『VRChat』の音楽シーンはとても一言で語れない。
連日小さなワールドの中で誰かの演奏に耳を傾けるような体験もあれば、超大手アミューズメント企画による怒涛のステージに圧倒される特別な日まで、これが同じプラットフォームで起きていることなのだろうかと思わずにはいられません。
VR空間であるという点において、それがただ尖った技術だからという説明で済むのであれば、これほど楽なこともないでしょう。ですが、多くのVR文化がそうであるように、ただ物珍しく新しいだけのものではないのです。そこには表現者たちの積み上げる滔々とした挑戦があり、繋がりや歴史が存在しているはずです。
そんな中で、2024年4月にRTTF Recordsから『VTuber SPEED 2』がリリースされました。代表的な同人音楽イベントのひとつであるM3で頒布を開始した本作は、ダンス系アーケード音楽ゲームへ実際に楽曲提供をした実績を持つエターナルJKよりぴchanがプロデュースしています!
目次
VRシーンと音ゲー文化の交差点『VTuber SPEED』を語る
『VTuber SPEED』は2023年4月、『VTuber SPEED 2』は2024年4月にリリースされたコンピレーションアルバムで、NONSTOP MEGAMIXという構成を取っています。
昔ながらの音ゲーに親しんだ方が聞けば一発で懐かしさに引き込まれるアレンジの数々でありながら、『VRChat』の大舞台で活躍している音楽グループも参加しているという、新旧渾然一体の挑戦的なアルバムなのです。
ですが、「昔の音ゲーとVR音楽シーンが交わるってどういうこと?」と思われるのも当然のことでしょう。そこで、『VRChat』をはじめとした最近のバーチャル音楽シーンについてnusaさんをお招きし、長い音ゲーの歴史に関わる部分やNONSTOP MEGAMIXというジャンルについては筆者による補足を挟みつつご紹介いたします。
そんな新旧世代で語る『VTuber SPEED』対談、どうぞ最後までお付き合いください。
人物紹介
ボカロ文化からバーチャル音楽シーンに至る流れを追いかけ続け
VR楽曲の選評記事を執筆するなど、最近のバーチャル音楽シーンに詳しい
バーチャルライフマガジン所属ライター
音ゲーにハマったことがあるが、最近の音楽シーンは詳しくない
バーチャルライフマガジン副編集長
本対談の司会・調整役として同席
“音ゲー文脈”から読み解く『VTuber SPEED』の背景
この度はよろしくお願いします!
『VTuber SPEED』は、今まさに『VRChat』でも活躍中の音楽グループが参加しているアルバムです。同時に、昔ながらの音ゲー文化の流れを持つものでもあります。
最近の音楽シーンを語るには僕だけでは力不足…… ということで、nusaさんにご参加いただきました!!
nusaです、よろしくお願いします。
こうした形は初めてのことなので緊張しますね。解説を書くことはあったとしても、誰かに“語る”という場面はなかなかありません。
書く機会があるとのことですが、具体的にはどんなことをされていたんでしょうか? たとえば音楽のレビューをするとなると、どのように分析を行うものなんですか。
私の場合は、毎月テーマを決めて、それに沿う曲を集めて紹介するということをしています。
分析という程のことではないのかもしれませんが、あるメロディーに注目したとして、このコードが夏っぽい! といったように綴っていきます。
コード進行などの音楽理論ですか?
音楽理論というよりは、もっと印象的なことが多いです。
その曲の構成を見て、前半と後半の違いから受ける印象とか。
あとは、その曲の思い出ですかね。はじめて聴いた時はどこにいたとか、そうした内容です。
どんな人に『VTuber SPEED』を勧めたい?
それではまずお二人にお聞きします。
『VTuber SPEED』を聞いてみて、どんな人に勧めてみたいと思いましたか?
