神は細部に宿る。歴史に残る傑作建築を再現「Glass room」

VRChatには数多くの実在する(した)空間を再現したワールドがあります。井の頭公園駅や、黒川紀章設計の中銀カプセルタワー、安藤忠雄設計の住吉の長屋など、一度は訪れたことのある方も多いのではないのでしょうか。そんな再現ワールドを語る上で、本記事で紹介する「Glass room」を外すことはできません。今回は20世紀を代表する名作建築を歩いていきましょう。

傑作建築「ファンズワース邸」

今回訪れたワールドは「Glass room」という名前ですが、こちらの建築は一般的には「ファンズワース邸」という名で知られている建築です。その名の通り、エディス・ファンズワースという女医の週末住宅として設計された建築であり、実際の建築はイリノイ州、シカゴ郊外のフォックス川近くにある森の中に佇んでいます。
設計はドイツ出身の建築家、ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(以下、ミ―スと呼称します)によるものです。聞き馴染みのない方もおられると思いますが、ミ―スはル・コルビュジエ、フランク・ロイド・ライトと共に近代建築の三大巨匠と呼ばれており、近・現代建築を語る上では必ずその名前が挙がるほどの有名人なんですよ。
また、この三人にヴァルター・グロピウスを加えて四大巨匠とすることもあり、後ほど紹介しますが、このグロピウスとミ―スはかつて同じ学校で教鞭をとっていた歴史もあるんです。

そんなミ―スの建築の中でも、このファンズワース邸は、スペインにある「バルセロナ・パビリオン」などと並んで、ミ―スの最高傑作とされており、近代建築(モダニズム建築)を代表する作品の一つになっています。

バルセロナ・パビリオン
バルセロナ・パビリオン Casa BRUTUSより引用
https://casabrutus.com/data/architectures/305033

建築各部をじっくり見てみよう

さて、建築と設計者の簡単な紹介はこのくらいにして、
実際にワールドを見つつ建築の詳細に触れていきましょう。

外観(ファサード)


このワールド、とても綺麗ですよね。写真を撮るとまるで実際にファンズワース邸に訪れたかのような写真を撮影することができます。

まずは外観から見ていきましょう。建築的な専門用語で、建築正面の外観をファサードといいます。要するに建築の「顔」になる部分ですね。ファンズワース邸のファサードの特徴はなんといっても、ガラスを多用したことによる透明感でしょう。バルセロナ・パビリオンもそうですが、ミ―スの作品は外壁に大胆にガラスを取り入れたものが多く、まるで床と屋根だけが宙に浮いているかのような印象を受けます。
また、この土地は現実では度々洪水に見舞われる地域であったため、1.5mほど床を地面から離した高床の設計になっていますが、これもまた、この作品の浮遊感を演出していますね。

アプローチ・豊かな外部空間


続いて、建築の入り口までのアプローチの部分を見ていきましょう。
この建築、屋根が壁面からかなり飛び出ています。軒(のき)が深い…、というかもはや本来あるはずの壁がないといった様子でしょうか。屋内でもなければ、屋外とも言い切れない微妙な空間ですよね。こういった空間を半外部空間といい、日本の古民家などによくみられる縁側なんかも半外部空間として捉えられることが多いのですが、こういったスペースがあることによって、屋内と屋外という本来ならば相容れない2つの空間が緩やかに混ざり合い、調和が生み出されていますね。自然の中に溶け込んでいくようなこの建築の雰囲気と非常にマッチした絶妙な空間が演出されていますし、そうした雰囲気がガラス壁に囲まれた室内空間にも運び込まれ、建築全体の居心地の良さにもつながっていると思います。
VRでこの半外部空間を体験すると、なんだか日差しがぽかぽかと差し込んできて、風が吹いてくるようなそんな気さえしてきます。

また、このスペースからは、建築という構造物だけでなく、周辺環境と建築の関係性までデザインしようとする意図が感じられるところにも注目したいですね。実際に建築を学ぶ方でなくとも、ワールド制作を行う際などにはぜひ参考にしたい考え方だと思います。

