※この記事は、創作でつながるクリエイターズマーケット『BOOTH』提供記事です。
「アバターを買う場所と言えば『BOOTH』でしょ!」と、日本人『VRChat』ユーザーであればよく聞くかと思いますが、国境を超えてアメリカやヨーロッパでは同じ話は通用しないはず。そして、どんなアバターが好まれるかも、日本人向けのインスタンスにいるとなかなか知る機会も少ないと思います。
実際に、西洋圏のユーザーにはどんなアバターが好まれていて、どこでアバターを買っていて、どんなことを考えているのか。日英翻訳家として活動し、ご自身も『VRChat』で長く活動しているpotatoさんへインタビュー。ライターの浅田カズラが聞き手となって、様々な観点からお話しをうかがってみました。
目次
海外ユーザーが好きなアバターはどんなもの?
――まず最初に、海外(西洋圏)ユーザーが使うアバターについて、potatoさんが知る限りのトレンドや、属性別の使用傾向などをお聞かせください。
分かりやすいところからお話しすると、やんちゃな未成年が多いパブリックな場所には、好きなキャラクターになりたい層が多く、著作権的にアウトなゲームやアニメのキャラクターなどのアバターが多いです。
一方で、少し大人になると傾向がふたつに分かれます。ひとつは、自分自身のアイデンティティを持たせたアバター。日本でも見られるような、自分でアバターを作ったり、改変したりする人です。もうひとつが、パーティーやレイヴなどで遊ぶ時に映えるアバター。こちらはAudioLinkや刺青を取り入れ、きれいにピカピカ光るようなアバターが多く、なにより「毎週のように着替える」傾向があります。個性は強くないけど、見た目のインパクトが強いですね。
――「パブリックではよろしくないアバターが多い」ことは想像がつきましたが、一定以上大人になると日本のアバター改変に近いカルチャーが根付いていることは初耳です。
大多数、とまではいかないですけどね。西洋圏ではまだまだライト層が多いので、多くの人は買ったアバターを『Unity』へ入れるだけでアップロードできる簡便さを重視します。そのため、改変せずとも、本体に髪型や服、アクセサリーが複数個内蔵されて、切り替えられるアバターが多いですね。『Unity』上ではなく『VRChat』内で個性を出す方向性が支持されているように思います。
――次に、アバターの変遷についてお伺いします。potatoさんが以前に公開された記事では、2019年からの西洋圏におけるアバター変遷が解説されていました。改めて、2019年から2024年あたりまでの変遷をお話しいただいてもよろしいでしょうか?
ある時点での流行はもちろん、入手のしやすさも大きく関わっています。例えば2019年ごろは、MMDモデル改変が横行していましたが、その理由は「簡単に手に入る3Dモデルがそれぐらいしかなかったから」なんです。そして、MMDモデルの販売が禁止され、取り締まりも強化された後は、次に利用できるものを探しに行っているはずです。
再利用や、ちょっとした調整も盛んでした。MMD改変最盛期でも、そのまま使うのではなく、さらに手を加えていた人が多かった。顔のメッシュだけ見てもぜんぜん違うこともめずらしくなかったんです。いわゆるMOD文化が盛んなことも顕著に影響していたと思います。
こうして、非合法なものが減っていき、合法なものが増えていった末に、体だけ、顔だけなど、アバターの特定箇所だけを製作・販売する人が増えていきました。現在は顔のバリエーションも増えていきましたが、かつてはバリエーションも少なかったので、みんな同じベースの顔を採用し、あまり個性が出ていなかった時期もあったりするんです。
『Gumroad』だけじゃない。西洋圏ユーザーのアバター入手先について
――アバターの入手性に関連して。西洋圏で支配的なアセット販売プラットフォームは『Gumroad』だと思いますが、実際のところ西洋圏ユーザーはどこでアバターを入手しているのでしょうか?
最初に探しに行くのは『Gumroad』だとは思いますが、いまならば利用者が増えつつある『BOOTH』も選択肢に入ります。ただ、最近はクリエイターの間でも『Gumroad』から独立し、『Shopify』などを活用して自分で作ったストアを構える傾向が強まっていますね。ユーザー側も「この人の作るアバターが好きだから」と思って、独立ショップへついていく人が多いです。
ただし、西洋圏で流通するアバターは、違法かどうか構造上指摘がしにくいのが問題。ひとつのアバターの中に、様々な人から買ったパーツを組み込んでいるのが基本構造なのですが、リストアップされたパーツの中に未購入品が混ざってる可能性もあるんです。購入側がそこをチェックするのは非常に困難なので、クリエイター同士で問題になることがあります。
――非常に厄介ですね。その要因となっているのは、カスタムドールのように「パーツを組み合わせて一つのアバターを作り上げる」方式だと思います。身体と衣服を全てひとりのクリエイターがモデリングしている日本産のアバターとは対照的ですが、なぜこうした方式が西洋圏では一般的なのでしょうか?
