Vアーティスト特集♯5『K.ᴗ.(くう)』世界のどこにでもデリバリー出来る“体験する音楽”

誰でも参加できる“体験する音楽”を提供するAmbientflow / K.ᴗ.(くぅ)さん。

現実世界だけにとどまらず、VR空間でもその真価を発揮するアーティスト。
VR技術を駆使した新しい取り組みや、XRを活用した『バーチャルお見舞い』の構想など、音楽と技術がミックスした新しいアプローチについてお話を伺いました。

『Ambientflow / K.ᴗ.(くう)』
自身の得意とするピアノ演奏と、様々な技術を掛け合わせた空間演出を行う音楽パフォーマー。 VRの世界に訪れて以降、活動の重心を大きくバーチャルへシフト。直近では現実世界のBARとバーチャル空間上にあるBARをリアルタイムで繋ぐ音楽イベント『XRossing』を開催など。

空間演出と音あそびを融合した『体験できる音楽』

kuさんはライブやコンサートで聞く音楽とはちょっと違った音楽をやっていらっしゃるんですよね。

はい、“アンビエントミュージック(環境音楽)”を軸に活動しています。
アンビエントのジャンルは広いので説明が難しいのですが、映画やゲームのBGMやSEと思ってもらえると割と近いかもしれません。

その中でも特に僕の場合は、作業用BGMみたいなスタイルでやってまして。これはもう、居住まいを正して聴くような感覚では全然なくってですね(笑)。お喋りをしてもらっても、心地良くなったらそのままお休みいただいてもOKという。

自由に楽しめる音楽なのですね。

はい、肩の力を抜いて感じてもらえたらと思ってます。
僕の演奏はどっちかというと、音楽よりそれを聴く皆さん側が主役のイメージなんです。
皆さんの主体的な行動や日常生活に、音を添えさせてもらうような感覚といったらいいのかな。

そうした思いもあって、これまでも聴覚要素単体の音楽ではなく、プロジェクション技術を組み合わせた視覚的な要素や、楽器を会場に設置して体験的な要素を楽しめるような「音楽+総合的空間」みたいなコンテンツを制作してきました。

現在はバーチャルでの活動を積極的に行っていますが、もともとはリアルで音楽活動をされていたのだとか。

そうなんです。
現実世界では、弾いた鍵盤の信号と連動して光が発生する“プロジェクションアート”というコンテンツを企業イベントなどに向けて提供していました。
音と光と体験が融合したコンテンツと言えば、皆さんやはりお台場や豊洲等で大規模にデジタルアートを展開する“チームラボ”さんなどが思い浮かぶと思うのですが、地元では“1人チームラボ”なんて呼ばれていました(笑)。
規模が全然違うのでおそれ多いんですが(笑)。 思い起こせば、1人でプロジェクターを10台機材車に乗せて、それを会場に設置して…。

1人で!それはすごい

はい!大変でした(笑)。
設営も撤収も、それぞれ一日がかりだったりして。
その他にも会場に色々な楽器を持って行って、お客さんと一緒に音楽あそびが出来る企画も同時に展開していて、これが今の『おとあそびえんと(=おとあそび+アンビエント)』の前身になっています。

そんなわけで要約すると、生演奏を基盤とした『プロジェクションアート』と『おとあそびえんと』2本の柱で北海道の現場を飛び回っていました。

“体験できる音楽”をいろいろな会場にデリバリーしていたのですね!
しかしそんなkuさんが何故バーチャルの世界に…?

