け込んでいて、音楽を聞くっていう体験として、
やっぱりこれがシンプルだけどいいかなっていう原点みたいな感じがありました。

――今“原点”というワードが出てきましたが、
そもそもひぐちさんがVRCDを作ろうと思ったきっかけはなんですか?
ひぐち:作ろうと思った理由はシンプルで──僕自身が“欲しかった”からなんです。
リアルとバーチャルの両方で活動していますが、バーチャルを始める前にはリアルCDも作っていました。
ディスクのレーベルやブックレットには物語性や世界観を込められる。
ケースやジャケットをデザインし、手に取る瞬間まで含めて作品を作り込む。
あの体験をVRでも再現したかったんです。
だから制作の原点は、やっぱり「CDの魅力をVRに持ち込みたい」という一点でした。
――なるほど、CDで音楽を聴く体験をバーチャル空間でも再現したい、というのが出発点だったわけですね。
サブスク全盛の今、物理CDが愛され続けている
――とはいえ今は、CDやMD、レコードといった“アナログ”よりも、サブスク配信やYouTubeで聴くのが主流になりつつありますよね。
ひぐち:今は“サブスク全盛”と言わざるを得ませんよね。とはいえ、サブスクが100点でCDが0点かといえば、決してそんなことはないと思っていて。
たとえばVRの音楽シーンにおいても、即売会が盛んで──そこでは物理CDがいまだにしっかり売れているんです。結構nusaさんも即売会に多く行かれてますよね?

nusa:夏・冬の「VketReal」しかり、昨年から音楽勢も参加し始めた「Vライフ!」
直近だと大田区産業プラザの「出張版!VRCくりえいてぃ部」もありました。
リアル・バーチャル問わずイベントが本当に増えていますね。
ひぐち:そうした現場が示しているのは、「物理CDにしかない良さ」が確かに残っていることだと思います。ケース、レーベル面、ブックレット……ページをめくるたびに世界観を奥行き深く表現できるのはCDならでは。
サブスクだとジャケット画像は1枚に収まりますが、CDならもっと多層的にストーリーを込められる。だからこそ、VRの中でも“手に取れるCD体験”を復活させたい──それがVRCDを作った大きな理由なんです。
実際にオデガさん(OFFICE DESTRUCTION GIRL)はCDとして奥行きのあるデザインで作っていました。こういったデザインはVRCDならではの表現だと思います。

(楽曲リンク:https://booth.pm/ja/items/6864905)
nusa:CDの蓋開くときって、CDの下って何になってんだろうってちょっとドキドキわくわくしますよね。
ひぐち:これこそCDならではの体験ですよね。
リスナーから見たVRCDの魅力と“布教力”
――ここまでひぐちさんには、アーティスト目線でCDの魅力──作品に物語や情報を重ねられる点を語っていただきました。
では視点を変えて、リスナー側のnusaさんにお聞きします。
物理CDを“オブジェクト”としてVRワールドに置き、手に取って再生できる環境について、聴き手としてはどんな価値や面白さを感じますか?
nusa:CDがワールドに置かれていて手に取れる環境は、何より“布教”がしやすいんですよね。
私も気に入ったタイトルは物理CDを3枚4枚と買って配ることがあります。
たとえば実家の車で──「これVRバンドの曲なんだよ」って流してみたり。
そうやって友だちや家族に勧めやすいのは、やっぱり“モノ”として存在している強みだと思います。

nusa:もう一つ大きいのは、YouTubeのレコメンド動画とは違って、アーティストを深く知る入口になること。
CDを手にすると、歌詞カードやブックレットを自然と読み込みたくなるじゃないですか。
ケースを開いて「どんな世界観なんだろう」と近づいて見る──その体験がファンになるきっかけになるんです。
VR空間であっても、目の前にオブジェクトとしてCDがあるだけで、そういう
“じっくり向き合う時間”が生まれる。だから聴き手としても、とても魅力的なフォーマットだと感じます。
ひぐち:“布教”――それ、まさにVRCDを設計するときに大事にしたキーワードなんです。言葉にしてもらえてすごくうれしいですね。僕が目指したのは、「これいいよね!」とその場で盛り上がって、そのまま友達に手渡せるCD体験をVRでも再現することでした。
だから、手に持てるポータブル・プレーヤーを用意しました。
歌詞ビューワーでは各々がページ送りやスクロールを自由にできるようにして、
1行前に戻って“あのフレーズ良かったよね” とみんなで語れる仕組みにしています。

後編では、実際にVRCDを使っている
「Coconuts Miilk」と対談!
ひぐちこーき、nusaに加え、VRCDをリリース初期から愛用するVTuberユニット Coconuts Miilk(ゆめ心中/なしろみい)が参戦!
ホームワールドでの活用例、シングル+VRCDセットを作ってみた制作舞台裏、そして「次はこんな機能が欲しい!」と語るアップデート要望まで──ユーザー視点でのリアルなフィードバックを中心に掘り下げます。
アーティスト・リスナー・クリエイターの三者が交わることで見えてきた、VRCDの現在地と未来図。続きは【後編】で!
全体監督・記事作成:ひぐちこーき
進行管理・ディレクター・記事作成補佐:SousiNagi
司会進行・記事作成補佐:伊達焼き屋
対談出演:nusa
撮影ワールド:【Two】星空の音楽箱 ~Music Box of the Starry Sky~ By SousiNagi https://vrchat.com/home/world/wrld_f271bf54-9bac-4472-a04b-6758630143a6/info
VRCD撮影協力:Good morning cumin Senpai EP (DEMO) / OFFICE DESTRUCTION GIRL(楽曲リンク:https://booth.pm/ja/items/6864905)
投稿者プロフィール

ひぐちこーき(@higuchi_dayoV)
VRとリアルで音楽活動をしています。VRCDをつくりました。
nusa(@nusa_voca)
VR音楽イベントに出没するリスナーです。好きな音のなるほうへ、気ままにVR生活を楽しんでいます。
伊達焼き屋(@Metananimo)
本インタビューの司会を担当。