おそらく、クリエイターの負担を一番減らしやすい作り方だからだと思います。アバターを作る過程で知らなくてはいけないことって、改変をしているだけでもなんとなくわかりますよね。モデリング、リギング、テクスチャ、BlendShape。……こうしたことを習う上で、投資する時間がどうしても長くなります。
私が観測した中での推測ですが、どこかのタイミングで、全てをひとりが学ぶのではなく、クリエイターが得意とするものを作り、それらを合体させてパッケージングしてしまう、作り手側のエコシステムのようなものができあがったのだと考えています。そして、最終的に組み上げる人が、自身のアイデンティティも含めてパッケージとして出品し、それを気に入った人が買う文化が生まれたのだと思います。
――部位ごとの分業化、あるいは職人化と言うべき事象ですね。日本ではアバター本体と衣装・髪型などが分業されているかと思いますが、それがさらに突き詰められている印象です。共通素体規格や、頭部のみの販売、そして「キメラ」と呼ばれるアバターのミキシングが流行りつつあるのを見ると、その方向性も誤りではないかもしれませんが。
そうした文化の違いは、利用規約の見方が違うことにも起因していると思います。西洋圏では「着て楽しむだけ」の人が多いので、利用規約をすっ飛ばして、最も効率化した気楽な売り方になっている認識です。日本は逆に、インディーズで活動している人が多いゆえに、利用規約まわりをものすごく気にする人が多く、いまの形になっているのかなと。
――販売プラットフォームの話に戻りますが、『Gumroad』や個人ショップのほかだと、西洋圏ではどのようなアセット販売のルートがあるのでしょうか?
それら以外だと、Discord上での直接販売も見られますね。『PayPal』などで支払い、直接パッケージを手渡すやり方です。一時期はすごく多かったのですが、信用の問題や、お金の持ち逃げなどのトラブルに繋がりやすいので、いまはだいぶ減りました。現在は「プラットホームがある」ことが信用につながっている印象です。
それと、『Jinxxy』も挙げられますね。『Gumroad』や『BOOTH』、個人ショップをインデックスし、横断検索できるプラットフォームです。ただ、手動で登録しないと反映されないのが難点ですね。
――コンセプトはよいですが、ボランティアがいないと成立しないですね。どこかUGCっぽいですが。
『BOOTH』は新着コーナーからかろうじて引っ張ってこれるかもしれませんが、個人ショップは人の手を借りないと難しいですね。ただし、販売側もPR手段として利用しているため、自薦による掲載もあります。
大人と子どもの明確な線引。日本で人気のアニメチックなアバターは西洋圏では要注意?
――ここ最近では、『Avatown』のような日本のアバターを海外に展開することを目的としたプラットフォームも現れています。実際のところ、西洋圏では日本製のアバターや衣装は需要はあるのでしょうか?
界隈によると思います。一番よく見かけるのは、『まめひなた』を筆頭とした『まめフレンズ』ですね。『TikTok』などで面白おかしいskit(短いコメディー劇、風刺劇)が流行っているのが影響していそうです。
普段使いだと、大人向けショーなどでは『桔梗』や『セレスティア』などの大人っぽいアバターを好む人もいますが、アニメチックすぎるアバターは、大人が多いところではそんなに人気じゃなかったりします。
個人的に、一番革新的だなと思ったのは、『森羅』が発売された時ですね。制作者のmio3ioさんが、X上で「ドール調の可愛さ・きれいさ」を意識して作ったと言及されていましたが、たしかにそのニュアンスを感じる造形なんですよ。実際、『森羅』は西洋圏でもたくさん見かけます。パーティーにも行くルックにも寄せやすい造形であることが大きいですね。
そして、『森羅』が現れた時期から、「BOOTHにもアニメチックではないアバターがあるんだ」と西洋圏ユーザーが認識し始めたように感じます。なので、アニメチックすぎないアバターが見つけやすくなれば、西洋圏ユーザーも『BOOTH』をもっとチェックしてくれるようになると思います。
――アニメチックなアバターは、西洋圏では大人っぽくない、ともすれば子どものようにも見えてしまうのですね。やはり西洋圏だと、アバターの見た目が大人っぽいか否かを重視する文化が根強いのでしょうか?
