お米農家がメタバースワールドクリエイターとして仕事をするようになった訳。『しーわん』さんインタビュー。

現実の世界では生活の三大要素として『衣・食・住』が挙げられますが、それはメタバースの世界にとっても同じです。

メタバースの“衣”はアバター。
“食”に関してもVR空間では毎日のように『VR飲み会』がユーザーの間で行われています。

そして人と人との繋がりを生み出す“住”であるワールド。
人が集まるための空間を作るには、ゲーム開発とはまた違ったスキルが求められるそうです。

そしてそのワールドの多くは必ずしもゲームエンジニアやプログラマーといった専門職の人が作っているわけではありません。
昼は米農家、夜はメタバースの世界で活躍する、“生きている空間を作る”プロ、しーわんさんにお話を伺いました。

しーわん(@ABCwanVRC)

お米を作るblender男子。米農家として働きながら、メタバース上ではワールドクリエイターとして活躍している。これまでに数々の人気ワールドを創作しており、現在はVRイベント事業を専門に行う株式会社ポリゴンテーラーコンサルティングのワールドモデラーとして企業案件にも取り組んでいる。

みんなで遊べるワールドが作りたい、から始まったワールド制作

しーわんさんは現在メタバース空間でどのような活動をしていらっしゃるのでしょうか。

しーわん 今はメタバース上でワールドモデラーとして活躍しています。
ワールドと言うのも観光系ワールドのような世界観を重視したワールドから、ワンコインマーケットだったり、アバター展示ワールドを作ったり、結構幅広く作っています。
今は株式会社ポリゴンテーラーコンサルティングのワールドモデラーとして企業案件にも取り組んでいます。

しーわんさんが作られたワールドはVRChatユーザーの間でも人気のワールドが多いですよね。

しーわん 自分の名義で作ったもの以外の作品もあるのですが、みんな、なんだかんだ1回くらいはチラッと見たとか、訪れたことがあるなんて方もいらっしゃるんじゃないかなと思います。

モデリングを始めたキッカケについて教えてください。

しーわん 一番最初にモデリングを始めたのは『VRChatで使う性癖まっしぐらの可愛いアバターを作りたい』というのがキッカケでしたね。アバターを作ってみんなでわいわい遊んでいました。
そうしたらその次に『自分のワールドが欲しいな』って思って。

その当時アバターの販売はあれど、自宅ワールドの販売はほとんど無かったので、『アバターも作ったし、ワールドも作れるだろう』と思って制作を始めました。

だけどアバターを作るのとワールドのモデリングをするのでは全然必要なスキルが違って…。
最初に作ったワールドはリアルタイムライト(※1)めっちゃ置きまくって激重ワールドになったのを覚えています(笑)

その次に『みんなで遊べるワールドを作ろう』と思って『CwanCafe』という集会場ワールドを本格的に作り始めました。

2019年当時のしーわんCafeの様子

CwanCafeと言えば2018年~2019年当時の日本人コミュニティの中では主要な集会場として連日賑わっていましたよね!

しーわん もうありがたいことに。
あの時はね、毎日Visit数(※2)を見ていましたけど、毎日200人~300人は来てましたね。
自分は11時にはVRChatをログアウトしなきゃならなかったのでずっとは居れなかったんですけど、毎日毎日100人以上の人たちに挨拶して回るっていう状態でした。

CwanCafeをキッカケに繋がった人とか、新しく生まれたコミュニティもあったりして、VR文化の発展にかなり貢献されたワールドだったのかなと思います。

(※1…リアルタイムライト 3D空間の光源の1つ。光源をもとに影のつき方を計算して描写するため、多量に設置すると負荷が高くなる。)
(※2… Visit数 ワールドに訪れた人の数)

米農家とワールドモデラーを掛け持ちする働き方

しーわんさんは元々モデラーだった訳ではないとお聞きしましたが…

しーわん もう、モデラーとかでは全然なくて。
クリエイティブなことと言えばせいぜい絵を描くくらいですかね。
2次元的な絵をちょろちょろと描いて、それを友達と見せ合って…みたいな。そんなもんでしたね。
モデリングはVRChatをやってから初めて取り組みました。

本職は米農家です。

農家とモデラーの両立ってなかなか面白いですよね。

しーわん そう、面白いですよね(笑)
こんな人いないんじゃないかな(笑)

農家というアナログな仕事とVR空間のワールドモデラーっていう超最先端なデジタルの仕事との両極端をやってらっしゃっるのはすごくユニークな働き方だと思います。

しーわん 農業は夏場だけなのですが、バーチャルの仕事は家でいつでもできると考えると組み合わせとしては悪くないのかなと。

今のところは農家メインで、空いた時間に楽しく創作しながらお小遣いを稼ぐ、といったスタイルでやってます。

ワールドモデラーとしての最初の依頼は?

