すべてのVRクリエイターを応援する場を目指して――。展示会イベント『メタフェス』仕掛人のなるがみ&超蔟&しーわんに独占インタビュー!【前編】

2022年9月23~25日、“株式会社ポリゴンテーラーコンサルティング”主催によって開催された『メタフェス』。新しい形の展示会イベントであることや、“VRChat.inc”の公認イベントとして、3日間で34,000人以上の来場者を記録。大きな話題となりました。

今回は、そんな『メタフェス』の運営スタッフを代表する、なるがみさん超蔟さん、しーわんさんにインタビュー! イベントにかけた運営陣の熱い思いや、制作秘話など、その舞台裏を、前・後編にわけて迫ります!

左から、なるがみさん(企画統括)超蔟さん(システム管理&イベントアドバイザー)。しーわんさん(ワールド制作ディレクター)

クリエイターと参加者の両方が快適に過ごせる場所を目指して

――まずはお三方の自己紹介をお願いします。

なるがみ

『メタフェス』総合プロデューサーのなるがみです! 本イベントの運営である株式会社ポリゴンテーラーコンサルティング代表取締役のほか、何社か会社を経営しており、読者のみなさんでもご存じの方が多いであろう“株式会社スケブ”の代表取締役も務めています!

しーわん

『メタフェス』のワールド制作やディレクションを担当するしーわんです。主にデカい床とか壁とかを作っていました。普段は『VRChat』でワールドクリエイターとして活動しています。

超蔟

『メタフェス』のシステム管理やイベントアドバイザーを務めております、超蔟(ちょうそく)です。どういうブースが見やすいのか等をはじめとした出展物周りの取り扱いや、ライティング、いわゆる会場の最適化であったりとか、会場を見やすくするために軽くするとか、そういった技術面の方を主に担当しました。普段は、個人的にいろいろイベント主催・運営をやらせていただいております。

――お三方が所属する“ポリゴンテーラーコンサルティング”は、そもそもどのような組織なのでしょうか?

なるがみ

VRで活躍するクリエイターの皆さんの活動をサポートすることを目的に、私が立ち上げた株式会社です。設立にあたり、“ポリゴンテーラー社”と“ポリゴンテーラーコンサルティング社”という2社を立ち上げており、“ポリゴンテーラー社”ではアバターの販売や衣装の改変を代行できるプラットフォームを目指して今、開発の方を進めています。そして、『メタフェス』を運営する“ポリゴンテーラーコンサルティング社”は、メタバースやVRに参入してみたいという日本の企業様を支援するコンサルティング会社です。ゆくゆくは2社を統合し、アバターの販売ECをやりながら、クリエイターの皆さんにお仕事を紹介するような仕組み作りをやっていきたいと考えています。

――そんな“ポリゴンテーラーコンサルティング社”にとって、初めてとなる大規模イベントだった『メタフェス』。第1回の開催を終え、来場されたユーザーからの反響はいかがでしょうか?

なるがみ

予想を超えるほど、とても多くのユーザーさんから好評をいただいており、うれしく思っています!「ワールドが軽量で、動線も分かりやすく、フレンドと回るのがとても楽しかった」という声を多くいただいており、そういった声を聞くと苦労した甲斐があったと思えます。

――参加されたクリエイター陣の反応もとてもよかったですね。

なるがみ

それは、本当に嬉しかったことです!『VRChat』のユーザーはクリエイター側とコンシューマ側とで明確に分かれているわけではなく、グラデーションであり、アバターを制作しながら『VRChat』で遊んでいるという方もたくさんいらっしゃいます。そのどちらにとっても楽しめる快適なイベントにしたかったのがこの『メタフェス』でしたから。

床の木目にまでこだわった会場設計

――『メタフェス』の革新的だった部分が、展示会として洗練されたワールドだったと思います。運営のみなさんは、どのような考えでこのワールドを制作されたのでしょうか。

しーわん

設計の初期段階から常に強く意識していたのは「全ての商品に同じだけのチャンスを与えること」と、「フレンドと一緒に巡りたい」というユーザー心理でした。例えば、最初から一緒にフレンドと回るのであれば、どのような形でも問題はないですが、『VRChat』では展示会を見て回っている間にもフレンドが途中合流し、一緒に見てまわることも多いです。その過程で、通り過ぎられてしまう商品がどうしても出てしまいます。どちらの気持ちも分かるし、大切にしたい。それを解決するアイディアが、中央の広場から会場を見渡し、どこにでもアクセスできるような会場設計でした。

