“バーチャルにおけるヒト・コミュニティの橋渡しの場所を作りたい”
そういった思いをもとに作られた、ユーザー主体の学園型イベント『私立VRC学園』
初回の開催から3年以上が経過し、直近では13期が終了しました。
これまでに1000人以上の卒業生を輩出してきた私立VRC学園。
バーチャルライフマガジンでは2021年2月にも、当時のタロタナカ学園長にインタビューを行い、当時の運営に関する想いや課題点などをお聞きしました。
それから2年以上が経ち、VRChatユーザーは大きく増えました。私立VRC学園を取り巻く環境がどのように変わり、今どのような課題を抱えているのかを改めてお伺いしてきました。
目次
私立VRC学園とは
私立VRC学園とは、VRChatを始めたばかりの方や、始めたけどよくわからない方などをターゲットに、2週間にわたってVRChatの楽しみ方や文化などを学びながら、生徒同士での交流を深めていくイベントです。
学園と名の付くイベントですが、教育機関ではなく、あくまでも参加者同士の交流を主としたイベントとなっています。
(イベントの詳細はこちらのMoguLiveの記事へ)
ebigunso学園長インタビュー
――本日はよろしくお願いします!初めにおふたりの自己紹介をお願いします。
私立VRC学園で広報を担当しております。せと。/setohimaと申します。同じく3期の出身で、運営に携わっているのも2年くらいです。
――私立VRC学園(以下、『学園』)が始まりすでに3年以上たち、直近では13期が開講されました。生徒募集の度に当落がX(Twitter)で話題になったりしますが、応募状況はどのように推移していますか?
昔は応募が200人を割るくらいで推移していましたが、10期までは毎回増加傾向でした。11期から大体300人程度で横ばいになってきていますね。
毎回抽選となるのがなかなか心苦しいところで、対策は考えているところですが…。
定員を増やすのはなかなか一朝一夕にできるものではないので、まずは外部との連携を強化していったりとか、少しずつキャパを増やしていったりということは検討してはいますが、具体的に固まっている段階ではないです。
生徒会のやりがい
――生徒会(運営)のコアメンバーって何人くらいいらっしゃいますか?
13人くらいですね。役割分担していて、広報として動いている人、裏のシステムを作っている人、期の運営をやっている人などさまざまです。
――生徒会の皆さんはボランティアベースで活動されていると思います。『学園』を運営するうえでやりがいを感じるところはどこですか?
人それぞれだとは思いますけれども、私はやっぱりやってる中でいろんな人との関わりを持てて自分自身の世界も広がっていくっていうところに魅力を感じてますね。
ここを出た人が、別のところでいろいろ新しいことを始めてるのを見ると、直接的ではないでしょうが、自分たちの活動が関与しているのかなあと思うと嬉しくなるし、なんやかんやでこのVRChatから生まれた貴重な文化をいろんな人に知ってもらって、あわよくば受け継いでもらうという流れを生み出せていたらいいなという想いでやっています。
あらたな学園型コミュニティとのかかわり方
――『学園』から派生したり、新しく発生したりした学園型のコミュニティっていうのも増えてきています。これについては、『学園』運営としてはどのようにお考えですか。
学園型イベントが1個しかなかった頃は、どうしても『学園』に集まるしかありませんでしたが、『学園』は何かに特化したものではありません。ですので、いろいろな需要を満たすいろんなイベントが出てきているというのは非常に喜ばしいことだなと思っています。
最近出てきた学園型イベントだと、『魔術学舎United 』(UniMagic)は技術寄りのことをやっているので、クリエイターよりの人や技術をもっと学びたい人はそちらに行くことができます。
もっと遊びたいよっていう人たちには『放課後レクリエーション部』(放レ部)っていうイベントがあったり、本当に初心者向けに特化したところだと、『VRC初心者ノ寺子屋』っていうのがあったりというように、だんだんと目的に合わせて特化したイベントが増えているのかなというところで、ぜひぜひいろんなところを知ってもらうといいのかなと思います。
ただ、どうしても『学園』の知名度が高すぎてみんなそこに集まりがちなので、協力して何かできないか模索しているところではあります。
卒業生は1000人を突破
――卒業者数が1,000人を超え、『学園』経験者が多くなりました。これまで運営してきてよかったこと、大変だったことはありますか?
