【週刊VRChat】個人勢VTuberがVRChatで過ごす理由 バーチャル美少女ねむ1万字インタビュー

VRデバイスの低価格化に加え、社会情勢による巣ごもり需要の拡大などにより、盛り上がりを見せているソーシャルVR/メタバース。「VRChat」は、複数存在するソーシャルVRサービスの中でも特にユーザー人口が多い、代表的な存在です。本連載では、VRChatの最新トレンドを、日々10時間以上同サービスに浸かっており、NPO法人公認VR文化アンバサダーとしても活動しているアシュトンが伝えていきます。

VRChatにおける「VTuber」の存在感

日々ユーザーにVRChatを始めた理由を聞いていると、ソーシャルVR内での「VTuber」の存在感に驚かされることがある。例えば、ミライアカリさんやのらきゃっとさん、現在は積極的にVTuberとして名乗っていないが、バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさんことねこますさんなどをきっかけに「VRChat」の存在を知ったという人も多いし、最近だと特に「ぽこピー」の企画「ぽんぽこ24時」やホラーワールド実況動画などをきっかけにVRChatを始めたというユーザーの声は多く聞く。

今回は、そうしたVRChatをはじめとするソーシャルVRのコンテンツを積極的に発信しているVTuberの1人であるバーチャル美少女ねむさんにインタビューを実施した。バーチャル美少女ねむさんといえば、「お前は誰だ」のセリフとともに2017年9月よりデビューした世界最古の個人勢VTuber。初期より、「人類美少女計画」と題して、バ美肉による生活を提唱しており、仮想通貨などニッチで新しいコンテンツを積極的に発信してきた。もともとはLive2Dを利用した2DモデルでのVTuber活動を始めていたが、のちに3D化を果たしVR空間へ進出。今となっては、ほぼ毎日4~5時間プレイするほどにVRChatにハマっているとのこと。

インタビューの中で、出てきたキーワードは「終わらない夢」。配信であれば、「配信終了」と押せばもとの自分に戻ってしまうが、VRChatにはそうした切れ目がない。約1万字におよぶインタビューを通し、ねむさんから見たVRChatの魅力、そしてVTuberがVRChatを利用するメリットはあるのか、など「VTuber×VRChat」をテーマにVTuber視点から見たVRChatの実態に迫る。

バーチャル美少女ねむと「VRChat」の出会い

──まずは活動4周年おめでとうございます。ねむさんといえば、YouTube配信においてもVRChatをはじめとするソーシャルVR関連の企画が多く、かつご自身もいちユーザーとしてVRChatをよくプレイしていると思いますが、VRChatとの出会いはどのようなものだったのでしょうか?

ねむ 私は、もともとLive2Dで活動していたVTuberなので、3DというかVRの人ではなかったんですよね。私が活動を始めた頃にVRをすごいやってた人っていうのはねこますさんとかでした。ねこますさんはまさにザ・VRの人という感じで、今はそんなにVTuberっぽい活動はなくなっちゃったけど。

──確かに。当時まだ3DのVTuberが主流な頃からLive2D活用されてましたね。

ねむ そう。それで、私がVR買ったのが2018年なので、活動2年目の頃になります。ちょうど「バーチャルキャスト」が発表された時期で、やりたい企画がひらめいたんです。当時580億円分の仮想通貨が盗まれて話題になっていた「コインチェック事件」で大活躍していた正体不明のハッカー「みなりん*JK17」さんという方がいたんですけど、この方正体ばれるのがイヤでNHKの取材も断っていたんです。

VRなら、みなりんにインタビュー取材ができるぞ、と(※1)。要するに、ネットの世界で美少女キャラクターとして活躍している人にお互いに正体は隠したまま、美少女のまま同じ空間でインタビューができる。これはすごいぞと。

※1:2018年1月に仮想通貨取引所「コインチェック」にて約580億円分のNEMコイン(XEM)が盗難される事件が発生。その際に、活躍したホワイトハッカーがみなりん*JK17さんだ。詳細は、当時のねむさんのブログに詳しい(関連リンク)。

──なるほど。バーチャルキャストから始めたんですね。それからすぐVRChatに?