――ショッピングモール型の会場は、そのような理由があったのですね。

しーわん

展示会では、均等に出展物を見るチャンス、見られるチャンスが必ずなくてはなりません。入ったときにおおよそ全体が見渡せるくらいのサイズ感かつ、一度に見える商品の数が少ないような建物。それが、ショッピングモールでした。

超蔟

会場全体を「パッ」と見たときにどれだけの量が展示されているのか、移動していて今どこにいるのかをわかりやすくするには、やっぱり、地続きで全部済んでた方が見やすいですよね。それを解決する形状をいろいろ考え、その中でベストだったのが、ショッピングモールのようなちょっと円形で、開けた会場だったんです。

しーわん

ただ、参考にした形状ではありますが、動線の組み方はほぼオリジナルのものなんですよ!

――ユーザーの動線ですか?

なるがみ

動線は、しーわんさんと超蔟さんが、すごくこだわっていた部分でしたよね。この会場って、基本的に道というものはないし、案内の矢印もないのに、自然と順路がわかって、足が運ぶ。

超蔟

会場を見て回るのに説明書きが必要だったり、矢印の誘導がないとわからないような、ユーザーさんのストレスになる要素を可能な限り無くしたかったんです。

しーわん

そうそう。矢印での誘導やワープでのジャンプなどの方法を使わずに、自然な形で人の移動の流れが生まれるように設計しています。これがやってみると難しくて、自分たちで首を締めることになったんですけど……(笑)。

“本当の主役”を目立たせるワールドへ

――会場も含めて、『メタフェス』は全体的に現実っぽい雰囲気に寄せて制作されている気がしました。バーチャル上の展示会場で、このような方向性にしたのには、何か狙いがあったのでしょうか?

しーわん

『メタフェス』は、ジャンル問わず様々な商品を展示する場だったので、できるだけ会場は何にでも合う、自然なデザインにしたかったんです。商品が主役になるように、徹底的に「良い意味で個性がない、居心地のいい空間」を追及しようという話になりました。

なるがみ

我々が現実の世界で見慣れているような“没個性”の空間にすることで、より商品に集中できる空間を目指しています。バーチャルの空間なので、やろうと思えば空を飛んだり、ファンタジーの世界を作り上げることも可能ですが、意識がそっちに行って、商品を見ることに集中できなくなるのは、私たちの願うことではありません。兎にも角にも、

『メタフェス』では、商品が主役!

だからといって、ワールドに手を抜くわけではなくて、自然に、目立たないように、細かな部分を作り込むことをおふたりが頑張っています。例えば、植え込みがしっかり立体になっていたり、展示されている広告が風に揺られてなびいていたり。わかる人しかわからない、職人の技がこれでもかとワールドに詰め込まれています。

こだわりの植え込み

――わっ。本当だ。ただ遊びに来た時には気づきませんでした。

なるがみ

ほかにも、入口すぐの木目とか、その境界線とか、何気ないひとつひとつの要素に、おふたりのこだわりが詰め込まれているんですよ。

――木目ですか?

超蔟

エリアの境目の役割を、木目と木目じゃないところの塗り分けで行っています。

しーわん

床の木目のカーブは動線に沿った向きにしています。あと、入口にだけ木目と木目の間に曲線の継ぎ目があるのですが、この線が伸びているおかげで、入場者が無意識に反時計回りで進むよう誘導していたりするんです。

動線の誘導まで考えられていた、こだわりの床を説明するお三方


――はっ! 無意識的に「ここは右に行くのか」と思わされていました。おふたりに手のひらで転がされていたなんて!

しーわん

他にも、社内でのテスト段階では木目の間隔がもう少し密だったんですが、これがどうやらVR酔いしやすかったらしいので木目の幅をうんとデカくしていたりもします。

――全体的に、VR酔いもしにくい作りになっているというお話もお聞きしていますが、なにかトリックがあるのでしょうか?