卒業生が増えてきて、『学園』の周りのコミュニティが立ち上がってきました。そうしたこともあって、最近では卒業生が始めた団体が講師として来ていただいたり、アルバムを作る活動に『ふぉと△ラボ』っていう団体に協力してもらったりと、外部団体に協力してもらえるようになりました。それは人が増えてきたことのいいところかなと思います。
逆に人が増えてきて、いちばん最初の方と雰囲気が変わってきたところもあります。最初の頃の思想と、今やっている中で入ってくる人が求めるものも変わってきました。人数が増えてきたので、伝えたいことが伝わらないといったことも起きるようになりました。
――運営を長期間継続していくにあたり、気をつけていることはありますか。
参加したい人が増えてきている中で、運営組織の規模も拡大してきています。
そんな中、(講師やクラス担任などの)スタッフは毎期公募で動かしているので、そういった中でスタッフとして入ってくれる人たちが、こちらの求めている動きができるかを見ていったりという取り組みを行っているところです。
そんなに厳格にやりたいというわけではなく、あくまでも『学園』の中でいい体験をしてもらって、卒業した後にVRChatの世界に羽ばたいていろいろなことをやってもらいたいので、その体験を阻害しない動きができる人に入ってきてほしいと思っています。
――長期間運営してきた中で、VRChatを始めるユーザー層も広まってきていると思います。『学園』の参加者層に変化はありますか?
ちょっとずつ変わっているなという実感はあります。
最初のころは、やっぱりクリエイター寄りの方が多かったんですけれども、だんだん時間が経つにつれてより消費者寄りの人が増えてきている印象はあります。
学園出身者の活躍と『学園』コミュニティのジレンマ
――VRChatの日本コミュニティの中で活躍する人の中で『学園』出身者の割合って結構多いように感じます。
一方、学園のネームバリューって割と大きくて、『学園』卒業というレッテルだったり、ブランドだったりがあるような印象があります。
以前のインタビューでもタロタナカさんは次のように話していましたが、こちらについてはどのようにお考えですか?
一方予想してなかった面もあります。
“学園”という存在が、ある種のレッテルとして機能してしまっているというのが予想外でした。僕がこの空間において一番重視しているのが“この空間は場である”という事なんです。
学園っていう空間は生徒が入学してきて、卒業していくという1つの環境に過ぎないし、この空間を通して1種の可能性が育まれるのであればよしとする空間であるので、もっと透明性の高いフラットな空間になることを目指していたんです。ですが実際は入学生・卒業生の間で“われらVRC学園”のような空気感が生まれたのは当初の目論見とは違う部分でした。(中略)
VRC学園を卒業した後も学園のことを誇りに思ってくれたり、学園で出来たグループの関係性が続くのはいい面もあるんですが、逆に学園のコミュニティが絶対になって、コミュニティとして排他的な印象を生んでしまう可能性があるというのは危惧すべき点なのかなと思います。
バチャマガ記事「バーチャルコミュニティの利点と依存性~VRC学園を通して見えたVRコミュニティの特性~」より
活躍している人の中で『学園』出身者が多いよっていう話は、確かにそういう側面もあると思っています。
『学園』の2週間のイベントを通じて、仲良くなったり知り合いになった人たちっていうのは、割と気軽に話しかけに行くことのできるフレンドになれることが多いので、『学園』の説明会でも「気軽にJoinできるフレンドが欲しい人はぜひ」というようなことを言っています。
何かやりたいと思ったときに、協力してくれる人が沢山いるという状況になると始めやすい。そういう理由で何かアイデアが形になりやすい状況ということで、主催をやっている人とかが割合多くなっているのかなという推測はありますね。それはまさに『学園』が成功している証なのかなと思っています。
一方、ブランドっていうところに話を持っていくと、『学園』を出た人たちがいろんなことをやってくれること自体は目指しているところではあるんですけれども、あんまり『学園』の人たちがっていうイメージだけになってしまうとそれ以外の人たちが関わりづらくなってしまったりとか、あるいは必要以上に壁を感じてしまうっていうことがあり得るので、そこは意図するところではなくて、むしろ軽減していきたいなと思っている部分ではあります。
学園長が変わっても変わらない2つの柱 「学び」と「交流」
――『学園』が始まってから3年ほどたち、学園長を始め運営メンバーの入れ替わりがあったと思います。運営に対するスタンスが昔と比べて変わったところや、変わっていないところはありますか?
