アジカン、BUMP OF CHICKEN、氣志團…
数々の有名アーティストも最初は小さなライブハウスを拠点に活動し、やがてトップアーティストへと羽ばたいていきました。
今はインターネットネイティブ時代。
YouTubeやSNSの動画投稿がインディーズの活躍の場となりつつありますが、実はVR空間の中にも“未来のアーティスト”の芽が生え始めています。
バーチャルアーティストの登竜門『AWAKE』
日本のサブカルチャーの発祥地点、東京・下北沢の街並みを模したVRライブハウス『AWAKE』
かつて下北沢で駆け出しのレジェンドアーティストたちがバンド活動に青春を捧げたように、VRChatの中に存在するライブハウスでも、日夜様々なアーティストがライブを行っています。
VRChatでの音楽カルチャーは年々盛り上がりを見せ、2020年に誕生したメタバース空間上での総合音楽イベント『MusicVket(ミュージックブイケット)』では世界中から15万人以上が参加。
また、昨年末にはVRChatを含むメタバース空間で開催された『サンリオバーチャルフェス』にて、VRChat発のアーティスト『AMOKA』が出演した事が話題となりました。
今ではAMOKAをはじめ、『JOHNNY HENRY(ジョニーヘンリー)』『memex(メメックス)』『PHAZE(フェイズ)』など、数々のVR発アーティストが頭角を現し始めています。
そんな彼ら・彼女らの原点とも言えるVRライブハウスの1つが『AWAKE』なのです。
『AWAKE』は2019年末に開かれた有志のユーザーによるVR音楽イベント『深秋音祭(しんしゅうおとまつり)』をキッカケに制作されたライブハウスでした。
もとはイベントの為の特設会場という位置づけでしたが、現在も頻繁にライブイベントが行われています。
ライブハウスをコンセプトにしていることから、多くはVRユーザーのバンドイベントに使われるそうですが、DJやラップ、少し変わったものだと漫才のライブも開催されるそうです。
幅広いアーティストたちが集う『AWAKE』では演者同士のつながりも厚く、盛んに対バンが行われています。
ひとたび中に入るとそこは現実のライブハウスさながら。
違いと言えば、VRのライブハウスはチケット代やドリンク代の費用が発生しない、フリーな場所だという事。
観客も演者も『音楽がやりたい』『音楽を聴きたい』という純粋な熱意のみで集まっているのです。
ワールド制作のコクリコ氏(@Coquelicots_WoT)いわく、『AWAKE』は建物の構造をあえて現実味のあるように仕立てているそうです。
階段を下って地下へ降りていくアンダーグラウンドな雰囲気はアーティスト憧れのライブハウスそのもの。
バーチャルならわざわざライブハウスまで歩かなくても直接演奏空間に飛ぶことも出来ます。しかしあえて、駅から歩いて階段を下るというアナログな演出を残している所が多くのユーザーから愛されるエッセンスとなっているようです。
照明も配信も全て人力
ワールド内の設備においてもアナログな運用がされています。
例えばステージ上における照明。
ワールド内の客席上部は音響室が用意されています。
こちらの音響室の設備は全て人力で操作をしているそうです。
演奏中の照明の光の向き、色、明るさは常にスタッフがリアルタイムで操作。
照明スタッフはライブ開演前に曲の雰囲気、時間などが書かれた指示書を受け取り、演奏を見ながら調整を行っています。
大掛かりな操作板なので、すべてをコントロールするには2~3人のスタッフが必要になります。
この操作も有志のスタッフがボランティア的に担っているのだそうです。
その他AWAKE内には配信ルームも用意されています。
こちらの部屋では動画配信用にカメラの切り替えができるよう、スイッチャーが用意されており、ワールド側に仕込まれたいくつかの配信用のカメラをコントロールで操作。演者にあわせてパン(※1)をしたり、映像を抜いたりすることが出来るそうです。
(※1 パン…カメラ操作技術の1つで、カメラの撮影方向を水平(左右)に動かすこと)
これらのシステムはワールドギミック制作担当のTylorShine(@tylorshine)氏が開発を手掛けています。
VRChatではアップデートの度にギミックの挙動が変化する場合があるので、息の長い運営を続けていくためにはメンテナンス作業がかかせません。
一見デジタルデータは不変のように思われることがありますが、システムの変化や外部デバイスへの対応の度にメンテナンス作業が入るため、実際は現実の建物と同じようにメンテナンスが必要なのです。
ライブの熱はアナログな人の心にあり!
VR・バーチャルと言うとAIによる自動化やスマート化が頭に浮かびます。
しかし実際のVRの音楽の現場は意外にも『人力による運営』がなされています。
演者と観客が織りなすフロアの空気感はオートメーションでは作り出せません。
現在のVRChatの性質上、『AWAKE』は多くて50人程度の収容キャパにとどまっていますが、空間に集まった人同士ではリアルタイムの交流が行われています。
キャパシティを増やすためには2Dの映像やVRの録画映像を流して対応する事も可能です。
しかしそうなるとVR特有の相互性は失われてしまいます。
“本人の映像は流れていても同一空間で繋がってない”などで相互性が失われると、同時に場の熱量も下がってしまいます。
『AWAKE』はあえてアナログな運用をすることで、集まった観客同志の会話、ステージでのコール&レスポンス、演奏後の演者とのコミュニケーションという“人”を介在したコミュニティを作る事を実現しているのです。
これにより、場の盛り上がりで演出を変えたり、予定にない観客からのアンコールに対応することも可能なのだそうです。
会場の案内やタイムスケジュール管理、スタッフ同士の連携も人の力があってこそ。
これらはバーチャルのみならず、実際の地方クラブハウスや個人ライブハウスも『音楽が好き』という熱量で運営していることが大半です。
その場にいる人の想いが場の熱を掻き立て、文化を創り出す。
バーチャルでもリアルでも、その営みは変わらないのかもしれません。
■V-Kitazawa AWAKE
Twitter https://twitter.com/AWAKEVRC