内部空間


さて、いよいよ室内に入っていきましょう。室内は非常にシンプルですね。家具のほかにミラーや動画プレイヤ―などが配置されており、部屋の中央付近には木の壁に囲われた部屋のようなものがあります。奥にはベッドなども配置されていますので、ホームワールドなどに設定しても過不足なく使えると思います。床が地面から離れている設計によって、まるで部屋が空中に浮かんでいるように感じますし、そのおかげで窓から見える景色が美しくなっています。筆者は、海か湖の上で波に揺られているかのような、そんな気持ちよさを感じました。


また、部屋の中央にある小部屋のようなものですが、これは本ワールドでは立ち入ることができませんが、実際には、浴室やトイレ、収納、暖房といった住居としての機能を詰め込んだコアと呼ばれるものになっています。このコアの裏側にはキッチンが配置されていたりしますね。


ところで、この室内空間なのですが、一般的な住居と大きく異なる点があることにお気づきでしょうか?
こちらの建築、一軒家にも関わらず、なんと基本的にはワンルームなのです。コアと家具によって、緩やかに空間が規定され、何となく寝室のエリア、リビング、ダイニングといった様子で空間が分かれていますが、その間を明確に仕切る壁などは一切設置されていません。一般的なワンルームマンションのように、トイレ、浴室以外の部屋は一つしかないといった感じですね。
このように最小限の部材によって建築を構成し、間仕切り壁を排除した広い内部空間を実現した空間は「ユニヴァーサル・スペース」と呼ばれ、ミ―スはこのような空間を採用した建築を数多く設計しています。こうした設計を行った背景として、ミ―スは人間の行動は空間によって規定されるべきではないと考え、家具の配置などによって、利用者の行動に合わせて空間が規定されるべきであると考えていたのです。そのため、壁などによってあらかじめ空間を「部屋」という単位で区切ってしまうのではなく、使用者のありとあらゆる使用方法を受け入れられるように、このような大空間を設計したんですね。

ミ―スは「Less is More(少ないことは、より豊かである)」という言葉を標語のように掲げており、そうした考えがまさにこうしたユニヴァーサル・スペースに反映されていると言えます。

そもそもモダニズム建築って?

モダニズム建築の五原則とは

さて、一通り空間を見てみましたが、ここからは、なぜファンズワース邸のような建築が生まれたのかについて紹介していきたいと思います。

そもそも、モダニズム建築というものは、20世紀初頭に成立した機能主義・合理主義に基づいて設計されており、これまでの西洋建築では当たり前であった装飾性を一切排除したシンプルな設計が特徴的です。
ミ―スと同じく近代建築の三大巨匠と呼ばれる、ル・コルビュジエはモダニズム建築の五原則として
・ピロティ
・屋上庭園
・水平連続窓
・自由な平面
・自由な立面
という5つの要素を提唱しました。これだけだとちょっとよく分からないかと思うので、それぞれについて軽く解説していきます。

ピロティ

まず「ピロティ」ですが、これは建築の一階部分の壁を排除し、柱によって支持される吹き抜けの空間を指します。日本で唯一のコルビュジエが設計した建築である、国立西洋美術館(東京都上野)を見れば、ピロティがどのようなものか分かりやすいですね。柱によって2階部分が持ち上げられたような設計になっており、一階部分は半外部空間となっています。
ちなみに、昔はもっとこのピロティが広かったそうで、ここにロダンの「考える人」などの彫刻が展示されていたそうですよ。

本記事で紹介ているファンズワース邸は平屋(一階建て)の建築なので、玄関の前に設けられた軒下のような半外部空間はピロティとは呼称しないのですが、空間の居心地や、建築全体の中での意味合いなどは非常に共通している部分が多いと思います。

国立西洋美術館のピロティ zeitgeistより引用
http://zeitgeist.jp/zeitgeist/%E5%9B%BD%E7%AB%8B%E8%A5%BF%E6%B4%8B%E7%BE%8E%E8%A1%93%E9%A4%A8-%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%AB%E3%83%93%E3%83%A5%E3%82%B8%E3%82%A8-%E6%97%A5%E6%9C%AC/

屋上庭園

続いて、屋上庭園についてご紹介しましょう。これは分かりやすいですよね。その名の通り屋上に設けられた庭園です。これがなぜ革新的かというと、近代建築より前の西洋建築の屋根は基本的に平坦ではありませんでした。傾斜がかかっていたり、ドームやアーチなどの形状が取り入れられることが一般的だったわけです。しかし、ファンズワース邸や国立西洋美術館を見ればわかるように、モダニズム建築では平坦な屋根(陸屋根といいます)が増加していますよね。屋根が平坦になったことによって、屋上に人が立ち入ることが容易になり、その空間を有効活用しようという考えが生まれてきたわけです。

