VRデバイスの低価格化に加え、社会情勢による巣ごもり需要の拡大などにより、盛り上がりを見せているソーシャルVR/メタバース。「VRChat」は、複数存在するソーシャルVRサービスの中でも特にユーザー人口が多い、代表的な存在です。本連載では、VRChatの最新トレンドを、日々10時間以上同サービスに浸かっており、NPO法人公認VR文化アンバサダーとしても活動しているアシュトンが伝えていきます。
目次
VRChatで急増する「フルトラ」人口
みなさん、「フルトラ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。「フルボディ―トラッキング」の略称で、アバターをリアルの全身の動きに対応させる技術のことを指す。VRChatは通常、VRモードでプレイする場合は、VRゴーグルと両手コントローラーの3点で身体の動きを測定し、アバターの身体表現を行う。これに加え、腰と両足の3点にトラッカーを付け、下半身の動きまでを表現することを「フルボディ―トラッキング」略して「フルトラ」と呼ぶ。
最近、VRChatをプレイしていて、フレンドが次々と「フルトラ」ユーザーになっていく、周りを見渡しても確実にフルトラユーザーが急増していっているように感じる。そう、HaritoraXの台頭だ。もともと、izm氏が個人プロジェクトとして手掛けていた「Haritora」を、パナソニックの子会社であるShiftallが共同制作し量産型として現在予約販売を随時開始しているこの「HaritoraX」(関連記事)。「フルトラの民主化」を標榜していただけあって、現在フルトラはVRChatユーザーの中でかなりアツいトピックだ。
そこで、筆者はこの「HaritoraX」のユーザーであるはすきぃさん、18cmさんに加え、同じく現在注目を集めている新フルトラデバイス「Uni-motion」のユーザーである桜月さん、そしてこれまでのフルトラ界を牽引してきた「VIVE Tracker」シリーズのユーザーであり、VRプロアクターチームとして、フルトラを活かした数々のパフォーマンスをこなしてきたカソウ舞踏団のメンバーであるyoikamiさん、tarakoさん、えーすけさん、kouaさんの計7名をゲストに招き、「HaritoraX・Uni-motion・VIVEトラッカー VRChatユーザーに聞く「フルトラ」の魅力とは!」と題したYouTube配信を行った。
配信を通してユーザーの生の声から感じたのは、もしかすると、フルトラには世界が違って見えるほどの力があるのかもしれないということだ。今週の週刊VRChatでは、この配信の内容をベースに今アツいフルトラについてお伝えしていく。
VIVE Tracker・HaritoraX・Uni-motion 各トラッカーを徹底比較!
まず、現在主流のフルトラデバイスは大きく分けて2つの方式が主流となっている。「赤外線式」と「慣性式」だ。「赤外線式」は、ベースステーションと呼ばれる赤外線を放射する装置を部屋に設置し、その赤外線をトラッカーが検知することで座標情報を送る方式だ。空間における位置を計測しているため精度が高い傾向にある。
難点としては、「VIVE Pro」「Valve Index」などもともとベースステーションを必要とするアウトサイドイン方式のVRゴーグルを持っている場合はトラッカーのみの購入で済むが、もし「Oculus Quest 2」などインサイドアウト方式のVRゴーグルを利用している場合はベースステーションから購入する必要があるため、高額になりがちな点。そして、ベースステーションを設置するためある程度部屋の広さが必要となる点だ。
逆に、もう一方の「慣性式」では、トラッカーに内蔵されたIMUセンサーにて、加速度・角速度・方位の情報を骨格モデルに当てはめることで体の動きを計測する。そのため、相対的な位置計測となり時間経過による誤差の蓄積が起こったり、激しい動きを苦手としていたりと若干精度が劣る傾向にある。その半面、ベースステーションを必要としないため比較的安価に済み、「Oculus Quest 2」のVRゴーグルでも利用が容易など初心者向けと言える。
今回、紹介したトラッカーに関しては「VIVE Tracker」が赤外線式。「HaritoraX」「Uni-motion」は慣性式となる。
意外と部屋の広さは必要ない? 王道のVIVE Tracker
「VIVE Tracker」シリーズは、「VIVE Pro」「VIVE Eye」などハイエンドVRゴーグルのメーカーとして知られるHTC VIVEが提供するトラッカーだ。これまで、「VIVE Tracker」「VIVE Tracker(2018)」「VIVE Tracker 3.0」と何度か改良を重ねている。
比較的大型で重いことや取り付けに工夫が必要なことなど多少の難点はあるものの、VRChatユーザーからは「フルトラといえばVIVE Tracker」といえるほどスタンダードな方法として知られている。
しかし、ベースステーションから揃えるとなると少し高額で、例えば最新のVIVE Tracker3.0の場合、トラッカーが1個当たり1万7500円(税込)で、ベースステーションは2万5575円(税込)となるため、合計7万8075円となる。