ねむ いえ、そのころはあまりVRChatはやってなかったです。たまにイベント行くくらいでした。

──それは意外ですね。そこから現在のように本格的にやり始めたのは何かきっかけがあったんですか?

ねむ VRChatを本格的にやり始めたのはここ1年半くらいなんですよね。2020年の4月くらいから。2つ理由があって、1つはコロナ。現実で人に会えなくて寂しいじゃないですか。今振り返るとそれで入る時間は増えたのかなと。あと、仕事がテレワークになったので。今まで通勤に使ってた時間がVRChatになったみたいな感じですね。

そうしたときに、プレイヤー人口などの関係からほかのソーシャルSNSって約束決めてこの時間集合ねってやらないとなかなか集まりにくい。VRChatはいつ来ても誰かいますからね。なんなら1人で来ても楽しいし。

VRChatをプレイしていると自然と交流が生まれ人と繋がれる(敬称略:左からねむ、jumius、ドコカノうさぎ、蘭茶みすみ)

──とりあえず「ポピ横」(※2)に行けば飲み相手もいますしね。

ねむ そうそう。そういうのもあるし。なので、コロナ禍は私が始めたキッカケで大きいかもしれないです。う1つはちょうどそのころVIVEアンバサダー(※3)に任命されたことです。いろいろなイベントなどに呼ばれることも多くなったので。

「VR飲み」と呼ばれるVRChat上でお酒を飲む行為が一般的。基本、お酒のあるワールドで歓談をしながらリアルでも実際に飲むことが多い。

※2:「ポピー横丁-Poppy Street-」。新宿のゴールデン街を模した飲み屋街風ワールドで、毎夜多くのユーザーが「VR飲み」をしている(ワールドリンク)。
※3:DMM.comの展開する「DMMいろいろレンタル」とHTC NIPPONが共催しているアンバサダープログラム。同社の提供するVRブランド「VIVE」の機材を60日間無料でレンタルできるチケットをはじめ、さまざまな特典を受けられる(関連記事)。

──なるほど。VIVEアンバサダーになってから本格的にVRChat始めたという流れだったんですね。

ねむ そうですね。当時、VIVEの宣伝のためにVRChatのVR空間の中でVIVE製品を売るお店を作ってVTuberが店員をするという、新しい試みをはじめていました。今は「VIVE WONDERLAND」とかいろんなワールド作ってますけど、その第1弾みたいなものが作られた時期で、そこで店員やったりイベントやったりだとかする機会が増えたので(関連記事)。

それまで、私あまりVR系のVTuberって認識されてなかったみたいで、それまでバーチャルでのイベントに呼ばれる機会が少なかったんです。そこで、店員とかイベントで司会とか歌うたったりしてるうちに、これVRChat面白いぞという感じになってきて。今ではほとんど毎日入る人になってしまいました。

──ヘビーユーザーですね。ちなみに頻度というか1日何時間くらいなんでしょうか?

ねむ ここ1年半くらいVRChat本格的にやってて、どんどん頻度も時間も増えていく(笑)。ほぼ毎日で、1回4~5時間は入ってます。多分月100時間は超えてるんじゃないかな? Steamで見たら総プレイ時間は1200時間でした。

──VRChatは1000時間でチュートリアル卒業みたいなことが言われていますが、すでにチュートリアルは卒業されたと。

ねむ そう。やっとチュートリアル卒業みたいな。ようやく住人になってきたぞって感じですね。

「VRChat住民の生活実態はめちゃくちゃ面白い」

ねむ 私がVR空間の中で生活してるのは取材の一環みたいなところがあります。

今VR空間の一般人の生活実態ってそれだけでめちゃくちゃ面白いんです。それをうまく切り出してコンテンツ化するだけで、「VRの住人ってこんな変なことしてるの!?」とすごい興味を持ってもらえる。結果的にバーチャルを広めることになると思ってます。

──その感覚はわかります。こんなに面白い文化があるのになかなか外から見えにくいのはもったいないですよね。ちなみに、これまで取材してきたものの中で特に「これはウケたな」というものなどありますか?

