1990年代から“この世界”を予言していた?25周年を迎えた『serial experiments lain』が『VRChat』に完全顕現。アニメ本編をVR空間で視聴可能。ワールドは1週ごとに“拡張”。上田耕行氏、安倍吉俊氏も熱く語った記念企画『Weird展』メディア向けツアーをレポート

アニメ放送から25周年を記念した特設ワールドイベント『Weird展』が2024年6月21日から開催となりました。1998年に放送された『serial experiments lain』は、“Wired”と呼ばれるコンピュータネットワークと、主人公である少女“玲音(lain)”の関わりを描いた作品です。

Weird = 超常的な視点での奇妙な、不気味な、といった意味
Wired = 接続、配線といった意味 スラング的には興奮や覚醒といった形でも使われる

放送時期から考えれば、なぜ今になってなのかと感じるのは自然なことです。しかも『VRChat』で記念イベントが行われることは不思議ですらあります。ですが、本作のストーリーと根強いファンの存在を知れば「確かにぴったりな舞台だ」と思えることでしょう。

『Weird展』開始に合わせて、メディア向けワールドツアーに招待をいただきましたので、そのレポートをお届けします。ツアーにはなんと、当時のプロデューサーである上田耕行(うえだやすゆき)氏と、キャラクターデザインを担当された安倍吉俊(あべよしとし)氏が『VRChat』内に登場。来場者と交わされた質疑の内容にも注目です。

『serial experiments lain』とは?

特設ワールド内には作品案内も展示されている

1998年はゲーム機で言えばゲームボーイカラードリームキャストが発売された時期であり、まだプレステ2ではない、そんな時代です。当時の高校生は携帯端末(はじめはPHSの方が主流だったように思います)を持っている方が珍しく、卒業までの3年間で持つのが当たり前となっていった、という状況でした。

スケルトンな筐体の初代iMacが発売された年でもあり、技術的にはインターネットが一般的な民間レベルで利用可能なものとして存在していた訳ですが、世間的にはまだまだ得体のしれない何か、といった印象が強かったのは否めません。

手軽に買い物をできるようなサービスが整備されていた訳でもなく、ましてやSNSは単語どころか考え方すらほとんど共有されていなかったと言ってもいいでしょう。フォーム送信ごとにHTMLを読み込み直して実現する愚直なチャットシステムでさえ、当時は強いリアルタイム双方向性を感じさせるものでした。

『serial experiments lain』はアニメやゲーム、雑誌連載といった複数の媒体で同時展開していたメディアミックス作品であり、おおよその設定は共通しているものの、主人公の行動や登場人物に違いがあるという特徴がありました。

作中には“Wired”と呼ばれる、まさに現在のインターネットに近いものが存在しており、人々がこれに依存している様が描かれます。本作が、時代を予言的に先取りしたような評価を受けているのはこのあたりに関係しているのです。

ここでは深く言及しませんが、主人公である玲音は技術的な特異さを以てWiredに大きな影響力を発揮するようになります。次第に「リアルとWiredの境界が曖昧になる」ような描写が深まっていくという、サイコホラーの要素が強い作品なのです。

しかしながら、当時としては非現実的な描写だったとしても、少し視点の角度を変えてみれば本質的に存在する問題群を示唆しており、まさに今の社会の実相であるようにも見えてきます。

根強いファンを持つSF作品が、科学的・技術的知見を論理的に組み上げた結果として“予言的”な内容を獲得するようにして、『serial experiments lain』もまた多くのファンを魅了し続けています。

進化する『Weird展』へ接続せよ! 『VRChat』内でアニメが視聴可能

『Weird展』は、そんな『serial experiments lain』をミュージアム形式で紹介する構成となっています。会場ワールドである『Anique Musium』の一角にある入口を通ると、大きなキービジュアルがお出迎え。

ホラワが苦手な人はこのボタンだけは気をつけて!!

