VTuber事務所『ホロライブ』運営のカバー株式会社が初となる海外拠点「COVER USA」開設を発表。現地での運営メンバー採用の狙いも

カバー株式会社 谷郷元昭 代表取締役社長

2024年3月12日、カバー株式会社は海外拠点「COVER USA」開設を発表しました。発表会ではこれまでのVTuber事業を振り返り、IPビジネスによる収益の増加を報告。グローバルレベルでのキャラクターコンテンツ市場を分析し、海外拠点展開への説明が行われました。

「COVER USA」について

カバー株式会社として初となる海外拠点「COVER USA」は、現地でのイベント開催や物販促進といった営業活動を行います。これまでメインのコンテンツを含めてイベント開催などは全て日本からの発信に限られていたところを、より迅速な意思決定を行えることを狙ってのもの、とのことです。

ただし、主軸となるコンテンツ供給については、そのクオリティを維持するべく日本を基点とした体制が維持されます。

「COVER USA」はカバー株式会社による100%出資で2023年4月に設立されており、2024年7月の営業開始を予定しています。

なぜ北米拠点なのか?

本日の発表会では、カバー株式会社によるグローバルキャラクターコンテンツ市場の分析が簡潔に説明されました。その内容は先月開催されたIP戦略勉強会でも語られていますので、併せてお読みください。

世界的にヒットしているキャラクターコンテンツは、アメリカと日本発のものでトップ10のほとんどを占めていることを指摘。その市場の大きさ自体も拡大傾向にあり、消費者1人あたりの国別コンテンツ消費額はアメリカが最も高い傾向にあります。

更にVTuber分野を俯瞰すれば、世界トップクラスのIP(タレント)を『ホロライブ』が独占的な実績として達成。これはYouTubeチャンネル登録数が示す数値を根拠としていますが、海外比率としては35.3%にも達するとのことです。運営する86IP(本発表会時点)中、33IPが海外であることからも、日本でも、海外でもIP戦略が順調に拡大していることが分かります。

こうした事実を踏まえ、北米に高いポテンシャルがあるとの判断から「COVER USA」設立に至ります。VTuberに限らず、これまでのアニメやゲームといった既存コンテンツが盛り上がる流れを踏襲し、IP人気と熱狂を起こしてからライセンスやコマース領域への展開で収益を広げていく狙いとなるようです。

しばらくはYouTubeスーパーチャットなどの配信・コンテンツ収益が主軸だったカバー株式会社の収益構造ですが、現在ではマーチャンダイジングやライセンス・タイアップの収益が上回っています。

発表会では、YouTube動画・ライブ配信といった直接的(一次)コンテンツ配信をPGC(Professional Generated Content)、ファンによる二次創作的なコンテンツをUGC(User Generated Content)と捉え、その両軸によって熱狂を起こし、ビジネスとして強固となっていった点を改めて強調しました。

そして、「COVER USA」は高いポテンシャルを持つ北米の“両軸”を整える役割を担うことになりそうです。シンプルに言語の壁といった問題もありますが、これまでの体制ではPGCを提供するまでに時間がかかることや、UGCづくりを支援する機会の少なさがありました。

「現地でライセンスセールスの実力者を探す意図もある」──質疑応答

Q. 3Dライブを海外で行うのはまだ難しく、日本よりもその機会が減っているのでは、とも言われている。海外展開において3Dスタジオを作るといった考えはあるか。

タレントさんのニーズに応じて3Dスタジオを作るといった検討はしていきたい。現時点のタレントさんにおける主なニーズは、セールスやコラボレーションの機会を増やすという要因が大きいと考えている。

Q. 海外展開を行うにあたり、KPI設定はあるか。

会社として特段のKPIを掲げてはいないという前提の上で、海外圏でもEC売上比率を日本と同程度まで育てたいという考えがある。日本と比較して様々なハードルがあるはずだと捉え、同規模の場合にどこまで通用するのかを測りかねているというのもある。

Q. 谷郷社長の肌感覚として、海外でVTuber事業はどのような受け入れられ方をしているか。また、海外展開においてはどのような人選を行うのか。

アニメエキスポなどへ自身が参加して、いわゆるオタク文化というものが、より一般化してきていると感じている。ボーカロイドといった文化も以前は「サブカルチャー」という印象が強いものだったが、特に若年層において今ではメインカルチャーとなっているのではないかと認識している。

