VRの外せない魅力といえば、なんといっても、現実には存在しない空間を体験できることではないでしょうか。今回ご紹介するワールドは「Forestella」
一歩足を踏み入れれば、美しいファンタジーな空間が包み込んでくれます。
また今回はこのワールドについて、少し考察も行ってみました。
あくまでも筆者の空想ですが、そちらも併せてどうぞ。
目次
大きな木が出迎えてくれる、美しいVRChatワールド。
まず、ワールドに入ると大きな木が迎え入れてくれます。とても象徴的で神聖さを感じますね。空間全体を覆う青い光や、周遊する蝶々もそうした雰囲気を助長しています。
また木の周辺には本棚や椅子などがあり、綺麗な写真が撮れると思います。自撮りなどに使用できそうですね。
また、木の左右には階段があり、大きなステンドグラスのある祭壇のような場所に上ることができます。動画プレイヤーやミラー、BGMのオンオフスイッチなどもここに備え付けられていますよ。
ワールド中央の大きな木について
ではここから、このワールドについて考察していきたいと思います。
ここから先の内容は、あくまでも筆者が「こう感じた」というものであって、ワールド制作者の方の意図とは全く関係ありません。
ワールドの1つの楽しみ方として、私の妄想にお付き合い頂ければ幸いです。
大きな木の正体は?
この木の大きさと葉の形状を見ると、カエデのように見えます。サトウカエデでしょうか。メープルシロップの原材料としても知られる植物ですね。カナダの国旗に描かれている植物としても有名です。
しかし、ここでワールドの至る所に設置された本棚を埋め尽くす葉っぱに注目してみましょう。どうにもカエデの葉とは少し違ったモノに見えますね。この形状はイチジクでしょうか。
このワールドで中央の木がとてもシンボリックなものとして配置されていることを考えれば、
この葉っぱもワールドの中央の木から伸びた枝の一部なのではないかと思えてきますね。
そう考えるとワールド中央の大きな木もイチジクの一種なのかもしれません。
そこは考察の余地が残されるところですが、今回はイチジクであると仮定して進んでいきます。
イチジクと禁断の果実
ワールドを埋め尽くす葉がイチジクだとすると、ワールドの見え方が変わってきます。
というのも、イチジクは一説には禁断の果実として知られている植物です。
禁断の果実とは、旧約聖書の『創世記』において、アダムとイブが食したとされる、「善悪の知識の木」の果実のことであり、これを食べてしまったことにより、知恵を得ることと引き換えに、死という逃れられない運命を背負うこととなり、加えて楽園(エデン)を追放されてしまうわけです。
そんな禁断の果実ですが、禁断の果実といえばリンゴなのでは?と思われる方も多いのではないかと思います。しかし、ミケランジェロが描いたシスティーナ礼拝堂の天井画などを見ると、アダムとイブが知恵の実を食べて、エデンから追放される「失楽園」の場面に描かれている植物はリンゴではなくイチジクであり、禁断の果実=イチジクという説はそれなりに有力な説の一つなのです。
イチジクの葉が埋め尽くす空間
そんな、禁断の果実・イチジクが、知識の象徴ともいえる本棚を埋め尽くしていると思えば、なんとも面白い光景に感じられてきますね。人類が蓄えてきた知識のルーツがこの空間にあるような、そんな気さえしてくるように感じます。
また、先述の通り、エデンの中央に生えた知恵の木の果実を食べたことによって、人間は死に苦しむこととなり、永久に美しさを保ったエデンという場所から追放されたわけですが、終わりのなく、朽ちていくこともない楽園の中央にあるイチジクの木が、植物が侵食し、静かに朽ちていくこの空間に設置されているのは何とも皮肉が効いた演出ではないでしょうか。
美しい建築にも注目
建築物を見てみよう
それでは、ここで建築物にも注目していきましょう。柱に細やかな衣装が入っていることや、中世ヨーロッパを彷彿とさせる調度品たち、壁面に採用されたステンドグラスなどの特徴は、12~14世紀ごろに発展したゴシック様式を踏襲しています。