ねむ 結構私の中でヒットだったのがいくつかあって。VRで生活してる人からすると当たり前のことが意外と受けたりします。

例えば、ゴールデンウィークにやったVR睡眠の配信はめちゃくちゃ受けました。朝までのらちゃんはじめ、VTuber5人で寝てるだけなのに、めちゃくちゃ注目を集めました。やっぱり、VR空間の中で寝てるとか、普通の人からしたらちょっと意味不明じゃないですか。あれはいろんなところでニュースにもなって、配信もかなり伸びました(関連記事)。

VTuberが寝てるだけでコンテンツになるのってすごくないですか。寝てるだけで投げ銭が入ったりファンアートが作られたり。起きたらすごいことになってて、これはVTuber活動の新しいスタイルだなと。でも、VR睡眠ってVRChatのヘビーユーザーからしたら普通のことですよね。

──そうですね。私も毎日やってます。

ねむ 毎日(笑)。実は、私自身はVR睡眠苦手なタイプなんですよね。靴下はいてるだけで眠れない人なんで、ゴーグルを被ったまま寝ちゃうのはとてもじゃないけど考えられない。そういうのもあって、ちょっとした覚悟であの配信をしたんです。あの後時差ボケみたいになって2週間くらい体調が戻らなかったです(笑)。

──配信時は眠れたんですよね?

ねむ 寝てはいるんですが、眠りが浅すぎて。実質1/3くらいしか眠ってないかもしれないですね。よく飛行機乗ってアメリカとか行って帰って来た時とか時差ボケで大変なことになるじゃないですか。ああいう状態になってて。ゴールデンウイークの初日にやれば残りの時間で体調戻せる。私がVR睡眠やったのは後にも先にもあの1回だけです。まあ修学旅行感もあって、楽しかったですけどね。コメントもめちゃくちゃ来てましたし、寝言とかも面白くて。

──ほかに受けたものはありますか?

ねむ 「お砂糖」(※4)とかは受けました。「お砂糖」は私の中でも大きいコンテンツの一つで。以前、配信ゲストに「お砂糖」ペアを呼んでインタビューをするみたいなのをやったんです。バ美肉同士の恋は面白い。

※4:VRChat内でのカップルのこと、またはVRCユーザー同士でかわいがり合っている様子。ねむさんもこれまで度々配信や記事で取り上げてきた(関連リンク)。

一番面白かったのはバ美肉の方を3人連れてきて三角関係みたいな配信をやったときです。「VRおじさんの初恋」という漫画が流行ったときで、私のところにもいくつか取材が来たんです。「実際のVRおじさんの恋愛が知りたい」って、ニッポン放送のグループ会社がやってるWebメディア「grape」とかで記事になったり。そういうものも含めて、やはりVRChat民としては超当たり前だけど、コンテンツにすると意外とみんな面白がってくれるっていうのがまだまだ転がってると思います。

なので、私がVRChatやってるのはそういう新しい文化を見つけて配信のネタにするという取材の意味もあります。今取り組んでるのはファントムセンス(VR感覚)。あれも、VRChat民であれば誰しも聞いたことあるほど当たり前ですが、外から見ると食いつきがよくて。

──体験したことない人からするとVRゴーグルって視覚と聴覚しか感じられないと思いますからね。私も初め聞いたときはにわかに信じがたかったです。

ねむ そう。それで、意外とVRやったことない人からの反応がすごいよくて。VRって視聴覚だけじゃないんだ、なんでも感じることができるんだというのはショッキングらしくて。初めに、「ねとらぼ」にバーチャルセックスの記事を寄稿したんです。あれ割と軽いノリで書いたんですけど、めちゃくちゃバズったんですよね。一瞬だけど、はてぶで総合トップの記事にもなったりして。

──それはすごい。テクノロジーなど特定の分野ではなく総合で?

ねむ そう。日本全体で1位の記事です。でもその後、大坂なおみ選手がテニスラケットへし折ったというような記事に一瞬で抜かれたんですが(笑)。3時間くらいは全国1位でした。

それはファントムセンスをメインにした記事じゃなかったんですが、反応を見ると一番反響があったのはエッチ云々ではなくファントムセンスで。私も意外でした。VRChat民だったらみんな多かれ少なかれあるよねっていうものだと思うので。

それで、ファントムセンスはウケるぞと思って、始めた企画が、曲を作って360度MVなどで普通の人にも音楽でファントムセンスを体験してもらおうという「ファントムセンスプロジェクト」関連記事)。もう1つはソーシャルVR国勢調査というアンケート調査です(関連記事)。こちらは、スイスの人類学者・Milaとやってます。最終的に、1200件以上の回答をいただきました。

