演劇を中心にVRとリアルをつなぐ──5000人超の参加者を記録した『メタシアター演劇祭』主催団体が法人化を発表。『一般社団法人メタシアター』設立会見レポート

2024年4月5日、一般社団法人メタシアターによる法人設立会見が行われました。

(※記事内の写真はメタシアター様によるご提供です:Photo by TATAMI)

メタシアターはぬこぽつ氏による主催のVR演劇コミュニティです。2023年末には演劇の枠を超え、様々なVR表現に挑む人達を一同に集結した『メタシアター演劇祭』を開催。各舞台のインスタンスは、のべ5000人を超える参加者を記録しました。

それまでVRSNS上で散発的に開催されていた表現活動には様々な壁があることを課題とし、メタシアターとしてサポートを行うことで表現者の挑戦しやすさを確保。広く鑑賞しやすい場の提供に成功しています。

当時の状況につきましてはバーチャルライフマガジンでもレポートを掲載していますので、ぜひお読みください。

一般財団法人の設立でさらなる文化の拡大・定着を目指す

理事紹介

代表理事にぬこぽつ氏、理事にmaropi氏、ともよろう氏が就任。

ぬこぽつ氏は、リアルでの演劇活動の経験を経て、VR空間での演劇活動を開始。2022年には『VRマクベス』の公演を成功させ大きな話題となりました。2023年はVR演劇『真夏の夜の夢』を上演。更に『メタシアター演劇祭』を主催するなど、その勢いを加速させています。

maropi氏は、『VRマクベス』へ役者として参加し、そこからメタシアターコミュニティの運営に携わっています。自身で『maropi工房』という劇団を立ち上げ、脚本・役者としても活躍。「VR演劇およびVRのパフォーマンスの可能性をとても感じ、この度理事となりました」と挨拶を述べました。

ともよろう氏は、『VRマクベス』で主演を担うなど、maropi氏と同じく以前からメタシアターに関わっています。「VRと現実をつなぐ様々な活動の一助になればと思っています」と挨拶を締めくくりました。

オブザーバー紹介

続けてオブザーバー紹介へと移りました。

法務担当として前田拓郎弁護士がつき、上演許可や著作権に関するサポートを担います。鈴木あいれ氏は『劇団コメディアス』の主宰を務めており、リアルとVRでの演劇経験を元にアドバイザーの立場を担います。そして、肉巻きネギに負けた男 氏はぬこぽつ氏の個人的な演劇での先輩にあたり、リアル演劇やビジネス方面でのアドバイザーを担うとのことです。

NPO法人バーチャルクロスリンクは地域社会でのバーチャル技術利活用の拡大を目指し、産学官民の連携を進めている団体です。

理念紹介

maropi氏

maropi氏:
ここにお集まりの皆様はVRに可能性を感じている人たちだと思います。それはVRという空間かもしれません。VRで行われるイベントや、広告といった可能性かもしれません。もしくは、アバターやその制作といった、自分自身へのアイデンティティに可能性を感じている方かもしれません。そうした可能性を記事や漫画といった形で伝えている方々もいらっしゃいます。

ここにおられる皆様は、そうしたVRでの可能性を信じている方、ある意味では魅力にとりつかれている方、そういった皆様かと思います。

我々はこれまでメタシアターというコミュニティでの活動を通して、VRと演劇を組み合わせることで生まれる価値を強く感じています。そしてVR演劇を通して世の中をもっと面白くできると確信し、法人化を行い、その歩みを加速させようとしています。

一般社団法人メタシアターを通して、我々はVR演劇を行っている人々の創造性を最大限に引き出す、そのためのサポートを行いたい、そうした活動をしている人たちが多くの人の目に触れるように情報発信をしていきたいと考えております。

具体的にはVR空間と現実との相互交流の場を創出すること。VR空間での演劇活動およびパフォーマーの支援と価値向上を図っていくこと。バーチャルにおける社会包摂を実現していくこと。これらを理念として掲げ、バーチャルのパフォーマンスをよりゆたかにしていきたい、そんな思いで活動していきます。

事業内容紹介

加盟団体への広報・法務的サポート

一般社団法人メタシアターはバーチャルでパフォーマンスを行う人等のサポートを目的としています。加盟団体という区分けを設け、音楽権利や上演許可といった実務的なサポートが実施されます。

実績として2023年開催の『メタシアター演劇祭』では、JASRACとの契約・費用負担を集約して行うことで、参加者が迷うこと無くパフォーマンスに集中できるようになった、といったことが挙げられます。