やはり2020年のCOVID-19の影響が強くありまして…。
僕が作ってきたものって、特に、一般的な音楽コンテンツよりも更にその影響を強く受けるものだったというか…。

どういうことかと言うと、まずプロジェクションアートというのが会場を閉め切った空間で行わないといけないんです。プロジェクターを扱う性質上、どうしても空間を閉じて、暗幕を敷いて…という、“密”を作らないといけない。
さらに音楽あそびについても、楽器を共有して、みんなで輪になって、と…。

『プロジェクションアート』も『おとあそびえんと』も、どちらもまさに“3密”の厳しい部分を集めたようなコンテンツになってしまいました。

これらを楽しんでいただく対象者には、ご高齢の方やご病気の方も含まれていましたから、現場で絶対に感染は起こせない。これはもう相当しばらく実世界で活動することは難しいだろうと感じたんです。

それでどこか安全に活動できる媒体を探したのですが、そこで出会ったのがVR SNSという空間だった、というわけです。

そんな苦労があったのですね。kuさんの活動って場所が必要なものじゃないですか。
なかなか代えになるものを見つけるっていうのは大変ですよね。

はい。そこに至るまでも、YouTubeやTwitterなどで何か代用が出来ないかチャレンジしたのですが、形にするのが難しくて…。
ただ、VRに関しては、比較的僕が行っていたコンテンツに近い要素があって。

実世界では、プロジェクションアートとして雪の結晶や花が散る映像を壁に投影して、疑似的な3D空間を作っていたんです。
もしそれが壁に映るだけじゃなく、手に取れる形で空間に降ってきたらとっても素敵じゃないですか?

例えばこんな事とか…


わぁ!すごい!雪が降ってきた!

実世界ではこれを壁に投影して360度映像のように仕立てていたのですが、映像が手に取れるように空間に落ちてくるという演出は、僕がやりたかったビジョンに対して、より解像度の高いものなんです。

確かに。VRなら空間から突然物が出て来たり、自分の周りに降ってきたり、物理法則を無視した演出も可能ですもんね
そういった意味ではVRは表現の幅が広がる空間ですね。

バーチャルとリアルをリアルタイムでつなぐ音楽セッションへの取り組み

VRの中ではどういった活動をしていらっしゃるのですか?

VRChatを中心に開催される音楽イベントに参加したり、そこで繋がったアーティストの方々と一緒に音楽をつくったりしています。

直近の大きなところではニッポン放送『VRミュージックソン』への出演や、Grater Records『ワコンピ』への参加がありましたね。
VR法人HIKKYがプロデュースする音楽即売会『MusicVket2』のユーザーイベントでは、音楽あそびの企画を担当させていただいたりもしました。
文化的な面では『天文仮想研究所/VSP』のVRプラネタリウムで演奏つきの星空解説を行ったり、『VRオルゴールミュージアム/星月の自鳴館』のワールドBGMや解説ツアーでの演奏を。
『VR蕎麦屋プロダクション』では『VRポエトリーリーディング大会』への出演や、今VR業界で活躍中の『せきぐちあいみ』さんのVR個展BGM、ライブペインティング×生演奏でコラボさせていただいたこともありました。

精力的に活動されていますね。

VRから地元北海道に貢献できたこともあって、十勝で引き受けた楽曲制作の仕事をVRの仲間たちとともに完成させたことや、前年度COVID-19の影響で中止になった「さっぽろ雪まつり」をVRで開催するプロジェクト『V雪』企画への参戦なども、道民として手応えがあって嬉しかったですね。

『V雪』では、同じく北海道のVRパフォーマーで、つい最近SXSWで世界を獲って話題になっていたyoikamiくん(https://vr-lifemagazine.com/kasou_dance-troupe/ )とも共演しています。

真面目な企画から面白い企画まで、様々な個人や団体とコラボさせていただいています。
そんな現在、VRでの演奏活動で特に強い協力関係をいただいているのが、VRChat上で運営する演奏参加開放型BAR『SpotLightTalks』、Quest系の音楽イベントを開催する『題名のないお茶会』です。そこで開かれる音楽イベントで定期的に演奏したりしていますね。