──私も回答しました。結構踏み込んだ内容まで聞かれてましたよね。

ねむ ありがとうございます。めちゃくちゃ面白いので早く発表したいです。今話したVR睡眠とかVR恋愛とかVR感覚とか全部盛りで。面白かったのはあのアンケートを答えることで、いかに自分がこれまでの常識の囚われないVR生活をしてるかってことに気づいて、バーチャルの中での自分を見直すきっかけになったって感想がいっぱいあったことです。

なので、そうした色んな企画を考えるきっかけとしてVRChatは私からは切り離せない存在にいつの間にかなっていました。

──確かに。ねむさんは取材系の企画が多いですよね。VRChatをプレイすることが配信コンテンツにも反映されている印象です。

ねむ 私、日常的にゲーム配信とかするのはあまり得意ではなくて。自分が興味がある新しい何かみたいなことを基本やりたくて。ちょっと未来を感じさせる何かというか。このバーチャル美少女ねむとしてのVTuber活動を始めたこと自体がそれの一環なんです。

あと、コンテンツという部分でちょっと違う観点でいうと、ワールドがきれいというのはあると思います。きれいな映像が撮影できるワールドがすごいたくさんあります。絵になるので、そうしたワールドを回ってるだけで楽しいです。ゲームワールドもいっぱいあるし、ロケ系の配信をしたいVTuberにもおすすめですね。無限のコンテンツが手に入ります。

いまのVTuber界ってそこら辺の要求度がすごい高まってるんです。ちょっと前までは3Dで動いてればバズったんです。でも、今は3Dで動いてる人はたくさんいるので、映像綺麗だったりワールド綺麗だったりしないと注目が集まりにくい。その点、UnityとかMMDとか使わなくても、自分が実際に入って動くだけで映えるビジュアルが手に入るのは魅力です。私もよく、MVとか撮るのにVRChat使ってますが、映像制作にはつかえます。

撮影:紫陽花岬 -Cape Hydrangea- (ワールドリンク
撮影:Yayoi Winter Onsen(ワールドリンク) 右:おきゅたんbot

──確かに、VRChat上には配信利用可能なワールドがたくさんあるので、コンテンツには困らなそうです。

ねむ もうひとつ、一般人を絡めた配信みたいなものができるのはメリットです。以前、「MusicVket2」に出展したときに実施した路上ライブとか。あれはVRChatならではです。

自分のブースの前に立ってて、その辺歩いてる人に大してその場で生歌披露して足止めてもらって、その場で路上ライブやって。結構、知り合いと初めての人半々くらいだったんです。あれで初めて知ってくれてチャンネル登録してくれた人とかもいて。あと、意外だったのは私の隠れファンを発掘できたんです。

──実は、私もあの路上ライブがキッカケでVRChat始めました。

ねむ それを聞いて驚きました。結構、サイレントファンが多いんです。というか、いいねとかコメントとかしてくれるファンなんて実際は1割もいないんですよ。でも路上ライブだと実際に見えるんです。配信だと数字なんですけど。例えば、配信の数字での「30」と目の前に「30人」いるのとでは全然違う。後者の方が圧倒的に楽しいです。そういう熱狂とかファンとのつながりを可視化できるのは、VRChatならではの方法がまだまだあるのかなと思ってます。

──なるほど。ちなみに、まだVR未経験のVTuberを念頭に置いたとき、どういったタイプの方には向いていそうだと思いますか?

存在を知られているVTuberはVRChatでも強い

ねむ 結構タイプにはよりますよね。もともと作りたいコンテンツが決まってるタイプのVTuberさんはそんなに向いてなさそうです。逆に言うと私みたいな、研究チックというか自分がどうありたいかみたいな人ってVTuberで多いと思うんです。VTuberをやることで、現実の自分とは違う本当の自分として人と接したいと思ってる人にはすごいお勧めです。

配信だと、配信プチっと切ると元の自分に戻っちゃう。でもVRChatは「終わらない夢」みたいな感じですよね。配信終わっても、「ずっとバーチャル美少女ねむのままやんけ!」みたいな感じで。配信イベントみたいな公の場だけじゃなくて、プライベートな場所でもちゃんと自分自身でいられる。これは結構大きいと思ってます。