『DDR』や『beatmania』といった音ゲーにハマった人は、ぜひ『VTuber SPEED』に参加しているアーティストなどの背景を知って驚いてほしいなと思います。ですが、楽曲としては新しいので、『VRChat』に関わっている方であれば、この作品を入口として活かせるのではないかと思います。
CDを聴いただけではわからないこともたくさんあると思うので、この作品には“今まさに『VRChat』で活躍している人たちが参加している”んだと知っていただければ。
音ゲー楽曲制作に関わったベテランも参加していますし、そうした懐かしさに乗りながら、“いま”のVTuberや『VRChat』音楽シーンに触れていっていただきたく思います。
私はDJの方におすすめしたいです。『VTuber SPEED』のようなジャンルを、ぜひDJイベントで聴いてみたいと思うんです。
「なんもわからん」系集会なんてイベントがあるんですが、そこで流れてくる音楽には「この曲聞いたことあるぞ?」とか「全然知らないんだけどなんかスゴイぞ?」みたいな体験がありまして。
そうした『VRChat』内のイベントでは、DJに聞けば曲がどこで聴けるのかを教えてもらえたりするんです。「実は『VTuber SPEED』に入ってるんだ、良いぞ!」なんて言っているような状況を、VR・リアル関係なく見てみたいと思いますね。
“SPEED”とは何か?
まずアルバムのタイトルにもある“SPEED”について、僕なりの知識を思い出してみたいと思います。
『VTuber SPEED』のパッケージや楽曲の印象は、僕と同世代で“昔の音ゲー”を親しんだ人であれば、すぐに「これは!?」と感じるものがあるはずです。
昔の音ゲーと言いましたが、これはもう20年とか、そういうレベルの話だったりします。“SPEED”が付いている理由を説明するには、そんな時代のことから話すことになります。
20年前の“音ゲー”ってどんな感じだったんですか?
今はゲーセンに行けば『beatmania』や『Dance Dance Revolution(以下DDR)』といった音ゲーって当たり前に存在していますよね。やらない人でも見たことはあるはずです。
世代の伝わってしまう話ですが、1997年頃に初代の『beatmania』がゲーセンに登場しました。
えっ 私の生まれた年だ。
そう…… なりますよねぇ~~~!!
ダメージ受けてる(笑
“音ゲー”がゲーセンに登場した頃へ遡る
とにかくそういう時代のお話で。これは僕個人の印象ではありますが、1990年代のゲームセンターってなかなか怖いところだったんです。
縦シューティングとか格闘ゲームに使われる、よくある対戦台の筐体があると思いますが、あれがとにかくズラーッと並んでいて通路が狭く、タバコ臭くて、暗い印象の強い所でした。
もちろん全てがそういう所ばかりではなかっただろうとは思いますが、今と比べるとどうしても危険な印象は拭えません。今は格闘ゲームも、ウメハラさんが活躍されている『スト6』などが盛り上がっていて、誰もが気軽に楽しめる時代になったなと感じます。
でも、僕はゲームが好きだったので、怖いな~とは思いつつも少ない小遣いを握りしめて、隙あらばゲーセンに行こうとしていました。
イメージとしてはわかる気がしますね
ある時、そんなゲーセンでなんだかすごく大きな音楽が聴こえてくる。
なんだろうと見に行くと、これまでゲーセンでは見たことのないような筐体が設置されていて、それが『beatmania』(1997年~稼働)でした。
今は普通に設置されているので違和感はないと思うのですが、あのサイズの筐体となるとメダルコーナーにあるアトラクションのような体験型くらいでしたから、かなり異様でした。
でも、曲に合わせてボタンを押すというのが新しくて衝撃的で、本当に魅力的だったのですぐ虜になってしまったんです。
“音楽ゲーム”という意味では、『beatmania』が起源という訳ではなく、初代プレイステーションのヒットタイトル『パラッパラッパー(1996年)』など、それ以前から存在はしていましたが、やはり『beatmania』が人気の火付け役だったと感じます。
そして、すぐ後に『DDR』もゲーセンに登場しました。さらに大型で目立つ筐体でしたし、何しろプレイヤーが全身で飛び跳ねるというゲーム性でしたから、はじめは珍しいものをみるというのか、正直に言えば馬鹿にするような見られ方もしていたと思います。
ですが、こちらもゲームとして素直に面白いですから評価され、テレビでもすぐに取り上げられていました。そんな風にして、それまでは暗い印象だったゲームセンターの空気までも変えていった、そんな存在でした。
そして『VTuber SPEED』を語る上でのキーとなるのが、この『DDR』となります。
そんな前から関連性が!?