しーわん

人間を90度に曲げて歩かせたり、振り向くことを強いるようなものを置かないことですね。視点移動が多いとVR酔いに繋がりますから、出来る限り横を向いたまま、商品を見て回れるようになっています。

超蔟

方向転換をする時の「曲がった」という感触を薄めるため、1Fではブース間に鏡を、2Fでは告知ポスターを置いたりもしています。そこで都度立ち止まったり目線が移ったりするので、移動しながら曲がることを減らすことができるんです。

しーわん

アバター展示ブースのデザインはコンテナモチーフで、中を見ると完全に視界がほぼ出展物になるようにしています。追加情報となりうる足元の配色は薄めだし、背景は黒寄りの灰色っていうふうにしています。周りに物がないように見せることで、視界の情報量を減らし、VR酔いを軽減したり、描画数が少ないので負荷軽減にも繋がっているんですよ。……どの場所にも意味がちゃんとあって、どの場所を切り取っても、その意味を説明できます(笑)。

クリエイターの負担を極限まで減らしたい

――『メタフェス』といえばアバター商品を2D展示したことも大きな特徴でした。なぜ、このような形式を選んだのでしょうか?

なるがみ

ひとえに、クリエイターの皆さんが参加しやすく、負担が少ないものにするためです。アバタークリエイターの皆さんにとって、展示会というのは可能な限り出展したい場ではあると思うのですが、そのために毎回毎回、ご自身のブースを用意したり、3Dモデルにポージングをさせて設置したりと、クリエイティブな部分以外に大きな負担が強いられてしまいます。一方で、『VRChat』では、アバターを試着すれば、その3Dモデルを実際に着て、見ることができてしまう。つまり、「試着さえできれば展示自体は2Dでも問題ないんじゃないかな?」と考えてみまして、今回思い切って2D展示に振り切ってみました。

超蔟

「全ての出展者が自由にブースを作れるわけではない」といった悩みを解決できたのも、この形にした大きなメリットだったと思います。ブースを作り込む時間がある人ほど目立つような環境ではなく、出展されるものは違っても見栄えは同じにできる。出展者全員が平等なチャンスを得ることができる。さらに、入稿も手軽なものなので、参加されたアバタークリエイターさんからの反応は本当によかったです。

――衣装モデルやアクセサリーは3D展示でしたが、それはどうしてですか?

なるがみ

『VRChat』の仕様によるものが大きいです。現在の仕様では、小物だけの試着を自分のアバターに行うのが難しいんですよね。Genericアバターで小物になっても装着イメージが湧きにくいということで、やはりこれの展示だけは3Dでなきゃいけないなと。実際に自分のアバターを近づけることで装着時のイメージをしてもらえますから。

幅広いクリエイターを応援出来る場に

――『メタフェス』は、アバターや小物だけでなくワールドやイラストも展示カテゴリにありました。通常、別々のイベントで展示されている物がこうしてまとまっているのは珍しい形ですが、理由はなんでしょうか?

なるがみ

『メタフェス』は『VRChat』で活動されている全てのクリエイターさんによるクリエイティブを応援したいという意図があります。アバター制作が主流のようにも見えますが、実際にはワールド制作やイベント運営、アバターのイラストを描かれている方も多くいる世界です。それらの方も含んだ、考えうる限り最大公約数のクリエイターの皆さんを応援したい! ……ということで、さまざまなジャンルの作品を、同一空間に設置する流れとなりました。

――音楽祭の開催も、そういった背景があっての実施ですか?

なるがみ

その通りです! 出展という形ではありませんでしたが、音楽活動で活躍されている方にはライブイベントという形でご参加いただきたかった。こちらには、音楽ユニット・AMOKAでバンド活動してきたもいさんの知見が多分に発揮されており、我々の予想以上に評判が良くとても盛り上がっておりました。

終わってみると、「あれはこうすればよかった」「もっとここを工夫したらよいものになる!」といった反省点は多くあります。それでも、『VRChat』で活躍する、すべてのクリエイターさんを応援する場を目指した総合イベントとして、まずは第1回を完成させることができたのを嬉しく思いますし、参加していただいたひとりひとりに「ありがとうございました!」という言葉を贈りたいです。

インタビュー前半、ワールドについてのお話はここまで! 後半の『イベントのスローガン・想い』については後日掲載します! お楽しみに!

【関連リンク】
メタフェス(https://metafes.jp/)
ポリゴンテーラーグループ公式サイト(https://polygontailor.co.jp/)

インタビュー担当

メタバースメディアライティングVtuber
翡翠ミヅキ(@hisuimizuki

VR・アニメ・ゲーム専門のプロライターMetaQuest公式アンバサダーはじめました。3Dモデル紹介&記事執筆ご依頼はDMへ!