これは良し悪しなんですが、美少女キャラクターとしての自分って初めはちょっと恥ずかしいじゃないですか。配信とかだと、ちょっと恥ずかしがりながらバ美肉が美少女やってるのがコンテンツになるところもありますが。対して、VRChatだと常にかわいいかわいい言われるのでそのさらに先へ行ける。「そりゃかわいかろ」みたいな一歩先の世界に行けます。特に、私みたいに2DでもともとVTuberやってた方は、そういう感覚を得やすいんじゃないかな。より自分でいられる、プライベートでも自分でいて美少女そのものになるみたいな感じです。

──「存在確度が上がる」「終わらない夢」はキーワードですね。確かに、配信外でもバーチャルなパーソナリティーでいられるというのは魅力的に感じるVTuberも多そうです。

ねむ あと、単純にVTuberがVRChatやるのは楽しいです。VRChatで最初に結構困るのは、人間関係がリセットされてしまうところだったりします。所属するコミュニティーが決まるまではぼっちじゃないですか。VRChatすぐ辞めちゃう人はそこに耐えられなかった人が多い。その点では、VTuberは圧倒的に有利です。知ってる人もいるし、いなくても適当にほっつき歩いてるだけで声をかけてきてくれる。超楽しいですよ。

──確かに、最初からある程度知名度や人脈があるというのは強いですね。声をかけられるのもバーチャルならではというか。

ねむ VTuberってぶっちゃけ、そういう体験したこといないと思うんです。街歩いてて声かけられることなんてまずないじゃないですか。「あ、Twitterで見たことある人だ」みたいな感じで声かけられるのって、正直めちゃくちゃ楽しい。そういうのもある意味、VTuberを続けるモチベーションにもなります。知名度が上がるとちやほやされるので(笑)。

でも、リアルの有名人と違って煩わしさも少ないんです。VRゴーグルを外せば一般人に戻れるわけですから。こんなにストレスのない有名人ないですよね。あと、知り合いのVTuberとのネットワーク増えたり、「今度こういうイベントあるのでどうぞ」みたいなその場で企画が決まったり、無限にコンテンツが増えていくので、自分のコンテンツも増える傾向にあります。私みたいなタイプのVTuberにはお勧めです。みんなやればいいのになと思います。

アバターアップロードはどれほどネックに?

──先ほども出ましたが、VTuberのように自身のアイデンティティーとなるアバターが最初から存在する場合、アバターの導入はある程度ネックになりそうです。その点については、ねむさんからアドバイスなどありますか?

ねむ VRChatの楽しみはオリジナルアバターを使ってこそだと思っているのですが、VRChatでオリジナルアバターを使おうとすると、Unityというゲーム開発エンジンを使わないと行けないのが最大のネックです。一応、私も初めは「誰でもできるUnityでオリジナルアバターでVRChatを楽しもう」みたいな記事とか動画とか出してたんです(関連リンク)。

でも、途中で挫折しちゃって。せっかく環境作っても、私は活動の主体は配信とか記事とかなので、そんなにアバターに時間を割けない。たまに新しいアバターをセットアップしようとすると、バージョンなどの環境が変わってて、動かない。Unityはゲーム開発エンジンなので、そこら辺は難しいです。一般人向けではないので。

かといってUnityエンジニアになる気はないので。今は考えを改めて全部人に任せてます。日本でVRChatやってる人はほとんどオリジナルアバターだと思うので、ほとんどUnityを触ってる。そういう意味では私は超マイノリティーだと思います。でもこういうのは一般的にしていきたいなと思っています。

──私も最初はいきなりゲームエンジンを触れといわれて困惑しました。自分で調べたり人に聞いたりしながらなんとか触れるようにはなってきましたが。

ねむ それは私からすると時間の無駄かなと思ってて。Unityのエンジニアになりたい人は勉強すればいいと思うんですけど、そうじゃない人はもっと自分のやりたいことに時間を割いたほうがいいと思っちゃいます。

