VRChatの接客を「お仕事」「アルバイト」に!店舗イベントにおける「クリエイターエコノミー」実装の試金石『喫茶はたご』をご紹介!

VRChatには「店舗」を模した会場で接客を行い、ユーザー間の交流を行うイベント「店舗イベント」があります。中にはコンセプトを突き詰め、スタッフの練度を高めたりと仕事のように徹底されたものも。

もし、この「店舗イベント」がお仕事になったとしたら……?

今回は2023年秋に実装されたVRChatでの収益化システム「クリエイターエコノミー」を活用した最初の店舗イベント『喫茶はたご』をご紹介します!

店舗概要

古民家を改装したカフェ風の空間はレトロなデザインが施され、ライティングの効果もあってか、どこか懐かしいようなあたたかさを感じます。

大正・昭和を彷彿とさせるカウンターに、畳に座椅子の和風なエリア、仕切りで囲われたテーブルとイスのある洋風のエリア、2階には赤い床の中華風のエリアがあり、訪れた方は好きな雰囲気の場所で過ごすことが出来ます。

開店時間の19時を少し回るところから、様々なランクのユーザーの会話で賑わう店内。
QvPenでチェックを付ける手書きのスタッフ名簿がちょっとかわいい。

天井裏の梁や照明の仄かな明かりにまでこだわりのこもったこのワールドの制作を手がけたのは、『大正浪漫カフェー』店主のBEROSUさんです。

BEROSUさんは『喫茶はたご』オーナーのせちろーさんから、「一人目のスタッフである一五○(いついそ)もと/150万画素(がそさん)が働いていそうなカフェ」のオーダーを起点とし、ほぼBlenderによるフルスクラッチでこちらの空間を組み上げていったとのこと。

「クリエイターエコノミー」の実装内容

このワールドの特徴として、VRChat公式と提携したことによってワールド内のオブジェクトをUSEするとURLが直接開くようになっている陳列棚・ポスターや、VRChat内通貨「VRChat Credit」でサブスクリプション購入ができるギミックがあります。

ワールド内からWebページが開ける「ダイレクトURL」ギミック

ワールドに入ってすぐの左手、カウンター向かいの棚に掲げられたCDジャケットの画像はUSEすると楽曲のBOOTHショップやMVのYoutube動画が開きます。
※Premium会員じゃない方は突然の爆音CM動画に注意!

デスクトップモードでUSEするとページが立ち上がる様子をすぐ見ることが出来ます。

こちらの陳列棚内のジャケットは、一五○(いついそ)もと/150万画素(がそさん)制作のワールド『たわわレコード』の更新内容に合わせて入れ替わりを行う楽曲のラインナップ。

他にもワールド内に掲示されたポスターからも外部サイトに行けるかも?見かけたらUSEしてみてくださいね!

サブスクリプション購入者限定のVIPエリア

カウンター端にある招き猫をUSEすると……

「有料サブスクリプション」購入画面が開きます。
※VRで開く際には事前にSteamVRで「Steamオーバーレイの有効化」を設定している必要があります。

「有料サブスクリプション」購入者には、限定エリアへの入場権が付与されます。

限定エリア①

和室の奥にある扉から入れる、セミナールーム風の大広間です。外の部屋の音声は完全に遮断され、ワールドBGMのみが聴こえます。

限定エリア②

階段を上がって2階の中華風エリア傍の廊下の奥から行ける、少人数の会話スペースです。遮音性に関しては限定エリア①同様。ちょっとクローズドな会話に使えそうな、カフェの秘密の部屋。探偵ものの作品の雰囲気がしますね……

「VRChat上の接客で働ける仕組みづくりを、小さいところから。」オーナーのせちろーさんにインタビュー!

--「店舗イベントの収益化」、おそらくまだ例をあまり見ない事例と思います。有償化するにあたって何か特別なことを実施されているのでしょうか?

せちろーさん

現場で行っている接客内容に関しては、これまで開催されてきたカフェイベントと同様のものです。

「はたご」はこちらの取り組みを「お仕事」として扱うこととし、働いているスタッフ2人(2024年5月21日時点)に会社から賃金をお支払いしています。

2024年5月21日時点のスタッフ2名。

月曜日担当:アキさん 

金曜日担当:一五○(いついそ)もと/150万画素(がそさん)

--賃金のお支払いはどういった水準のもと行われているのでしょうか?

せちろーさん

私の会社(株式会社デジタルリージョン)から、個々の事情を踏まえつつ、一般的なアルバイトの水準に合わせたお支払いをしていますね。

接客はこのような感じで、他に制作もやってくれていた分は加算しています。

もうちょっと出してあげたいところはありますが、まだ試行錯誤の段階なので色々と様子見で、しばらくは赤字でも仕方ないかなと構えています。

--今回どういったきっかけで収益化可能な体制づくりへと至ったのでしょうか?