最近はそこで新たに、リアルとバーチャルを繋ぐイベントを開催されたのだとか。

はい、今話題にあげたVRのBAR『SpotLightTalks』と、北海道十勝に実在するBAR『HIPSTER』をつなげて、リアル・バーチャル双方で楽しめる音楽イベント『XRossing』を主催しました。

演奏面では遠く離れた人とリアルタイムに音楽セッションができるYAMAHA『SYNCROOM(シンクルーム)』に加え、クリエイターよしたかさんの高音質・低遅延の配信システム『Topaz Chat(トパーズチャット)』を。
また映像面ではYouTubeやTwitch、Discordといったツールを用いて、リアル会場で演奏している音楽をバーチャル空間上に共有したり、またリアル会場ではプロジェクターやモニターでバーチャルの映像を投影したりと、実世界とVR空間の境界がなくなるよう注力しました。

ゲストにはVRシーンで人気のAMOKA(https://vr-lifemagazine.com/amoka/ )さん、YSSさん、やまみーくんに、VRガイドおきゅたんさんまで駆けつけてくれて、現実世界のプレイヤーやお客さんとその場で即興のセッションをしたり。協賛にはcheeroさん(https://cheero.net/ )もついて、プレゼント企画もめちゃめちゃ盛り上がりました!地元紙の取材も入ったんですよ。

リアルタイムで空間を共有し合いながら音楽セッションを楽しめる!
今までkuさんが活動されてきたことの集大成のようなイベントですね。

これには両店舗のスタッフに多大な協力体制を頂きました。

これまでもバーチャルの映像を流すライブや、実世界でのライブをバーチャル側の配信で見るっていう形式のものはいくつか前例があったと思うんです。
それ自体、バーチャルとリアルの融合としてはかなり挑戦している方だと思うのですが、相互性のあるセッションの企画となると、また一つ新たなジャンルになるのかなと思っています。

そうですね。やっぱり設備も大変ですし、技術知識も無いとなかなかできないものですよね。

ええ、なので開催までの道のりはすごく大変でした。

イベント直前まで協議に次ぐ協議、予期していない角度からの不具合や障害の連続…。
激闘の日々でしたね(笑)。
初回の企画が終わったときは体力が0になってぶっ倒れてました(笑) もちろんそれは僕だけじゃなく、一緒に協力して闘ってくれたスタッフさんやアーティストさんたちも一緒だったと思っています。感謝ですよね。

誰でも参加できる音楽へ

VR会場ではいろいろな楽器が用意されていますけれど、これらは来場したお客さんが自由に演奏できるものなのですよね。

はい。演奏する音楽に合わせて、自由に音を出して遊べるようになっています。
実店舗の方でも楽器を置かせてもらって、そちらでも音楽に合わせて楽器を演奏してもらってました。

この間のイベントに遊びに行った時に、VR会場のスタッフさんにお話しを聞いたのですが、置かれている楽器はどんな音を出しても不協和音にならないように計算して構成されているそうですね。

音楽教育や音楽療法に“リトミック”という分野があるのですが、そのメソッドを流用して、誰でも音楽あそびに参加できるような仕組みを作っています。

ステージ中央にある、踏むと音が鳴るこの大きな鍵盤を見てもらうとわかりやすいのですが…

こちら、あらかじめ使わない音(『ファ』と『黒鍵』)を抜いて、鍵盤の白い部分の6音のみにしてあるんです。 適当な鍵盤に乗って何か音を鳴らしてみてもらえたらわかると思うんですが、伴奏から外れた感じがしないと思います。

どの音を鳴らしても綺麗な音になるというのは不思議ですね。

専門的な理論は割愛しますが、指定した音ならどれを鳴らしても調和するよう、メインの演奏をこちら側で工夫して。 会場ではとにかく、用意されている楽器を自由に触るだけで、演奏に対して誰でも音楽的に豊かな参加が出来るよう、細かな調整と配慮を重ねています。

