※この記事は、創作でつながるクリエイターズマーケット『BOOTH』提供記事です。
『VRChat』向けアバターは、数え切れないほど存在します。老若男女はもちろん、人外、機械、無機物など、なろうと思えばどんな姿にもなれます。
たくさんのアバターと出会うために『BOOTH』を直接探すこともあれば、ネット上の記事(もちろん『バーチャルライフマガジン』も!)で探すこともありますが、『VRChat』上で探す人も少なくないはず。たくさんのアバターが展示されたワールドで、運命的な出会いを果たすこともあるでしょう。
そんなアバターワールドの代表格といえば『アバターミュージアム』。アバターとポスターだけのシンプルな展示会として、2020年から合計10回(番外回も含めればそれ以上)も開催されてきた、老舗イベントワールドです。
本記事では、『アバターミュージアム』の主催を務めるおおかみちゃんにインタビューを実施。『アバターミュージアム』の歴史や舞台裏はもちろん、数多くのアバターを見てきた人だからこそ見えるアバターの移り変わりや、ひとりで運営を続ける理由、そして創作の原動力など、さまざまなお話を伺いました。
目次
「アバターミュージアム10」のアバターを振り返ってみよう
――まず最初に、最新回の『アバターミュージアム10』について軽くお話しできればと思います。今回の出展アバターを見て、どう感じていますか?
いろんなアバターが出そろったなと思いますね。定番のアバターはもちろんですけど、自分の好きなマスコット系やデフォルメ系も多いですし、おもしろいアバターも増えている印象です。
――マスコット系だと、個人的には『ゆるいモスマン』がお気に入りです。おおかみちゃんはなにかお気に入りのアバターはありますか?
メンズアバター枠で『醍醐くん』ですかね。清潔感はあるけど、イケメンって感じでもない男性は、かなりめずらしいなって。
――ユニークさで言えば『Champleアバター』も好きです。まさかゴーヤーチャンプルーがアバターになるとは……。
あれいいですよねー!「サンプルアバター」にかけたダジャレなのもポイントが高い。あと、個人的にポスターで気に入っているのが『ディプロカウルス』ですね。
――たしかにポスターのインパクトは絶大ですよね……。
“今回のベストポスター賞”をあげたいですね。
――『ディプロカウルス』以外にも、二面配置であることを活かしたポスターデザインが目立ち始めている印象です。デザインレベルが上がってきているような。
おそらく、ポスターの配置を統一させたことで、出展者側がうまくハックしにきているのかなと思います。うれしい反面、このブースレイアウトをうかつに変えることができないなーとも思っちゃいますね。たぶん、レイアウトを変えた際に大きくアナウンスしないといけないし、それはちょっと大変ですね。
創作の原動力は“怒り”――『アバターミュージアム』はなぜ生まれた?
――多種多様なアバターが集まるイベントとして10回目の開催を迎えた『アバターミュージアム』ですが、設立経緯はどのようなものだったのでしょうか?
とあるVRイベントを見たのがきっかけですね。その会場がかなり重たくて、「俺の方がもっといいものを作れる!」と思い、制作・開催したのが第1回『アバターミュージアム』です。私の創作の原動力は“怒り”なんですよ。
それ以降の開催は、基本的に「続けた方が面白いかな」ってノリで続けてます。惰性ではあるんですけど、やはりフレンドが楽しんでくれることが大きいですね。周りの人たちが喜んでくれることが、なにより大事だと考えています。もちろん、出展してくれているクリエイターのために続けている側面もありますけどね。いくつも理由が重なっています。
――運営メンバーは現在どうなっていますか?
自分ひとりだけです。基本的に、人といっしょになにかをやることが苦手なので。ひとりで運営していれば、すべて自分の決裁で進められるし、誰にも文句を言われることがないので楽です。
――メンバーの増員や、誰かと組んで大きなイベントを開催する、といったことは考えていますか?
そのつもりはないですね。イベント自体をここから大きくするつもりもなくて、ただ「楽しいから続ける」スタンスです。法人主催ならば従業員を食べさせるだけの稼ぎは必要ですし、スポンサーがついているなら期待に応えなければなりません。『アバターミュージアム』は個人開催なので、まずは自分が楽しめるかどうかを大事にしています。
――「楽しいから続ける」は重要ですよね。『VRChat』でイベントを開催する上で、もっともプリミティブな動機だと思います。
気楽に開催すればいい。嫌になったらやめればいい。本来、イベントってそういうものだったはずです。『アバターミュージアム』だって、”結果的に大きくなった”イベントですから。
――実際、『アバターミュージアム』は『VRChat』でも屈指のアバター展示会イベント・ワールドに成長したと思いますが、たとえば出展料の有償化などは検討されてはいないのでしょうか?
