バーチャルに生きる私たちが主人公になれた日『SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland(サンリオバーチャルフェス)』イベントレポート

2021年12月11日・12日に開催された『SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland(サンリオバーチャルフェス)』

VRChatを中心とするバーチャルプラットフォーム上で開催された当イベントにはミライアカリや電脳少女シロ、キズナアイなど、2017年末からVTuberシーンを牽引してきたスター達がこの空間に降り立ち、私たちを熱狂させた。

特にミライアカリに関しては初期にVRChatの文化を取り上げる動画を投稿していたので、ライブ中には『この世界に帰ってきてくれてありがとう』という歓喜の声が上がっていた。
筆者自身もVR機材を購入する前にミライアカリがYouTubeに投稿していたVRChat動画を何度も見ていたので、彼女とまたVRChatの中で会えたのは感慨深いものがあった。

しかしながらバーチャルの世界を盛り上げてきたのは彼女たちだけではない。
このバーチャルの空間には、バーチャルの世界に住み、自分たちの力で文化を築き上げてきた人達が大勢存在する。

VRアーティスト、3Dモデラー、ワールドクリエイター、バーチャルフォトグラファー…

バーチャル世界の地に足をつけ、努力してきた彼らにフィーチャーし、今回開催されたサンリオバーチャルフェスをレポートしたい。

私たちの夢を叶え続ける存在『AMOKA』

VTuberの文化を大成させたスターは先に述べた通り、キズナアイや電脳少女シロ、ミライアカリなどが挙げられる。

だが“VRChat”の音楽シーンを形作ったアーティストは誰かと尋ねられたら、間違いなくこのグループの名前が挙がるだろう。

『AMOKA』は2019年頃より活動を始めたVRChat発のバーチャルアーティストだ。
あいぽ(Aipo)・もいさん(MOISAN)・からし明太子の3人ユニットでバーチャル空間を軸にライブ活動をしている。

3人は企業がプロデュースするアーティストではない。
メンバーそれぞれがVRの空間の中で出会い、VR空間で音楽を磨きながら成長してきた。

彼女らの魅力はその歌唱力の高さはもちろんの事、バーチャル空間に生きる等身大の自分たちを表現する歌詞。そして何よりVRストリートから大舞台へと駆けあがってきたシンデレラストーリーにある。

アーティストとしての始まりは『ライブをしてみたい』という純粋な動機からだった。
歌う事が好き、音楽が好きという一途な気持ちで、現実の路上アーティストのようにVR空間でゲリラ的に音楽ライブをしていたのだ。

するとその情熱に心を打たれた人たちが口コミで集まるようになり、やがてVRユーザーの中からPV製作を手伝う人が現れたり、楽曲製作を手伝うユーザーが現れるようになった。

つまり『AMOKA』はメンバー3人個人のスキルだけでなく、バーチャルの世界に存在する多くのVRユーザーの想いから形作られているアーティストなのだ。

サンリオバーチャルフェスの1曲目に歌った『Welcome to the Virtual Reality World』からも彼女らが辿ってきたストーリーの一端を見ることができる。

曲中の歌詞、『誰かと作る最高のEveryday』『これが僕らが夢に見た未来だ』というフレーズは、まさにAMOKAと私たちが紡いできたストーリーそのものだ。

国や地域、性別、あらゆる価値観が融合され、受け入れられるバーチャルの世界。
その楽しさは今もなお現在進行形で続いているのだと、ライブを聞いて改めて感じることができた。

2曲目『MAKE ME MAGIC』も『なりたい自分になれる』 というバーチャルならではの魅力を歌った楽曲だ。ポップな曲調で明るく歌い上げた楽曲は思わず身体が動き出してしまう。

ライブ中、ボーカルのあいぽさん、もいさんが顔を見合わせながら手拍子をするシーンは、2人の『楽しくてたまらない!』といった感情が客席にも伝わり、心が温かくなった。

3曲目『7 layers train』 4曲目 『回転球』を挟み、ラストを彩った楽曲は『不完全存在』
これまでの楽曲とは違い、エネルギッシュで力強いメッセージで楽曲を歌い上げた。

『またひとつ新たな価値観に出会えば 昨日までの自分を否定する僕ら』『肯定する僕は正しいか、否定された君は間違っているか?』というメッセージは価値観のぶつかり合い、葛藤を描き、その中でも不完全ながら前に進んでいく事を歌っている。