また、様々なメディアへの入稿・記事作成サポートを加盟団体に向けて実施し、規模に関わらずVR上の開催物を現実へリーチすることを狙うようです。

メタシアター演劇祭の実施

そして、今年度も『メタシアター演劇祭』が予定されています。前回は初回にして、新宿リアル会場との同時開催も実現。パフォーマンス会場となる各劇場インスタンスとは別に、公共空間のような形で街中を表現したワールドインスタンスも登場し、メインの公演スケジュールとは離れた路上ライブが実施されるなど、工夫に富んだものとなっていました。

2024年度は1週間ほどの開催が計画され、Clusterといった別のVRSNSへの展開も狙っているとのことです。より拡大した開催のため、実行委員を広く募集しています。

クリエイターの収益化を目指す

更には、VRChatが提供している『Creator Economy』を導入し、劇場の制作を予定。

Creator EconomyはVRChatプレイヤーが購入できるゲーム内通貨のような要素です。これまではVRChatの一部機能へのアクセスが広がる権利を購入する形で『VRChat+』が販売されていましたが、実質的にはVRChatへの有志サポートのような側面があり、唯一の手段といった状態でした。

アバター制作など、クリエイターへの支援・支払いはVRChatの外部を経由することが通例となっていましたが、Creator Economyが実装されたことでVRChat内での直接的な支援、その導線の設計が行えるようになりました。

制作した劇場は、しばらくのうち開かれたものとして様々な団体に活用を促し、どのような運用が適切かを探っていくとのことです。

バーチャルシナリオ大賞の開催

A-Literary Works.』とのコラボレーションとして、バーチャルシナリオ大賞の開催も発表されました。

A-Literary Works. は「VRChatなどの空間で物語を拡張する創作グループ」として活動されています。バーチャルシナリオ大賞は、VRSNSを拠点とした小説やシナリオのコンテストです。第1回の参加資格は不問とされており、必ずしもVRSNSへの参加は求められないようです。

『劇団コメディアス』との協業事業

「リアル劇団との双方向交流を目指す」という目的に向け、既に活動実績のある劇団コメディアスとの協業を発表。

メディア事業としては『Virtual Performance Event Calendar』が既に始動しています。VRChat内で広く利用されているイベントカレンダーに近い形式で、パフォーマンスイベントに特化したものとなるようです。

また『バーチャルアートカレッジ』は、バーチャルにおける社会包摂を目的として、アートに特化した学園型イベントが計画されており、外部への寄附講座として実施される予定です。

応援コメント紹介

水瀬ゆず 氏(株式会社ゆずプラス:代表取締役)

池谷和浩 氏(デジタルハリウッド大学:事務局長)

三上昌史 氏(株式会社Gugenka:CEO)

Aev 氏(VRChat Inc.:VPoP)

平田オリザ 氏(芸術文化観光専門職大学:学長、劇作家、演出家、他)

質疑応答

メディア向け設立会見で交わされた質疑応答についてご紹介します。返答はすべて代表理事ぬこぽつ氏の発言を要約したものです。

10年後はどうなっているか?(SASAnishikiさん)

色々な思いがあって始めました。リアルでの演劇を3~4年ほど経験・見ていく中で、新型コロナが広がった時に多くの人が辞めていってしまいました。劇場が閉まってしまったり、大きな負債を背負ってしまう人もいました。
バーチャルでの演劇やパフォーマンスは、そうした方々のセカンドキャリアという可能性もあるのではないかと考えています。

またその逆に、VRからはじめて演劇に触れてリアルで頑張ってみようというきっかけになったり、そうした相互に価値の出るような世界になっていたらと思います。生身のをさらけ出すことに抵抗がある人にとっても選択肢となるような、そんな未来を作りたいです。

なぜ一般社団法人としたのか?(浅田カズラさん)

具体的な理由は色々ありますが、個人的な思いとしてはみんなで作っている文化だから、株式会社というよりも、気持ちとしてはみんなをサポートしていきたい、と考えていくとこうなっていきました。これで儲けようという風に考えた訳ではありませんでした。

現実的な側面であれば、毎年秋口には各自治体でアーツカウンシルという実際の予算があります。そうした助成金を得ようと考えるならば、非営利であることが求められることもありますので、様々な面で一般社団法人という選択がフィットしたものと考えています。

支援の具体内容と、背景にある課題感(ゆーてるさん)

昨年実施した『メタシアター演劇祭』では、演劇に限らずダンスや音楽といった幅広いジャンルのパフォーマンスがありました。そうしたパフォーマンスをVRChatの中で行っていく場合、これまでの個々の活動をあえて厳しく言えば、グレーな部分も出てきてしまいます。

芸術を見た時に、著作権といった部分はきちんとクリアしなければならないものと捉えています。私達は文化として定着させるため、早期にそうしたことへ取り組んでいかねばならないという課題感を持っていました。

