『EAUploader』は、『VRChat』へのアバターアップロードを簡易化し、直感的な作業環境を提供します。2024年4月3日に登場したこのツールは、シンプルにアバターを利用したいプレイヤーにとって悩みのタネであった『Unity』操作部分を肩代わりするというアプローチを採用。その着眼点に高い評価を示す声も見られました。
そんな便利ツールを開発しているのが実は現役高校生たちだったと聞けば、驚かずにはいられません。彼らはツールの開発だけではなく、公式サイトを開設・運営し、オープンソースプロジェクトとしての舵取りをも担っています。
『VRChat』におけるツール開発者・アバター制作者・ワールド運営コミュニティとの密なコミュニケーションを次々と展開し、簡易アップロード機能だけに留まらない様々な施策も着々と進めている学生サークル『USLOG(アスログ)』の皆さんへお話を伺ってきました。
アバターはアイデンティティを担う、その一歩目を支援したい
──この度はインタビューの機会をいただきありがとうございます。『EAUploader』が公開された際、先んじて導入手順を含めた紹介記事を掲載させていただきました。今後のことも含めましてお話をお聞かせいただければと思います。
とにかく機能を絞って使いやすくすることを第一に
──『EAUploader』を実際に使用してみました。『Unity』を意識せずとも、アバターのアップロード作業がたったの3ステップで完了してしまうのは驚きました。はじめて見る画面でも、なんとなく操作を進められるデザインですし、シンプルにアップロードするだけならば実質2ステップで済むのも素晴らしいと思います。
その点はとても意識しました。
『Unity』どころかPCもよく使うほどではない人でもわかりやすいツールとなるよう、とにかく機能を絞って開発に着手しました。
現在(取材当初)はアバターをシンプルにアップロードする機能に絞って実装されていますが、むしろUnityそのものをなるべく意識させず、誰でもすぐに使えるような画面構成を取るなど、そうした面に注力しています。
──公開の時点で、アバターアップロードに関して“どうしても触れないわけにはいかない部分”を除けば、可能な限り『Unity』側を覆い隠してしまおうという意図が強く感じられました。背後に『Unity』が起動はしているものの、見た目の上では『Unity』のヒエラルキー画面すら変化が起こらないので、苦手意識のある人にとっては心強いツールだと思います。
『VCC』や『Unity』の起動はどうしても外せませんし、VRChat』アカウントへのログインのため、VRC SDKを経由する部分はユーザーに入力していただく必要が出てきます。
『Unity』は本来3Dコンテンツ開発エンジンであり、アバターを扱うために設計されたわけではありません。雑多な画面から何をすればよいかを把握するのはとても難しいです。『Unity』の画面に何らかの変化が起これば、わからない人にとっては混乱の原因となってしまいます。
これを使わずとも、“アバターをアップロードするための画面”として前面に1つ表示させることで、目的のはっきりした画面となるはずです。今のところ、その設計はうまくいったと感じています。
各種ツールと連携の余地を確保 インフラ的ツールは直接連携を視野に
──『EAUploader』の2ステップ目であるセットアップには、“編集ツール”という項目がありました。恐らく機能拡張のために用意してあるものかと思いますが、第三者によるツール作成を視野に入れているということでしょうか?
その通りです。
『EAUploader』は『VRChat』へのアバターアップロードを簡易化するツールではありますが、改変や軽量化といった必要とされる機能は、できるだけ簡単にして提供したいですし、様々なツールやギミックの作者もこれまで『Unity』を避けてきたユーザーへのアプローチができるようにしたいと考えています。
そこで、機能拡張を行える“編集ツール”という部分を用意しています。正式公開となったバージョン1.0.3の段階で“ビューポイント位置エディタ”というツールを、この“編集ツール”の位置に実装しています。
アップロードする前にこのツールを起動すれば、手軽にビューポイントを調節できるものです。このように、ツールを『EAUploader』画面上から開いたり、『EAUploader』の機能と連動させることができます。
──(取材当初以後のバージョンアップにて)アバターの自動軽量化ツールとして有名な『Avatar Optimizer』にも対応しはじめましたね。こちらは“編集ツール”ではなく『EAUploader』のネイティブ対応かのように見えます。正式公開からどんどんアップデートを重ねていますが、その中でどのように連携を取ったのでしょうか。
“編集ツール”の仕組みは、あくまでも第三者が機能拡張したいものを作成して、第三者によって追加されるものです。
ですが、『VRChat』のプレイヤーがアバターを準備する上で、実質的にデファクト・スタンダードと言いますか、『Avatar Optimizer』のようなインフラ的存在となっている有名ツールが存在します。
こうした必須と考えられるようなツールは、むしろ私達の方から働きかけて対応していきたいと考えています。対応ツールを作ってもらう、というのを待ち続けていては、せっかくの強力なツールも活用できないからです。
──正式公開された段階で、既に交渉は進んでいたということでしょうか?