ラーメン構造とドミノシステム

残りの、水平連続窓、自由な平面、自由な立面については、まとめて紹介したいと思います。
しかし、その前にモダニズム建築の構造がこれまでの建築と根本的に大きく異なっていたことに注目しなければなりません。
そもそも、モダニズム建築より前の建築というものは基本的には石やレンガを積み上げて壁を作り、これが構造的に建築を支えていたわけです。こうした壁を耐力壁というのですが、このような壁に窓や扉などの穴をあけてしまうと、当然、建築物を支える構造体が脆弱になるため、建築物そのものの耐久力も落ちてしまいます。
しかし、モダニズム建築の頃になると、鉄やコンクリートといった素材が多用されるようになったことで、鉄筋コンクリート造(RC造)や鉄骨造(S造)の建築が登場します。石を積んだ壁がなくとも、こうした素材で作られた頑強な柱と、それを繋ぐ梁さえあれば、建築物を支えることが可能になったわけですね。こうした、柱と梁でフレームを作り、建築物全体を支える構造をラーメン構造といいます。(勿論このラーメンは拉麺ではありません。ドイツ語で額縁を意味するRahmenから来ている言葉です)
そして、RC造によるラーメン架構に注目したル・コルビュジエは、これを用いたドミノ・システムという建築方法を提案し、建築はスラブ、柱、そして各階を繋ぐ昇降機の3つによって構成されるものであり、壁は構造には関係せず、自由に配置できるものであるとしました。
スラブとは平らな板という意味の言葉で、ここでは床と天井(正確には梁と一体となって成形された構造床)のことを指します。簡単に言えば二階の床は一階の天井になっていて、その階と階を隔てる板がスラブということですね。

ドミノシステム 北島建築設計事務所より引用
https://kitajima-architecture-design.jp/blog/456/company


このようにして建築を作れば、構造的な面に気を配らずとも、自由に壁を設置できますし、壁を全面ガラス張りにすることも可能になるわけです。先述のピロティなどの大胆に壁を排除した設計が実現できるようになったのも、こうしたドミノシステムの確立によるものですね。モダニズム建築の根幹を担う、機能的で合理的な設計手法と言えるでしょう。

水平連続窓・自由な平面・自由な立面

さて、モダニズム建築の五原則に話を戻しましょう。水平連続窓、自由な平面、自由な立面がどのようなものか、ル・コルビュジエの最高傑作と名高い、サヴォア邸を見ればわかりやすいと思います。

サヴォア邸 PANDA Chronicleより引用
https://panda-chronicle.com/villa-savoye-2010/

サヴォアを見ると、壁面に窓が連続して設けられていますよね。これが水平連続窓です。
もし中世の建築のように、壁が構造的に重要なものである場合に、このようなデザインを採用してしまうと、屋根の重みに耐えかねてガラスはばらばらに砕け散ってしまうでしょう。
まさにドミノシステムが確立したことによって、壁の素材が自由に選択できるようになったことで可能となったデザインと言えますね。

次に自由な平面です。サヴォア邸の一階部分を見て頂くとわかると思うのですが、ピロティが採用され、壁もなんだか曲面を描いたものが採用されていますよね。3階の屋上にも不思議な形の壁が作られています。このような設計を取り入れたサヴォア邸を平面図で見てみると、以下の画像のようになっています。1階2階3階、それぞれ平面の形が全く違う形になっていますよね。モダニズム建築以降の建築では、このように、上下の階の形に縛られることなく自由に平面空間をデザインできるようになったわけです。これが自由な平面という言葉の意味です。

サヴォア邸の平面図 「ル・コルビュジエの全住宅」より引用

最後に自由な平面についてですが、立面とは、ざっくり言ってしまうとファサードのデザインのことを指しています。壁を自由に配置したり、ガラスを大胆に取り入れたりすれば、当然ファサードの形に反映されていきますよね。自由な平面を実現すれば自然と立面もまた自由なものになっていくのです。

これらの5原則は現代からすると非常に一般的なものばかりで普通のことだと感じますが、そうした「普通」は今から100年ほど前に生まれた考えや技術がその源流になっているんですね。

ファンズワース邸はモダニズム建築の代表作品!