『DDR』人気を知るための一端としては、『ダンス・ダンス・レボリューション2ndMIX オリジナル・サウンドトラック』の存在が挙げられる。
ゲームサントラというジャンルのアルバムでありながら、1999年の発売当時で50万枚以上の売上を叩き出したと言われており、CDによる販売が全盛期だったことを考えても異質な数字だということが分かるだろう。
『DDR』に活用された『Dancemania』はNONSTOP MEGAMIXを土台とする
長くなってすみません!!
『DDR』には、“東芝EMI”というところが出していた『Dancemania』というアルバムシリーズから採用された楽曲が入っていました。
『Dancemania』はいわゆるコンピレーションアルバム(テーマに沿って楽曲を集めたアルバム)ですが、オリジナル楽曲も織り交ぜています。
そして、この『Dancemania』が特徴的だったのは、普通のコンピレーションアルバムとは異なり、CDに収録されている楽曲が全て最初から最後まで途切れることなくひとつの曲のように繋がって聞こえるNONSTOP MEGAMIXという手法で構成されていたことが挙げられます。
ちょうど、DJが次々と曲を止めずにつなげていくような、そんなリミックスが加えられていたんです。
CDって曲を探すためにトラックに分かれてますよね?
そのあたりはどうなっていたんですか?
今は音楽CDをほとんど操作したことのない人もいるかと思いますので、あえて説明を加えたいと思います。
2000年ごろまで、いわゆる商業としての音楽を楽しむには“CDとして販売されている音楽を買う(または借りる)”という必要があったんです。極論かもしれませんが、流行りの音楽を楽しむには、他に手段がなかったとも言えます。
今ではYouTubeで聴いたり、サブスクでキュレーションされたり、あんまり“買う”っていう認識はないかもしれませんね。
そして、アルバムサイズのCDには、だいたい10曲とか20曲とか入っていて、それぞれが“トラック”として管理されていました。
今で言えばWAVファイルとかMP3ファイルのような感じです。とは言っても、CDにはWAVファイルがいくつも詰められていたに過ぎないのですが、パソコンを持っている人もほとんどいませんでしたし、CDプレーヤーで聴くのが一般的でした。
CDプレーヤーのボタンを操作して、聞きたいトラックナンバーを選択すれば、その曲が流れるという仕組みです。
通常、このトラックとトラックの間は無音の区間が数秒挟まって次の曲へ続くこととなりますが、『Dancemania』シリーズはこの無音区間をうまく埋めて、1時間くらい一切途切れずに次々と曲が変わっていくように聴こえるという、そんな音楽体験を提供していました。
『DDR』は、その『Dancemania』から楽曲を採用していたということでしたね。
そうです。『Dancemania』シリーズは洋楽を中心としたものでした。初代『DDR』には『Dancemania 10』に収録された『Smile.DK』の『Butterfly』などが採用されていて、この曲は世代を問わず聴いたことのある方は多いんじゃないでしょうか。
整理すると…… 『Dancemania』は色々な曲を借りてきてそれぞれをつなげるために再構成した、企画的な形の作品です。
そして『DDR』は、そんな『Dancemania』から一部の楽曲を借りてきている、といった多重の関係になっているわけです。
僕はその頃、中学生になったばかりだったということもありますが、クラブミュージックであるとか、流行りの音楽はほとんど無知でした。ですが、ゲーセンで聴こえてくる楽しげでやたらと質の良い音楽は何なのだろう? という気持ちから『Dancemania』を知り、そしてそこから原曲を知るという流れができていきました。
『Dancemania』サブシリーズとしての“SPEED”という存在
ここでようやく“SPEED”に繋がります!
