大好きな「日本」を、愛の舞台に——VRChatで叶えた、友情と文化が紡ぐ「結婚式」

2025年1月12日にVRChat内で行われた一つの結婚式が、その制作ドキュメンタリー映像の拡散と共に多くのユーザーの心を打った。(ドキュメンタリー動画の詳細は記事下部)

主催したのは、海外のユーザーに日本文化を紹介するVR団体の『VR Japan Tours』。そしてその面々が囲う中心には、彼らと長年交流を続けてきたとある夫婦の姿があった。

日本をこよなく愛する“ふたり”へ贈る、特別なセレモニー

主役となったのは、『Kyudo(キュードー)』さんと『Sinrith(シンリス)』さん。リアルではすでに結婚していた二人に対して、VRChat上で長年参加してきた日本文化紹介ツアーの中で培った絆から、主催メンバーたちは何か出来ないかと考え、思い立った。

「このふたりのために、心から好きな“日本”を舞台にした結婚式を開いてあげたい」と。

新郎新婦は、日本の伝統や風習に深い愛情を持ち、日頃から和装や神社建築、礼儀作法に強い関心を寄せていた。そんな二人のために選ばれた形式は、日本神道の精神に沿った「神前式」

ただし、舞台は現実の神社ではなく、仮想空間の中に作り込まれた“もう一つの日本”だった。

今回、バーチャルライフマガジンは『VR Japan Tours』のメンバー一同が、日本文化に強い関心を示す二人のため、文献を参考に出来るだけ忠実な再現を試みた特別な結婚式の様子をお届けする。

伝統の表現とVRならでは表現の融合に宿る、本気のこだわり

式では、実際の神前式で行われる9つの儀式がロールプレイングながら本物へのリスペクトが見られるような丁寧な再現と合わせて、各儀式名をギミックで表示するなど、VR独自の要素を加味した形で表現された。

アバターの衣装も本格的で、新郎は『紋付袴(もんつきはかま)』、新婦は『白無垢(しろむく)』を身にまとい、荘厳な雰囲気の中で儀式を進めていった。

儀式進行

『参進の儀(さんしんのぎ)』

『参進の儀(さんしんのぎ)』とは、斎主や巫女の先導により、新郎新婦・親・親族らが行列を作り本殿に向かう行進のこと。

赤く巨大な鳥居をくぐる一同の厳かな歩みは、儀式殿へと向かっていく。

『修祓の儀(しゅばつのぎ)』

『修祓の儀(しゅばつのぎ)』では、儀式の進行を務める斎主によって新郎新婦の二人や参列者一同に清めのお祓いが行われる。

清めの儀式のため頭を下げた一同は、これから二つの家の結びを見届ける。

『祝詞奏上(のりとそうじょう)』

『祝詞奏上(のりとそうじょう)』で二人の結婚を斎主が此度の儀式殿たる『仮想神社』の神様に報告し、末永い幸せを祈る。

『誓杯の儀(せいはいのぎ)』

『誓杯の儀(せいはいのぎ)』では、新郎新婦が大中小三つの盃で交互にお神酒(おみき)を飲み交わす。

三つの盃が持つ意味
  • 小盃(こさかずき):過去。先祖への感謝を表す。
  • 中盃(ちゅうさかずき):現在。夫婦の意思を表す。
  • 大盃(だいさかずき):未来。子孫繁栄や一家安泰を表す。

『指輪交換』

『指輪交換』は古今東西あらゆる結婚式で行われている馴染みある儀式。

元々は『神前式』になかった儀式だったが、西洋文化が浸透していく中希望する夫婦の増加によって現実の神社でも取り入れられている。

無事指輪の交換を終えた新郎新婦は、二つの家が結びつきし証たるその指輪を参列者一同へ示した。

『誓詞奏上(せいしそうじょう)』

『誓詞奏上(せいしそうじょう)』にて、新郎は神様の前で誓いの言葉を読み上げる。

今日の良き日、新郎は誓う。信頼と愛情を持ち、励まし合い助け合って、よい家庭を築いていくことを。

『玉串奉奠(たまぐしほうてん)』

『玉串奉奠(たまぐしほうてん)』は神様に心を託した『玉串』と呼ばれる榊(さかき)の枝を捧げて、敬意を表し、祈念を込めてお参りをする儀式。

新郎新婦は、お互いを見合わせつつ丁重に玉串を神様に捧げる。

『巫女舞(みこまい)』

『巫女舞(みこまい)』は、神様に願いや感謝を伝えるために奉納される舞。

古くは神と人とが一体となるための動きだった『巫女舞』は、現代では神様をもてなすための様式化された舞となっている。ここでは巫女役のスタッフが優雅な舞で神々への感謝と願いを表現した。