先ほど、赤外線式の難点として、部屋の広さがある程度必要な点を挙げたが、実際利用者からみるとそこはどの程度ハードルになり得るのだろうか。今回、ゲストに招待したカソウ舞踏団のメンバーに実際に聞いてみた。
kouaさんは縦が1m程度で横はなんとか隙間を開けて2m程度、yoikamiさんに関しては今でも縦横ともに足幅程度しかなく、特にVRでのパフォーマンスを始めた頃は片麻痺で身体が思うように動かなかった時期にリハビリとして始めたこともあり、60cmほどの横幅で片足を壁にビタ付け、もう片方の足をベッドに押し付けてバランスを取りつつ、腕一本でVRダンスをしていたという驚きのエピソードまで。もちろん、公式で推奨しているスペースがあるに越したことはないのだが、それより狭くても意外と何とかなるのかもしれない。
公式的には、サポートページのFAQで提示されている通り、推奨スペースは最小で 2m x 1.5m、最大で7m x 7mとなっている。しかし、実際には意外と狭くてもなんとかなっていることが明らかになった。
VR睡眠用にも重宝される「HaritoraX」
「HaritoraX」の最大の売りはその価格だ。先述の通り「フルトラの民主化」を標榜しており価格も2万7900円(税込)とかなりお手頃。これを購入するだけでOculusu Quest 2(※PC接続必須)などのVRゴーグルとも組み合わせて使えるため、初めてフルトラにチャレンジしようという人も手が出しやすい。
また、慣性式のトラッカーのメリットとして、「腰が飛ぶ」「トラッカーが飛ぶ」といわれるような現象が原理上起きない点が挙げられる。赤外線式であるVIVE Trackerは、トラッカーがベースステーションの射程から外れてしまえばトラッキングが失われてしまう(※下記画像参照)が、慣性式の「HaritoraX」場合はそのような心配がなく、VRChatヘビーユーザーにはお馴染みのVRゴーグルを被ったまま布団にもぐり込んで寝る「VR睡眠」と呼ばれる行為も問題なく行える。
「HaritoraX」が販売開始したときも、VRChatユーザーの中では「フルトラのまま寝れる」という話をよく聞いたものだ。トラッカーが飛ばないというのは、普段使いとしてフルトラを使う想定を考えると強いメリットだ。筆者もVR睡眠勢として、「寝るためだけに買うのもアリだな」と購入の後押しになるほどには魅力に感じた。
製品版が待ち遠しい!「Uni-motion」
「Uni-motion」は、現在プレリリース版のみの展開となっており、製品版の販売時期は未定なのだが、完全ワイヤレスでバッテリー充電不要の乾電池式な点などが「HaritoraX」との差異になる。まだプレリリース版ということで今後、製品版に向け細かい仕様変更や精度向上も行っていくとのことだが、現状の利用者も少なく、特に気になる人も多いデバイスだろう。予定価格は3万7400円(税込)となっている。
ゲストに招いた「Uni-motion」ユーザーの桜月さんに実際に聞いて驚いたのが、バッテリーの持ち時間だ。
「Uni-motion」は今回登場した3種類のトラッカーの中では唯一の乾電池式バッテリー。「VIVE Tracker」は通常は3時間程度、ダンスなど激しい動きで使用すると1時間程度でバッテリーが切れてしまうため、長時間のパフォーマンスにはモバイルバッテリーが必須。「HaritoraX」は、8時間とかなり長くバッテリーが持つため、一般的な利用では十分と言えるだろう。しかし、VR睡眠まで含めると1日15時間以上は平気でプレイしてしまうようなヘビーユーザーにとっては少し物足りなくも感じる。
「Uni-motion」は、ENELOOP PROの利用で省エネモードの場合、約20時間の連続使用が可能だという。電池式のため、切れた際も電池を入れ替えれば簡単にフル充電状態になる。この点はかなり魅力に感じた。
また、配信を通して初めて知ったのだが、「Uni-motion」には省エネモードのほかにもいくつかモードがあり、それぞれセンサーの周波数を60Hz、70Hz、144Hzに変更することができるという。当然、周波数が高くなるほど電池消耗も激しくなるのだが、その分動きがより滑らかになる。ゲストとして出演いただいた桜月さんに、その動きの違いを実演してもらった。確かに、足の滑りがより滑らかになっているように見える。
各ユーザーに聞く「フルトラ」になった理由
そもそもどうして人は、わざわざ手間やお金をかけて「フルトラ」になるのだろうか。実際、VRChatをプレイするうえでデスクトップモード、Quest単体、PC VRではそれぞれ機能面で差があるので、VRChatをフル機能で楽しめるPC VRに手が伸びるのは理解しやすい。しかし、3点トラッキングから6点トラッキング(フルトラ)になっても、実質的にできることはあまり変わらず、おまけ程度という印象がある。「足が生える」という俗語も聞くが、では、どうして「足を生やしたく」なるのか。今回、ゲストに招いたカソウ舞踏団のメンバー、HaritoraXユーザーのはすきぃさん、18cmさん、Uni-motionユーザーの桜月さんにそれぞれ聞いてみた。
──まずはkouaさんから、フルトラになった理由お聞きできますか?