『Dancemania』はメインシリーズとしてナンバリングが続いていったのですが、それとは別にベスト盤やサブジャンルが存在します。
そのうちのひとつが『Dancemania SPEED』なんです。
そのような時代背景を経験してきたので、僕の視点だと『VTuber SPEED』を音ゲーの歴史から見つめることとなります。
ですが、タイトルには“VTuber”が含まれています。つまり、ここまでの古い時代の話ばかりではなく、もちろん現在の文脈があるわけです。しかも、同じVTuberと言ってもホロライブやにじさんじのような“メジャーな世界”ともまた違います。
『VTuber SPEED』に参加されている人たちは、『VRChat』などで音楽活動をされているような、よりコアなバーチャル空間の界隈でもあるんです。
僕の視点であれば、「これはあの頃の!」となりつつも、更にサブジャンルとしての“SPEED”というコアな感覚がありますし、nusaさんのような方が聴けば「VRアーティストのあの人が!」となりつつも、やはりコアな界隈だったりしますし……
新旧が織り交ざりながらどっちの方向にも尖っている作品と言えますね。
では、『VRChat』の音楽イベントを追いかけている立場としてnusaさんに伺ってみましょう!
「ここであの人が出てくるんだ!」という驚きがある
私は最近だと、VRアーティストやVTuberによる音楽を中心に聴いていますが、音楽を聞き始めたそもそものきっかけはボカロ曲でした。
あるとき、妹から「『VOCALOID』ってのがあるらしいよ」「この声は機械らしいよ」という風に紹介されたのを覚えています。
親が持っていたパソコンを使ってそうした音楽を聴いているうちに、インターネットへどっぷりハマっていってしまい……。それがだいたい2012年ごろのことだったと思います。
新しい技術ということもありましたし、米津玄師さんやSupercellといった方々が既に活躍していて、お茶の間に進出しはじめたかなという時期だったことも影響していると思います。
そんな風にしてインターネットへ入り込むうちに、今度はVTuberを知るようになりました。バーチャル美少女アンドロイド“のらきゃっと”さんのニコニコ動画を見て、『ゆかりねっと』や、合成音声で喋るVTuberの存在を知りました。
VTuberを掘り下げていくと行き着いたのが『VRChat』です。そうした流れがあったのもあり、『VRChat』では音楽に関するイベントへ積極的に参加していきました。
実は2019年頃にはボカロDJイベント、VRDJイベントというのは存在していて、参加してはnoteにレビューを書いたりしていたんです。
2020年頃からは生演奏を取り入れたイベントが目立つようになってきたと思います。JOHNNY HENRYやmemexといった方々ですね。memexはCHUNITHMといった最近の音ゲーにも楽曲提供されています。
えっ!? 楽曲提供してたんだ……
しかもmemexさんってボカロPだったんですか?