せちろーさん

店舗イベントや初心者案内などのイベントにも色々あると思うんですが、個人で主催しているとその人が疲れちゃったり、栄枯盛衰あり長続きしなかったりといった場面をいちVRChatユーザーで過ごす中見てきていて、これを課題に感じていまして。

イベントやっていく中で大変になってくるなどあったりして、なくなってしまう可能性を考えてみるともったいないなと。そこで会社がバックにつくことで、細々としつつも長く続けていく、人に依存せず仕組みで回していくことでバーチャルの接客業を仕事として成り立たせたいと思うようになりました。

--店舗に限らず、VRChatのイベントって主催や現場担当のカリスマがあってはじめて回ってるところがあったり、一部の人が作業を一手に引き受けたりと凄く無理する場面ってありますからね……。抗い難いリアルの事情が変わると、イベントはなくなってしまうかもしれない。だからこそこの仕組みは必要だなと思います。

クリエイターエコノミーの活用を模索。

--サブスクリプション購入者が入れるエリアがあったと思うのですが、今後このクリエイターエコノミー機能をどのように活用していく予定でしょうか?

せちろーさん

限定エリアの方では、サブスクライバー対象の教室開催を検討しています。一人目のスタッフが一五○(いついそ)もと/150万画素(がそさん)なので、まずはVRoid教室あたりとか。

サブスクリプションから講師に講師料をお支払いして、カルチャースクール的に有料講座を開催してみたいと思っています。ライブなどもやってみたいですね。

--基本機能は無料のまま、入口をお金で阻まずイベント参加自体はこれまで通り。+α部分を有償化というあたりがいい塩梅と感じました。

せちろーさん

「VRChat Credit」はまだ一般的に普及しておらず、どうやって使うのか分からない方も多いと思います。それも今回『はたご』を始めた理由の一つですね。

事例としては海外ユーザーのワールドだと同じくVIPルームがあったり、ゲームワールドのスキン変更があったりします。日本人ユーザーに身近な内容だとbironistさんがSMASH CONTESTのスペシャル武器で既に導入されているようです。

他の事例が気になる方は、VRChatのメニューもしくは公式サイトの「Marketplace」を見てみると導入してあるワールドやGroupが一覧されていますのでぜひそちらをご覧ください。

VRChat公式サイト「Marketplace」タブ内メニュー画面
せちろーさん

まだ『はたご』で使用していないクリエイターエコノミーの機能が色々とあります。そこを含めて色々なところが活用して使い方の知見が広まるといいですね。

例えばGroupの機能で、課金者に付くPaid Role。これを使うとインスタンスフルになったときのQueueに対して優先を付けることができる設定があったりします。

--Join戦争が起きるような人気イベントにも活用できそうですね…!

せちろーさん

クリエイターエコノミーの参加にまつわる問い合わせはこちらのページの「Seller Application -Creator Economy」から行えます。

原則やり取りは英語となりますが、やりたいアイデアがある方はぜひ申し込んでみてもいいんじゃないかなと思います!

まずはこの仕組みに乗っかってやってみようと思う人が増えて、あとはこれで働ける仕組みを作ったことでVRChatに参加する人も増えて、そういった新しく入ってくる人たちに対して接客業としておもてなしができる。この循環が出来ることを目指しています。

公式との提携

--「たわわレコード」の提携ギミックもそうですが、ポスターからもURLが開けて驚きました。こちらのギミックって公式とパートナーシップ契約を結んだ企業のイベントでしか出来ないものと思っていたのですが……。

せちろーさん

実は、クリエイターエコノミーへの参加と同時にパートナー契約も進められたんです。

--そうなんですか!?

せちろーさん

『はたご』はイベントの収益源を「VRChat Credit」によるサブスクリプション購入のみに限定しています。

他のサブスクリプションを導入しているとなればおそらく話は変わるかもしれないのですが、少なくとも「VRChat Credit」を活用していればVRChatの取り分が確実にあるからこの進行でいけたのかもしれません。

あくまでも憶測なので今どうかは公式とやり取りしてみないと分からないのですが、私の時はそうでした。気になる方は店舗にて聞いていただければお話ししますよ!

せちろーさん

このようにプラットフォーム分が二重にかかり、クリエイター側には50%しか入りません。

Patreonだと手数料も安いから海外ユーザーはそちらを利用しているところもあると思いますが、VRChat自体の持続性も考慮して、「VRChat Credit」を活用するほうがいいなと判断しました。

『はたご』を活用した相互広告と、スタッフについて

--『はたご』にいくつか広告のポスターや雑誌が載っていたのを見かけますが、掲載はどのように申し込むのですか?

せちろーさん

前述したように公式との提携にかかる条件として「収益源をサブスクリプションのみとする」があるため、広告の掲載に料金はいただいていません。

その代わり、向こうの告知を載せると同時に向こうでもこちらの告知を載せていただく、物々交換的な相互告知による広告という形で枠を設けています。

イベントですと、『はたご』の開催時間が19:00~21:00ということもあり、閉店後の行先になるという効果も見込めますし、公式と提携したことによって商用利用ができるのでリアル店舗側の広告も載せられます。それによってリアル店舗からVRChatへの入り口が出来ると面白そうですね……!

--「スタッフになってみたい!」と応募される方はどのようにご連絡をすればよろしいのでしょうか?

せちろーさん

これまで「どういうものですか?」と興味を持たれて質問をいただくことはありましたが、まだ応募はそれほど来てないですね。

連絡先は、というより一度ご来店いただいてそこでお話出していただければと思います。

お客さんに「この人が入ったらサブスクはこの人に入るんだぞ」というのも伝わりますのでお互いに合意が取れたりするんじゃないかなと。

--今回は取材にお付き合いいただきありがとうございました!

ぜひ、月曜日・金曜日は『喫茶はたご』に立ち寄ってみてくださいね!

『喫茶はたご』毎週月・金 19時~21時OPEN!