インターネットの存在が一般になじみ始めた2000年代から現在まで、約20年もの間ネットの最先端を追いかけ続けていたまつゆう*さん。
ブログからTwitter、Instagram、noteと活動の場を移し、今現在彼女が選んだ活動拠点がメタバースプラットフォーム『VRChat』です。
先月2月26日に日本初のVRChat専門紙書籍『VRChatガイドブック~ゼロからはじめるメタバース』を出版し、メタバース界隈内外ともに大きな話題を呼んだ彼女ですが、数々のメタバースプラットフォームが誕生する中、何故VRChatを選んで過ごしているのでしょうか。
VRChat専門のガイド本を出版した経緯、そしてVRChatの未来についてまつゆう*さんとともに考察していきます。
目次
日本初の『VRChat“だけ”のガイドブック』を作った理由
改めまして『VRChatガイドブック』の発売おめでとうございます。
私も本を読ませてもらいましたが、オールカラーでVRChatの事を紹介されていて、実際にVRChatの中にいる人たちの活動やカルチャーもたくさん紹介していらっしゃって、まさにガイドブックと呼ぶにふさわしい1冊かと思います。
まつゆう* ありがとうございます。
昨年11月にFacebookがMETAに社名変更してから、kindle本も含めものすごい数のメタバース本が出たじゃないですか。
私もいくつか本を購入して読んではいるのですが、その中でもプレイヤー視点で世界のことを書いてる本はほとんど無かったので、今回の『VRChatガイドブック』は新鮮な1冊だと思いました。
まつゆう* おっしゃって頂いた通り、そこはとても気を使った所です。
これまで私は『まつゆう*のゆるゆるtwitter入門』や『できるfit LINE 基本+活用ワザ できるfitシリーズ』『noteではじめる 新しいアウトプットの教室』など、初心者本をいくつか出しているのですが、いつも必ず“ユーザー目線かつ初心者目線で書く”ということを念頭に執筆しています。
『VRChatガイドブック』に関してもそうです。
よくヘビーユーザーの間で冗談的に“VRChatはプレイ時間1,000時間を超えたらチュートリアル1周目終わり”なんて言われてますが、私はこの本が発売された日に1000時間を超えまして、執筆中はまだチュートリアル完了していない初心者だったんです。
実際は、未経験者からすると1,000時間プレイは結構なプレイ時間なんですけどね(笑)
解説部分は共同著者の岩佐さんが執筆していますが、初心者ででも理解しやすいよう編集のお手伝いをさせていただいたり、コントローラーの操作方法などは全部図解にして目で見て分かるように工夫しています。
また、文化面について取り上げる項目ではVRChat内にいるユーザーさん1人1人にお声かけしたり、コミュニケーションを取ったりしながら執筆しました。お声がけしたユーザーさんは、全部で200人は超えていたと思います。
『VRChatガイドブック』の企画はいつ頃からスタートしたのでしょうか。
まつゆう* 構想を練っていたのは昨年の春くらいですね。
出版社が決まったのが昨年7月くらいです。そこから企画書を作ったり、こういう事をやりたい、っていう台割をつくったりして執筆を進めていました。
本当は12月の出版を目指していたのですが、10月にVRChatのメニューの大幅なアップデートと新カメラの実装の情報が入ってきたので、最終的に今年2月に出版となりました。
だからFacebook社がMETAに名前を変更したときはビックリしました。
『えっ、メタバース来ちゃうの!?』みたいな(笑)
本当に絶妙なタイミングで出版できたのですね。
20年間インターネットカルチャーの最前線を追っているまつゆうさんだからこそ『次はメタバースが来る』という確信を早くの段階に感じていらっしゃったのかなと思います。
実際に世界がその通りに進んでいったというのはまつゆうさんの未来を見通す力の成す業だと思います。
みんなで世界を創り上げていく『VRChat』の楽しさ
メタバースサービスは数々ありますが、その中でもまつゆうさんは何故『VRChat』に可能性を感じていらっしゃるのでしょうか。
まつゆう* 単純に私が一番最初に触れたメタバースがVRChatだったっていうのもありますが、ビジネス、ビジネスしてないのが居心地がいいなって思っています。