JASRACとの包括契約など、団体だからこそ取れる選択を活用して、加盟している団体さんへのサポートを行い、よりパフォーマンスしやすくしていけたらと考えています。

将来の夢について(リーチャ隊長)

色々な入口になれたらと思っています。
平田オリザさんの塾に通っていた時に「VR演劇をやっている」というお話をすると、役者の視点では肉体性や同期性が大事だという感覚から、「VRはまだちょっとね……」という反応になってしまうこともありました。

ですが、リアルとVRを比べてしまうのではなく、VRChatだけを見ても様々な世界があるので、例えばロールプレイで遊んでいくその延長で演技をやってみたいと考えたりした時、選択肢のひとつとして存在できたらいいかなと。VR発で現実を経由して役者になるような人や、VRでお話を書いていた人が現実の大きな劇団で脚本を書くようになったり、スタートはどちらでも良いので、両方がうまく回っていくようになったらいいなと思っています。

VRChatにはロールプレイの文化があるが対象になるか?(アディン・ヨハネさん)

事業紹介の中で『バーチャルシナリオ大賞』を紹介しました。テキストを対象としたものですので、TRPGやロールプレイに興味を持つ方々にも刺さるのではないかと思います。著作権への課題といった意味では似たような支援ができればと考えていますので、模索していきたいと思います。

今回発表された事業の次にやりたいことは?(じむの朔さん)

今は演劇やパフォーマンスに集中していますが、VRChatの文化はとても広く、まったく顔を出せていない界隈がたくさんあります。そこに向けて私達なりの何ができるかを提示して、色々なコラボをしたいなという野望が個人的にあります。

現実の演劇と聞けば、実際に足を運んで席について、数時間の鑑賞というイメージが湧きますが、VR空間では観客の動きだけを見てもそれに限るものではありません。テキストや映画、写真といった別の文化に対して、VR演劇・役者がやれることというのは色々あると思いますので、ぜひお声がけいただければと思います。

マネタイズについては企業とのコラボなどを狙うのか?(りくをさん)

欲を言ってしまえば両方しっかり狙っていきたいというのが正直な思いですが、往々にして芸術に関しては、芸術団体などからの補助金を制作費に充てるという現実があります。

VR演劇はこれまでの実感として、そうした団体へ働きかけたとしても、なかなか芸術として認めてもらえないという状況があります。そんな現実に対して「これも芸術に入るんだね」といったように、認識を変わるようにしていきたいという思いがありますので、その意味でもどんどん補助金獲得の挑戦を続けていきたいと考えています。

また、メタシアターとして一括してそうした補助金を囲ってしまおうというものではなく、実績を作ることで後続に対し当たり前の選択肢に育っていくよう動いていきたいと思います。

VR演劇の教育的な利活用について(水瀬ゆずさん)

VR演劇を演劇教育の場に活かすことについては、ぜひ取り組んでいきたいと考えています。コミュニケーションの課題に対する解消方法として教育現場でも演劇教育が用いられています。

私が師事しておりました平田オリザさんは、演劇教育の第一人者であり、僅かながらではありますが学ばせていただきました。これをVR空間、遠隔地から参加できるという点は強い魅力だと思いますので、挑んでいきたいと考えています。

メタシアターへのこれからについて

『ハムレット』上演!

2022年『VRマクベス』、2023年『真夏の夜の夢』に続き、ぬこぽつ氏主宰の演劇はこちらもシェイクスピアの『ハムレット』です。喜劇だった昨年とは一転してドロドロの復讐劇となり、ぬこぽつ氏によれば「日頃うっぷんの溜まっている人はぜひきてね!」とのこと。

maropi工房の第2弾公演は4月下旬の開催!

4月下旬には理事のmaropiさんが主宰の『maropi工房』より、第2弾『カレイドメモリー』の公演が予定されています。メタシアターの運営に関わりながら自身でも劇団を立ち上げ、『メタシアター演劇祭』で初公演を実施されました。

当時のインスタンスは満員となり大成功。はじめての脚本を自ら作成し、役者としても登場していました。劇場を模した場面でありながら、VR空間を効果的に活用した初回公演『チョイス!』は工夫に富んだコメディとして好評。第2回も楽しみです。

メタシアターご支援のお願い

一般社団法人メタシアターでは随時ご支援を受け付けています。詳細は下記リンクをご参照ください。

FANBOX:https://metatheater-vr.fanbox.cc/
Patreon:https://www.patreon.com/user?u=87271855

一般社団法人メタシアターについて

団体基本情報

法人名: 一般社団法人メタシアター
設立日: 2024年4月3日
住所 : 〒104-0061 東京都中央区銀座1-12-4 N&EBLD.7階
公式サイト: https://metatheatervr.org/
問い合わせ: info@metatheatervr.org

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trasque
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