これもやるつもりはないです。本業の収入がありますし、お金には困っていないので。いちおう、『pixivFANBOX』で支援は募っているものの、ここからの収入は月1万円ほどです。お仕事にはならない金額ですけど、お小遣いとしてみればちょっとうれしい金額です。『アバターミュージアム』はあくまで趣味のイベントとして、やりたいことを自由にやりたいです。出展料などをいただき、仕事にしてしまうと、社会的責任が生じてしまいますから。
そして、大前提として『アバターミュージアム』自体がすごいのではなく、出展いただいたアバターとクリエイターがすごいんです。そこを見誤って、法人設立などの商業化に踏み切るのは無謀だと思っています。
あと、自分はリアルもちゃんと大事にしたいんですよね。ちゃんと仕事して、ご飯を食べて、友達と遊ぶことだって大切だと思います。現実あっての『VRChat』ですから。
配置は自動。最適化は手動。
――おひとりで運営されている『アバターミュージアム』ですが、各回の入稿物は非常に多いと思います。制作・運営にあたって工夫されていることはありますか?
作業ミスを避けるために、いろいろなところを自動化しています。入稿用ツールは自作していて、セキュリティチェック、Unityプロジェクトへのインポート、ポスター生成、名前・URL設置など、すべて自動で行っています。
会場ワールドを直線にしているのも、自動設置を容易にするためです。折り返し地点だけ、いまは手動ですね。一括で入稿物を並べた後、半分を選択して、グイッと折り曲げています。いずれは自動化したいところです。
――裏を返すと、折り返し地点を作らないならば、会場自体も完全自動で制作可能なのでしょうか?
できますよ!“順路が一直線の展示会”もおもしろそうですよね。現実では土地の関係で絶対に実現できないですから。……ただ、折り返し地点がないと、どこまで進んだかがわからなくなり、来場者に負担がかかってしまう懸念があるので現時点ではこの形が最適かなと。
――相当な範囲が自動化されているものと推測しますが、逆に自動化されていない作業も存在するのでしょうか?
入稿されたアバターの軽量化対応はほぼ手動でやっています。アトラス化、マテリアル調整、シェーダー調整など、軽量化できそうなところを探して対応しています。本当はそのままの状態で展示してあげたいんですけど、どうしてもワールド容量1GBの壁があるので……。見た目は損なわないように努力しているので、出展者のみんなには信頼してほしいです!
――あの量の展示アバターを、おひとりで軽量化されているのですか……?
そうです。過去何度も対応してきたことで、「軽量化できそうなところ」は直感でわかるようになりました! こういった事情があるので、出展規約には「入稿物は最適化のためある程度調整する」と明記しています。こうした運営によるパフォーマンス改善施策ができるのも、個人開催イベントのメリットですね。
――対応が多岐に渡ることを踏まえると難しそうですが、軽量化対応の自動化はされないのでしょうか?
実は、入稿ツールだけでもある程度は自動で軽量化できるようにしています。その仕様を理解して入稿してくれる方は、全体の10%にも満たないですね。たぶん「自分は3Dモデラーであって、Unityエンジニアではない」と考えている人は多いのかなと。
――どちらかと言えば、いまは最適化よりも見た目のクオリティを重視するクリエイターさんの方が多い印象はありますね。
その流れは理解してはいますが、個人的には『VRChat』は“ソーシャルサービス”なので、処理負荷のことは考えたほうがいいと思います。「ワールドにいるのはお前だけじゃねえんだぞ!」くらいは言いたい。もちろん、シーン次第ではありますし、将来的にはPCのスペックが進化することで解決するかもしれないですが。
会場ワールドのモチーフは?
――少し話は変わりますが、会場ワールドにはなにかモチーフはありますか?
自分が一番好きな展示会ワールド『Exhibition˸ 1٪ of Virtuality』を意識しています。会場そのものは、ワールド制作キットをベースに天井を伸ばし、間接照明などを追加しています。
ただ、だいぶ前に作ったこともあってマンネリ化はしてきているので、そろそろリニューアルしたい気持ちはありますね。誰かに制作を依頼したくはありますが、私財を投じてまでやるほどではないかな……。自分でいくらでも時間を費やす分にはタダですからね。
――もしリニューアルするとしたら、どんな方向性で取り組みたいですか?
“ちゃんとした美術館”にしていきたいですね。最近公開されたワールドだと『VRC PIXELART EXHIBITION』が理想形ですね。本音を言うと、あの会場をそのままお借りしたいぐらい。そのくらい感銘を受けました。
――私も行ったことがありますが、直近に出てきた展示系ワールドの中でも、非常によくできていましたよね。おおかみちゃんはどこに感銘を受けましたか。
細部の現実性ですね。消火栓や非常口まで細かく作ってあるところが、非常に良いです。『アバターミュージアム』にもこうした設備を追加していきたいですね。
ただ、全体的な形状は変えなくてよいと考えています。自分は博物館や美術館に行くのが好きなのですが、特に近代美術館は、建物自体が芸術品であると同時に、展示物を引き立たせる空間コンセプトが好きです。『アバターミュージアム』の一番の主役はアバターなので、そういった方向性を目指していきたいですね。
初開催から4年。『VRChat』のアバターはどう変わってきた?