しかしながら、天井部に開口が設けられ、トップライトが差し込むドーム屋根などはゴシック様式の建築ではあまり見られません。
また、ゴシック様式の建築物の大きな特徴の一つとして、リブ・ヴォールトと呼ばれるアーチ状の天井構造があるのですが、このワールドのリスポーン地点から続く、廊下のような場所の天井は、四角く平坦なものになっています。
こうした特徴は、古代ローマ建築の代表作である、ローマ市内のマルス広場に建設された「パンテオン」が近いかな?という印象を抱きます。
※パンテオンについてはこちらを参照
パンテオン | ローマの建築を訪ねて(イタリア)No.31 | Tabiリネア建築企画
余談ですが、パンテオンのドーム頂上部に設けられた円形の天窓はラテン語で目を意味する「オクルス(Oculus)」と呼ばれています。奇しくも某ヘッドセットと同じ名前を冠しているんですね。
そんなわけで筆者は、このワールドの建築物はゴシック様式と古代ローマ建築の折衷様式で建てられた建築なのかな~というイメージを持ちました。
ゴシック様式について
このワールドの美しく神秘的な雰囲気を演出するうえで、ゴシック様式というのは、大きな役割を担っています。
※ゴシック様式についてはこちらを参照
ゴシック様式とは?わかりやすく解説! | イロハニアート
というのも、ゴシック様式というものはそもそも、光を美しく魅せることを非常に重要視した建築様式なのです。
11世紀以降、都市部に人口が流入してくるようになりました。中世の時代、人々の識字率は高くありません。そうした文字を読めない人々に対して、キリスト教の教義を布教するためには視覚的に訴えかける必要があったのです。
そのため、ゴシック様式は「神の威光を示し、民衆に訴えかえること」を求められており、これまでの建築に比べて、非常に高く設計されています。
また、大きな窓を設けたうえで、そこにステンドグラスを設置し、室内空間には様々な色の光が神秘的に差し込むようになっていることも大きな特徴です。
このように、ゴシック様式はいかに空間を神秘的に魅せるかということを追い求めた建築様式であり、神秘的な青いライティングが美しいこのワールドにピッタリな様式であると言えますね。
この建築物の生い立ちを妄想してみる
そうした、神の威光を示すために、高さを求めて設計されたゴシック様式を踏襲した本ワールドの建築物ですが、中央に大きな木が生えていることから、どうやらこの建物は地面のすぐ上に作られていることが分かります。
また、建築物奥のステンドグラスの前の祭壇のような空間には、通常配置されるはずのマリア像のような信仰の対象となるオブジェクトが配置されていません。
それに、普通、神秘的な空間を作りたいならば、床には大理石などの石材によって装飾するものなのではないかと思うところですが、このワールドの床は浸水しており、水底には剝き出しの地面が見えるのも不思議なところです。
こうした違和感から、筆者は一つの仮説を導き出しました。
「この建築物は中央の木を祀るために作られたものなのではないか」と。
そう考えると、木を美しく魅せるために、室内空間は必要以上に高くあるべきではないし、木の根が張っている地面に手を付けるべきでもないでしょう。
また、木そのものを祀っているのならば、そのほかの信仰の対象を配置する必要はありません。
そして、ゴシック建築には一般的に採用されない、ドームの天窓(オクルス)についても、木の生育のために採光が必要であったと考えれば、自然なものだと考えられそうです。
最後に
「Forestella」は写真を撮るだけでも美しく、そして想像の膨らむ素敵なワールドでした。
今回ご紹介したのはあくまでも筆者の想像であり、1つの可能性に過ぎません。
皆さんも「Forestella」に訪れて、このワールドの持つメッセージに思いを馳せてみては?
投稿者プロフィール
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VR空間のレビューを主にやります。
デザインと音楽が好き。