それはすごい。場の環境を計算して作られている音楽なのですね。

本来、楽譜のない即興やアドリブの演奏セッションっていうのは、高度な音楽知識や演奏経験のような専門領域が必要なんですよね。
でもそれってやっぱりすごくハードルが高いことで、どうしても一緒に楽しさを共有できる人が限られてしまうんです。

例えばこれまで音楽に触れる機会のなかった方。
その日楽器に初めて触れる方。
物心つく前のお子様からお年を召した方まで、年齢も身体状況も問わず、また専門知識も問わず、真にゼロスタートの状態から音を通して一緒に遊べるような仕組みを作りたくて。
『この音を出せば一緒に演奏に参加できるよ』っていう形を追求していったらこんな仕組みに行き着いた、という感じですね。

このアイデアをVRに対応させるのも大変だったんじゃないですか。

もともと実世界で行ってきたものとは言え、実装は一筋縄ではいきませんでした。
このVR楽器制作やワールドの構想にも、VRSLT青猫店長、VoxelKeiさん、らくとあいすさんといったクリエイター皆さんの協力があって成立しています。

ただ聴くだけに留まらない、ある種「音楽」という要素のバリアフリー化というか、ボーダレス化というか。
こういう切り口に音楽の新しい可能性があったら素敵だな、なんて考えたりしていますね。

VR×音楽で目指す新たな取り組み

色々なイベントに出演したり、ご自身でも企画を運営しているkuさんですが、今後取り組んでいきたいことや計画していることはありますか?

COVID-19に端を発した今の世界的情勢は、まだすぐには収まらないと思っています。
ですので、音楽という分野を通して、より現実世界とバーチャル世界が相互性を持つような企画をやっていけたらなと。

僕が個人的に一番実現したいこととしては、この空間を病院や施設へ持っていきたいんですよね。 バーチャルお見舞い、みたいな。

バーチャルお見舞い!?なんだか面白い単語が出てきましたね。

嬉しい反応ありがとうございます。
『V雪』や『テアトロ・ガットネーロ』などでも共演しているVR空間のパフォーマー仲間yoikamiくんと、以前から一緒に『バーチャルお見舞い』をやりたいねって話をしてて。

彼と僕とは何だか共通することが多くて。VRパフォーマーというカテゴリや出身地以外でも、現実世界の身体的傷病と向き合って生きているという部分があったりするんです。

yoikamiくんの身体状況についてはこちらの記事(https://vr-lifemagazine.com/vrperformer_yoikami/ )でご存知の方も多いと思うのですが、僕は僕で悪性腫瘍の手術をしていたりして。
二人とも病院のベッドで変わらない天井を眺めたり、自由に人と会えなかったり、明日の見えない不安や孤独を強く経験してきたりしていたんですよね。

加えて僕の場合は、祖父母を看取った場所が病院だったことも大きくて。
介護・闘病も結構壮絶だったのですが、最後は機械で繋がれる形で、病棟から出てこられなかったんです…。
なので、VRやARの技術を駆使して、なにかしらの形で、僕たちのパフォーマンスをこうした空間に持っていけないものかと思っていて。 外に出られない事情があったり、外と遮断されている場所でもエンターテイメントが楽しめて、僕たちとしても感染症対策を前提とした安全なパフォーマンスを贈ることが出来る。そんなことが出来たらと考えています。

それは色々な人からありがたがられそうですね。
特に病院などは外の人が大量に入ってくるのを制限しなきゃいけない空間じゃないですか。
そういう外との交流が遮断されている空間にバーチャルという技術が活用されるのは革命的だなと聞いてて思いました。

ぜひ実現したいですね。
とにかく今は、たくさんの方に楽しんでもらえるようなパフォーマンスを目指して、今後も取り組み方を模索していけたらと思っています。 僕もまだバーチャルの世界でようやく1歩目を踏み出したばかりです。
これから目標に向けて1つずつ取り組んでいきたいですね。

取材・文 みつあみやぎこ

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