一方、海外に関してはまだまだ一般層へ広がっていない。アニメやゲームといった文化のファンも、それぞれのジャンルというよりは派生した作品が起こり、結果的にファン層を共有しているという状況がある。その為、アメリカにおいてVTuberという存在を中心に据えて打ち出さなければすぐに埋もれてしまうという危機感を持っている。積極的に展開していきたい理由でもある。

そうした理由から、現地拠点で働くメンバーはVTuberビジネスを立ち上げるなど、関わってきた者を現地に赴任させる方針で考えている。ただし、現地の厳密な文化の理解を深める必要があるので、現地でのメンバー採用を将来的に行っていくことになるだろうかとも考えている。

Q. 海外拠点を置くことで、現地でのタレント採用を行う狙いがあるのか。

現時点では現地でのタレント採用の窓口としては考えていない。現在所属しているタレントさんへのサポートを強化する必要がある為。配信以外の収益割合が増加しているが、タレントさん達の視点を取れば、私達がどれだけタレントさん達へのサービスを行えるのかという問題であり、結果としてそれがBtoBtoCの形でファンの皆様へのサービスにつながる。

日本ではコラボの形で身近に触れる機会が増えているという実感を持って頂けていると考えているが、そうした部分は私達の営業努力によるものが多分にあると考えている。これは日本に拠点があることでやりやすい。海外拠点は、そうした直接的なコミュニケーションで動ける環境が重要だと考えている。

Q. 今回の海外拠点はどの程度の人数規模か。また実際にどのようなことを行っていくのか。

まずはスモールスタートを想定し、数年は10名程度かと考えている。ただし、重要なこととして今回の発表はライセンスセールスの経験者がいれば現地で採用したいという目的もある。そうした採用をピンポイントで行いながら、日本からもVTuberのビジネスを理解している人物を送り込もうとしている。

また、マーチャンダイジングに取り組む上で、日本とアメリカではTシャツのデザインひとつとっても異なる部分が多い。そうした商品を企画できる人物を現地で採用できると嬉しいと思っている。

Q. 海外拠点を開設することによる、タレント達へのメリットをは何か。

現在英語で活動しているタレントさん達向けのメリットを向上させることを第一に置いている。

日本では配信以外にも露出の機会が増え、ソロライブなども実現できている状況だが、アメリカでは2023年7月頃にイングリッシュ全体のライブを1回行ったのみであり、日本に置き換えると、初の全体ライブは2020年1月頃だったので、日本とアメリカでは状況に4年ほどの差があるという認識。

海外拠点を置くことで、現地パートナーさんとの交渉を行いやすくなり、ソロライブといったものを実現していきたいと考えている。

Q. VRSNSはアメリカと日本の割合が高いという点で、コンテンツ市場規模の形に似たものがあるかと考えるが、今後のVRにおける展開はあるか。

会社を立ち上げた初期はVRゲームコンテンツの開発を行っていた。これまでもVRのライブ実績はあるが、現状ではVRデバイスを持った方々へよりハイエンドな体験を提供するというよりも、現在のお客様に対して幅広いサービスを展開していくという観点で進めている。

そうしたことから、現在はPCやモバイルなどのデバイスに向けたものを中心にサービスを提供していきたい。

第一の目的は現地の運用強化。既存タレントへのサービス向上を狙う。

質疑応答は「COVER USA」がどのような運用実態となるのかを探るような質問が多くなりました。あくまでも既存タレントへのサポート強化のために設立されることとなり、劇的な新規の展開が見込まれるものではないようです。

コンテンツ産業を大きく俯瞰し、冷静に市場規模を分析した上で、必要な布石を整えていく。そうした戦略的な土台は一見地味ではありますが、英語での活動を行っている現地タレントに取っては心強い拠点となることは間違いないでしょう。

北米ファンの方々にとっては、現地イベントといった接触機会の充実を予感させるものとなりました。より一般層への浸透が進んでいくのか、今後に注目です。