しーわん 最初は友達から『ワールドを作ってくれ』と声を掛けられたのがキッカケでした。
完全個人の依頼で『みんなで集まるための家を作ってほしい』と。
それから『集会をするから集会に使えるワールドを作って』とか。友達とか仲の良い人とかから声を掛けられるようになったんです。

そうした延長で、昨年9月に開催されたユーザー主体の展示イベント『ワンコインマーケット』の会場を制作したり、直近では3Dモデラーのひゅうがなつさん(@hyuuuuganatu)のアバター展示ワールドを制作したりと依頼の幅が広がっていった感じです。

高まるワールドクリエイトの需要

今メタバースを遊ぶ上で、アバターの販売はBOOTHなどを中心にユーザー間で盛り上がっているのかなと感じますが、ワールド制作においてもニーズが高まっているのかなと個人的に感じます。しーわんさんの所感としてはワールド制作の需要についてどう感じていますか?

しーわん そうですね、すべてのメタバース界隈を把握できているわけではないですが、需要は高まっていると感じます。

そしてアバター制作とワールド制作については求められるスキルが全然違くて。使う筋肉が違うっていうのか。
ワールドはプラモデルを作る感覚で作ったり、レゴブロック組み立てるみたいな感覚で作れるのが大きな違いかなぁ。

建築ですもんね

しーわん そうそうそう。
ワールドの作り方にも2種類あって、既存の3D販売データを、例えるならどうぶつの森みたいに好きな所に配置して並べるアセットを利用する方法と、フルスクラッチって言って小物から空間まで全部作り込む方法があります。フルスクラッチも結局どうぶつの森の家具を1個1個作るだけなんですが。

今インタビューをさせてもらっているワールドもかなりお洒落なモデルルームみたいなお部屋ですけど、バーチャルの家や建物を作るために現実の建築知識を勉強されてたりするのですか?

しーわん いや、まったくしてないですね(笑)
もちろん勉強したほうがいいんだろうけど、自分は全く…。

おそらく現実の建築だと建築基準法とかあると思うのですが、バーチャルならコストとか完全に無視して作れるから。このワールドもかっこいいから作った、みたいな感じです(笑)

となるとメタバース上でのワールド制作と言うのはどちらかと言うとセンスやビジュアルに重きを置かれることが多いのでしょうか。

しーわん そうですね、漠然とした言い方になっちゃいますがワールドのデザインは“かっこいいかどうか”で考えてます。
あとは展示イベント系のワールドならば『ここからこう行ったらワクワクするだろうなぁ』とか。メタバース特有の配慮としては『ここから見たら景色が分断されてワールドの負荷が軽くなるだろうな』とかはめちゃめちゃ考えてます。

イベント系のワールドだと人がいっぱい来ますから、ワールドの負荷も考えなくてはいけないというのはメタバース特有の考え方ですね。

しーわん 普通のゲームと違って様々な人が集まって遊んでいるので使えるリソースが限られていたり、VRChatのその時々のアップデートやユーザーのトレンドにもあわせて作らなきゃならないからまぁ大変!

市販のゲームデザインでは通用しない部分もあるから、新しい技術やセンスが求められていきそうですね。

しーわん 大変な部分もありますけど、自分の作った世界をVRで見れるっていうのは良いことですね。最近趣味で作ったワールドなんかは、現実ではありえないようなグネグネした木組みのツリーハウスになっていて、周りを見るとクソデカいサンゴがいっぱいあったりして…。
そういう現実ではありえないような世界観を自分で作れるのは楽しいです。

ワールドクリエイターにも日の光が当たる時代に

しーわんさんはこれからポリゴンテーラーコンサルティングのワールドモデラーとして活躍されるという事ですが、具体的にどのような仕事をされていくのでしょうか。

しーわん ポリゴンテーラーコンサルティングっていうのは企業からオーダーされた案件をまとめてVRChatの正式なイベントとして企画することがメインの仕事になります。私はその企画のワールドモデラーとして仕事を請け負う感じになるかなと。