“ボカロ”文化から続く音ゲーと『VRChat』の交点
そのmemexさんが『VRChat』の中でライブイベントをやっていると知って、興味を持って調べる中で『VRChat』での生演奏イベントへ行くようになりました。
“ボカロ”に私がハマった時期は、お茶の間での認知も高まってきていて、楽曲をブログなどで語る人も見かけました。
ただ、『VRChat』のイベントを見ていると、そうした“ボカロ界隈”とはまた離れた文化だったりします。まだVR世界の音楽を語ろうとする人は少ないと感じていたんです。
そこからブログで“上半期10選”といった形の解説を書くようになりました。イベントに参加し続けていたのもあったと思うのですが、ブログを読んでくださった方からお声がけいただいて、執筆のご依頼や、今日のような機会を得られるようになっていきました。
『VRChat』プレイヤーだとしても、なかなかイベントそのものに気付けないという問題がありますよね。
先日、たまたま取材の縁で生演奏ライブイベントに参加できたことがあるのですが、そうしたことでもなければわからなかったと思います。なので、VR文化圏の音楽シーンを語る人というのは貴重な気がします。
僕も昔はボカロに関しては追いかけて記事にしたりという活動をしていたことがありますが、VR音楽シーンをライブで書いているという人はそう思いつかないですね。
『VTuber SPEED』についてお話を戻すと、私からはVTuberや『VRChat』で活躍している方々といった視点で見ることになります。
なので「この人の曲をSPEEDアレンジすることなんてあるんだ!」という驚きがありますね。
『VTuber SPEED 2』で参加されている“ろい[loy]”さんは特に感じました。ロックな曲調、クラブイベントというよりは大きなステージで激しく演奏するという印象を持っています。そんなロックな音楽を“SPEED”のようなアレンジにするのが新鮮です。
『Dancemania SPEED』というサブジャンル・シリーズなんですが、このアルバムはその名の通りBPMを上げることで、ポップミュージックよりもクラブやダンスのノリを得られるような作り方をしています。ただ、正直な感想として「むりやり感」を持ってしまうシリーズでもあるんです。
BPMを上げても音のピッチを維持できる技術は昔から実現していますが、極端に例えると『VRChat』でボイチェンに無理が出てガビガビボイスになっちゃったような、むしろ聴きにくくなってないかと思うような楽曲もあったりして(笑
たぶん『VTuber SPEED』は、その頃のむりやり感すら再現しようとしている気がしています。そのあたりは聴いていていかがでしたか?
『VTuber SPEED』の参加者に驚きを隠せない
私はボカロがスタートでしたので、いわば機械的な声や電子的な音がはじめ聞き取りにくい、なんてことがありました。むしろそれに慣れてしまっている部分があるので、“SPEED”のその感じも普通かな、なんて。
『VTuber SPEED 2』にはYSSも参加されています。YSSのyopiさんもボカロPとして活躍されていたと思います。VRDJとしても活動されてましたので、DJがどういう曲を求めているのかがわかるのかもしれませんね。
YSSはリアルでもとても活躍されています。VTuber関連のDJイベントへ参加してみるとYSSの曲が流れないことはないんじゃないかというくらい人気がありますよ。
『SANRIO Virtual Festival 2024(以下Vfes)』でもアーティストライブとして出演されていましたね。
バーチャルライフマガジンで『Vfes』の特集記事をまとめていたのですが、それほどVR音楽シーンに詳しくないような僕でも、今回の『VTuber SPEED 2』参加アーティストを見た時に「あっこの人は!」と気づくような、そんなラインナップだと思います。
アムニェカさん、警戒ちゃん、YSS、PHAZE……
予備知識無しに『VTuber SPEED』のリストを眺めるとちょっとびっくりしますよね。
私の中でアムニェカさんはジャズギターをメインにされている方が強いです。直近では“Raindance Immersive”へノミネートもされていますね。なのでこちらも「ここで出てくるんだ!」と驚いています。
(※編集部注:アムニェカさんが代表を務める“EMN Records”は、取材から記事公開までの間にRaindance Immersive 2024 Best Live Show部門の最優秀賞を獲得されました)
「こんな人がいるんだ!」ということであれば…… 『VTbuer SPEED』ではボーナストラックに“NAOKI”、“小坂りゆ”という名前が出ています。もうこれは見る人が見れば一発なのですが、思いっきり『DDR』じゃん!! と感じられる存在です。
僕の視点であれば、7つの鍵盤を持つ『beatmania IIDX』でもみかけた名前ですので、多タイトルにわたって活躍していたことになりますね。
音ゲーはコンポーザーが様々な名義を持っていたりします。同じゲームタイトル、同じナンバリングの中でも、曲調によって全然違う名前で出してたりするので、裏話を聴いてはじめて「この曲もこの人が作ったのか!」と気づいたりします。