koua: VRやるときって、フルトラにならなくても遊べればいいかなと思ってたんです。あまりお高くないほうがいいですし。じゃあ、VRゴーグルとコントローラーだけでと「VIVE Cosmos」を購入したんですが、たまたまyoikamiさんと出会って。それで、ダンスを教わったときに3点でも踊れるって教えてもらったんです。
でも、VRゴーグルのカメラに依存しているので、手を頭より後ろに持って行ったときに飛んで行ってしまう。
これが自分が嫌になってしまって、それでベースステーションを導入しました。そしたらもっと楽しくなって、そこまでしたら足も動かしたくなるよねとトラッカーも購入しましたね。足動くなと思うと面白くて、いつのまにか体操メインでVRChatやるときに準備体操したり筋トレしたりが楽しくなりました。
──確かに。運動量は増えそうですね。ラジオ体操とかもフルトラだともっと楽しそうですし、運動するキッカケにはなりそうです。
koua: ほんとに、一体になってできるので。ただ私の部屋狭くて(笑)縦が1mくらいしかなくて横はなんとか隙間を開けて2mくらいで。なんとかしてます。
──yoikamiさんもお部屋が狭いというのはよく話題にあがりますよね
yoikami: そうですね。これくらいしか幅ないです。
あんまりスペース要らないんじゃないかなとも思ってます。足が動くってだけで没入感も上がるし。これでスイッチ押したり歩いていけるのかというとなかなか難しいですが、単純にVRって没入感とか楽しさだと思うので。それが3万円とかで叶うのであればぜひぜひみなさんフルトラになってほしいです。寝るだけとかでもいいと思いますよ。
──やはり「没入感」はキーワードですね。
はすきぃ:あと、結構フルトラになるだけで違う点があって。アシュトンさんこっち来て、少し前かがみになってみてください。
──なってますよ。こんな感じでしょうか?
はすきぃ:そう。身体ごと前に動いてしまう。ただフルトラだと、こんな感じで腰があるから角度を付けれるんです。表現力がフルトラになる時点で増えます。
──それは確かに魅力的です。はすきぃさんはフルトラに移行した理由は?
はすきぃ:そうですね。もともと3点で「サキュバス酒場リリス」というイベントでキャストをやってたんですが、フルトラの方比べて表現力が乏しかったんですね。
まっすぐしゃがんだりとかしかできないから。フルトラになると足も動くし、かがんで近づくこともできるし、表現力も上がるからより魅力的にVR空間で動ける。それで、フルトラになるぞ!と手が出しやすいHaritoraXを購入しました。モデルみたいなポーズもできちゃいます。
──写真もはかどりそうですね。
はすきぃ:めっちゃ捗りますよ。
──桜月さんはだいぶフルトラ歴長いと思いますが、最初からフルトラだったんですか?
