
オリジナルの脚本、演出、ワールドで構成する手作りのVR劇団『maropi工房』最新作『走馬灯プランナー』が、2025年3月28日と29日に公演となります。
劇団として本格的に活動を開始して1年半程度の期間でありながら、これが5作目であるというのだから驚きです。毎回の公演にふれるたび、脚本をいちから書き上げ、背景としてだけではない様々なギミックを駆使したワールドをも準備していることに感心せざるを得ません。
VRらしい変化球と、人間味のもどかしさを抽出した独特な読後感を特徴とする『maropi工房』の舞台は、常に“ただの観客ではいさせない”工夫とともに積み重ねられてきました。
“どこか解決しない”劇作の持ち味
『maropi工房』の作品は、大きく俯瞰すれば“人間ドラマ”に少し不思議な要素を味付けしたもの。あえてジャンル分けするならばそうした方針の脚本を主軸としています。
互いのタイムパラドックスで付き合いを辞めさせたり勧めたりするコメディが描かれた、初回の『チョイス!』。郊外という田舎と言うには都会すぎる、若者の息苦しさとウェットな大人たちの対比を示した『カレイドメモリー』など、“どこかで見たことのある人々”が泥臭く登場する、そんな作風と言えるのかもしれません。
『走馬灯プランナー』公演を前に過去作品を振り返りつつ、今作の主役となったSuzuQui(すずき)さんにも注目してみましょう。
『かりそめボックス』

一組のカップルと、昭和のおじさんの嫌なところを煮詰めたようなSuzuQuiさん、そして壊れたエレベーターに対応するコールセンター嬢という、一風変わった舞台設定だったのが『かりそめボックス』でした。
故障で止まってしまったエレベーターに取り残されたカップルと見知らぬ男ひとり。それだけでも居心地が悪いのに、自分勝手なおじさんを演じきるSuzuQuiさんがとにかく憎いこと憎いこと……!!
『maropi工房』の脚本が“どこか解決しない”のも、この舞台では遺憾なく発揮されました。
身勝手な行動で自分から問題を大きくしておきながら他責ばかりのムカつくおっさんたるSuzuQuiさんに、正論で怒りをぶつけるカップルという構図。一般的なストーリー展開を予測すれば、最後に怒りを爆発させたカップルがクソオヤジSuzuQuiをやっつけてカタルシス!! ……というような所に落ち着くはずです。

ですが『maropi工房』の作風では異なります。もちろんカップルの叫びは正当。反論もできないくらいコテンパンにやられるSuzuQui氏という場面もあるのですが…… 最後は一切の反省も見せない捨て台詞で観客席を横切って退場するという一貫性でモヤモヤさせてくれます。
こうした形で、劇の中で悪役が成敗されるような解決の形を見ないのが『maropi工房』の脚本の特徴です。超ムカつくSuzuQuiの野郎だってこれまで生きてきた人生があり、その後の生き方がこの瞬間だけで大きく変わってしまう訳ではない。劇の脚本の中では切り取られた存在だったとしても、彼らには彼らなりの人生がある。そう受け止めざるを得ないのです。
公演終了後はとにかくSuzuQuiさんに「マジでムカつきました」という感想を伝えずには居られなかったのを覚えています。

『かりそめボックス』では、舞台に入場する前段階に廊下があり、ガラスで区切られた空間には登場人物たちが置かれていました。
『VRChat』は対象のプレイヤーの表示が制限される場合があります。それぞれのユーザーの設定によるところが大きく、あえて個別指定で制限を解除しなければ、舞台の正しい表示として伝わらないおそれがあるのです。
この対策をそれぞれのユーザーへお願いするのが“Show Avatar設定”というものですが、毎回のように案内せざるを得ないのが現状。しかしながら、この部分をも演出として取り入れているのです。
ガラスの廊下の両脇を通って舞台へと進む途中で、観客は登場人物たちをShow Avatar設定するといった流れになっています。舞台のワールドから自作するからこそ可能な演出ですね。

エレベーターを舞台としたこともあり、観客席自体が大きく上下するように見えるワールドギミックも強烈でした。サイズを大きくしたアバターで“別画面のように登場するコールセンター嬢”という表現も『VRChat』らしいやり方です。
『夜明けのキャンプファイヤー』

『メタシアター演劇祭』ではじまった『maropi工房』が1年後の同イベントで臨んだ公演が『夜明けのキャンプファイヤー』でした。原点に戻って演劇らしい演劇に挑んだとのことで、ワールドも舞台らしい構造です。
脱力した小気味良いトークで人気を得ているスズキンことSuzuQuiさん。そんな人気者の姿に憧れたひとりのVRChat的なプレイヤーが“何者かになろうとして周囲を巻き込んでいく”といった、群像劇的なお話です。
それだけを聞けば、何かを達成する青春もののように想像を巡らせるかもしれませんが、そうはいかないのが『maropi工房』の脚本。

作中で『VRChat』だと明言されている訳ではありませんが、さまざまなイベントインスタンスの模様が描かれることから、そのモチーフは明らかです。
とにかく人気の配信者になりたい人、演劇を趣味とするが「多くの人に見られたいわけではない」と主張する人、やるからには自信を持とうと説得する人、イベント参加人数に成功体験を見出す人、有名かそうでないかの中で右往左往する人、技術さえ実践できれば周りは気にしない人…… などなど、『VRChat』でやりたいことをやろうとした人ならばどれもが自分の胸に(痛い方向に)響くできごとが綴られていきます。
当のスズキンことSuzuQuiさんは、いわゆる成功している配信者。物語の有名人として誰もが知る存在と置かれつつも、登場人物たちのドタバタから一番遠いところで、一番関わるわけでもない。結局そのままやりたいことをひょうひょうとやれている人、といった立ち位置に居るのもニクい演出です。

温度差も違えば、価値観も違う。その目的に進むことが正しいと思っても、また別の人にとっては間違いにすらなり得る。それでも誰かを巻き込まなければ物事は進まない。
『maropi工房』の作品の中でも、もっとも見るのが苦しかった舞台でもあります。それは恐らく、挑むための苦しさを再認識させられるからに違いありません。
物語の登場人物たちも、一見するとその絆にヒビが入ってしまったままにすら思えてしまいます。けれど、振り返ってみれば人間関係はそういうものかもしれません。誰もが途中経過の中にあり、全てを正解で通せるわけでもない世界で、開き直ってしまうのもまた違う。
イベントやコミュニティも、誰かが挑んでいることの現象であると考えるのならば、常に不完全であることこそが自然です。時間が進めば関わる人も変わり、思惑も温度感も変化します。条件が異なれば化学反応の結果も変化する。痛みは抱えることになるけれど、だからといって“やりたいことをただやめてしまうわけにはいかない”というテーマが描かれたのだと感じました。
そして今度はSuzuQuiさんが主役!

最新作の『走馬灯プランナー』は、これまでどこか自由にやってきたっぽいSuzuQuiさんが主役として立つことになりました。アドリブを織り交ぜながら自然な演技をこなすSuzuQuiさんは、等身大の大人の男性を演じることにかけて強みを持つように筆者は感じています。
今回も特徴のある自作ワールドを用意した、人生を噛み締められるような脚本です。ぜひご鑑賞ください。

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公演期間:
2025年3月28日、29日
22時~ インスタンス開場
参加方法:
メタシアターのGroup+から入場
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