こと“NAOKI”さんという名前は、他に色々名義があるのかもしれませんが、僕の中では一番印象に残っていますから、それこそ「ここで目にするとは」という気持ちです。
どうして『VTuber SPEED』はこんなことになってんの? と思いますが、真相はわかりません(笑
また『VTuber SPEED 2』については、“CJ Crew”、“DJ Kambel”という名前が出ています。こちらはなんと『Dancemania SPEED』シリーズでずっとコンポーザーとして中心的に制作へ携わっていた方々なんですよ。
やっぱり「なんで居るの???」って僕は思ってます(笑
本家の“SPEED”は『Dancemania』がそうであるように洋楽コンピレーションアルバムだが、『DDR』の楽曲を逆輸入した異例のシリーズだった。
『VTuber SPEED』にNAOKI氏が関わった楽曲が収録されているのは、そうした歴史的な事実に対するオマージュが込められている。
本作プロデューサーのよりぴChanによれば……
「今はVTuberがたくさんいて楽曲もたくさんある、『VRChat』そのものはまだまだメジャーではないかもしれないけれど、そのままでは埋もれていってしまうという思いがあった」ようです。
NONSTOP MEGAMIXの形式であれば、アルバムを最初から最後まで自然と聴いていくような形になります。そのようにして曲に触れて、原曲への興味を持ってもらいたいという狙いがある、ということなんでしょうね。
音楽にそれほど興味のなかった中学生の僕が、身近な邦楽よりも先に、ゲーセンを通じて原曲である洋楽を知ろうと思ったのは、まさに体験をきっかけとした縁だったなと思います。
同じように、2000年頃までの「NONSTOP MEGAMIX良かったよね!」って思っている世代はいると思います。
アルバムという“楽曲の連続性”を再考する
RTTF Records主宰のHyujiさんから頂いてるコメントには……
「良い音楽へ触れるための役割を昔はコンピレーションが担っていた部分があったと思う」とあります。時代は違うにしても、そうしたものがいま無いのであれば「同人音楽らしいDIYの精神で自分が作ろうと思った」と。
僕もCDの文化を経験していた世代でもありますので、例えばCDを聴き終えたと思った後、20分くらい謎のノイズ音が続いてそこから隠し曲が始まるなんていう体験をしています。
なかなか今では感じないものだと思います。今はサブスクが主流となって、どうしても単品にフォーカスする流れにはなりやすいのかもしれない。
ボカロ文化を追いかけている時に、似たような文脈を感じたことがあります。
“物語音楽”という分野があるのですが、私の追いかけた中では、カゲプロ、悪ノシリーズ、ミカグラ学園組曲、といったものです。
そうしたボカロ楽曲はひとりのコンポーザーがコンセプトに沿って作品を出していって、シリーズの完結としてアルバムを出すなんてことが多かったと思います。
対してVTuberを見てみると、今度はいろんなコンポーザーから曲を書いてもらって、それらを歌う……。今なら星街すいせいさんが特にわかりやすいんじゃないでしょうか。こちらはアルバム的な連続性というよりは、曲単体を映像なども含めた完成度や話題性を大きくしていくという感じですね。
VTuberの楽曲が独立性の高いものだとするなら、あえてNONSTOP MEGAMIXとして繋ぎ合わせたものを聴けると、また新しい見方ができそうですね。文化が一周するというのか。
古い再生媒体をも利用する温故知新の表現形態
確かに“一周”したという感じもしつつ、若い人たちにとってはそれ自体が新鮮かもしれない。
“セットリスト”的な言葉を、ライブ以外で聞くようなことはなかなか無いような気もしますし。上から下まで繋げて聴くことで新しいストーリー性を提供できるというのは「今だからこそまた新しい切り口」となって、面白いと思いますね。
最近はアイドルや声優さんも、ボカロ文化を継承しているところがあるように思うんですよ。歌う人がいて、作曲者がいて、作詞家がいて、編曲家がいて。そのようにできた楽曲をとにかく集めました、みたいな。
それはそれとして良いものですけど、昔ながらのCDアルバム構成に触れていた人にとっては、物足りない部分もあるのかもしれませんね。
その点では、ヨルシカはもともとボカロPですし、聞いていくととても考えさせられるような、それぞれコンセプトをしっかり一貫したアルバムを出されています。アルバムの印象に沿った油彩画を画家さんに依頼して、画集とセットで出すといったこともしていました。
『VTuber SPEED 2』で参加しているYSSは、2023年11月に『Nebulosa』というアルバムをカセットテープ版でも出していたりします。つなげて聴くということを重視しているのかな、なんて思います。
そのカセットが販売された時には、日本の大きな店舗へ展開していたように記憶していますので、しっかりと売り出していたんじゃないでしょうか。
カセットって、あの磁気テープの。物理での販売ですよね?