実際にVRChatterにアンケート取ったんです。「あなたたち、VRChatでUnity頑張ってるけど、実はやりたくないんじゃないの?」みたいなものでその結果、今のVRChatユーザーの76%はUnity使わないでアバターアップロードできたらうれしいって答えてました(関連リンク)。実はみんなやりたくないんです。なおかつ、そういう煩わしさがなければVRChatやりたいという人もかなりいる。私の試算によると、UnityなしでVRChatができるようになると、日本のユーザーは5割増しになります。

VTuberの活動って一人では成り立たないものが多いので、そういうの得意なVTuberさん多いと思うんです。MIX依頼するとか、編集依頼するとか、楽曲作ってもらうとかそういうノリでUnityも誰かに依頼すればいい。ただ、Unityについてはあんまり依頼するのを見たことはありません。

──意外といないんですね。

私の場合は自分自身でそのルーティーンを確立したことで、なかなかほかのVTuberにはできない新たな技を会得しました。リアルの有名人をVR世界に連れてくることができるんです。個人VTuberではなかなか難しいことだと思います。

──リアルの有名人を連れてくる?

ねむ 一番有名どころでいうとおぎの稔議員(※5)ですね。まず、HTC NIPPONを説得してVR機材を送ってもらって、デザインとかモデラーさんとかも紹介して、アップロードも私のやってる仕組みをそのまま流用しました。

冷静に考えて、ネットの世界の有名人連れてきて、「アバターアップロードにはNew User以上じゃないとダメなんですよ」「まずは、Unityインストールしていただいて」とかナンセンスじゃないですか。私の場合はそこをアウトソースする仕組みが自分の中で確立されているので、おぎの議員をはじめとしてちょこちょこ色んな人連れてきてます。その方が、VRを知らない層に向けたインパクトに繋がると思っています。

おぎの議員連れてきたのは私の中ではかなりのファインプレーです。完全に住人になってますからね。なので、変に得意じゃないことを頑張るくらいなら、得意じゃないことを認めて人に依頼する仕組みとかそういう方向に突っ走ったほうが結果的には世界が広がるんじゃないかなと思います。私だってその気になればいつだってUnityくらい習得できるんです、多分(笑)。でも、なんでもかんでも自力でできるようになるよりも、誰にでも出来るようにしていく方が長い目でみると価値があると思っています。

※5:大田区議会議員の荻野稔(おぎのみのる)氏。もともとオタク議員として知られていたが、ねむさんの誘いもあって「おぎの稔(みのり)」としてバーチャルの世界へ進出。現在は「議員系VTuber」としても活動している。

──外注のルートを確立したことでインフルエンサーをVRの世界に連れてこれるようになったというのは興味深いですね。

ねむ おぎの議員以外にも、マッキーめぐみさんっていうガンプラ界ですごい有名な人がいて、その人をVRに連れて来たり。そういうことしていかないと世界が広がらないと思うんですよね。ぶっちゃけ、興味ある人は勝手にやるしUnityも頑張ると思うんですけど、もっと気軽に「とりあえず来てみてよ、来たら世界変わるから」って言えるようにしたいです。

バーチャル美少女ねむから見たVRChatの魅力

──そこまで虜にするVRChatの面白さってなんでしょうか。

ねむ やはり圧倒的に人口が多いこと。VRChatは日本人だけで同接1000人以上とかなりボリュームがあるので、いろんな界隈があります。自分がいて楽しい居場所を見つけられるのはVRChatの魅力だと思います。

ただ、VRChatのだめなところは時間食い虫なところですね。やりたいことがなにもできなくなっちゃいます(笑)。ある意味、居心地が良すぎるということなんですけど。そうしていくと、人格がどんどん食われていく。VTuberでも配信勢は配信終了って押したら元の自分に戻る人すごい多いんです。でも、さっき言ったことの裏返しですが、一度VRChat始めると終わらない夢みたいな感じになってしまうので、私とかもどんどん中の人の存在感が薄くなっていってる気がするんです。私なんか完全にバーチャル美少女ねむの方が友達多いですからね。

コミュニティーとイベントが豊富なので、最初は戸惑うかもしれませんが、いろいろ回ってるうちにきっと自分にハマる場所は見つかると思うので、そういうのを今コロナの状況下で求めてる人多いんじゃないかなと思います。そういう人にはぜひお勧めします。

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PANORA
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