VRChatでは色々な活動をしている方が多くいますが、結局みんなが活動している理由ってお金を儲けではなく、誰かを喜ばせたいっていう純粋な気持ちでやってるっていうのが伝わってきてすごく素敵だなって感じました。
まつゆう* 以前まではInstagramでインフルエンサーとして活動していたのですが、とても素敵なパーティーやイベントにご招待いただき、PR投稿なども増え、だんだんと自分の中で『本当の自分とは何か違うな』という違和感が出始めていたんです。
Instagramフィードに写っている自分がまるで他人のように見えてきたんですね。
当時はフォロワー数は約33万人いましたが、ある日、思い立って「えい!」っと完全にInstagramのアカウントを削除し、インスタグラマーを卒業しました。
それが3年前くらいの出来事です。
それからnoteの執筆をしてみたり、色々活動を模索していたのですが『私って何がやりたいんだろう?』と、本当にやりたいことを見つけられず、迷ってる時期がありました。
そんな中、2020年の10月頃に周りの知り合いにVRChatをすすめられて、始めてみたらすごく居心地がよかったんです。VRChatはInstagramで活動していた時の環境とは真逆の世界だったんですよ。
もちろん、文化を成り立たせるためにはある程度の経済圏は必要ですが、必要以上にビジネスっぽくないというか、誰でもがこれやりたい!と思ったらそれをやれるという空気感だからこそ安心して過ごせるというのはありますよね。
まつゆう* 私が過ごしてきた場所って、サービスを楽しく満喫していたらいつの間にかそこがビジネスの場に変わっていくということがあって。
ブロガーの時も、Twitterの時も。Instagramが一番わかりやすかったですかね。
VRChatもいずれそうなっていくのかもしれないですが、黎明期の楽しさっていうのは今しか味わえない。みんなでこの世界を作り上げて行こう!っていう思いがみんなから溢れているというか。
だから今焦ってビジネスって考えなくても、クリエイターや、アーティストさんの多いサービスですし、お金は自然と後からついてくるもので、焦ってマネタイズを考えなくてもいいんじゃないかな?という気がしています。
『楽しい』っていう気持ちがあってこそ活動ができますもんね。
お話を聞いていると、まつゆうさんは私たちユーザーと同じく、この世界を好きで、この世界をよりよく楽しい世界にするために、自分が出来ることでこの世界を広めているという事を強く感じました。
『VRChatガイドブック』を執筆された経緯をお伺いしていても、私たちと同じく等身大のユーザーの1人なんだなと感じます。
まつゆう* そうですね。私にできる事って何だろうって考えた時、これまで私は初心者ガイド本を何冊か書かせて頂く機会があったので、本を書くという形でこの世界に貢献できるんじゃないかなって考えるようになりました。
VRChatってグローバルな世界だから、いざ入ってみたけど外国の人が多いpublicに入ってしまって日本人に会えなかったとか、メニューも英語で意味も分からないし、どこに行ったら楽しめるのかも分からないって、ほとんどの人がそこで挫折しちゃうという話をよく聞いていました。
本当は友達がガイドをしてくれればいいんですけど、案内する人も予定が合わなかったり、毎日毎日みんなに案内するのも難しいですよね。
例えば『Quest買ったんだ』っていうお友達がいたら1冊「はい!」と差し出せるような本があったらいいなって。
ちなみに今回の出版について、紙の本を出したのはなぜでしょうか。
まつゆう* 13年前に書いたTwitterの本を読み直すと当時の思い出が蘇るんです。「あー。はじめは、半角スペースや「.」を入れないと日本語打てない時代があったよなぁ」みたいな当時の思い出が蘇ってくるんです。紙の本は、印刷してしまったら書き直せないですが、物理として残る。3年後、10年後、VRChatをやっていて、「あ〜。当時はこんなだったんだ。」って思い出すタイムカプセルや思い出の宝箱にもなってくれる。だから紙で出すことにこだわりました。