さて、それでは改めてファンズワース邸を見てみましょう。
改めて見てみると、コルビュジエの提唱したモダニズム建築の五原則と同一ではないにしても、共通している部分が非常に多いことが分かる思います。平面空間はユニヴァーサルスペースが採用され、自由な配置がなされていますし、先述したように、半外部空間の部分はピロティと似ていますよね。また、ファンズワース邸のようなガラス壁は基本的に水平連続窓とは呼称しないものの、非常に似た設計思想を感じますし、屋上庭園こそないものの陸屋根が採用されています。まさにモダニズム建築の代表作と呼ぶにふさわしい建築であると言えるでしょう。

ここで少し構造的な話に触れておくと、コルビュジエはサヴォア邸をはじめとする多くの建築にRC造を採用しましたが、ファンズワース邸はRC造ではなく、十字の鉄骨を用いたS造の建築となっています。建材こそ違いますが柱と梁によるラーメン構造が採用されているところは同じですね。スラブや屋根、屋内に設置された家具など、建築にかかる全ての荷重は8本の細い金属製の柱によって支えられています。
この柱と梁(梁はスラブと一体になっているので目で確認することはできませんが)だけで建築の構造が完結していることは、外壁に巨大なガラスを見ればもう明らかでしょう。
また、ファンズワース邸は一見するとコアの部分が耐力壁になっているかのように感じますが、よく見ると壁と天井が接地していないことが見て取れると思います。

余談ですが、ファンズワース邸のガラス壁のように建築の荷重を支える上では全く機能しない、耐力壁ではない外壁をカーテンウォールといいます。ガラスに限らず、アルミやタイルなどのカーテンウォールもありますね。高層ビルなどの場合、耐力壁によって荷重を支える構造だと、その耐力壁自体の重みというものが無視できなくなってくるので、こうしたカーテンウォールが広く採用されています。

バウハウス

モダン・デザインを確立した教育機関「バウハウス」

ここまではモダニズム建築というものがなぜ生まれたのか、技術的な側面から見てきましたが、本章ではモダニズム建築が作られた文化的背景について書いていきたいと思います。
そのためには、かつてドイツにあった「バウハウス」という美術学校を紹介しなければなりません。バウハウスは1919年から1933年の間ドイツにあった美術学校であり、建築のみに留まらず、工芸、写真、デザイン、美術といった幅広い美術的分野に関する教育を総合的に行っていました。バウハウス自体は14年間という非常に短い期間しか存在しませんでしたが、バウハウスで生まれたデザインはモダン・デザインの源流になったと言われており、現代に至ってもその影響は至る所で感じ取ることができます。

ほんの一例にはなりますが、普段よく目にするバウハウスのデザインをご紹介しましょう。
バウハウスで非常勤講師として勤めたパウル・レナーという人物が製作した「Futura」というフォントがあります。直線と円を多用した幾何学的なフォントなのですが、このフォントは現代でも世界中で幅広く使われており、ファッションブランドのLOUISVUITTONやDOLCE&GABBANA、自動車メーカーのVolkswagen、ドミノ・ピザなど多くの企業がこのFuturaをもとにロゴをデザインしているんですよ。

Futuraフォント A.C.O.JOURNALより引用
https://aco-tokyo.com/journal/talk-about-futura/



なお、このバウハウスの初代校長が四大巨匠の一人であるヴァルター・グロピウスであり、ミ―スも三代目校長に就任しています。このことから見ても、バウハウスの教育のレベルが如何に高いものであったかを想像できますね。

バウハウスの思想とそのルーツ

なぜ、バウハウスのような先進的なデザインの学校は生まれたのでしょうか。
その思想のルーツは19世紀末にイギリスで起きた「アーツ・アンド・クラフツ」というデザイン運動にあると言われています。
しかし、ここで一旦アーツ・アンド・クラフツ運動の先導者として有名なウィリアム・モリスのデザインを見てみましょう。

イチゴ泥棒 Public Domain Museumより引用
https://en.600dpi.net/william-morris-0004755/


こちらのデザインは、「イチゴ泥棒」というモリスの有名なテキスタイルデザインなのですが、これを見てみると、モダン・デザインの特徴である合理性・機能主義といったところとは大きく乖離したデザインに見えますよね。ではなぜ、このようなデザインがモダン・デザインのルーツと呼ばれているのでしょうか。