西洋圏では、未成年と成人の壁ははっきりと存在しています。未成年とトラブルが起きれば、内容次第では犯罪になってしまうので、「未成年とは絶対に関わらない」と考えている方はすごく多いんです。
その空気感は、『VRChat』内にも浸透しています。私の実体験なんですが、見た目がアニメチックなアバターでパーティーに遊びに行った時、問答無用で会場からキック(退場)されたことがあります。私自身は普通に成人しているのに、です。
――未成年とは絶対に関わらない姿勢が、『VRChat』内のパーティーにも適用されているのですね。
やはり、お酒を飲む場やパーティー、あるいは露出の激しい服装で歩く人がいるような場では、「未成年は行ってはいけない」空気が強いですね。なので、大人っぽくない見た目、あるいはアニメチックなアバターを使っているとキックされるか、ブロックされるか、無視されるか、いずれかは避けられないです。
――アバターの見た目と、その中身を切り分けることはしない、と。
「そういうアバターを使うってことは、そういうアバターが好きなんだろ」とも判断されていると思いますね。あと、そうしたアバターを使っていた人がたびたび炎上しているのもありそうです。一度そうしたことが起きると、印象ってついてしまうのは避けられないですよね。
――……とはいえ、ちゃんとした大人のアバターを使うことが、「特定の場における信頼」となるのはおもしろいですね。西洋圏社会の厳格さを感じるところです。未成年と成人がインターネット上で交流することがめずらしくなく、『VRChat』でも見た目の年齢を気にせず飲酒することが受け入れられている日本とは、本当に真逆だなと。そしてそもそも、「パーティー」って概念自体が西洋圏ならではのものですよね。
その意味だと、日本と西洋圏では「お酒の飲み方」が違うのも大きいと思います。日本だと「飲みニケーション」なんて言葉がある通り、友達や会社の人と一緒に飲みに行くことが多いですよね。でも、西洋圏でお酒を飲みに行くタイミングって、クラブやバーなどへ行き、パーティー感覚ではっちゃける時なんですよね。リアルではみんな成人するとクラブへ行き始めます。
USやEUなどの週末の飲みワールドに行けばわかると思いますが、そこにいる人ってみんなゲームなどで遊びながら飲んでいる人が多いんですよ。ちなみに『VRChat』だと、アメリカでは飲酒年齢未満の18歳でも、パーティーや飲み会への参加自体は、大半の人は許容していますね。
――大人の社交場、大人の楽しみとしての側面が強いのですね。日本だとそれは酒やタバコ、パチンコなどに相当しそうですね。
なので、そこにいる人も言いたい放題、やりたい放題なところがあります。こうした傾向から、パーティーに未成年がいることだけでも悪い影響になると捉えられるんです。リアルにおけるそうした空気感が、『VRChat』でもそのまま引き継がれているのかなと。
――その要因として、日本と西洋圏とで『VRChat』の基本的な遊び方の違いも挙げられるのでしょうか? 日本ユーザーの遊び方は、基本的には「友達の家に遊びに行く」、イベントごとであってもホームパーティーくらいまでの温度感だと思います。
新型コロナの流行にだいぶ影響されている気がしますね。私が『VRChat』を始めた2019年は、コロナ禍によっていろんな人が「自分の部屋で一生過ごす」とでも言うべき状況に置かれました。そうした状況と、VRへの好奇心から『VRChat』にやってきた人が多かったです。
その時点では、「友達の家に行ってしゃべる」感覚の人が多かったんですが、コロナが落ち着いてくると、現実世界の暮らしに戻り、『VRChat』から離れる人が増えました。そこから、「普段は来れない分、来れるときはみんなで遊ぼう! 飲もう!」と考える人が増えたのか、この一年くらいはパーティーづくしな雰囲気が強いんですよね。
いまや西洋圏では、大人の間では「毎日ログインしてとりあえずしゃべって遊ぼうぜ」みたいなノリがどんどん減っていきました。いまとなっては、大人が集まって、ミラーの前で会話している光景ってめずらしいんですよね。
――コロナ禍が明けて日常が戻ってきたからこそ、『VRChat』のプレイ用途が「ハレの日」に集中してしまったのですね。そう考えると、日本ユーザーは「『VRChat』を日常にしてしまった人」が、コロナ禍以後も一定数いるのが実情です。よくよく考えると、これも不思議なことではありますよね。
パブリックアバターでもプレイバリュー満点! 好まれるアバターギミック傾向
――アバターや衣装だけでなく、ギミック類も『VRChat』向けアセットは豊富です。西洋圏から見ると、ギミック類はどのようなものが人気なのでしょうか?