サイコホラーな作品らしい雰囲気で作られた展示は、もしかしたらホラーワールドが苦手な人にとっては少し大変かもしれません。ですが、あくまでも展示会場としての企画ですので、そんな方は友人を誘って複数人で見て回りましょう。

展示内容は本作の世界観を再現した独特の雰囲気が楽しめます。ここではあえて多くの画像を掲載せず、ぜひご自身の目で体験していただきたいと思います。

毎週3~4話を『VRChat』内で配信! 当時の作品を追いかけよう

真ん中にある丸いものがレーザーディスク これをインタラクトして再生しよう

『serial experiments lain』本編配信スケジュール

第1~3話: 6月20日 ~ 23日
第4~6話: 6月24日 ~ 30日
第7~9話: 7月1日 ~ 7日
第10~13話: 7月8日 ~ 14日
※上記日程は変更される場合があります。
 最新の情報は公式Xアカウントをご確認ください。

視聴方法: 『Weird展』が開催されている『Anique Museum』のインスタンスを作成・入場し、正面の階段を昇った右手に配置されているLD(レーザーディスク)をインタラクトするとスクリーンに再生されます。

当時放送されたアニメ作品を視聴するチャンス!
『serial experiments lain』はゲームのリメイクなどが行われておらず、当時発売されていたゲームソフトはプレミアがついて高額で取引されるなど、ややアクセスの難しい作品でもあります。

今回の『Weird展』では、毎週3~4話ずつ『VRChat』インスタンス内でアニメ視聴が可能となる配信が企画されています。特に1~3話については期間が短いのでお見逃しなく!!

期間中であれば誰でも自分でインスタンスを立ててアニメを視聴できます。インスタンス入場後、正面の階段を昇った右手にLD(レーザーディスク)が配置されていますので、これをインタラクトすると再生されます。

当時のLDパッケージ画像なども展示されている

LDはひとことにすればめちゃくちゃデカいCDみたいな存在で、その分容量があり、音楽データ活用が主であったCDに対して、高画質な動画を格納できるデータメディアでした。

当時の映像産業は、家庭用として磁気ビデオテープ、つまりVHSが長らく主流となっていました。VHSは結果的に再生機のシェアを大きく勝ち取り、どこの家庭にも1台は置いてあるようなものだったのです。映画一本分のVHSテープを購入すれば数千円、レンタルならば数百円で楽しめるといった時代でした。

ですが、家庭用の磁気ビデオテープは安価で扱いやすかった反面、データの劣化が速く、それほど画質を確保できませんでした。LDはそうした弱点を補うようなこだわりの位置にあり、高価だけれども劣化に強く、当時としては高画質の映像を楽しめる存在だったのです。秋葉原には、LDの山から目当ての作品を掘り起こすようなお店もありました。

展示内容も拡張し続ける… 写真を撮って記念チケットを当てよう!

『Weird展』のコンテンツは時を追うごとに拡張を続けていきます。
こちらも1週ごとに新たなエリアが追加されていきますので、アニメ視聴で再訪した折にはぜひ探してみてください。

物理チケットプレゼントキャンペーンも忘れずに!

また、『Weird展』期間中は“物理チケットプレゼント”のキャンペーンも開催されています。上記で紹介した追加エリアを含めた指定場所で撮影を行い応募すると、実際に印刷された物理チケットが当たるという内容です。

このチケットはあくまでもグッズとしての景品であり、何らかのイベントの入場に使用する訳ではありませんが、リアルとバーチャルが入り交じった魅力的なキャンペーンだと感じます。

『lain』『Weird展』クリエイターによる質疑応答

メディア向けツアーの最後には、『serial experiments lain』クリエイターの上田氏・安倍氏や、『Weird展』ワールド制作に携わったAnique株式会社のなの太氏との質疑応答が行われました。

Anique株式会社はこれまでVRというより、IP関連の事業へ多角的に参加していた印象がありました。今回、『VRChat』に注目してイベントを企画した理由や狙いはどういったものがあったのでしょうか。

なの太さん:
Aniqueは様々なことに挑戦する会社ですが、今回の『Weird展』に明確なロードマップがあった訳ではありませんでした。IPをお持ちの方々と相談を進める中で、今できそうなこと、実現可能性を探った結果が『VRChat』でした。

プロジェクトが走り始めたのは4ヶ月ほど前からです。私が『VRChat』でよく遊んでいたので、ワールド制作はすぐに着手できました。実はQuest対応などの最適化も行っているのですが、そうこうしている内に数ヶ月経ってしまいましたね。

1週ごとにコンテンツが開放されるなど『Weird展』は1ヶ月ほどの期間を見ていると思いますが、その後は『Anique Museum』としてどのような展開を見ているのでしょうか。

なの太さん:
『Anique Museum』は『Weird展』のためだけに作成した訳ではありません。今ははっきりとお伝えはできませんが、他にも色々な作品を展示していくワールドにしたいと考えています。今後の発表を楽しみにお待ち頂ければと思います。

『Weird展』で計画がなかったと言いつつではありますが、これらについてもできることをやっていく、という進め方で取り組んでいます。

新たなエリアの開放や、アニメの配信日程が経過した後は『Wired展』も終わってしまうのでしょうか?