また、VRChatの本っていうと若い層に向けた書籍に見えますが、実はあの本、40代~70代の人に向けても書いている本なんですよ。対象延齢は上から下まで幅広く!なのでそういう方々が手を取りやすい媒体としても紙の本での出版を選びました。
歳を取って可愛い恰好をするのをあきらめてしまった人、身体が動きにくくなってしまった方でも、これから新しいもうひとつの人生が送れるよ!っていう事を伝えたかったんです。
第2の人生が送れるって素敵ですよね。
私もVRChatに出会う前までは、歳を取る事ってネガティブな事しかないのかなって思っていたんですが、VRChatをやり始めてからは歳を取る事に悲観的な思いを抱かなくなりました。
むしろこれからたくさん新しい出会いが待ってるんだ、って楽しみです。
まつゆう* メタバースと言うと若い人向けのサービスに思われがちですけど、私、実は年配の方にも必要とされているんじゃないかって思うんです。
例え歳を取って、自動車を運転できなくなったり、長時間飛行機に乗れなくなったとしても、VRChatの世界ならどこでも自由に旅ができる。恋をしたり、新しいことに挑戦することもできる。
そういう人たちに情報を届けるには紙の本がいいよねって。若い子ならデジタルの発信だけで事足りると思うかもしれませんが、実際には紙の本は若い世代にも好評だったんです
VRChatは“なりたい自分”になれる場所
私個人的なことですが、まつゆうさんとお話しをする前に1つ不思議に思っていたことがあって。
まつゆうさんはモデルもやっていらっしゃって、リアルの姿もとてもスタイリッシュで美人じゃないですか。
でもVRChatの世界はそのリアルの姿のアイコンを持ち込めない…つまり、リアルの経歴を捨てることになってしまうのに、なのにこの世界にいらっしゃる理由はなぜでしょうか。
まつゆう* モデルやインフルエンサーとして活動していたので承認欲求が強いと思われがちなんですが、実はそんなことは無くて。どちらかと言うと裏方役が好きなんです。
自分が良いと思ったものを良いって言ってくれた時が一番気持ちが高まるんです。
だから顔を出して何か羨ましいって思われるよりも、『これが面白いよ』って紹介したらみんなが『面白いね!』って言ってくれるのが好きなんです。DJをする際に、沢山踊る理由も皆さんが喜んで盛り上がってくれるからです。裏では、汗がもの凄くてQuest2に、ヘッドホン、HaritraXと体中コードまみれでとてもお見せできる状態ではないですけどVRChatで見える姿は可愛いDJですからね(笑)
それから実は私、自分では自分のビジュアルを好きではないんです。
私の母と妹がとても綺麗なので、「お母さんと妹さんは綺麗なのにお姉ちゃんはユニークな顔立ちをしてるわね。」と言われたこともあるくらいで、昔から自分の顔がコンプレックスでした。
縁あってモデルをやらせてもらっていた時期もあるんですが、そういう仕事をしているとさらに自分のコンプレックスが気になってしまう。例えば鼻が低いんじゃないかとか、おっぱいがちっちゃいとか(笑)
でも、インターネットの世界で過ごしている中で、この世界では誰から見たビジュアルの基準に合わせるのではなくて、自分の個性を発信する事が大切だって事に気づいたんです。
だからVRChatの世界はめちゃくちゃ居心地が良くて。この世界に来ると自分の好きなビジュアルで居ることが出来るんです。
私はいつもVRChatでは幽狐族のお姉様というアバターを使っているのですが、 私はブルーがすごく好きなので髪を青色にしてパッツンにしたり。目は紫色が好きなのでラベンダーの色にしたりして自分流に改変しています。
今では現実の方がバーチャルに寄っているくらいです。アバターの幽狐さんみたくなりたくて、いつも髪を切って貰っている美容師さんにアバターの写真持っていって髪切ってもらったことがあります。
性別や年齢も関係なく、見た目も自分の過ごしたい姿で過ごせるのがいいですよね。
極論、人の形でなくてもいいし、そしてそれを当たり前に受け入れてくれる世界がメタバースの魅力だと私も思います。
まつゆう* 年齢で言うなら、VRChatは私より若い子がたくさんいるんですけど、でもVRChatで出会う子たちって年齢なんて関係なく私のことを『まっちゅー』とか『まつゆう』なんて言ってフラットに遊んでくれる人たちが多くて。