『親族盃の儀(しんぞくはいのぎ)』

『親族盃の儀(しんぞくはいのぎ)』を以て、数々の儀式は結びを迎える。

本来の神前式での『親族盃の義』は新郎新婦の両家全員で盃を交わす儀式だが、今回の式は現実の結婚式に立ち会えなかったVRChatでの友人たち(加えてメディア陣)が、結婚式を見届けた参列者として特別な瞬間を分かち合い、絆を深め、縁を繋いだ。

このイベントを実現するため、背景アート、衣装、演出、ガイドのセリフに至るまで主催メンバーが調べ上げて構築。「単なる体験」ではなく、「敬意を持って伝統を再現する場」として、本物を強く意識した演出が随所に光った。

「友情」と「文化交流」が交差する空間

式後、新郎新婦は次のように述べた。

——(Kyudo)「現実とVRの両方で挙式が出来たのはとても素晴らしい経験でした。この喜びをどうやって伝えたらいいのでしょうか。VRの外の人やVRの中にいる人に向けてですらも難しいと思います。だからこそ私はより多くの日本文化を学んでいきたいです。今回このような機会をいただけたことは、忘れられない思い出となりました。」

——(Sinrith)「とても美しい式でした。晴れやかな気持ちと共に、この瞬間をフレンドと分かち合える式を開催してくれたVR Japan Tourと、参列してくれたフレンドの皆への感謝の気持ちでいっぱいです。」

今回の結婚式を成し遂げた“Virtual Vows”(通称V2)プロジェクトリーダーの『RiberTng(りばたん)』からはプロジェクトに関わっているクリエイターの紹介や、運営から企画まで尽くしてくれたプロジェクトメンバー、新郎新婦・参列者への感謝が述べられた。

  • World制作ディレクター:プラントツコ辺境伯
  • アバター装飾ディレクター:who
  • 動画制作ディレクター:シンセキくん

——「この神道セレモニーはお二人の新しい旅の始まりを祝うものであり、思い出となり、将来の宝物となることを願っています。お二人の暖かさと強い絆はこのプロジェクトに関わった人々にインスピレーションを与えてくれました。この瞬間にあなた方と一緒に居られたことを光栄に思います。Kyudoさん、Sinrithさん、ありがとう。」

“好き”をきっかけに生まれる、新しい日本文化体験

この神前式は、ただのイベントではない。
文化に心を寄せた海外ユーザーたちと、日本の伝統をリスペクトして再構築した「バーチャルな儀式」は、まさにこれからの国際交流の新たな形を象徴している。

物理的な距離を超えて、「好き」の想いを尊重しあい、かたちにする。そんなVRの可能性と、心の交流の深さを示す式典だった。

文化の“未来”を共につくる

『VR Japan Tours』は、「世界のどこからでも日本を楽しめるようにする」がコンセプトの一つだ。

そしてこの『神前式』は、その活動の一つの到達点となった。

VR空間を活用した日本文化の紹介を継続していく予定だという。今後もこの団体の活動を応援していきたい。

製作秘話

今回の結婚式を成し遂げたV2プロジェクトによる、式制作の舞台裏がドキュメンタリー動画となって公開されている。

どれほどの想いがこの式に込められていたかがより伝わると思う。ぜひご覧いただきたい。

関連

参考:日本の伝統的な挙式「神前式」の魅力とは?基本の流れもチェック(Arc-en-Ciel Journal(アルカンシエル ジャーナル)

投稿者プロフィール

ゆーてる
ゆーてる広報部隊長(元二代目編集長)
楽しいこと、誰かが頑張ってる姿を見ることが大好きなVRライターです!
ぼく自身もVRChat上でいろんな活動してます!

バーチャルの楽しいことをたくさん知ってもらえるようがんばります!