そもそも、アーツ・アンド・クラフツ運動が盛んになった時代のイギリスというのは、粗悪な工業製品が溢れかえっていた時期でした。産業革命以降、生産力の爆発的な上昇と、都市部への人口流入による需要の増加によって招き起こされたこうした状況から抜け出すべく、中世の手仕事によるモノの生産に回帰しようという運動がアーツ・アンド・クラフツ運動だったわけです。
一方ドイツでは、そうした思想に影響を受けて、1907年にドイツ工作連盟という団体が設立されます。ドイツ工作連盟は、アーツ・アンド・クラフツ運動とは違い、機械生産による工業化を肯定しつつ、その上で芸術と産業を融合させ、製品の品質の向上と規格化を目指したわけです。
両者の間には、デザインの形こそ違えど、産業革命という大きな変革の中で次世代のモノづくりの形を模索するいう共通した目的があったんですね。

そして、そんなドイツ工作連盟の思想を根強く受け継いで作られた教育機関こそがバウハウスです。そのため、バウハウスのデザインは工業化を受容した上でそれらを活用し、デザインへと昇華しようという意思を引き継いでおり、工業的な素材を取り入れ、単一規格で大量生産が可能な製品や建築が開発されました。
バウハウスが生み出したモダン・デザインの特徴である機能性・合理性はこうした工業化を受容し、そして利用していくという姿勢が発展して生まれてきたんですね。

ちなみに、バウハウスというネーミングですが、これは中世の建築職人組合「バウヒュッテ (Bauhütte、建築の小屋)」を、バウハウスの初代校長であり、ドイツ工作連盟のメンバーでもあった、グロピウスが現代風に表現したものなんですよ。こうしたところからも中世への回帰を目指したアーツ・アンド・クラフツ運動の影響が見えるような気がしませんか?

あまりに短いバウハウスの歴史

バウハウスは1919年当初ヴァイマルに設立され、その後デッサウ、ベルリンと場所を移しながら運営が行われました。特にグロピウスが設計したデッサウの校舎は非常に有名で、グロピウスの代表作であるとともに、バウハウスの理念を象徴するモダニズム建築であると評されていますね。なおこの校舎は他のバウハウス関連施設共に「ヴァイマル、デッサウ及びベルナウのバウハウスとその関連遺産群」として世界遺産に登録されています。

バウハウス デッサウ校舎
バウハウス デッサウ校舎 Casa BRUTUSより引用
https://casabrutus.com/data/architectures/304349


バウハウスは最終的には1933年にナチスによる圧力を受けて解散することとなり、その短い歴史に幕を閉じます。その後当時の校長であったミ―スはアメリカへと亡命し、グロピウスもイギリスへと亡命するなど、海外へと活動の場を移さざるを得なくなった人も多く、活動は散り散りになってしまうものの、その思想は広く世界中へと浸透していくこととなります。

ミ―スによる名作家具も必見!

細部まで再現されたミースの家具たち


先述の通り、バウハウスは建築だけに特化した教育機関ではありません。特に家具をはじめとするプロダクトデザインの分野では数多くの名作がバウハウス関係者によって生み出されてきました。勿論それはミ―スも例外ではありません。このワールドに訪れた際には、建築だけでなく、家具にもぜひ目を向けてみてください。

まず、ここにある家具の中でもっとも有名なのはこちらの「バルセロナ・チェア」でしょう。こちらの椅子は1929年のバルセロナ万国博覧会に際してミ―ス自身が設計したものであり、スペイン国王夫妻を、ドイツ館であるバルセロナ・パビリオンへ迎えるために作られた作品です。本ワールドでは動画プレイヤーの近くにこの椅子が用意されているので、スペインの王族のための椅子に腰を下ろしてYoutubeを見ることができます。なんだか贅沢な気分になってきますよね。

また、バルセロナチェアの横にあるガラスで作られたテーブルですが、こちらは「バルセロナ・カフェテーブル」という、同じくミ―スの作品であり、「トゥーゲンハット邸」という建築物に設置するために作られた作品です。