種類は様々ですね。たとえば、映像関係のクリエイターは、カメラ系のアセットを使います。『BOOTH』にもあるような拡張カメラアセットや、レール上にカメラを動かすギミックなどですね。
武器類も豊富です。このアバターはベースが『瑞希』ですが、武器は『Gumroad』で購入したもので、『長ぐつをはいたネコと9つの命』に登場する悪役が使う武器がインスピレーションになった、手持ち鎌です。(商品URL)
この武器は、手に持って回すこともできれば、二振りの鎌を連結させることもできます。説明書は複雑ですが、どのアバターにも組み込むことができるようになっています。
また、アバターに組み込まれたギミックとして特に多いのが『Throwjoint』です。ヨーヨーのように指のまわりをクルクルと回したり、投げつけたりできるおもちゃのようなもので、2019年から2022年ぐらいまではどんなアバターにも搭載されていましたね。むかし公開されたパブリックアバターには、軒並み全部入ってると思いますよ。
――なぜそこまで流行したのでしょうか?
当時はセルフミラー機能がなかったからですかね。セルフミラーがなかった時代って、みんなワールド内にあるミラーを見ていたじゃないですか。でも、みんなが束になって座ってるだけだと、ちょっとつまらない。そこにこうしたおもちゃがちょっとあるだけで、手遊びができるんです。
最近は、アバターのキャラクターに合ったギミックが増えましたね。例えば、これはハロウィンテーマのアバターですが、腰に提げたナタを手に持ったり、ナタから血のエフェクトが出たり、尻尾にくっついたランタンにふれると灯りがついたりと、いかにもハロウィンなギミックが仕込まれています。
あと、私が一番好きなギミックが『VRLabs Pen』です。指先で描けて、色も自由に変更できるし、しかも描いたものを手に持って動かすこともできるんです。これも搭載してあるアバターは多いと思いますね。
――総じて見ると、プレイバリューの強いギミックが人気なのだなと感じますね。
ふとした時、手持ち無沙汰になってもちょっと遊べるものがあると、ちょっとうれしいじゃないですか。それに加えて、いろいろなお洋服も入っていて、気分によって変えられるし、色も変更できる。見た目だけでなく、特性がある何かを楽しむユーザー傾向が、多くの西洋圏のアバターには反映されているのかなと思います。
――日本でも凝りに凝ったギミック系アセットは数多くありますし、自分も多く所持していますが、日本ユーザーの全員が全員それを入れたいと思っているかと言うと疑問ですよね。それに対して、パブリックアバターにまでそうしたギミックが搭載されているところにも、文化の違いを感じるところですね。
手軽に着替えるものとしてのアバター
――もうひとつ、日本と西洋圏の差異として気になるトピックとして、「アバターをどう捉えているか」が挙げられます。potatoさんから見て、アバターの捉え方にはどのような違いがあると思いますか?
西洋圏では「アバターは自分ではない」と捉えている人が多い気がしますね。だからこそ、「今日はどんな服を着ようかな」ぐらいのノリで、簡単に取り替えできるのかなと思います。販売価格も、あれだけのギミックが組み込まれていても平均35ドル(※本記事執筆時点で5,000円程度)と、日本と比べると安いのも大きいと思います。
『BOOTH』で流通しているアバター、たとえば『マヌカ』だったら、最初に手にした時に「可愛らしいカフェの店員さん」といったキャラクターが同時に渡されますよね。でも、多くの日本ユーザーは「そのキャラクターは自分ではない」から、髪の色、目の色、メイク、洋服、体格などを変えて、どんどん自分のアイデンティティへとすり寄せていくじゃないですか。そういったことを、西洋圏ではあまりしないからこそ、自分を飾るだけのためのものと割り切って扱う人が多いのかなと思いますね。
――身体所有感を求めるからこそ、自分に近いユニークなアバターを欲する傾向が日本の『VRChat』ユーザーには強いですよね。それはVTuberが広まった文化的な背景も影響していそうです。
別の切り口として、西洋圏では“OC(Original Character)”という言葉が使われていることも大きいです。「自分の作ったキャラクター」であって、自分自身ではない。このあたりの感覚も日本ユーザーとも違うかもしれません。
――その意味だと、最近『VRChat』に参加してきたユーザーの間で、アバターを指して「スキン」と呼んでいることがありますが、これも、ゲームの操作キャラクターとして捉えていると思えば、実は西洋圏ユーザーに感性が近いのかもしれませんね。『エーペックスレジェンズ』のスキンのような。
『BOOTH』に立ちはだかる言語の壁
――直近では、『BOOTH』の販売商品を検索できる英語圏向けサービスが登場しています。このサービスの存在は、西洋圏ユーザーの『BOOTH』への注目を意味していると思われますが、注目の理由はなぜでしょうか?