なの太さん:
今のところは『Wired展』そのものは残り続ける予定です。容量の問題で異なるワールドへ分割するということも考えられるのですが、別の作品を展示するとなった場合は、このワールドの別の位置へ更に追加するなど、『Anique Museum』を更新していくスタイルでやっていきたいと考えています。

安倍さんへ質問です。『serial experiments lain』の放送から25年という歴史がありますが、ワールドを眺めるだけでも“今だからこそ感じる”作品の強さを体験できました。
本作を制作されていた当時は、今まさに『VRChat』に立っているような、“Wired”に来てしまったかのようなことを考えながらだったのでしょうか。そうした思いをお聞かせください。

安倍さん:
『serial experiment lain』は私がはじめて仕事として関わった作品です。当時はまだ学生で、右も左もわからずとにかく絵を描いていたという感じでした。そこから25年経って、このような形で関わっているというのは感慨深く、不思議な感覚です。

はっきりと言語化して考えていたわけではありませんが、『lain』は当時から、座敷童子のような形でネットのどこかに偏在していると言ったらいいのか、「残ってほしいな」という思いで描いていました。

『Weird展』を通して『serial experiments lain』の新しい情報などは登場するのでしょうか?

なの太さん:
新規で登場する情報はありませんが、既に展示されている絵などは高い解像度で観られる機会がこれまでほとんどなかったのではないかと思います。
週次で開放されていくエリアにもそうした展示物がありますので、恐らく見たことのない絵などもあるはずです。楽しみにしていてください。

私は『Weird展』ではじめて本作に触れることとなりました。
展示を眺めていく中でとても興味を惹かれ、ここから追いかけてみようと考えています。メディアミックスであることを伺いましたが、どこから見始めればいいのでしょうか?

なの太さん:
現状は、最もアクセスしやすい媒体はアニメ作品だと思いますし、アニメを通して頂ければ『serial experiments lain』の本質は掴んで頂けるかと思います。
ゲームにつきましてはリメイクされてはおらず、当時発売されたプレイステーションのソフトもプレミアが付いている状態と聞いています。
そうした形で、熱いファンの方々がいらっしゃることはとても嬉しいことですが、やはりアニメを視聴していただくのが良いと思います。

上田さんへ伺いたく思います。25周年という時間を通して『lain』に触れたその思いをお聞かせください。

上田さん:
25年という時間を経てもこのように情熱を持ってやってくださる方がいるというのは、作品にとって本当にありがたいことだと思います。
これほどの時間が過ぎてしまうと、クリエイターの環境も変化した部分があります。当時はビジネスの取り組み方も違いましたし、ルールも荒い部分がありました。
そんな中でも縛られないように疑ってみたり、反骨精神で「こっちの方が良い!」を追求していたように思います。
そうした熱を持ったクリエイティブが今になって皆さんに評価していただいて生きながらえた、という事実が面白いなと感じています。

そうした経験と、この作品を通して「そんなに堅苦しく考えなくてもいいんじゃないか」といった見本になれたら嬉しいです。

キービジュアルを見ていると、描かれた目の力強さに惹かれます。
この目は何を見ているのか、どこを見ているのか、そうしたものがあれば教えて下さい。

安倍さん:
描いているその時は、自分では何を描きたいのかがあまりよくわかっていないんです。瞬発的に思いついたイメージの断片のようなものの中から掘り起こしていくような感覚で描いています。
描き終わった後になって「自分はこれが描きたかったのかな」という風に考えることが多いです。というように、普段は自分が描いているものの中に正解のようなものはありません。

ですが『lain』だけは、どこか正解のようなものがあって、頑張って描いていればそこに近づいていけるといった感覚があります。なぜかは分かりませんが、『lain』に関しては自分の中で強い実在感を持っていて、うまく近づける方法ないものかと模索して描いています。

だからといってこの絵が「なぜこちらを見ているか」を説明はできないのですが、そんな風にして描いています。

上田さん:
いまこうして、VRの大きな解像度で見ていて気付いたことがあります。
この絵を安倍さんが自主的にリテイクしてきた時のことを思い出したのですが、その時には気付けなかった影の描写が、この大きさで眺めてようやく気づけました。普通の画面だと互いに視点がずれてしまうのかもしれないですね。