トゥーゲンハット邸はチェコスロバキア(現在はチェコ)のブルノに作られた邸宅で、こちらもミ―スの代表作の一つです。ファンズワース邸やバルセロナパビリオン同様、十字型の鉄骨で構造を支えたユニヴァーサルスペースが特徴で、板ガラスが多用されています。また、こちらの建築はチェコスロバキアが分離独立する際の調印式にも使用されており、2001年12月にユネスコの世界遺産にも登録されています。


建築に入ってすぐ右側にある、こちらのダイニングチェアも同じくトゥーゲンハット邸に設置するために設計されたもので、「ブルーノチェア」という作品です。キャンチレバー(カンティレバーとも)と呼ばれる片持ち構造が特徴で、まるで座面が宙に浮いているかのような設計ですね。建築でもこうした片持ち構造は度々みられるのですが、ミ―スの建築家として培った知見が椅子のデザインに詰め込まれているのを感じますね。


ブルーノチェアの反対側に設置されたこちらの椅子は、ブルーノチェアによく似ていますが、こちらはMRチェアという作品で、前方にアーチ状の曲線が取り入れられているのが特徴です。とてもしなやかで美しい作品になっており、一般的なパイプ椅子のイメージが覆されますね。

下の写真は、MRテーブルと、MRアジャスタブルシェーズラウンジと呼ばれる作品です。
こうして見てみると、この空間に配置された家具の多くはミ―ス自身の作品であることが分かりますね。どの作品もシンプルでありながらとても美しい作品です。


こうしたミ―スの家具を見ていると、鉄のパイプを使用した家具をが非常に多いことが見て取れると思いますが、これらの作品群は一説にはバウハウス時代に共に教鞭をとった、建築家・デザイナーであるマルセル・ブロイヤーの影響を受けていたのではないかと言われています。
マルセル・ブロイヤーは「ワシリーチェア」のデザインでとくに有名ですが、こちらの作品も曲げた鉄パイプを使用した作品です。このように、家具にも積極的に鉄パイプなどの工業的な素材を取り入れているところからも、バウハウスが目標とした、芸術と産業を融合させようという意思が感じ取れるのではないかと思います。

ワシリーチェア 名作家具とデザインの話より引用
https://ogitaka.com/2017/06/18/wassily_chair/

実は沢山ある、建築家がデザインした名作椅子

またまた余談ですが、このように建築家が椅子をデザインすることは決して珍しいことではありません。
皆さんも意外と身近なところで有名な建築家が手掛けた名作椅子を目にしているかもしれませんよ。
少しだけ建築家がデザインした名作椅子を紹介しましょう。
昨年度大流行したSPY×FAMILYという漫画作品がありましたが、単行本一巻の表紙に描かれている椅子は、「LC2」と呼ばれる作品で、先ほどから話題に挙げているル・コルビュジエの作品だったりします。(正確にはピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ぺリアンとの合作)

LC2 Cassina-ixcより引用
https://www.cassina-ixc.jp/img/goods/L/lc2.jpg?1

他にも、現在は喫茶店などで一般的に見られるようになった一本脚の椅子や机ですが、こうした一本脚の家具を世界で初めて実現したのは、TWA空港ターミナルの設計などで知られるエーロ・サ―リネンという建築家でした。こうした家具たちはペデスタルシリーズと呼ばれ、中でも「チューリップチェア」は傑作として非常に名高い椅子になっていますね。

チューリップチェア ELLEより引用
https://www.elle.com/jp/decor/decor-architecture/g36679721/eerosaarinen-21-0624/?slide=25

まとめ

以上が本ワールドの紹介となります。非常に専門的な話も多かったかと思いますが楽しんでいただけたならば幸いです。
この「Glass room」は非常に美しいワールドで、もちろんそれだけでも素敵なのですが、歴史的に非常に重要な意味を持つ建築を再現したものであり、この建築が設計された歴史的な背景や設計者の意図などを知れば、柱や壁の配置や屋根の大きさ、家具の一つに至るまで、余すところなく楽しむことができるワールドになっています。
そんな歴史的に価値のある建築の隅々まで思う存分観察し、雰囲気を肌で感じ取ることができる「Glass room」は本当に一見の価値があるワールドだと思います。
皆さんもぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。

ワールド情報はこちら!

投稿者プロフィール

立花シキミ
立花シキミ
VR空間のレビューを主にやります。
デザインと音楽が好き。