桜月:最初からではなくて。でも割と早い段階でマイクロソフトのkinectを使い始めましたね。他のフルトラの人を見ていて、椅子判定がないところで座ったり、写真を撮ってたりするのを見てやっぱりいいなと思って。たまたま家に転がってたkinect使い始めたんですけど、いざ始めてみると没入感がやっぱり段違いで。アバターとの一体感が全然高くて、もうフルトラなしは考えられないくらいになっちゃいましたね。
──確かに。周りでフルトラになっていく人が私も最近多くて。足動かしたいなというのは、特に何もしなくてもそういう気持ちになってきます。18cmさんはなんでフルトラに?
18cm:自分はVRChatはじめたのが割と最近なんですけど。最初に「CONNECT STATION」とかのワールドに案内されて。たまに、あの入口の坂をすごいオーラで歩いてくる人がいるんですよ。
──ああ、いますね(笑)。
18cm:初心者だったんで、あのヤバイオーラまとった人なんですかって(笑)。それで、あの人たちは体育館借りて無限歩行してるんだよって教え込まれて。実際は違うんですけど。
えーすけ:よく言うよね(笑)。
18cm:ああいうカッコイイオーラに憧れたっていうのもあるし。あと、VTuberでミミックさんという方がいて。その方もフルトラで、床にローション撒いて、こける芸みたいのやってて、これはめちゃめちゃ面白ぞって。そういうのもやってみたいなっていうのもあって、HaritoraX、2万7900円、じゃあ買っちゃおうと。
──18cmさんはフルトラになった初日からだいぶはっちゃけてて。いきなり三転倒立し始めたり(笑)。
えーすけ:やりたいことがあってっていうのはいいですよね。こけたいとか。ただ、こけるときは気を付けて。結構危ないからね。
yoikami:受身が上手くないと。
えーすけ:そう、背中から行ったり。ヘッドセット壊したりすると危ないから。
──忘れてしまいがちですが、実際は部屋の中で目隠しして動き回るのと変わらないですからね。危ないですよね。
yoikami:我々は側転とかヘッドスピンとかしてるけど、おかしいのよ(笑)。
tarako:じゃあ側転やります。
tarako:逆立ちとかもできますよ。確かHaritoraXでも結構綺麗にできます。
18cm:壁倒立なら。
tarako:VIVEでの倒立も、HaritoraXでの倒立も全然遜色ないよという。もちろん、全然しろというわけではないですよ。むしろ危ないのでしないでくださいね。
アクロバットな動きは、ついつい見入ってしまうし、自身もフルトラになったらやってみたいと思わせるものだ。しかし、VRゴーグルを被ったままの激しい動きは、目では仮想世界を見ているため忘れがちだが、実際には目隠し状態で部屋の中で暴れまわる行為と変わらないため非常に危険を伴う。もし、チャレンジをする場合は現実でできる範囲の動きをしっかりと安全面に配慮したうえで行いたい。
「生の声」から見えてきたフルトラの魅力
フルトラユーザーにこうしてフルトラの魅力を聞いてみると、「没入感」「アバターとの一体感」そして「表現力」といったキーワードが出てきた。これを聞いていて、ふと思ったことがある。これはもしかすると、フルトラになることで、初めてVRゴーグルを被ってアバターを動かしたときと同じくらいの感動が待ち構えているのではないか。
思い返してみると、初めてVRゴーグルでVRChatにログインしたときにも同じようなことを感じた。過去に何度か入っていたデスクトップモードでの体験とは明らかに違う没入感。手を動かせば、それに対応して自然とアバターの手が動く。鏡の前に立っているだけで、まるでアバターが自分自身の身体かのように思えた。そして、手が動くだけで表現力も飛躍的に上がる。一度VRゴーグルでこの体験を通過したプレイヤーたちが今一度、この「没入感」「アバターとの一体感」「表現力」を再確認し、人に進めたくなるほどの魅力。桜月さんが、「もうフルトラなしは考えられないくらい」と言ったように、もしかするとデスクトップモードからVRモードになったときと同じくらい世界が違って見えるのかもしれない。
これからVRChatを始める人も、すでに始めている人も、ぜひ選択肢のうちの1つとしてフルトラを視野に入れてみてほしい。また、HaritoraX、Uni-motion、VIVE Trackerそれぞれの利用者がこうして一堂に会して、それぞれの比較などをした機会はそう多くないと思うので、今回の配信がフルトラに挑戦するか悩んでいる人の参考になっていれば嬉しい。ほかにも、SlimeVRやTundra Trackerなどフルトラへの選択肢はどんどんと増えてきている。幅広い選択肢から、自身の環境に合ったフルトラ環境を整えていってほしい。
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