そうですね。
『EAUploader』で対応可能となるようにソースコード等の変更をこちらから願い入れさせていただきました。外部から操作可能となれば、あとは『EAUploader』内部で持っているUnityのヒエラルキー情報へ反映できますので、アップロード時に連携可能となるというわけです。
知識の有無で生じる改変の格差を抑えられるのが『EAUploader』の強み
──『Avatar Optimizer』は導入するだけで大きなアバター軽量化効果を期待できる画期的なツールです。ですが、確かに“コンポーネントの追加”という作業は『Unity』の操作を要します。『Unity』を意識させないという意味では、それらを『EAUploader』で抱えるというコンセプトとして一貫しているわけですね。
軽量化でも改変でも、アバターを自由に、思いのままに改変するためには、Unityとアバターの知識が求められます。
現状ではそうした細かい知識の有無による差がアバター利用の格差につながると考えています。『EAUploader』はその格差を埋められることが強みではないでしょうか。
早くも『VRC合法チート研究会』の『専用すげ替えツール』が対応
──アバター改変で使いたいツールをパッと想像するだけでもいくつか思い浮かびます。それらを『EAUploader』上で、Unityを意識せず同じように使用できるとなればワクワクしてきますね。他にも交渉しているお話はあるのでしょうか?
先日、『VRC合法チート研究会』さんから発売された新作アバター『チェンジアバターズ』に同梱の『専用すげ替えツール』は既に“編集ツール”として対応しています。
クリエイターは、簡易化を求める潜在的なプレイヤー層へ顧客開拓を狙える
──簡易化ツールのコラボ利用が早くも可能になるわけですね! 『専用すげ替えツール』も、『Unity』への依存を少なくしつつ、他のアバターの素体と『チェンジアバターズ』の顔を交換できる強力なツールです。そこに『EAUploader』の簡単なアップロード機能、そして『Avatar Optimizer』もその上で利用可能となれば、初心者でなくとも心強い環境だと感じます。
『BOOTH』といった販売プラットフォーム、ライセンス関係の整備などで、アバターを使いやすい環境は整ってきましたが、やはりどうしても技術的な壁はつきまといます。
便利なツールはどんどん登場していますが、アバターや衣装のクリエイターにとって「こうしたツールを前提にしている」と説明を付けるのは販売機会への懸念につながってしまいます。
そこで、『EAUploader』の簡単なアバターアップロード機能を、導入方法のひとつとして説明書に加えていただければ、壁を感じていた潜在的なプレイヤー層へアプローチでき、結果的に新たな顧客開拓を狙えるのではないかと思います。
超高校級のプロジェクト運営はどのように進めているのか?
──『EAUploader』は公開から2ヶ月に満たない期間ではありますが、その間にも様々な施策を打ち出しています。既にツール開発者や興味を持つ人達に向けたカンファレンスを複数回実施していますし、オリジナルのキャラクターまで登場しました。率直な感想として、とても高校生とは思えない活動力、渉外能力だと感じています。どのようにプロジェクトを進めているのでしょうか?
協力をいただくにあたっては「VRChatに人を呼び込みたい」という目的と「Unityは難しい」という課題を共有できたことが何より大きかったと思います。
それだけ、みんななんとかならないかと思っていたということですね。
──チームとして動くというのは想像以上に難しいことだと思います。その上で、メンバーの役割がはっきりと分担されている印象を受けました。ふうさんの“プロジェクトマネージャー”としての力はどのように培われたのでしょうか。
メンバーがそれぞれ役割を持って動いているのは大きいと思います。
幼い頃からブラウザで参加できる、Flashで動く元祖メタバースのようなサービスに触れていて、そこで大人とのコミュニケーションを学びました。
新型コロナの影響で学校がなかった時期には、イラストレーターさんに声をかけてサークルを作ったことがあり、コーポレート的な部分についてはそれが経験になっているのだと思います。
──ネットによって年齢を無視したコミュニケーションが生まれるというのは共感できます。それでも驚異的だと感じますが、クローバーみどりさんの実装力はどのように磨かれたのでしょうか?