実はですね、トラスクさん。今ちょっとカセットって流行ってたりするんですよ。おしゃれ感というのか、サブカルチャーというのか。いまちょっと“来てる”んです。アーティスティックな活動をされている方は特典で付けてみたりとか。
バーチャルシンガーとしても活躍中の、長瀬有花さんは特典でカセットどころかカセットプレイヤーまで出しているんですよ。もうおしゃれアイテムなんですよね!
先ほどまで「昔の話」として過去の音ゲーに触れましたが、さすがにカセットとなると一巡以上という気がします。僕が小さい頃には、親からカセットテープを借りてA面B面を聞いて、なんていう記憶がありますが、もう物心がはっきりしてきたころにはCDが主流だったかなあ……
ああ!! だからアメリカ民謡研究会さんのワールドってレコードショップみたいになってるんだ! なるほどな~~
ボカロとか合成音声とか、ほぼ毎回レコード音源で出されていますね。
レコードプレイヤーか…… 針とかメンテするの大変そうですよね。
カセットテープは僕の世代としてちょっとリアルな面があって分かりませんが、レコードとなると憧れのようなものが確かにあります。カセットテープもそういう感じなんでしょうね。
それぞれの世代は『VTuber SPEED』をどう感じるのか?
ひたすら背景を語り合っていただいたところで、『VTuber SPEED 2』を聴いた率直な感想をいただきたいと思います。
まず受けた印象は、とにかくシンプルに“懐かしい”という感覚です。『Dancemania』のあの感じ!! という言葉が出てきちゃいます。
『VTuber SPEED 2』の1曲目はハッピーハードコアというようなジャンルなのですが、そこから開幕するというのも「おお、はじまるな!」みたいな(笑
そしてアルバムの途中になるとGABBAっぽいゴツめのが来たり、後半には尖ったのが並んで、最後はきちんと締めているという流れで、はじめて聴いたはずのCDなのに懐かしい、そう思ったのが正直な感想です。
あとは、BPMを上げてちょっと無理した感じに聴こえるのも、やっぱり狙ってやってるところがあるようですし、あの時代をやりたくてやったんだろうなって思います。だから、ちょっと不安になるくらいが正しいんじゃないかなんて思ってもいます。
ありがとうございます。
次はnusaさんに伺いますが、トラスクさんの感想に対しては意外な印象を受けるんじゃないでしょうか。
確かに「懐かしい」という印象にはならないので意外ですね。
私の視点だと、『VRChat』でフレンド関係にある人の曲がリミックスされて、それがノンストップで流れて聴けるというのが、新しい音として体験する新鮮さに繋がっています。
この曲をこうしたリミックスでやる人がいるんだ! このボーカルでこのリミックスにして合うものなんだ! といった、驚きと発見が多かったですね。
一方では懐かしく、一方では新しく、本当に文化が一周したんだなと思いますね。
『VTuber SPEED』『VTuber SPEED 2』頒布情報
リアルイベント日程: 2024年 10月 27日(日)
サークルスペース : ク-18a 『RTTF Records』
作品名 : 『VTuber SPEED』、『VTuber SPEED 2』
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リアルイベント日程: 2024年 10月 27日(日)
サークルスペース : ク-18a 『RTTF Records』
作品名 : 『VTuber SPEED』、『VTuber SPEED 2』
共同企画・制作 : 『RTTF Records』
エターナルJKよりぴChan
『VTuber SPEED』シリーズプロデューサー
自身もVTuberとして活動を続ける傍ら作曲も行う
海外ダンス系アーケードゲームへ楽曲提供をした実績を持つ