「買っても問題のないものが多い場所」だからかと思います。『Gumroad』では「ハズレ」を引く可能性もそこそこあるけど、購入時の保証などは乏しい一方、『BOOTH』には、サイトとして保証が最低限はある。どちらで買うならば、『BOOTH』を選ぼうと思う人は少なくありません。「誰かが使ったことがあるアバターが売っている場所」と認識したことで、関心を持つ人もいそうですね。
――『BOOTH』でも似たような「よからぬ出品」はできますが、現状では少ないですよね。だいたいは通報を受けて運営が削除しているでしょうし。
プラットフォーム全体で『VRChat』方面にものすごく取り組んでいるので、問い合わせればどうにかなる安心感も大きいですね。
――購入者にとって魅力的なプラットフォームだと思いますが、西洋圏ユーザーが利用する上でのハードルはなにが考えられますか?
やはり言語の壁ですね。『BOOTH』も英訳は進んでいますけど、ところどころ分かりづらい表現や、日本の人にしかわからない表現が見られますし、そもそもまだ日本語も混ざっています。私は日本語も英語も読めますし、英語版の『BOOTH』は使いづらさが残るので、普段は日本語にして利用しています。英語版が改善されていけば、もうちょっと使いやすくなるのではないでしょうか。
一番の問題は「検索が難しい」ことですね。こればかりはしょうがないのですが、日本ショップの商品紹介は必ずしも英語で書かれていないです。そして、日本の人が英語を読むよりも、英語圏の人が日本語を読む方が、ハードルって高いはずなんですよ。日本では英語を義務教育で学ぶので多少はなんとかなると思いますけど、英語圏の人ってひらがな、カタカナ、漢字などの“日本語の文字”を読むことは難しいと思います……
――最近になってやっと『VRChat』本体が日本語ローカライズされ、英語が苦手な人でも多少使いやすくなったことと近いですね。
実際、友人からよく質問されるのは「こんなアセットが『BOOTH』でほしいけど、どうすれば検索できるの?」です。例えば、ポニーテールの髪型アセットがほしいとき、日本語検索ならばカタカナで「ポニーテール」と入力するだけです。でも、その言葉を見つけること自体、西洋圏の人には困難です。
仮に機械翻訳を使ったとしても、日本人でもあまり使わないような言葉に翻訳される可能性もあります。「tattoo」をGoogle翻訳した際に出てくる「入れ墨」で検索しても、タトゥーのアセットが出てくることは少ないですよね。おそらく「入れ墨」とは登録してない可能性が高い。その時点で、検索自体がうまくいかないんです。
こうした小さな問題の積み重ねによって、『BOOTH』に対して苦手意識を持っている人は少なくないのかなと考えています。
――ローカライズが追いついていないだけでなく、そもそも「日本語検索の難しさ」も利用時のハードルとなっているのですね……。それでも、『BOOTH』で売られてるものに魅力は感じてる人も多いと。
需要はあると思います。たまにこんな会話を聞くんですよ。「『BOOTH』であれを見た」「でも『BOOTH』って苦手なんだよな」って。
『BOOTH』販売につなげるローカライズのカギ
――最後に、翻訳家として活動されているpotatoさんですが、現在『BOOTH』まわりでどのようなご依頼をいただくことが多いのでしょうか?
