タイムパラドクスパラドクス、パラドクス?なコメディ『チョイス』
前回に引き続きメタシアター演劇祭レポートをお届けします!
3日目のはじめに入場できたのは、maropi工房さんによるオリジナルコメディ作品『チョイス』でした。
メタシアター演劇祭でも早い段階で活動を始めていたmaropi工房さんですが、出演者募集の記事を掲載した際、はじめての練習会にお邪魔してその模様を一緒にお伝えしていました。
その時の縁もあるのですが、実はなんと1日目と2日目に開催されていたメタシアター演劇祭リアルイベントでは、団長であるmaropiさんと劇団メンバーのSuzuQui(すずき)さんが、現地運営メンバーとしてお手伝いに来ていました。
メタシアター演劇祭に対しては、私はひとりの観客として関わる程度でしたが、おふたりは3日目と4日目に本公演があるはずです。そのような中で、新宿NEUUでのおふたりは準備や運用に細かい気配りを欠かさず、来場されたお客様へ自然な話題を振ったりしていつのまにか仲良くなっているなど、すばらしいコミュニケーションも取られていました。(私は緊張してしまい堅い案内ばかりでした……)
更に後から知ることとなりましたが、maropiさんはメタシアター演劇祭そのもののディレクターや渉外にも携わっておられたそうで…… なんというパワフルな活動力…… しかも非常にさわやか…… うっ!眩しい!!
昨年公演の『マクベス』ではじめて演技をすることとなったmaropiさんですが、そこで面白さを感じ、今度は自分で脚本や演出をやってみたいと考えたことで、今回のオリジナル作劇『チョイス』へ挑戦しています。つまり、実質的にこれが初めての舞台創作ということになるはずです。
『チョイス』は、とある男女が高級レストランでデートをしている場面からはじまります。砕けた調子で楽しみながら雑談を続ける彼氏と、どことなくぎこちない彼女という様子。実は、彼女はこのデートでプロポーズを計画していました。
レストラン店員の協力のもと、大きな花束のプレゼントをサプライズで用意して、あとはタイミングを待つだけとなった時、彼女と全く同じ格好の女性が突然現れます。その女性は自らを「5年後からやってきた未来の自分」だと名乗り、プロポーズをやめるように迫ってきて…… というお話です。
30分程度の劇ではありますが、物語はテンポよく進みます。お約束はしっかりと掴みつつ、笑わせる場面もハッキリしていて、とても鑑賞しやすい演出にまとまっていました。客席からの爆笑も2度3度と続き、思わず突っ込んでしまいたくなる最後のオチには「読後感の良さ」がありました。
役者のみなさんの演技も、力の抜いた自然な会話を行う場面と、わざとらしい笑いの場面とで状況を使い分けていて、特に自然な会話はアドリブで行っているかのように感じられる程で、かけあいのタイミングなどは細かく詰めてこられたのだろうと感じます。
本当にこれがはじめての脚本・演出なのか……? と思わずにはいられません。劇団のメンバーは今回のために公募で集まったとのことですので、全員が初対面から作り上げたことになります。個人的な視点で恐縮ですが、maropiさんの手腕…… その人間的な総合力の凄さに驚くばかりです。
Show Avatarへの劇的工夫
アイデアとして唸らされたのは「Show Avatarへの導線」でした。
VRChatでは様々な表現が可能ですが、自由であるということは望ましくない表現に出会ってしまうリスクも存在します。これを回避するひとつの手段として、一定以上の表現機能を制限する…… というのが平均的な設定となっています。
演劇やライブでは音やパーティクルといった機能をふんだんに活用しますが、これが悪用されてしまう場合もあるので、何も設定しないと観客には狙った表現効果が表示されない、といった事故になってしまいかねません。
そこで観客がそれぞれプレイヤー(役者)を直接指定し「Show Avatar」という設定を行うことで、その人については表現の規制を外すという対応が可能となっています。そして『チョイス』では観客へShow Avatarを促すための工夫が用意されていました。
前説の段階で「ディナーコースを紹介する」という名目を取り、各役者が料理を模したアバターとなって登場します。解説の中で「コントローラーを使って直接Show Avatarを実行してください」と案内を混ぜるというものです。
本編は主人公の男女がレストランで食事を終えた場面から始まり、前説の役者もそのままウェイトレスとして登場します。メタとリアル(VR観客ですが)を織り交ぜた上手な演出でした。
表現の価値を信じ抜こう…… 朗読劇『歌詠い』
続いて入場できたのは劇団momentさんによる朗読劇『歌詠い』です。
360度の大劇場でしたので大掛かりな劇なのだろうかと思っていたところ、2名の役者がその場で朗読しきるという思い切った構成でした。
インターネットの文化と一言にしても、大衆化してから10年20年と経過しています。朗読の舞台はその中でも現代の「配信事情」にフォーカスしたものでした。Youtubeが台頭したとはいえ、当初しばらくの間は発信する人が特殊な存在だったように思います。
それが今となっては発信側の方が多いのではないかと思うほど、配信が大衆化しました。これは、ほとんどの配信者がほとんどの人の目に触れないという事実を突きつけるものでもあります。
朗読劇では、音楽を奏でながら「なぜ自分は配信をするのか」という苦悩を表現していました。誰が見ている訳でもない、見ているかも分からない。見てもらうためにやっているのか、自分は演奏が好きだからやっているのか。そんな葛藤を押しのけるかのように演奏へ没頭する様子が描かれます。
一方、静かにその様子を視聴している人物の独白が続きます。配信者の表現によって勇気づけられながらも、その苦悩に手を差し伸べられないもどかしさが交わっていくのです。
朗読劇の舞台は現代インターネットの場面を抜き出したものですが、自分の活動にどんな意味があったのか…… という苦悩は普遍的なものと言えるのではないか、そんな風に感じました。
私自身も少しずつこのようなライター活動を積み重ねていますが、それが一体誰かのためになっているのだろうか? これを考えないことはありません。幸いなことに、ある媒体に参加してきた別のライターが、私のとある記事を見て目指してみようと考えた、と話してくれたという体験があり、報われたような気持ちになったのを覚えています。
ですが、このように目に見える形で報われることはまれなのかもしれません。『歌詠い』のテーマは、どこかの誰かには必ず伝わっていると信じること…… なのだろうと私は感じました。
投稿者プロフィール
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2年くらい無職だった 今度こそがんばる
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以下に権利表記を示すとともに、直接使用許諾の確認を頂いております
・『ナユ』『プラチナ』:有坂みと 様
・『キプフェル』:もち山金魚 様
・『ヌノスプ』:©トノダショップ 様
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