昔から変わっていない部分だと、学園の大きな2つの柱として、学びの部分と交流の部分があるんですけれども、これは最初にタロタナカさんが作った時から変わらず継承してきているものです。
講師が授業を行って、生徒たちがそれぞれで交流をするという形式がずっと続いているわけですね。
ただ、タロタナカさんは特に自由を重んじる方だったので、自由にやってくださいということを強調していたんですけれども、最近はちょっとままならないところもあったりルールを作ったりっていうことも増えてきています。
例えば、配布している学園の校章のアセットの取り扱い方について、どういう扱いが許されるんですかっていう話だったり、スタッフの動きについてこういうことはやらないでくださいねっていうことを最近言うことが増えてきました。
本当はいろいろやりやすい自由な空気があれば、それはそれでうれしいのですが、組織規模も大きくなってきたので、許容できないラインを明確にすることが多くなりました。
設立当初の理想と現実
――以前行ったインタビューにて、前学園長のタロタナカさんは次のように発言していました。
僕が思う学園生活って言うのはもちろん授業も大事だったりするんですけど、この空間自体が重要だと思っていて、(中略)
バチャマガ記事「バーチャルコミュニティの利点と依存性~VRC学園を通して見えたVRコミュニティの特性~」より
仲のいいメンツと一緒に過ごすっていうのは行われていたと思うんですけど、実際の学校だったり人間関係って特別一緒に遊びに行くような友達じゃなくても学校内でよく話をする人とか、卒業後に連絡取りあうような親密な仲まではいかない人とかいるじゃないですか。
そういう風に関係性って幅があると思うんですよね。 特に話をするわけじゃないけどアイツはいいヤツだとか、おもしろい人だよねとか。 そういった関係性を(私立VRC学園という空間内で)担保したいなって思ってたんですよね。
私立VRC学園では毎日同じ空間に居合わせることによって名前も知ってるし顔も知ってるし、どういう奴かも知ってるけど別に積極的に絡むような人じゃない、みたいな関係がちゃんと築きあげられてるんだなって言うのはすごく手ごたえを感じましたね。
このように、当時の学園長であるタロタナカさんは『全員と特段仲良くせずとも構わない、幅広い関係性を持たせた空間』を築くことを一つのゴールとして考えていました。
それから2年以上たちました。今の『学園』は当時のタロタナカさんが目指していたものに近づきましたか?
生徒は交流したいという意欲が強い方が多くなり、そこから次の期の担任・副担任の方が出てくるので、交流をいっぱいしようという方向に行きたがる人が多くなっているというところがあります。
あまりみんなでやろうっていう雰囲気が強いと、居づらい人がいるというのは見えているので、そこをどうしようかというのは生徒会の中でも議論しているところです。
担任に対し、交流を促進したいという想いをもう少し抑えてねっていうことを強く言っておかないと、一丸となって何かをやろうっていう方向に走りがちっていうのは最近見受けられています。
私立VRC学園の2週間の期間中は生徒の間で自主的に交流が行われるべきと考えているので、担任の皆さんにもできるだけ見守るスタンスでということをお伝えしています。ご協力いただく外部団体の方も生徒へあまり関与しすぎないよう見守っていただきたいというのはありますね。
ーー自分の楽しかった経験をみんなにもしてほしいっていうスタッフ側の気持ちもわからなくはないですが、あくまで主役は生徒なので生徒たちの主体性に任せてほしいということですね。
おわりに
――最後に『学園』のこれからの展望をお聞かせいただけますか。また、何か宣伝があればお願いします。
ありがたいことに、『学園』に入りたいと思ってくださってる方もまだまだたくさんいらっしゃいますし、これから入ってくる方にもぜひおすすめしたいイベントになってますので、このままの100人体制は継続していきたいなと思ってます。
できることなら、いろいろな方にそれぞれ自分に合ったところを見つけてもらいたいっていうところもありますので、他の学園型イベントと協力して、いろいろな広報物であったりとか、それ以外の協力方法を模索できればなと思っているところではあります。
これからの発表にご期待ください!
そして私立VRC学園で使用しているスライド表示アセット『Sliden』についてご紹介させてください。
こちらの開発者は生徒会メンバーのはるまきちくわさんです。2週間のイベント期間中20人が使用して壊れないように趣向を凝らして作られていますので、安定してお使いいただけるかと思います。
VRChatでスライドを使いたい方はぜひお使いください!
私立VRC学園 公式サイト
公式X(Twitter)@VRC_HighSchool
私立VRC学園で2代目の学園長をやっております、ebigunsoと申します。私立VRC学園3期の出身で、運営に携わるようになって大体2年くらいです。