中学生の頃にチャレンジパッドという教育用のコンピュータに触れたことがきっかけでした。
『Discord』のボットを作るのにハマって、はじめはPythonを、そこからJavaScriptも経験して、そのつながりでウェブサイトの作り方を学びました。『EAUploader』のサイト作りも担当しています。
KotlinでWindows側のメディアを操作するようなスマホアプリを作ったこともあります。この前は「時計の画像から時刻を読み込むAI」を競う大会で全国レベルの入賞まで進むこともできました。
現在は学校で“屋外ノイズキャンセリング”の研究を進めています。
オープンソースプロジェクトとしてのマスコットキャラクターづくり
──プロジェクト周辺で言えば、公式キャラクター『いあ』が早くも登場しました。イラストレーターのえびごはんさんへデザインをしっかりと依頼されていますね。クレジット表記さえあればキャラクターを利用可能としているなど、権利関係も整備されているようですが。
こちらは『USLOG』として著作権をいただきました。僕らの好みが詰まっています。いつか『VRChat』のマンガや同人誌に出してほしいなあ、なんて思っています。
『EAUploader』は、よりたくさんのユーザーを助けるためのツールなので、やさしい天使のイメージで製作をお願いしました。先生が『いあ』ちゃんをばっちり形にしてくださいました。親しみやすいキャラクターだと思います。『EAUploader』の目印として、覚えていただければ嬉しいです。
『EAUploader』への支援をお願いします!!
──これらがこの1~2ヶ月の交渉内容だとは、脱帽です。ですが、プロジェクトとしてはかなり大変なんじゃないかと思いますが。
大変ですね。
『EAUploader』は『VRChat』のユーザーを増やすという目的ですから、オープンソースプロジェクトとして今後も育てていきます。
この活動で利益を求めている訳ではありません。しかし、資金があることで目的のためプロジェクトをさらに拡大させていくことができます。もし、私たちの活動に共感し、応援していただけるのであればぜひご支援をいただきたく思います!!
──プロジェクトそのものをお手伝いするとすればどうしたら良いでしょうか?
まずは、ぜひ公式『Discord』サーバーへお越しください!
『Project EAUploader』では、ユーザーやクリエイター向けの頒布物の制作や、ワールド製作、カンファレンススタッフなど、開発だけでなく様々な分野での協力を必要としています。意見をいただけるだけでも助かりますので、是非サーバーへお越しください。
原則無償でのお手伝いをお願いすることとなってしまいますが、カンファレンス等を通して幅広いつながりを得られるようプロジェクトをこれからも育ててまいります。
もちろん、オープンソースプロジェクトとして、『Unity』のエディタ拡張というニッチな技術にも触れられますよ!!
──つながりという意味では、先日『EAUploader』発行のポスターに『大丸・松坂屋アバター販売公式』が発売したアバターを撮影した写真を採用していましたね。
とてもありがたいことに、様々な方にポスターの制作へご協力いただき、そして様々なワールドで『EAUploader』のポスターを掲載していただいてます。
ポスターは、“VRの中のアバターの魅力”が伝わるようなコンセプトで制作しています。今回は、デザインにとことんこだわられて制作されている大丸・松坂屋アバターを起用したく思い、使用の許諾をいただくためお願いしました。
写真はmaido39さん、撮影ワールドはシャルさんの作品です。
『Project EAUploader』では、アバタークリエイターの皆様と積極的にコラボしていきたいと思っておりますので、ポスターに使ってもいいよ~という方は是非ご連絡ください!
──『大丸・松坂屋アバター販売公式』さんや『FUJIYAMA』さんとも交渉を行っているとは、本当に驚きっぱなしのインタビューでした。アバターに関する技術の壁を打ち破っていく『EAUploader』が更に広がっていくことを楽しみにしています。本日はありがとうございました。
投稿者プロフィール
最新の投稿
- コラム2024年11月20日【コラム】うしくんマネー教室【第1回】VRChatの活動でお金を貰ったら、開業届やインボイス対応って必要なの? 皆さんのお金の悩みに答えます!
- VRChat2024年11月13日ホビージャパン公式ワールド『ホビースフィア』企画展示場が刷新
- VRChat2024年11月11日アバター集会1周年を記念して行われたのは、制作者本人を招いた音楽ライブイベント!『Froginyata』ファングループに見る新たな熱い“推し”の形
- VRイベント2024年10月26日VRライブシーンが歴史的な音ゲー文化と融合!?NONSTOP MEGAMIX『VTuber SPEED』の濃すぎる背景を語り合う。『M3-2024秋』でチェックしよう!【PR】
『USLOG』のふうです。『Project EAUploader』のプロジェクトマネージャーとして進行を取りまとめています。
「メタバースの人口を増やしたい」という想いがあるのですが、自分たちにできることは何かと考えた時、『VRChat』は初心者の受け口としても大きな存在になっているという事実が浮かびました。
VR空間で、明らかにアバターは重要な要素です。参加しているプレイヤーにとってのアイデンティティを担っていると思います。
しかし、アバターの自由度が高い反面、改変どころかアップロードだけでも初めての人にとっては簡単ではありません。せめてその部分を簡単にして好きなアバターでのプレイを支援できたら、と考えたんです。