――2020年の初回開催から4年の歳月が流れた『アバターミュージアム』ですが、『VRChat』のアバターはどのように変化していると感じていますか?
率直に言うと、似たような顔が増えたなとは思います。一方で、アバターの個性は消えているどころか、むしろ強まっているように感じます。
――どのような点で「個性が強まっている」と感じているのでしょうか?
アバターのコンセプトですね。いわゆる“ケモミミの生えた美少女”にとどまらない、特殊な形式のアバターが増えたように思います。ケモノ、メカ、ちびっこ、マスコット、クリーチャー、お化け……。直近の開催では、ラミア(蛇女)が多かった時期もありますね。全体的に、コンセプトが多様になってきていますよ。
――意外な見解です。ユーザーが利用するアバターは、一部の人気アバターに集中している印象があったのですが、新規に発表されているアバターはむしろ幅広くなっているのですね。
おそらく、アバタークリエイターの数が増えたことが影響していると思います。ごく一般的な美少女アバターを作っても埋もれてしまうので、知恵を絞り出して、今までにないアバターを作ろうとしているのではないかと。
私自身、いま流行っているアバターは統一されすぎな気もするんですよね。みんな、もっといろんなアバターを使っていいはずなんですよ。みんな同じ格好をしていてもおもしろくない。カオスであったほうが、おもしろい。
――2024年現在では、アバターの人気・流行は、対応衣装の総数に依存するところはありますよね。衣装が少ないアバターは、ユーザー数も自然と少なくなりがちです。
その意味で、最近話題になっているスタンミさんは、「カオスなVRChat」を再発見しているなと思うんですよね。トコロバさんの『Wormiesock』がその典型例じゃないですか。いまや『VRChat』では謎のエイリアンが人気アバターになっている。
もちろん、ゲームなどからのぶっこ抜きアバターは問題です。この世が「クリーンなカオス」であるべきだと願っているので、『アバターミュージアム』を続けているところはあります。「作られた混沌」ってめちゃくちゃおもしろいと思うんですよ。
――「作られた混沌」「クリーンなカオス」は一見矛盾していそうですが、『VRChat』の本質の一端を突いていますね。そして、そうした思想があるからこそ、『アバターミュージアム』では「送られてきたアバターは基本的に何でも展示する」という運営方針を敷いているのでしょうか?
その通りです。なので、どんなアバターでもまずは一度展示してみて、「これヤバくない?」と気づいてから撤去しています。基本的に『アバターミュージアム』は性善説で運営していますし、撤去作業をするのも結局自分なので、そういう判断をしています。
まぁ、撤去のたびにワールドをアップロードし直すのはめんどくさいですけどね。ワールド容量大きいし、うちの回線は細いし。出展者のみなさんにもあらためて言うけど、運営者の手を煩わせないように!
もっとカオスで、おもしろいものを!
――今後、『アバターミュージアム』はどのように続けていきますか? そもそも、どこまで続けますか?
いまのところは、辞めるつもりはないです。辞める理由もないですからね。続けることが楽しいので、続けていきます。
今後については、先程も触れた通り会場ワールドのリニューアルがいつかできたらいいなとは考えています。あと、出展アバターを「ひとり1体」にしようかと検討中です。
――これまでは「ひとり2体」でしたよね。枠を減らす形になりますが、それはなぜでしょうか?
ワールド容量と、出展者の総数の兼ね合いですね。『アバターミュージアム』のワールド容量はとにかく膨大です。まだしばらく先の話になりそうですが、仮にワールド容量が1GBに到達しそうになったら、その時点で「ひとり1体」に切り替えると思います。
その上で、開催頻度を倍にしたいですね。もっと多くのアバターが出展できるようにしたいんです。アバタークリエイターの制作頻度は年々加速していて、現状の開催頻度では全く追いついていない可能性があると思っています。
――アバタークリエイターの数が増えていることも踏まえると、たしかにより多くのアバターを拾える体制にする必要性はありそうですね。
なにより、最近はアバターのクオリティが全体的に向上したことで、アバター制作の参入障壁も上がってきてる気がするんです。でも、アバター制作って、本来はもっと気軽なもので、クオリティの高低で評価されるものじゃないんですよ。
「100人が2体ずつ出展」よりも、「200人が1体ずつ出展」の方が、もっとカオスで、おもしろくなるはず。もっと気軽にアバターを作っていいはずだし、みんなに気軽にアバターを作って、『アバターミュージアム』に出展してほしいですね!
――「クリーンなカオス」がより豊かになる日を、私も楽しみにしております。本日はありがとうございました!
フリーライター・編集者
浅田カズラ(@asada_kadura_vb)
xR、VTuber、ソーシャルVRなどを軸に取材・執筆を行うライター。バーチャルライフマガジンもふくめ、さまざまな媒体で活動中。
おおかみちゃん(@Wolf_Electronic)
「アバターミュージアム」主催。