VRChatにおける企業の展示ワールドだと最近では日産クロッシングのVRChat展示ワールドだったり、サンリオバーチャルフェスであったり、大企業がVR空間上でのイベント事業に参入してきているのかなと思いますが、今後もますます盛り上がりを見せていきそうですよね。


しーわん めちゃめちゃ盛り上がってくると思います。
今わたしが観測している範囲内でも『案件がたくさん来て処理しきれない!』っていう企業さんやクリエイターさんがたくさんいらっしゃるので、需要は凄まじいと思います。

そうですよね。昨今のメタバースブームも相まって、私もこの空間の社会的認知度が一気に高まっていると感じます。ですがほとんどの企業は『どこに依頼すればいいか分からない』とか『どういう人に頼ったらいいか分からない』と試行錯誤している所だと思うので、ポリゴンテーラーコンサルティングの存在がそういった企業の窓口になっていくんじゃないかと期待してます。

しーわん そうですね。私以外にも、今まで趣味でワールドを作ってきた人たちにがたくさんいるので、これからはそういう人たちに日の光が当たるでしょうし、メタバースの世界がもっと盛り上がっていくんじゃないかな。

仕事と趣味の違い、モデリングを仕事にするためには

もともとしーわんさんも趣味の一環としてワールド制作をされていた訳ですが、趣味と仕事で違う所ってありますか。

しーわん よく言うのは納期ですよね。ずっとダラダラは作れないので、納期から逆算して、このくらいまでにはラフを作って先方に提出しておこうだとか、提出したものがどれくらいで返ってくるかを見越して修正案とか提案があったらこのタイミングまでに聞いておこうとか。
そういうのをスケジューリングするのは依頼で大事なことかなと。

あとは自分がどのクオリティラインを踏めるかですね。

いつもの個人依頼で受ける時はだいたい10万円前後が自分の相場なんですけど、10万だとこれくらい、規模にもよりますが20万だとこれくらい。30万円だったら最新技術をめちゃめちゃ盛り込んで作れますよとか、そういうクオリティラインを自分で引けて、それを伝える力みたいなものは必要です。

ワールド制作の技術もそうですけど、それを相手に伝える力と言うのも必要なんですね。
相手に自分の技術を伝える時の具体的なコツはありますか?

しーわん まずすごく簡単な所から言うと、自分の作った作品や作っている作品の進捗を発信するというところですね。SNSとかで『こういうの作りました』ってつぶやくだけでもアピールにはなります。

特にTwitterでは固定ツイートで自分のやってきた活動が分かるようにしておくとか。
あとプロフィールに『依頼可能です』と一言書くだけでも企業さんからしたらありがたいんじゃないかなと思います。

あとできればホームページを作るのがいいですね。
ホームページを見て依頼を決める人もいますし、私もワールドのコンセプトデザインを描いてもらう時に絵師さんを探すんですけど、ホーページがある人はすごくありがたいです。

何にせよ、作ったものはどんどん表に出してアピールしていってください!
自分もどうしてここまで来れたかって言うのを自分でもうまく分析できてないところあるんですけど、今言ったのはとりあえず自分が今までやってきたことなので参考にはなるのかなと。

これからメタバースの世界に来るクリエイターへ

これからメタバースの世界に遊びに行く人がたくさん増えていくんじゃないかなと思います。その中で『自分で作品を作ってみたい』とか『ワールド作ってみたい』と思っているやって来る人もいるんじゃないかと思いますが、そういった方に向けて何か伝えたいことあったら一言お願いします。

しーわん 『ちょっとでもやりたいと思ったらやれ!』って事ですね。
やりたいなって思ったらやってみるべき!活躍している人をみて『お前はいいよな』って言わないように『お前もやるんだよ!』みたいな(笑)

何かを始めるという事に関してはメタバースの世界ってかなり敷居が低いので、多くの人が新しいことに挑戦できる世界ですよね。

しーわん そうそう、場所も関係ないし。
必要なのはせいぜいネット環境くらいですかね。敷居は本当低いです。

何事も始めることに遅いなんてことはないです。
やりたいことをやる事で絶対損は無いので、勇気持ってやってほしいなと思います。