みんな普通に私の年齢知ってるんですけどタメ口で喋ってくれるし、それがとても嬉しくて、なんかもう本当のダイバーシティだよねって思います。
それが叶えられている世界で、しかも自分の願望に添った姿で過ごせる。
だからもう自分の見た目コンプレックスなんて言うのは結構気にしなくなっちゃって。
VRChat来てからは洋服を全然買わなくなっちゃいました(笑)
アバターの姿が普通になる世界
まつゆうさんはTwitterのアイコンをVRChatのアバターの姿に変えて活動していらっしゃいますが、それについてリアルのお仕事で何か言われることはありますか。
まつゆう* そうですね。『VRChatガイドブック』の告知リリースが出たあたりから、リアルの仕事周りでも『まつゆうさんのアバターを見たい!』って言われることが多くなりました。
仕事のZoom会議はアバターで入ったりしてるんですよ。
ベンチャー企業とかじゃなくても、結構歴史のある大手の会社でも『アバター見たいからアバターで来て!』って言われます。
それは面白いですね。
アバター文化って、私個人の感想ではまだまだサブカルチャー色が強い文化なのかなって思っていましたが、結構受け入れられているものなのですね。
まつゆう* そうなんですよ。
みんな今テレビとかでメタバースっていう言葉を聞いてるから、どういうものなのかなっていう興味が強いみたいです。
でも中の様子ってなかなか見れないから『アバター見せて!』って声を掛けられる事が多いんですよ。
私たちの世界が長く続くためには
まつゆうさんはこれまで数々生まれてきたインターネットプラットフォームの最前線でご活躍されていらっしゃいますが、プラットフォームが発展していくにはどのような事が必要だと考えていますか?
まつゆう* サービスって人数が減っていったり、色々な問題で終わってしまうじゃないですか。
この世界で私たちが長く生活していくためにはたくさんのフレンドが増えて、仲良く一緒に楽しんでくれたり、カルチャーを作ってくれて盛上てくれることがすごく重要だと思うんです。
この世界で私たちが長く生活していくためにはたくさんのフレンドがいてくれて、その人たちが盛り上げてくれること。
そしてこれから来る人たちが一緒に楽しんでくれたり、カルチャーを作ってくれたりすることがすごく重要だと思うんです。
未来のフレンドさん、パートナーになるかもしれない人、そういう人たちがたくさん入ってくれればサービスもきっと長持ちするだろうし、VRChatの運営側も楽しいアップデートを用意してくれるんじゃないかな?と期待しています。
だから“みんなで一緒に文化を創り上げていく”というのが大切になると思います。
まつゆうさんから見てVRChatの世界は今後どのように発展していくと思いますか?
まつゆう* 純粋にVRChatはクリエイティブやアート、またはパフォーマンスカルチャーが伸びていく世界になるんじゃないかなと思っています。だって、ユーザーすべてのみなさんが、クリエイターで、アーティストだから。
今ってMETA社の影響でメタバースをビジネスに置き換えて考える人が多いですが、ビジネスの話を抜きにして自分たちが表現したいことを取り組める世界になって欲しいと強く思っています。
そしてユーザーであり、クリエイターやアーティストがVRChatで何か表現したり、ものを作ることだけで暮らしていける時代になってほしいです。
今後はメタバースならではのクリエイターが出てくると思います。
現実では表現できないファッションやダンス、音楽などのカルチャーがものすごい勢いで発展していくと確信しています。
これから3年後のVRChatがどれくらい発展しているんだろうっていうのが楽しみですね!
まつゆう* (@matsuyou)
コミュニケーション・エヴァンジェリスト/メタバースDJ。
98年よりWebで独自のかわいいカルチャーを発信。ホームページの時代から、ブログ、Twitter、LINE、instagram、note、VR/メタバースなど、新しいコミュニケーションが誕生するたび、書籍、雑誌、TV等様々なメディアでコミュニケーションのあり方を広める。
また、アイディアや知見を活かしてデジタル・コミュニケーション施策の企画制作やプロダクト開発にも携わっている。2021年7月からは「VRChat」内にて、メタバースDJとして活動中。