日本の方からの依頼はほとんどなくなりましたね。「海外に出品するにはどうすればいいですか」といった相談は、もうほとんど来ないです。
逆にいまは、西洋圏の方から「『BOOTH』に商品を載せるときの説明文を日本語化してほしい」と依頼されることが多いですね。『BOOTH』の商品説明って、ある程度はテンプレ化していると思いますが、あの書きぶりは日本独特のものですし、英語圏などと比較すると全く異なります。『Gumroad』などの書き方をそのまま直訳してもローカライズにはならないんです。なので、「この利用規約を日本語でローカライズするには、こういう書き方にすべきで、こうしたものが必要です」と伝え、文面を一緒に考えていくお仕事が多いです。
とりわけ多い問い合わせは「VN3ライセンスがわからない」ですね。「自分がいつも使っている箇条書きじゃダメなのか」と言われますが、「あるのとないとでは全然違うよ」と伝えると、渋々準備してくれることが多いです。
――VN3ライセンスは、日本においては利用規約の鉄板ですし、採用すること自体が日本向けローカライズの第一歩となるのは納得できるところです。
海外ではそういったライセンシングを、企業以外が使うこと自体ほとんどないんですよ。そのため眼中にない人が多いので、独自の利用規約ページを使う人が多いです。いまの私の仕事は、そうした違いを説明するところから始めていますね。
せっかく『BOOTH』で売り始めても、規約まわりがしっかりしていないせいで、なかなか手に取ってもらえない可能性がある。そういった状況が、西洋圏クリエイター目線だと『BOOTH』への出展がチャレンジングなものになっている理由なのかなと感じています。
――とはいえ、日本でもかつては“独自の利用規約”が大量にあり、入り乱れていた時代があったので、時間が解決してくれる問題かもしれませんね。
それに、「利用規約を気にしている層」も西洋圏にはいるんですよ。特にクリエイター層は『BOOTH』販売のモデルを使う人がすごく多いんですが、そうした方はVN3ライセンスを理解しているし、『BOOTH』の使い方も把握している。「どうするべきか」と理解している人が、たぶんほとんどです。
理解が一番むずかしいのは、若い層とライト層ですね。ただ『VRChat』へ遊びにきて、変えるだけの人は、『BOOTH』になかなか到達しませんし、知ったとしてもその先へは進めないことが多いです。
逆に言えば、そうした層にこそ、開拓の余地があるかなと思います。みんな同じようなパターンの中で、ひとりだけちょっとユニークで、かっこいいものを着ていたら特別感があるし、やはりうれしいじゃないですか。彼らがそこに魅力を感じてくれれば『BOOTH』を使おうと思う人も増えるんじゃないのかなとは思いますね。
――似たような流れは、最近『VRChat』を始めたような、国内のライト層にも通ずるかもしれませんね。かつては、ひとりの新規ユーザーに多くのベテランユーザーが知識を授けていましたが、いまは新規ユーザーが増えすぎたことで、先達の知識を得る機会も減っている。それによって、利用規約などの重要性を認知せず、規約に反する利用をしてしまうことも増えてくるのかなとは。
文化的な違いとしても、日本だと「一般的にここまではダメだよ」っていうラインがそもそも低いことが大きいです。日本では、「違法なアバター使ったらダメだよ」がラインだと思いますが、西洋圏では違法アバターを使っても「まぁいいんじゃない?」で済むように、許容ラインは高いんですよ。
でも、ラインが高い分、それを越えてしまうと完全にアウトなんですよね。なにかしらの理由でライン越えすると”ブラックリスト入り”になり、どのDiscordサーバーにも入れなくなるし、『VRChat』のクラブに入ってもキックされたりブロックされてしまいます。プロモーションはもちろん会話もできない。サブアカウントを作ってもバレる。いちユーザーとして完全終了なんですよ! そうした温度差があるなと感じましたね。
――こうして見ると、まだまだ相互理解を深めていくべきポイントは多そうですが、今回はこのあたりで。ありがとうございました!
フリーライター・編集者
浅田カズラ(@asada_kadura_vb)
xR、VTuber、ソーシャルVRなどを軸に取材・執筆を行うライター。バーチャルライフマガジンもふくめ、さまざまな媒体で活動中。
投稿者プロフィール
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BOOTHの3Dモデルカテゴリが、ますます盛り上がっています!
これまでBOOTHは、ギフト機能やスキリストの追加、『VRChat』との連携、BOOTH HouseやBOOTH Cafeの企画制作など、たくさんのことに取り組んできました。
『バーチャルライフマガジン』でのインタビューや特集記事を通じて、3Dクリエイターの皆さんの活動を応援していきます。一緒にもっと楽しいバーチャルライフを作りましょう!
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✿potato✿(@potatovrc)
メタバース特化の日英通訳・翻訳家。
VRChat関連の日本語圏と英語圏の交流をサポートするためにイベントでの通訳、ワールドやBOOTH等の翻訳サポートやコンサルを行っている。