多様な価値観が存在することで生まれる葛藤は、これからのバーチャルの世界でも繰り返される課題となるだろう。

そんな中、変わり続けながら前に向かって生きていこうという姿勢を力強く歌い切ったAMOKAからは勇気を貰えた。

全5曲目のライブを行い、会場を去って行ったAMOKA。

ステージが終わると辺りがシーンと静まりかえり、あちこちから鼻をすする音が聞こえてきた。

ライブがあまりにも感動的過ぎて、来場者全員が放心状態になっていた。筆者もライブ終了後は喉が震えてしばらく声が出せなかった。

これまでAMOKAと歩んできたバーチャル空間での思い出が走馬灯のように脳内に駆け巡る。
会場にいるみんなもおそらく同じ感情を抱いていただろう。
このライブは『バーチャル空間を盛り上げたい』という私たちの夢が1つ叶った瞬間だった。

観客の魂を魅了した『GHOSTCLUB』

ユーザー発のVR音楽文化として今盛り上がりを見せているのがクラブイベント文化だ。
現在VR空間では毎日のようにクラブイベントが開催されている。

そのVRクラブイベント文化を創り上げてきたイベントの1つが『GHOSTCLUB』だ。
GHOSTCLUBは2018年から継続的に運営されているクラブワールド。限られた人数しか入れないレアリティの高さとアングラ感が人々の興味を惹き付け、日本のみならず世界中に熱狂的なファンが存在している。

クラブと言うと怪しくていかがわしい、アンダーグラウンドなイメージを持たれるだろう。
実際、VR空間だけでなく現実世界でもそのカルチャーを人に説明することは難しい。

そんな中、今回のサンリオフェスでは『GHOSTCLUB』とのコラボDJイベントが開催された。
サンリオという大手企業がこのカルチャーを受け入れてくれたのは非常に嬉しい。

特設会場にはシナモロールやキキララ、キティちゃんなどのキャラクターのイラストが描かれたポップが貼られている。

ゴリゴリのアングラ空間と可愛らしいサンリオキャラクターたちのギャップには少し笑ってしまった。

DJイベントではイベント主催者兼ワールド制作者の0b4k3氏を始め、VRChatで活躍するDJ陣が楽曲を流していた。

爆音で流れるサイケな楽曲、VJによるトリップ感のある映像。
身体中で音楽を浴びる快感はサンリオフェス特設会場でも完璧に再現されていた。

声の減衰具合もリアルクラブイベントと遜色ない程非常に良く計算されて作られている。
客同士が会話をするには耳元で叫ばないといけない。

それでいてワールド全体は音楽が大音量で流れているので、会話を楽しむというより音を浴びながら体をゆらゆら揺らす他ないのだ。これが非常に気持ちいい。

複雑な会話はできないので、会話するにしても『コレいいね』『うん』程度のボキャブラリーになってしまう。なので言語は殆ど退化し、代わりに感覚が研ぎ澄まされる。

大げさな表現になってしまうかもしれないが、『GHOSTCLUB』の名の通り、音を通じて会場にいるみんなと魂が繋がっている感覚がした。

バーチャルの遺伝子は受け継がれていく。キヌ氏のパーティクルライブ。

今回のサンリオバーチャルフェスでもう1人注目したいアーティストがいる。

音楽アーティストでありパーティクルライバー、そしてバーチャルに生きる者の1人、キヌ氏(@kinu_kaiko)である。

パーティクルライブとは簡単に説明するとVR空間を使った立体的な音楽演出の事を言う。
まるで自分がMV(ミュージックビデオ)の中に入ったかのような感覚で、不思議な音楽の世界を体験することができるのだ。

今回キヌ氏が行ったパーティクルライブ『バーチャルYouTuberのいのち』はバーチャルに生きる人にとって非常に心打たれる作品だった。

『先輩たちがぶち上げ続けたこのステージに、今私が立っている』
『描き続ける人たちが今日までここを繋いでくれた』


…という言葉はこのバーチャルの世界を愛する私たちの胸に深く突き刺さる言葉であった。

キズナアイや、ねこます氏などのVTuberの存在はもちろん、バーチャルに生きるすべての人々が今この空間を創り上げている。
誰かの叶えた夢が別の誰かの憧れとなり、またそれが誰かの生きる希望となる。
こうしてバーチャル空間に遺伝子が受け継がれていく。

今回のサンリオバーチャルフェスは、私たち1人1人がこの世界を心から愛し、生き続けてきたからこそ実現されたイベントだ。VRアーティストやクリエイター、イベントスタッフ、そして会場に来てイベントを楽しむVRユーザーたち。

誰が欠けてもこのイベントが開催されることは無かっただろう。

キヌ氏がパーティクルライブで表現した通り、私たちが紡いできた遺伝子はこれからも誰かに引き継がれ、また新しい文化を作っていくに違いない。